21世紀の保健・医療・福祉分野におけるEBMによる新しい情報提供機能の確立のための調査研究(総括研究報告書)

文献情報

文献番号
199900060A
報告書区分
総括
研究課題名
21世紀の保健・医療・福祉分野におけるEBMによる新しい情報提供機能の確立のための調査研究(総括研究報告書)
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
丹後 俊郎(国立公衆衛生院)
研究分担者(所属機関)
  • 清金公裕(大阪医科大学)
  • 裏田和夫(東京慈恵会医科大学)
  • 野添篤毅(愛知淑徳大学)
  • 山口直比古(東邦大学)
  • 磯野威(国立公衆衛生院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
保健・医療・福祉分野において従事者や国民が「確かな情報(資料)を」「だれでも」「どこでも」そして「いつでも」入手できることを目標に、そのための情報環境整備の戦略を調査検討することである。そのための検討項目は「情報源」「情報サービス機関・施設」「情報サービス機能」および「人的支援機能」とした。
研究方法
国内における情報利用の問題点を把握するために、保健・医療・福祉分野の従事者を対象にしてアンケート方式による二つの調査を行った。まず臨床医を対象に「医籍総覧」より,ランダムに2,500人を抽出し調査した。もう一群は保健(公衆衛生)従事者を対象に「平成11年度日本公衆衛生学会」の一般演題発表者(1,170名)より、筆頭著者が大学、国立公衆衛生院、国立試験研究機関、厚生省などの者を除く416人を対象に同様のアンケート調査を行った。
また、文献資料、インターネット等により「情報源」「情報サービス機関・施設」「情報サービス機能」についての調査を行った。あわせて日本医学図書館協会で集計している統計数値をもとに過去10年間のサービス実績推移をまとめ分析を行った。
さらに、米国におけるヘルスサイエンス分野の情報サービスの現況調査を「国立医学図書館(NLM)」を中心に訪問調査を行ったうえ、「NLM Long Range Plan2000-2005」をもとに分析し、日本における今後の可能性について検討を進めた。
結果と考察
「医療従事者における情報利用の現状」では①診療や自分の専門分野の現状把握に利用する情報源として雑誌が最も日常的なものとなっていた(93.5%)。②入手手段としては製薬会社の担当者(64.5%)、医師会(54.5%)となっており、大学図書館は27.3%であった。③入手までの時間がかかりすぎる(41.5%)、的確な情報が得られない(40.8%)などの問題が見出された。つまり、製薬会社の担当者は自分の診療室まで出向いてくれる、医師会は地区の医師に対して最も身近であるという利便性がうかがわれるが、文献提供や文献検索サービスの専門的立場にないために発生する問題と捉えることができる。それらに対して④「的確な文献情報が検索できる使い易いデータベース(48.7%)」、「情報の検索から文献の入手まで代行してくれる機関」(46.2%)の要望が多くを占めた。
公衆衛生従事者については回答者(282名、回答率67.8%)の42.6%が住民の身近で活動する保健婦であった。つぎが医師(23.8%)であり、栄養士(10.6%)、臨床検査技師(4.5%)となっていた。情報源では「雑誌」(91.1%)が最も多く、「学会・研修」(86.2%)、「インターネット」(59.9%)などとなっていた。「パソコン」は94.0%が使用していた。「電子メール」(68.8%)も高率で使用しているが、「医学中央雑誌」(34.4%)、「MEDLINE」(25.2%)などの利用経験者は低かった。情報の入手困難については「的確な情報が得られない」(57.1%)、「時間がかかりすぎる」(42.2%)となっており臨床医の回答と共通性があった。同様に「使いやすいデータベース」(83.0%)、「検索・文献入手の代行機関」(44.7%)の要望も多い結果となった。
文献の流通の問題としては、日本医学図書館協会の統計推移(1990-1999)に見られるように10年間で相互協力による件数は2.7倍となっている。逆に洋雑誌の平均1館あたりの購入雑誌数は180タイトル(21.1%)減少している。これは10年間で資料購入費が平均10,931,000円(28.3%)の増額となっているにもかかわらず、雑誌価格の高騰が予算の確保より上回っているためと考えられる。
わが国には医学中央雑誌という1903年より編集されてきた唯一の医学論文索引誌がCD-ROMとして有償で提供されている。2000年4月からは個人、機関・団体が利用できるWeb版も登場する。一方、1981年より科学技術振興事業団(JST)が運営するJMEDICINEが登場し、通信回線によるオンライン検索やインターネットを介して有料で利用できる。また、学術情報センター(NACSIS)や大学病院医療情報ネットワーク(UMIN)も医学領域のデータベースの提供を試みている。
これら国内のデータベースはEBMの視点から評価するとMedlineの出版タイプのような識別タグを持たない。また、日本の医学雑誌は構造化抄録をほとんど採用していないため、一次情報の生産から見ると国際的なスタンダードを持っていない。EBMによる国際的なデータベースとしてはThe Cochrane Libraryがあるが、日本のRCT文献は、MedlineはもとよりThe Cochrane Libraryにも蓄積されていない現状である。国内のRCT文献をシステマティック・レビューとして活用するためには、これまでの医学関連雑誌の遡及的なハンドサーチとデータベースを利用したサーチを行う必要があろう。特にJANCOCとの連携協力は重要な要素と考えられる。
米国においてはNLMを中心とする全国的なヘルスサイエンス情報のネットワークとして「National Network for Libraries in Medicine(NN/LM)」が組織されている。大学図書館は「Resource Library」として位置付けられ、近隣の病院などの図書館間で満たし得ない文献を提供し、そこで入手できない場合には連邦政府の資金によって役割をもつ「Regional Medical Library(RML)」が提供する。さらにRMLは文献の入手が困難な未組織である医療従事者へも広報と推進役を務めている。そしてNLMは、世界のヘルスサイエンス領域の文献に対して最終的に保障すべき機関として位置付けられ、米国内の情報ネットワークのセンター機能を果たしている。
NLMは1997年6月よりMEDLINEの無料公開を始めた。これによって利用は飛躍的に進んだ(アクセス数は1996年の年間利用回数740万件から1998年は1億400万件)。なかでも大半の利用を占めるPubMedにおいては様々な検索結果の入手ができるだけでなく、オンラインジャーナルへのリンクもなされている。さらに分子生物学データベース(GenBankなど)との相互連関や、EBMを指向した検索技法(Clinical queriesなどのユニークな情報検索も提供されている)を開発している。また一般市民や患者家族のためのMEDLINEplus、Agency for Healthcare Research and Quality(AHRQ)による診療ガイドライン情報サービス(National Guideline Clearinghouse)、NIHが最近発表した一般市民や患者を意識した臨床試験のデータベース(Clinical Trials.com)との連携も密に進めている。
MEDLINEplus(1998)においては、一般の人のために医学辞書、医療団体、病院などのディレクトリー、図書館リスト、各種の医療関連クリアリングハウスなどの情報源にアクセスできる。また、一般に関心のある病気についての消費者向け情報をみることもでき、その予防、治療に役立てられるように配慮している。また、この計画は米国の公共図書館とNLMが協力して、一般の人々への情報リテラシー強化にも貢献している。
NLMは「Long Range Plan 2000-2005」の中で医学図書館員(Medical Librarian)の教育におけるNLM、図書館情報学の大学院課程、米国医学図書館協会(MLA)のそれぞれの役割も示している。NLMは医学・医療情報へのアクセスに関する研修機会を提供すると同時に、公開教育コースを設定する大学院課程やMLAなどに対して資金的な援助を行っている。MLAが最近関心を持って進めているコースには「EBMとヘルスケア」「電子ジャーナル」「著作権法」などがあり、インターネットによる遠隔教育も進めている。
結論
米国においては健康政策の展開を、NLMを中心としたネットワーク組織による情報支援基盤の上で1960年代から進めてきた。さらに社会的なインフラとして通信情報基盤の確立(スーパーハイウェイ計画、1994)のなかで、医療関係では「ディジタルライブラリー」「生涯教育」「ヘルスケア」「官庁情報への自由なアクセス」などのキーワードをもとに一層の成熟した展開を進めている。それらによって国民の誰でもが、どこにいてもヘルスサイエンスに関する確かな情報を利用できる環境を保障している。
日本においてそのような体制を整備していくためにはいくつかの課題が考えられる。①情報提供サービス網の組織化とネットワークの再構築②日本において発表、公開される情報の網羅的収集と蓄積③EBMを指向した情報源の構築と提供システムの開発④情報を利用するための通信手段の確保⑤利用方法の教育および学習の継続的実施⑥国内、国外の情報提供サービス機関等との協同・協力事業の展開などが考えられる。
日本においてはヘルスサイエンス情報サービスを責任をもって進めることのできる「国立医学図書館(仮称)」の設置と、情報提供機関(医学図書館、病院図書館、保健所、地方衛生研究所、公共図書館など)関連機関の役割分担と相互協力ネットワークの組織化が急務となろう。
そのための「国立医学図書館(仮称)」には以下の機能が求められる。
1.保健・医療・福祉分野の従事者と国民のための、開かれた利用しやすい情報サービスセンター(情報提供機能)
2.情報の質的な側面(EBM)も配慮した情報源の構築(情報構築機能)
3.保健・医療・福祉分野における情報サービスの最終機関として国内の関連機関、行政組織、国際機関、NLM,英国NeLHなどの情報サービスを担う関連機関とのネットワーク組織の形成ならびに協力調整(企画協力・調整機能)
4.情報利用者、図書館員等への情報利用支援(教育・研修支援機能)
5.デポジットライブラリー機能および文献提供サービスセンター(資料保存機能)
6.保健・医療・福祉分野における情報提供システムと処理に関する調査研究(研究開発機能)
7.以上の機能を遂行するための人材の育成ならびに確保(マネージメント機能)
また、米国における「医学図書館支援法(Medical Library Assistance Act)」(1965)が果たした役割も考慮する必要があると思われる。

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