文献情報
文献番号
199900018A
報告書区分
総括
研究課題名
社会保障と経済活動に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成11(1999)年度
研究代表者(所属機関)
跡田 直澄(大阪大学大学院国際公共政策研究科)
研究分担者(所属機関)
- 駒村康平(駿河台大学経済学部)
- 岩本康志(京都大学経済研究所)
- 福重元嗣(神戸大学経済学部)
- 恩田光子(広島国際大学医療福祉学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学推進研究事業
研究開始年度
平成11(1999)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
9,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
現行の社会保障制度をそのまま維持すれば、人口の高齢化に伴い、社会保障関係費は急速に増大する。そこで、年金、医療、福祉という社会保障のあらゆる側面に渡り、現在改革が検討されている。年金では給付の抑制や民営化、医療では薬価差益の是正、福祉ではNPOの活用などが議論されている。確かに、社会保障費の増大はこのままいけば国や地方の財政を圧迫することになろう。しかし、単に財政的制約のみから、給付水準を削減したり、供給者に意欲を失わせるような改革を行っても、それは社会的な厚生(満足感)を高めることにはならない。一方、制度を支えるために重すぎる負担を強いれば、民間の経済活動に甚大な影響を与えることになる。そこで、本研究は、このような問題意識のもとで、国民が安心でき、しかもコストがある程度まで抑制できる新たな保障制度を確立することの可能性を検討した。
研究方法
分担研究者はそれぞれ年金、医療、介護の分野の担当に分かれ、各分野の研究のサーベイを踏まえて、コスト削減が可能な改革について、その効果を実証分析により明らかにした。具体的には、
・(年金)雇用延長の事例調査。雇用延長にかかるコストの計測
・(年金)移民と高齢者雇用との社会経済的評価
・(医療)予防医療の実態と効果。予防医療コストと医療費の比較
・(医療)民間医療保険拡充の可能性の検討
・(介護)NPO、ボランティのコスト抑制に対する有効性とその意味
・(介護)ボランティアの拡大や福祉コストの効率化の可能性の模索
といった各分野ごとに、必要なモデルを構築し、さらにデータを収集し、経験的な分析に基づいて、それぞれに導出された仮説の検証を試みた。
こうした分析を踏まえながら、研究会では、産業界や医療の専門家を招き、本研究で想定している新たなシステムの導入可能性についてヒアリングしながら、報告書をまとめた。
・(年金)雇用延長の事例調査。雇用延長にかかるコストの計測
・(年金)移民と高齢者雇用との社会経済的評価
・(医療)予防医療の実態と効果。予防医療コストと医療費の比較
・(医療)民間医療保険拡充の可能性の検討
・(介護)NPO、ボランティのコスト抑制に対する有効性とその意味
・(介護)ボランティアの拡大や福祉コストの効率化の可能性の模索
といった各分野ごとに、必要なモデルを構築し、さらにデータを収集し、経験的な分析に基づいて、それぞれに導出された仮説の検証を試みた。
こうした分析を踏まえながら、研究会では、産業界や医療の専門家を招き、本研究で想定している新たなシステムの導入可能性についてヒアリングしながら、報告書をまとめた。
結果と考察
年金・医療・福祉の分野では現在さまざまな改革が検討され、その一部は既に実施されている。
第1章では、資源配分・効率性の観点から改革が必要といわれる年金制度について、経済学的にその全体像を把握してみた。そこでは、年金制度が果たしているメリットとデメリットを指摘することにより、問題の所在を明らかにし、それを踏まえて保険料負担の緩和策として、国庫負担割合引き上げと移民受け入れを想定して、それぞれの政策の影響を検討した。そこでは、極端な移民政策をとらなければ保険料抑制効果は望めないことが明らかにされ、この政策だけでは大きな改善は望めないことを指摘した。また、給付削減を前提としても、保険料を20%程度に抑制するためには、国庫負担を引き上げざるを得ないことが示され、それによる不足財源を消費税の引き上げでみれば4%ほどの増税を受け入れなければならないことを指摘した。
第2章では、在職老齢年金制度の改正が高齢者就業にどのような影響を与えるかを検討した。高齢者の就業率は、彼らの生活を支える年金制度と密接に関係している。現在の年金制度のもとでは、60歳以上の者が就業していると年金受給額が減額されることになるから、高齢者の勤労インセンティブを阻害しているおそれがある。この点は、過去にも議論を呼び、1994年改正では賃金の増加に応じ、賃金と年金の合計収入が増加するように変更された。今回の年金改革では、この在職老齢年金制度の対象が65歳以上70歳未満にまでひろげられることになった。これは厚生年金の支給年齢が60歳から段階的に65歳への引き上げられることに伴うものである。しかし、こうした改正が高齢者の就業にいかなる影響を与えるのかという点については、まだ十分な研究は行われていない。そこで、ここでは過去の制度改正において高齢者の就業はいかなる影響を受けたのかについて、これまでの研究成果を振り返りながら、今回の在職老齢年金制度改正が高齢者の就業にいかなる影響を与えるのかを検討した。
第3章の「診療報酬制度と医療供給の関連について」では、医療費抑制策を需要側と供給側の双方から検討した。需要側については、自己負担が医療供給のシフトを通じて需要に影響を与えることが計量分析の結果明らかにされた。また、供給側については、病院経営者に対するヒアリングの結果から、かれらの行動が診療報酬や薬価基準の変更に強く反応していることがわかった。このような両者の行動パターンを前提とするならば、医療費の効率化・適正化のためには、診療報酬や薬価の改定における価格設定プロセスの一層の透明化が是非とも必要であることを指摘した。
医療改革論議においては、強硬に支出を抑えようとする財政面からの議論が先行し、支出の増加により医療内容がいかに改善されたのかといった費用対効果についての意識が低い。第4章では、医療問題の中でも、特に薬に関する問題点に着目し、診療報酬体系を中心とする医療政策と薬品に対する政策との関係を捉えながら、薬剤費比率と薬価の妥当性に関しては国際比較分析を、薬価差の現状に関しては製薬卸企業から提供を受けたデータでの分析を行った。こした分析結果を踏まえ、医薬品需要適正化問題の解決策としては、より広い視野に立った政策を展開する必要があることが指摘された。たとえば、その適正化によって削減された薬剤費分を薬剤師をはじめとするコ・メディカルに対する技術料へ移転することなど、幅広い政策が必要となることを明らかにした。
第5章では、介護費用削減にNPOが果たす役割に注目し、課題をとりまとめた。まず、介護の規模について既存統計でみると、介護分野のNPOの規模は大きく成長しており、現実の数字の面からも介護分野のNPOの役割や位置づけが重要になってきていることが分かった。次に、社会福祉系の市民活動団体と社会福祉法人のコスト構造を比較した結果、事業の内容に違いがあるものの、市民活動団体の人件費コストは社会福祉法人に比べてかなり低いことが分かった。
このように介護分野におけるNPOの人件費コストが低いことは、NPOが提供するサービスを通じて、①介護サービスの価格が低下する、②介護サービスの質が向上する、という二つの効果をもたらことになる。
一方で、介護サービスの価格が(上限はあるものの)自由に設定できるために、制度を悪用し高価格で質の悪い介護サービスが適用されることも考えられる。制度が悪用されないようにするための最も重要な課題としては、介護認定業者に対して財務諸表の作成、公表を義務づけることである。また、様々なサービスを提供している業者においては、介護保険勘定を整備し介護に関わる金銭の出入りを明確にすることが必要である。こうした条件整備を早急に実施することで、低価格で質の高い介護サービスの提供がNPOを超え広い範囲でなされると考えられる。
一方、増大し多様化する社会福祉サービスの需要に応えていくためには、社会や地域全体での効率的なサービス供給が必要となる。しかし、これまで社会福祉サービスの中心的な担い手であった社会福祉法人には、「効率的なサービス供給」という視点が欠けていたといえる。これからは、サービス供給のコストも意識しながら、多様なニーズに応じたサービス供給を行う必要がある。第6章では、これを実現するための手段として、ボランティアの積極的な活用と実際の活動に対する外部からの評価を取り上げた。具体的には、ボランティアの活用に関しては、ボランティアの推進制度とボランティア参加決定との関係についての実証分析の結果をもとに政策提言を行い、評価については韓国での取り組みを紹介した。
分析の結果、ボランティア休暇制度ような推進制度はボランティア参加決定に対して効果が期待できることが明らかとなった。今後は、ボランティアの積極的な参加を促すためにも、ボランティア推進制度の拡充や、ボランティアの受入先である非営利組織を支援する制度(資金援助や税制上の優遇、ネットワークセンターなど)の整備が必要である。また、今後はただ公共サービスを供給するだけでなく、その供給のあり方を評価して実際の活動にフィードバックさせることが求められていくことから、本章で紹介した韓国での評価活動のように、サービス供給に対する外部評価を実施していくことも重要である。
第1章では、資源配分・効率性の観点から改革が必要といわれる年金制度について、経済学的にその全体像を把握してみた。そこでは、年金制度が果たしているメリットとデメリットを指摘することにより、問題の所在を明らかにし、それを踏まえて保険料負担の緩和策として、国庫負担割合引き上げと移民受け入れを想定して、それぞれの政策の影響を検討した。そこでは、極端な移民政策をとらなければ保険料抑制効果は望めないことが明らかにされ、この政策だけでは大きな改善は望めないことを指摘した。また、給付削減を前提としても、保険料を20%程度に抑制するためには、国庫負担を引き上げざるを得ないことが示され、それによる不足財源を消費税の引き上げでみれば4%ほどの増税を受け入れなければならないことを指摘した。
第2章では、在職老齢年金制度の改正が高齢者就業にどのような影響を与えるかを検討した。高齢者の就業率は、彼らの生活を支える年金制度と密接に関係している。現在の年金制度のもとでは、60歳以上の者が就業していると年金受給額が減額されることになるから、高齢者の勤労インセンティブを阻害しているおそれがある。この点は、過去にも議論を呼び、1994年改正では賃金の増加に応じ、賃金と年金の合計収入が増加するように変更された。今回の年金改革では、この在職老齢年金制度の対象が65歳以上70歳未満にまでひろげられることになった。これは厚生年金の支給年齢が60歳から段階的に65歳への引き上げられることに伴うものである。しかし、こうした改正が高齢者の就業にいかなる影響を与えるのかという点については、まだ十分な研究は行われていない。そこで、ここでは過去の制度改正において高齢者の就業はいかなる影響を受けたのかについて、これまでの研究成果を振り返りながら、今回の在職老齢年金制度改正が高齢者の就業にいかなる影響を与えるのかを検討した。
第3章の「診療報酬制度と医療供給の関連について」では、医療費抑制策を需要側と供給側の双方から検討した。需要側については、自己負担が医療供給のシフトを通じて需要に影響を与えることが計量分析の結果明らかにされた。また、供給側については、病院経営者に対するヒアリングの結果から、かれらの行動が診療報酬や薬価基準の変更に強く反応していることがわかった。このような両者の行動パターンを前提とするならば、医療費の効率化・適正化のためには、診療報酬や薬価の改定における価格設定プロセスの一層の透明化が是非とも必要であることを指摘した。
医療改革論議においては、強硬に支出を抑えようとする財政面からの議論が先行し、支出の増加により医療内容がいかに改善されたのかといった費用対効果についての意識が低い。第4章では、医療問題の中でも、特に薬に関する問題点に着目し、診療報酬体系を中心とする医療政策と薬品に対する政策との関係を捉えながら、薬剤費比率と薬価の妥当性に関しては国際比較分析を、薬価差の現状に関しては製薬卸企業から提供を受けたデータでの分析を行った。こした分析結果を踏まえ、医薬品需要適正化問題の解決策としては、より広い視野に立った政策を展開する必要があることが指摘された。たとえば、その適正化によって削減された薬剤費分を薬剤師をはじめとするコ・メディカルに対する技術料へ移転することなど、幅広い政策が必要となることを明らかにした。
第5章では、介護費用削減にNPOが果たす役割に注目し、課題をとりまとめた。まず、介護の規模について既存統計でみると、介護分野のNPOの規模は大きく成長しており、現実の数字の面からも介護分野のNPOの役割や位置づけが重要になってきていることが分かった。次に、社会福祉系の市民活動団体と社会福祉法人のコスト構造を比較した結果、事業の内容に違いがあるものの、市民活動団体の人件費コストは社会福祉法人に比べてかなり低いことが分かった。
このように介護分野におけるNPOの人件費コストが低いことは、NPOが提供するサービスを通じて、①介護サービスの価格が低下する、②介護サービスの質が向上する、という二つの効果をもたらことになる。
一方で、介護サービスの価格が(上限はあるものの)自由に設定できるために、制度を悪用し高価格で質の悪い介護サービスが適用されることも考えられる。制度が悪用されないようにするための最も重要な課題としては、介護認定業者に対して財務諸表の作成、公表を義務づけることである。また、様々なサービスを提供している業者においては、介護保険勘定を整備し介護に関わる金銭の出入りを明確にすることが必要である。こうした条件整備を早急に実施することで、低価格で質の高い介護サービスの提供がNPOを超え広い範囲でなされると考えられる。
一方、増大し多様化する社会福祉サービスの需要に応えていくためには、社会や地域全体での効率的なサービス供給が必要となる。しかし、これまで社会福祉サービスの中心的な担い手であった社会福祉法人には、「効率的なサービス供給」という視点が欠けていたといえる。これからは、サービス供給のコストも意識しながら、多様なニーズに応じたサービス供給を行う必要がある。第6章では、これを実現するための手段として、ボランティアの積極的な活用と実際の活動に対する外部からの評価を取り上げた。具体的には、ボランティアの活用に関しては、ボランティアの推進制度とボランティア参加決定との関係についての実証分析の結果をもとに政策提言を行い、評価については韓国での取り組みを紹介した。
分析の結果、ボランティア休暇制度ような推進制度はボランティア参加決定に対して効果が期待できることが明らかとなった。今後は、ボランティアの積極的な参加を促すためにも、ボランティア推進制度の拡充や、ボランティアの受入先である非営利組織を支援する制度(資金援助や税制上の優遇、ネットワークセンターなど)の整備が必要である。また、今後はただ公共サービスを供給するだけでなく、その供給のあり方を評価して実際の活動にフィードバックさせることが求められていくことから、本章で紹介した韓国での評価活動のように、サービス供給に対する外部評価を実施していくことも重要である。
結論
年金、医療、介護、それぞれの分野に対して、その保障レベルをあまり下げずに、コストを削減する方法を模索し、その可能性を検討してきた。いずれの分野についても、その要求を完全に満たす政策は存在しない。しかし、年金では保険料の消費税化や移民政策、さらには大胆な在職老齢年金制度の導入などがある程度それぞれに効果を持つと期待できる。医療分野でも、自己負担の引き上げ、診療報酬の精緻な見直し、薬価の適正化などはやはりコストな削減にある程度の貢献すると考えられる。さらに、介護分野では、ボランティアの拡大が大きな効果を発揮するし、NPM理論にもとづく公費支出管理は効率化に貢献することがわかった。
わが国の少子高齢化は諸外国に例をみないほど急速に進展しているのであるから、本研究の分析結果を踏まえるならば、ここで検討した様々な政策をミックスし、実験的にでもすぐに実施していくことが必要なのではないだろうか。
わが国の少子高齢化は諸外国に例をみないほど急速に進展しているのであるから、本研究の分析結果を踏まえるならば、ここで検討した様々な政策をミックスし、実験的にでもすぐに実施していくことが必要なのではないだろうか。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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