リバース・モーゲージ制度が日本経済に及ぼす波及効果に関する調査研究-米国の事例と高齢者の実態分析を通して-

文献情報

文献番号
199900024A
報告書区分
総括
研究課題名
リバース・モーゲージ制度が日本経済に及ぼす波及効果に関する調査研究-米国の事例と高齢者の実態分析を通して-
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
小嶋 勝衛(日本大学理工学部)
研究分担者(所属機関)
  • 根上彰生(日本大学理工学部)
  • 宇於崎勝也(日本大学理工学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
少子・高齢化の進展、年金受給の危機感の高まりなどにより、高齢期の生活保障・生活設計のための選択肢のひとつとして、リバース・モーゲージ制度が研究者や福祉担当者により注目されるなか、1999年6月4日に発表された「経済戦略会議の答申に対する各省庁の検討状況」における『経済戦略会議答申に盛り込まれた各種提言に対する政府の検討結果』には、「高齢化社会への対応、介護目的の賃貸住宅、リバース・モーゲージの導入等」が盛り込まれ、政府レベルでもリバース・モーゲージ制度の導入に向けて具体的に検討する方針を明らかにした。
本調査では、こうした背景をふまえ、文献調査によりアメリカ合衆国におけるリバース・モーゲージ制度の現況を明らかにし、日本においてリバース・モーゲージ制度がより具体化し、普及するための手法を提案するための基礎資料とすることを第一の目的としている。また、日本の高齢期世帯に対するアンケート調査により、高齢期の生活や資産活用にあたっての現況を明らかにし、リバース・モーゲージ制度に対する関心、これからの利用意向などについて分析を行うことでリバース・モーゲージ制度の有効活用に向けての資料とすることを第二の目的としている。
研究方法
本研究は、リバース・モーゲージ制度の活用によって高齢者世帯に及ぼす影響について探ることを目標に、2つの研究目的について分担研究者がそれぞれ調査研究を行った。
まず、アメリカ合衆国のリバース・モーゲージ制度の現況を文献調査により明らかにし、日本におけるリバース・モーゲージ制度の普及・具体化につながる資料として整理している。関連文献およびURLをとおして、アメリカ合衆国において、実施されているリバース・モーゲージ制度(広義)の現況を探った。
次に、高齢世帯の実態調査では、日本の高齢期世帯に対して、高齢期における生活環境および資産の保有状況等に関するアンケート調査をとおして、高齢期世帯の日常生活および将来の意向に関する現況を明らかにし、リバース・モーゲージ制度に対する関心、これからの利用意向などについて分析を行った。
結果と考察
<アメリカ合衆国の事例分析から>
HECMの契約件数は、融資機関と消費者の認識が高まったこと、低額資産層にとって民間商品ではニーズを十分に満たせないこと、早期退職制度の普及などにより近年急増している。融資形式のオプションが多すぎることなど、融資主体の一部に批判はあるが、あくまでも利用者のニーズにもとづいて作られており、実験期間をとおして民間商品の手本となること、今後のHECMの改良・改善につながることが期待されている。
HUD-HECMは低額資産層、低所得層を対象としており、高齢者福祉・住宅福祉的な目的、役割を備えている。これは高額資産層を対象としている民間のリバース・モーゲージ制度とのすみ分けを意図したものである。HECMの抵当債権を貸手から買い取るという形で、ファイナンス面でも公的色彩の強い連邦抵当金庫(FNMA)が関与する形をとっている。
HECMは民間が担うことが難しい部分、特に金利の変動、資産価値の下落による担保切れ(マーケット・リスク)をカバーするモーゲージ保険についてはFHAが担い、その他の部分については民間も積極的に参加できるよう、官民の連携が実現している。これは、HECMの大きな成果のひとつである。
また、HECMは借手にとってもメリットが大きい。借手は契約前に中立的機関であるカウンセリング・エージェンシからカウンセリングを受けることが義務づけられているため、借手はリバース・モーゲージ制度以外の代替策を含む選択肢の中から納得ずくでリバース・モーゲージ制度を選択することができる。また、5つの融資方式を備え商品モデルに柔軟性がある点も、消費者にとって有利な条件となっている。
<高齢者の意識調査から>
1.要件緩和の必要
現在、多くの地方自治体ではリバース・モーゲージ制度の利用要件として、持ち家世帯であること、評価額5000万円以上であること、担保は一戸建てに限定などの利用制限が設けてある。本調査の結果から、持ち家世帯は82.3%、持ち家世帯のうち、持ち家の種類は一戸建てが73.6%、マンションが13.2%、持ち家の評価額が5000万円以上の世帯が59.0%、3000万円以上の世帯が77.3%である。現行の利用要件を合わせてみると、利用要件をクリアできるのは35.73%となる。仮に、台東区で見直されたような要件緩和が行われ、マンションも担保として認められ、さらに評価額も3000万円と見直されたことを想定すると、55.22%がリバース・モーゲージ制度の利用要件を満たすことになる。
2.リバース・モーゲージ制度の利用意向
制度の利用意向を全体にみると、「利用したい」が8.0%である。さらに、持ち家世帯のうち、リバース・モーゲージ制度を「利用したい」と回答したのは8.9%である。つまり、利用可能な世帯のうち、3,200世帯程度が「利用したい」という積極的な意向を持っている世帯である。
一方、リバース・モーゲージ制度の関心の有無をみると、「「関心がある」は37.1%である。さらに、持ち家世帯のうち、「リバース・モーゲージ制度に関心がある」世帯は37.9%であり、13,600世帯程度がリバース・モーゲージ制度に関心を持っている潜在需要層であると考えられる。
3.将来動向
リバース・モーゲージ制度を利用したくない理由(複数回答)について、「住宅・宅地は子供に残したいから」が56.8%で半分を超えている。次に「年金やその他の収入で十分だと思うから」が36.7%、「住宅・宅地に手をつけるのは不安だから」が20.1%である。
その理由として、「年金やその他の収入で十分だと思うから」と「いざというときの資金は用意してあるから」の世帯のように老後資金を準備している世帯もある一方、「住宅・宅地は子供に残したいから」と「住宅・宅地に手をつけるのは不安だから」といった従来の土地本位の思考にもとづいた利用したくない理由も多くあり、住居資産運用に対しては根強い抵抗もうかがえる。
「住宅・宅地は子供に残したいから」という56.8%の意見のうち、「年金やその他の収入で十分だと思うから」が1/3を占め、リバース・モーゲージ制度を利用したくない理由として、現金収入が他で得られるなどの意見が見られる。短期的な見解としてはこのような回答を受け入れざるを得ないが、将来に向けて、今後の少子・高齢社会現象を考慮すると「住宅・宅地は子供に残したいから」のような意向は少しずつ変わっていくものと考えられる。
さらに、公的年金の大幅な見直しは公的年金制度を老後生活の柱として今まで頼ってきた高齢者世帯の今後の経済生活に大きな不安と打撃をもたらすものと考えられる。そのため、「年金やその他の収入で十分だと思うから」のような意向も将来的には下がって行くものと考えられる。
結論
<アメリカ合衆国の事例分析から>
近年ではHECMが開始されて10年が経過し、リバース・モーゲージ制度に対する認知度が向上するなど、リバース・モーゲージ制度事業における基盤整備が進んだことから、最近では新規参入する民間機関も増加しつつあり、アメリカ合衆国のリバース・モーゲージ市場は盛り上がりをみせている。
現在市場の主流となっているのは、HECM、Home Keeperと民間数社の商品であり、これら商品はすべてモーゲージ保険付のリバース・モーゲージであり、金利上昇や不動産価格下落による担保切れリスクを回避することを意図したものになっている。
なお、アメリカ合衆国のリバース・モーゲージ制度の市場では、低額不動産保有者はHECMを、高額不動産所有者は民間商品を、そして中間層はHome Keeperを利用するというように商品・制度のすみわけが行われている。
<高齢者の意識調査から>
リバース・モーゲージ制度への関心や意識に関してアンケート調査の結果から得られた知見を整理する。
1.公的年金だけでは不足する高齢世帯の生活資金としてリバース・モーゲージ制度の貸付金は公的年金の上乗せとして有効なものとなり得る可能性を見出した。
2.貸付の要件が緩和された場合、およそ2割程度の利用可能世帯が増え、中野区では55.2%の高齢世帯が利用可能となるものと試算できた。一方、持ち家世帯のうち、リバース・モーゲージ制度を「利用したい」と回答した世帯が8.9%であり、リバース・モーゲージ制度に対して積極的な利用意向を持っているものが3,200世帯程度である。さらに、リバース・モーゲージ制度に「関心がある」は37.9%であり、13,600世帯程度がリバース・モーゲージ制度に対して関心を持っている潜在需要と考えられる。
3.住居資産の運用意向をみると、リバース・モーゲージ制度に「関心がある」世帯のうち、「いざとなったら処分するなどして、生活費にあてる」は46.0%、「老後の世話や介護をしてくれる人や機関に譲る」は48.1%、「住み続けながら、土地や家屋を担保にして生活費等の融資を受ける」は91.7%、「有料老人ホームや老人マンション等に移る資金にする」は80.0%の割合となり、リバース・モーゲージ制度に「関心がある」世帯ほど、資産運用に対する考え方が肯定的と見なせる。
以上から、アメリカ合衆国におけるリバース・モーゲージ制度の現況を明らかにすることで、日本においてリバース・モーゲージ制度をより具体的に展開し、普及を図るための手法の一端を見出すことができた。また、アンケート調査により日本の高齢期世帯の実態を明らかにすることができ、リバース・モーゲージ制度に対する関心や利用意向から利用要件の見直しを含めて、より一層利用しやすくするための方向が示唆された。

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