緊急に資源確保を要する生薬-麻黄に関する研究

文献情報

文献番号
199900049A
報告書区分
総括
研究課題名
緊急に資源確保を要する生薬-麻黄に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
佐竹 元吉
研究分担者(所属機関)
  • 畠山好雄(国立医薬品食品衛生研究所筑波薬用植物栽培試験場)
  • 柴田敏郎(北海道薬用植物栽培試験場)
  • 飯田 修(伊豆薬用植物栽培試験場)
  • 香月茂樹(種子島薬用植物栽培試験場)
  • 関田節子(生薬部)
  • 下村講一郎(筑波試験場育種生理研究室)
  • 細川啓三(筑波試験場栽培研究室)
  • 酒井英二(和歌山薬用植物栽培試験場)
  • 高野昭人(昭和薬科大学講師)
  • 渡辺高志(北里大学薬学部助手)
  • 水上 元(名古屋市立大学薬学部)
  • 御影雅幸(金沢大学薬学部)
  • 神田博史(広島大学医学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 厚生科学特別研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
-
研究費
15,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成11年1月に中国政府は国内の砂漠化防止のために輸出を規制する通知が出された。従って、漢方薬の処方が組めなくなる恐れが起こり、その早急の対策を得るために研究を開始した。麻黄は、発汗、解熱、気管支痙攣の解除を目的に葛根湯や小青竜湯等の11の漢方処方に配合されている重要な生薬である。成分は、作用の顕著なエフェドリン、プソイドエフェドリン類のアルカロイドなどで、主成分であるエフェドリン類は漢方薬以外にも風邪薬、鎮咳去痰薬等に配合されており使用範囲の広い生薬である。輸入困難な状況に対処するため、国内での栽培化又は中国以外からの輸入対策が緊急に必要である。本研究の成果は、今後、他の輸入生薬の栽培化に重要な示唆を与えるものと期待される。
研究方法
1.国内栽培の検討
筑波薬用植物栽培試験場での保存株Ephedra distachya L. (Ep-13)の株分けした大小の苗を、北海道、筑波、伊豆、和歌山、種子島の各試験場で試験栽培し、栽培条件の検討を行い、生薬部でこれらのアルカロイド含有量を分析した。ネパールで採取したEphedra gerardiana を長野県と東京都で3通りの土壌種を選んで栽培し、アルカロイド含有量を定量分析した。
2.成分分析による優良系統の選出
各栽培地からの試料について毎月の植物の生育度や含有量の推移を測定した。
3.ネパール、モンゴル、アンデスのEphedra属植物調査
ネパール、モンゴル及びペルーのEphedra属植物の分布状態、医薬利用、流通状況等について調査し、入手した植物のアルカロイド含有量を測定した。
4.Ephedra属植物の形態、遺伝子解析による地域変異の解明
正確な種の同定がなされている乾燥標本の遺伝子を増幅し、塩基配列を解読することにより国内にある数系統のEphedra属植物のDNAによる同定法を創出した。
5.植物バイオテクノロジーによるマオウのクロ-ン増殖法の検討
Ephedra distachya L. (Ep-13)のマルチプルシュ-ト形成、発根状態を観察した。
結果と考察
1. 国内栽培の検討
苗の活着率は、北海道では大苗で62%、小苗で46%で、和歌山では、大苗で83.3%,小苗で75.6%で、種子島では、大苗で52.9%,小苗で63.3%であった。草丈、草、茎数、茎の最大直径のいずれも大苗の方が有意に優れた生育を示した。種子島では、8月~11月の期間ほぼ順調に生体重が増加し、11月~1月は停止した。
2.成分分析による優良系統の選出
筑波のものは高含有で、北海道及び種子島のものも0.7 % 以上であった。含有量の月別推移は、筑波と種子島のサンプルに類似の傾向が認められた。
ネパール産Ephedra gerardiana の国内における栽培では、含量比としてEph>pEphのものが5個体、逆のEph<pEphのものが26個体であった。アルカロイド含量は2年生から4年生へと栽培年数の増加に伴い高くなる傾向を示した。栽培土壌の違いによるアルカロイド含量は総アルカロイド含量で、川砂栽培群は桐生砂(レキ)栽培群の約2倍の含量であった。
3.ネパール、モンゴル、アンデスのEphedra属植物調査
ネパールの雌の花の珠孔管は、長さ約1mmで真っ直なE. gerardiana と、長さ1~2mmでやや曲折するE.pachycladaの2種が確認された。エフェドリン含有率はE.pachycladaが高く、日本薬局方の規格値以上であった。 E.gerardianaでは約半数が基準以下であった。生育地としては、より低地で土壌pHが高い場所に生育する株のエフェドリン含有率が高かった。
モンゴルでは、Ephedra属植物は専らエフェドリン抽出原料として使用されており、生薬としての認識はない。自生のEphedra属植物は数種類あるが、研究機関での種の同定が進行中である。今回の調査は時期的に自生地を確認することが不可能であったが、標本として保存中のE.equisetinaとE. przewalskii Stapf を入手した。
ペルーでは、E. americanaがアンデス地域に広く分布し、市場の薬草店に必須の薬用植物である。主にクスコ市周辺に広大な自生地があり、クスコの北950Km離れたカハマルカ市の薬草店でも店頭で販売していた。海抜4750m地点からアマゾン川上流地点間近の2300mまでに分布してる。採集は、この間の6カ所で行った。また、カハマルカ付近(海抜3000m)ではE. andinaと思われる株を採集できた。これらのアルカロイド成分は低含量で、採取時期や経年株の入手のための継続した研究の必要性がある。 
4.Ephedra属植物の形態、遺伝子解析による地域変異の解明
薬用植物園から入手した9系統のEphedra属植物は、10カ所のサイトで塩基配列に置換があり、その配列は3つのタイプに分類できた。決定したchlB遺伝子の塩基配列をもとにしてNJ法を用いて遺伝子系統樹を作成した。この結果いくつかの系統では植物に付けられている名前とchlB遺伝子の塩基配列のタイプが一致しなかった。したがって、種名の信頼できる標本が必要であると判断し、1943年に中国の東北地方におけるEphedra属植物の標本からDNAを調製し、chlB遺伝子の塩基配列の解読を行った。
現在までのシークエンスの結果、E. sinicaを基原とすると記載されているM0の全長と保管場所の異なるM6の領域Aの塩基配列はType 1に完全に一致した。一方、E. distachyaと同定されている標本M10, M13およびE. equisetinaと配列は、それぞれType 2およびType 3と完全に一致した。ネパールのアンナプルナ山系で採集された標本はいずれとも一致せず、別のType(Type 4)に属するものであった。以上のことから、Type 1はE. sinica、Type 2はE. distachya、Type 3はE. equisetinaの配列であると一応同定できた。
5.植物バイオテクノロジーによるマオウのクロ-ン増殖法の検討
培養開始約2週間後、節から側芽の伸長が観察され、3週後には、伸長したシュートのガラス化が観察された。8週間培養後、新たに伸長したシュートは、非常に短い。
EP-13を用いての各MS培地における平均シュート形成数は、HF MS培地においても約3.1であった。kinetin 3 mg/L添加MS培地では、平均7.0本と最高であった。一方、増殖、伸長したシュートが、継代培養可能かどうかを調べた結果、伸長した頂芽より分枝した節の部分を植え付けた方が、新茎が良好に形成した。得られたシュートからの発根は認めれず、現在のところシュート基部に少量のカルスを形成した。
結論
栽培方法は苗の大きさ、肥料条件、栽培年数,栽培土壌により、生産物のアルカロイド含量に差異を生じる可能性があることを確認した。根伏せ繁殖の可能性が示唆された。同一種の中にE. gerardianaのようにEphとpEphの含量比が逆転するものも見られる。アルカロイド含量は栽培年数の増加に伴い高くなる傾向を示した。栽培土壌の性質の違いが、Ephedra 属植物のアルカロイド含量に強く影響することを示唆した。これらの結果から国内での栽培方法を確立したい。
国外では、ネパールのE.pachycladaがエフェドリン含有率が高い。モンゴルのEphedra属植物は、薬局方に基原植物なので、輸入体制を確立すれば、導入が可能である。ペルーに豊富な野生種があり、エフェドリン類の含有率により、ネパールやペルーの植物を薬局方の基原に入れ込むことも資源確保の立場から一考を要する課題と思われる。
Ephedra属植物は、形態的に特徴が少なく、遺伝子レベルの同定が有効になる植物群と思われる。今回の結果がそのことを示唆している。Type 1(E. sinica)の263~268bpの配列(TGATCA)は制限酵素Bcl Iによって認識され、切断されるのに対して、Type 2(E. distachya)、Type 3(E. equisetina)、Type 4(ネパール産麻黄)およびE. altissimaでは、この位置の配列がTGATTAに置換されているのでBcl Iに寄っては切断されない。PCR-RFLPによるEphedra類の鑑別は実用上は充分に可能であると思われる。
組織培養での増殖は更に検討する必要があり、今後の課題である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-