文献情報
文献番号
199900062A
報告書区分
総括
研究課題名
原子爆弾被曝線量評価方法の再評価及び健康影響に関する研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
長瀧 重信(財団法人放射線影響研究所)
研究分担者(所属機関)
- 平良専純(財団法人放射線影響研究所)
- 葉佐井博巳(広島国際学院大学)
- 星正治(広島大学原爆放射能医学研究所)
- 朝長万左男(長崎大学医学部附属原爆後障害医療研究施設)
- 伊藤千賀子(財団法人広島原爆障害対策協議会健康管理・増進センター)
- 柴田義貞(長崎大学医学部附属原爆後障害医療研究施設)
- 土肥博雄(広島赤十字・原爆病院)
- 藤原佐枝子(財団法人放射線影響研究所)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
目的1)原子爆弾被曝線量評価方法(DS86)の再評価の進捗状況のまとめと今後の問題点を洗い出すこと、2)原爆放射線被爆の健康後影響の過去10年間に発表された文献を検索し、最近の知見を整理することである。さらに、放射線影響研究所の寿命調査対象者におけるがん死亡(1950-1990)およびがん発生(1958-1987)のデータを基に、部位別リスクの推定および寄与リスクの推定を行った。寄与リスクについては、がん以外の疾患による死亡および慢性肝炎・肝硬変罹患についても検討した。
研究方法
1)原子爆弾被曝線量評価方法(DS86)の再評価:DS86の再評価については、日米研究グループが検討を行っている。2000年3月13,14日には放射線影響研究所主催の日米線量ワークショップが広島で開催され、日米の研究者の活発な議論が行われ、これまでの成果および今後の問題点について意見交換が行われた。それらの議論にもとづき、DS86の再評価の現状をまとめた。
2) 原爆放射線被爆の健康後影響:原爆被爆者のがん死亡およびがん発生における放射線被曝の寄与リスクの推定は、放射線影響研究所の寿命調査対象者におけるがん死亡およびがん発生のデータを基に推定を行った。寄与リスクについては、がん以外の疾患による死亡および慢性肝炎・肝硬変罹患についても検討した。原爆放射線被曝線量と疾病罹患の関係について,1992年(平成4年)に「原爆放射線の人体影響1992」(放射線被曝者医療国際協力推進協議会 編)がまとめられた。それ以降の、がん、肝疾患、血液疾患、がん以外の疾患の死亡率などにおいていくつかの新しい知見が認められている。この研究では、過去10年間に発表された論文を検索し、それぞれの論文の評価を行った上で、整理しまとめた。
2) 原爆放射線被爆の健康後影響:原爆被爆者のがん死亡およびがん発生における放射線被曝の寄与リスクの推定は、放射線影響研究所の寿命調査対象者におけるがん死亡およびがん発生のデータを基に推定を行った。寄与リスクについては、がん以外の疾患による死亡および慢性肝炎・肝硬変罹患についても検討した。原爆放射線被曝線量と疾病罹患の関係について,1992年(平成4年)に「原爆放射線の人体影響1992」(放射線被曝者医療国際協力推進協議会 編)がまとめられた。それ以降の、がん、肝疾患、血液疾患、がん以外の疾患の死亡率などにおいていくつかの新しい知見が認められている。この研究では、過去10年間に発表された論文を検索し、それぞれの論文の評価を行った上で、整理しまとめた。
結果と考察
研究結果および考察=1) 原子爆弾被曝線量評価方法(DS86)の再評価:DS86に関する問題点を、1)測定、2)家屋・地形による遮蔽、3)臓器線量について問題点をまとめた。項目1)については、空気中カーマ(無遮蔽状態での被曝線量に相当)の検証の意味があり、再評価の焦点でもある。項目の2)および3)は、主として費用と便益の兼ね合いの問題で、労力を払うことにより精度を上げることができる。日米線量ワークショップの議論は、次のように要約された。測定結果の一部は、被爆した人に生じた事象について、現行のDS86線量推定方式よりも、より正確な説明が可能であることを示唆している。しかし、一部の測定結果は、現在予備的段階にあり、より正確かつ完全な測定が必要である。日本、米国、ドイツの研究者は、既に入手している試料に関して可能な限り迅速に測定を進めている。より完全な測定を実施するために、原爆投下時に、広島・長崎の特定箇所および爆心地から特定の距離に存在した銅その他のより多くの試料が早急に必要である。このような測定が十分な量の試料について実施され、短期-例えば来年中-に結論が得られれば、DS86よりも優れた線量推定方式が導入可能であろう。同時に、より満足のいく説明を行なうため、広島型爆弾に関する理論的作業およびモデル作成が進行中である。ワークショップは現在払われている最大限の努力を、「国際原爆線量推定年」(IABDY)[2000年3月~2001年3月]として、関係する研究者その他の人々に広く知らしめ、また、この1年間に課題を完遂することに我々の努力を注ぐことを提案する。DS86策定以前のどの方式よりも被爆者の被曝線量を表す優れた線量推定方式である。約1年後に新方式が完成し日米の上級線量グループにより合同で承認されるまで、DS86の使用は続けられる。日米の研究者が協力し積極的に作業を進めてこれらの目標を達成し、また、米国(エネルギー省)および日本(厚生省)の両政府が協力して資金ならびに援助を提供しこの科学的課題が遂行されることを保証することを確信する。
2) 原爆放射線被爆の健康後影響:
1. がんおよびがん以外の疾患のattributable riskについては、放射線影響研究所の寿命調査対象者におけるがん死亡(1950-1990)およびがん発生(1958-1987)のデータを基に、部位別リスクの推定および寄与リスクの推定を行った。さらに、寄与リスクについては、がん以外の疾患による死亡および慢性肝炎・肝硬変罹患についても検討した。
2. 健康影響:良性腫瘍については、放射線影響研究所の寿命調査対象集団あるいは成人健康調査集団において、胃、唾液腺、乳腺と子宮筋腫と放射線被曝との関係が認められた。甲状腺については、成人健康調査において、甲状腺癌、甲状腺腫および組織型が判明していない甲状腺結節は線量と伴に増加した。また、自己抗体陽性の甲状腺機能低下症については、線量との間に上に凸の関係を示が示された。放射性降下物の落下が確認された長崎西山地区の調査で、結節性甲状腺腫の増加が確認されている。 被爆者肺癌の特徴として腺癌の増加がみられ、被曝線量と共に明らかに増加しているとの新しい知見が得られている。原爆被爆者の白血病に関してnon-threshold modelがほぼ追認されている。寿命調査集団において、被曝者にがん以外の疾患死亡率の有意な増加が認めら、成人健康調査においても被曝線量の増加に伴う心筋梗塞発生率の増加が認められた。ただし増加の程度は軽微であり、放射線が動脈硬化を引き起こすメカニズムについては定かではなく今後更なる研究が必要である。肝疾患に関しては、寿命調査および成人健康調査から、原爆放射線被曝線量が高いほど、肝がん、肝硬変、慢性肝疾患の発生率が増加することが認められた。肝炎ウイルスの調査では、HBs抗原陽性率は線量が高いほど高かったが、C型肝炎ウイルス(HCV)抗体陽性率は、放射線被曝との関係は認められなかった。1978-80年の眼科検査について、DS86眼臓器線量に基づいて再解析され、若年齢者の水晶体が高齢者の水晶体よりも放射線感受性が高いことを示唆された。放射線誘発白内障における安全領域の閾値は、1.75Svと推定された。免疫能への影響として、被爆者においてTリンパ球(特にCD4 T細胞)が司る細胞性免疫の低下とBリンパ球が介在する体液性免疫の亢進が認められた。ヒト血液細胞を用いた生体内体細胞突然変異体頻度の測定法の中で赤血球グリコフォリンA(GPA)遺伝子突然変異体頻度のみが原爆被爆者において明確な線量効果関係を示した。生物学的な被曝線量の評価には、末梢血中のリンパ球における染色体異常頻度と歯エナメル質における電子スピン共鳴(ESR)信号とが用いられている。染色体異常に関しては、長崎の工場内被爆者の調査結果の解析によりこれらの人はDS86線量が過大に与えられている可能性が強く示唆された。染色体異常の型を分類すると広島原爆の放射線にはもっと中性子線の寄与が大きかったのではないかと議論されたが、被爆者の調査結果を吟味したところそのような示唆は得られなかった。ESR調査からは、染色体異常頻度との良い相関が認められたと同時に前歯には太陽紫外線の影響が大きく線量評価には用いるべきでない事が明らかとなった。放影研で行ったミニサテライト遺伝子座における突然変異の検索において、単一遺伝子座検出用ミニサテライトプローブを用いて検索した結果、親の被曝の影響は見出されなかった。また、DNAフィンガープリントプローブ(多数のミニサテライト遺伝子座を同時に検査するもの)による検索の結果得られた突然変異率も放射線の影響は検出されなかった。
海外の被爆者の現状として、北米1,076名、南米189名、韓国2,348名、中華人民共和国24名、朝鮮民主主義人民共和国1,301名、その他(ブルネイ、マレーシア、インドネシア)5名、台湾は不明であった。
2) 原爆放射線被爆の健康後影響:
1. がんおよびがん以外の疾患のattributable riskについては、放射線影響研究所の寿命調査対象者におけるがん死亡(1950-1990)およびがん発生(1958-1987)のデータを基に、部位別リスクの推定および寄与リスクの推定を行った。さらに、寄与リスクについては、がん以外の疾患による死亡および慢性肝炎・肝硬変罹患についても検討した。
2. 健康影響:良性腫瘍については、放射線影響研究所の寿命調査対象集団あるいは成人健康調査集団において、胃、唾液腺、乳腺と子宮筋腫と放射線被曝との関係が認められた。甲状腺については、成人健康調査において、甲状腺癌、甲状腺腫および組織型が判明していない甲状腺結節は線量と伴に増加した。また、自己抗体陽性の甲状腺機能低下症については、線量との間に上に凸の関係を示が示された。放射性降下物の落下が確認された長崎西山地区の調査で、結節性甲状腺腫の増加が確認されている。 被爆者肺癌の特徴として腺癌の増加がみられ、被曝線量と共に明らかに増加しているとの新しい知見が得られている。原爆被爆者の白血病に関してnon-threshold modelがほぼ追認されている。寿命調査集団において、被曝者にがん以外の疾患死亡率の有意な増加が認めら、成人健康調査においても被曝線量の増加に伴う心筋梗塞発生率の増加が認められた。ただし増加の程度は軽微であり、放射線が動脈硬化を引き起こすメカニズムについては定かではなく今後更なる研究が必要である。肝疾患に関しては、寿命調査および成人健康調査から、原爆放射線被曝線量が高いほど、肝がん、肝硬変、慢性肝疾患の発生率が増加することが認められた。肝炎ウイルスの調査では、HBs抗原陽性率は線量が高いほど高かったが、C型肝炎ウイルス(HCV)抗体陽性率は、放射線被曝との関係は認められなかった。1978-80年の眼科検査について、DS86眼臓器線量に基づいて再解析され、若年齢者の水晶体が高齢者の水晶体よりも放射線感受性が高いことを示唆された。放射線誘発白内障における安全領域の閾値は、1.75Svと推定された。免疫能への影響として、被爆者においてTリンパ球(特にCD4 T細胞)が司る細胞性免疫の低下とBリンパ球が介在する体液性免疫の亢進が認められた。ヒト血液細胞を用いた生体内体細胞突然変異体頻度の測定法の中で赤血球グリコフォリンA(GPA)遺伝子突然変異体頻度のみが原爆被爆者において明確な線量効果関係を示した。生物学的な被曝線量の評価には、末梢血中のリンパ球における染色体異常頻度と歯エナメル質における電子スピン共鳴(ESR)信号とが用いられている。染色体異常に関しては、長崎の工場内被爆者の調査結果の解析によりこれらの人はDS86線量が過大に与えられている可能性が強く示唆された。染色体異常の型を分類すると広島原爆の放射線にはもっと中性子線の寄与が大きかったのではないかと議論されたが、被爆者の調査結果を吟味したところそのような示唆は得られなかった。ESR調査からは、染色体異常頻度との良い相関が認められたと同時に前歯には太陽紫外線の影響が大きく線量評価には用いるべきでない事が明らかとなった。放影研で行ったミニサテライト遺伝子座における突然変異の検索において、単一遺伝子座検出用ミニサテライトプローブを用いて検索した結果、親の被曝の影響は見出されなかった。また、DNAフィンガープリントプローブ(多数のミニサテライト遺伝子座を同時に検査するもの)による検索の結果得られた突然変異率も放射線の影響は検出されなかった。
海外の被爆者の現状として、北米1,076名、南米189名、韓国2,348名、中華人民共和国24名、朝鮮民主主義人民共和国1,301名、その他(ブルネイ、マレーシア、インドネシア)5名、台湾は不明であった。
結論
原子爆弾被曝線量評価方法(DS86)の再評価の進捗状況のまとめと今後の問題点の提起、原爆放射線被爆の1990年から現在までの健康後影響の知見を整理した。原爆放射線被曝と健康影響については、最近の知見では、原爆放射線被曝とがん以外の疾患との関係が認められているが、そのメカニズムは不明であり今後検討する必要があると思われる。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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