文献情報
文献番号
199800891A
報告書区分
総括
研究課題名
重症急性膵炎の救命率改善研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小川 道雄(熊本大学第二外科)
研究分担者(所属機関)
- 跡見裕(杏林大学第一外科)
- 大槻眞(産業医科大学第三内科)
- 加嶋敬(京都府立医科大学第三内科)
- 島崎修次(杏林大学救急医学)
- 杉山貢(横浜市立大学救命救急センター)
- 中野哲(大垣市民病院消化器科)
- 早川哲夫(名古屋大学第二内科)
- 平澤博之(千葉大学救急医学)
- 松野正紀(東北大学第一外科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 重点研究グループ 事業名なし
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
重症急性膵炎は良性疾患でありながら、治療成績は不良で、関連班会議である難治性膵疾患調査研究班が平成9年度に実施した全国調査では、致死率が27%にも達している。重症急性膵炎の実態を疫学的に調査し成因や病態を解明するとともに、最も適切な診断法、治療法を確立し、重症急性膵炎患者の救命率を改善することを目標とした。
研究方法
各研究者が成因、病態、治療に関する各個研究を行うとともに、以下の共同研究を開始した。①急性膵炎の重症化の予知に関する研究: 重症化の予知に有用な因子を明らかにし、急性膵炎の発症早期に重症化する可能性の高い症例を把握できるようにする。②急性膵炎の早期重症化例に対する対策に関する研究: 早期重症化例には、循環不全、呼吸不全、腎不全、DIC、など高度の炎症反応の結果、遠隔臓器の障害を生じる例が多い、などの特徴がある。後期重症化例との病態の違いを明らかにし、早期重症化例に対する治療指針を作成することを目標とする。③急性膵炎の後期重症化例に対する対策に関する研究: 後期重症化例には、感染がひきがねとなって悪化する例が多い、などの特徴がある。早期重症化例との病態の違いを明らかにし、後期重症化例に対する治療指針を作成することを目標とする。④胆石性急性膵炎に対する内視鏡的乳頭処置の適応、及び重症化対策に関する研究: 内視鏡的乳頭処置後に生ずる急性膵炎は、医療行為に伴うものであること、致死率が高いこと、などの問題点をはらんでいる。胆石性急性膵炎に対する内視鏡的乳頭処置の適応に関する検討、及び内視鏡的乳頭処置後に生じる急性膵炎の現状の把握を行う。
結果と考察
Ⅰ.共同研究 班の構成施設、及びその主な関連施設を対象として、平成7年1月から平成10年12月までに発症した急性膵炎(軽症、中等症膵炎を含む)のアンケート調査を行うこととした。詳細な情報を得るため、上記四つの共同研究プロジェクトに共通の調査票を作成した。特に、発症時の状況、急性膵炎と診断した時の状況、重症化した際の状況、さらにその後の経過を詳細に調査し、目標とする重症化の予知に有用な因子や、早期重症化例と後期重症化例の病態の違い、を明らかにできるように工夫した。
Ⅱ.各個研究 ①実験研究: 膵酵素の活性化、サイトカイン反応、腺房細胞のアポトーシス、血管透過性亢進、接着分子の発現、免疫能の低下、バクテリアルトランスロケーション、が急性膵炎の重症化機序として関与することを明らかにした。②重症化の予知: 血中マーカー(膵酵素、膵分泌性トリプシンインヒビター、サイトカイン)、臓器障害の出現、耐糖能低下、サイトカイン反応、CT所見、各種重症度判定基準、の評価が重症化の予知につながることを明らかにした。③早期重症化対策: 有効な薬物の投与法(投与ルート、投薬のタイミング、など)の検討が行われ、また、持続血液ろ過透析療法(CHDF)や動注療法(膵酵素阻害剤と抗菌薬の膵局所持続動注療法)が、重症化の阻止に有用であることを明らかにした。④後期重症化対策: 主膵管損傷を伴う難治性膵液瘻に対して、経皮的ドレナージルートを介した膵管塞栓術が治療法における選択肢の一つとなり得ることを明らかにした。また、ARDSに対する酸素化能増強法として一酸化窒素(NO)の吸入療法が有効であることが明らかとなった。⑤内視鏡的乳頭処置: 胆石性膵炎の治療手技としての内視鏡的乳頭処置の意義、及び内視鏡的乳頭処置後の膵炎の現状の報告があった。⑥その他: 重症急性膵炎の治療には最初の一週間で約150万円から280万円を要することが明らかとなった。
Ⅲ.次年度に残された課題と目標 平成11年度は、平成10年度に作成した、四共同研究プロジェクトに共通の調査票を用いて、班の構成施設、及びその主な関連施設における平成7年1月から平成10年12月までに発症した急性膵炎(軽症、中等症膵炎を含む)の調査を行う。データの解析を行い、以下の項目を明らかにすることを課題、及び目標とする。①急性膵炎の重症化の予知に関する研究: 急性膵炎発症時のデータの詳細な解析から、重症化の予知に有用な因子を選出し、初期治療に関するガイドラインを作成する。②急性膵炎の早期重症化例に対する対策に関する研究: 臨床徴候、検査成績、治療内容、病状の経過、などを詳細に調査し、早期重症化例に対する治療指針を作成する。③急性膵炎の後期重症化例に対する対策に関する研究: 早期重症化例との病態の違いを明らかにし、後期重症化例に対する治療指針を作成する。④胆石性急性膵炎に対する内視鏡的乳頭処置の適応、及び重症化対策に関する研究: 胆石性急性膵炎に対する内視鏡的乳頭処置の適応に関する検討を、胆管炎の強い胆石性急性膵炎と胆管炎を伴わない胆石性急性膵炎とを区別して行う。また、内視鏡的乳頭処置後に生じる急性膵炎の現状の把握を、膵炎に対して乳頭処置を行った結果さらに重症化した場合と、乳頭処置の後に膵炎を発症した場合を区別して解析する。
Ⅱ.各個研究 ①実験研究: 膵酵素の活性化、サイトカイン反応、腺房細胞のアポトーシス、血管透過性亢進、接着分子の発現、免疫能の低下、バクテリアルトランスロケーション、が急性膵炎の重症化機序として関与することを明らかにした。②重症化の予知: 血中マーカー(膵酵素、膵分泌性トリプシンインヒビター、サイトカイン)、臓器障害の出現、耐糖能低下、サイトカイン反応、CT所見、各種重症度判定基準、の評価が重症化の予知につながることを明らかにした。③早期重症化対策: 有効な薬物の投与法(投与ルート、投薬のタイミング、など)の検討が行われ、また、持続血液ろ過透析療法(CHDF)や動注療法(膵酵素阻害剤と抗菌薬の膵局所持続動注療法)が、重症化の阻止に有用であることを明らかにした。④後期重症化対策: 主膵管損傷を伴う難治性膵液瘻に対して、経皮的ドレナージルートを介した膵管塞栓術が治療法における選択肢の一つとなり得ることを明らかにした。また、ARDSに対する酸素化能増強法として一酸化窒素(NO)の吸入療法が有効であることが明らかとなった。⑤内視鏡的乳頭処置: 胆石性膵炎の治療手技としての内視鏡的乳頭処置の意義、及び内視鏡的乳頭処置後の膵炎の現状の報告があった。⑥その他: 重症急性膵炎の治療には最初の一週間で約150万円から280万円を要することが明らかとなった。
Ⅲ.次年度に残された課題と目標 平成11年度は、平成10年度に作成した、四共同研究プロジェクトに共通の調査票を用いて、班の構成施設、及びその主な関連施設における平成7年1月から平成10年12月までに発症した急性膵炎(軽症、中等症膵炎を含む)の調査を行う。データの解析を行い、以下の項目を明らかにすることを課題、及び目標とする。①急性膵炎の重症化の予知に関する研究: 急性膵炎発症時のデータの詳細な解析から、重症化の予知に有用な因子を選出し、初期治療に関するガイドラインを作成する。②急性膵炎の早期重症化例に対する対策に関する研究: 臨床徴候、検査成績、治療内容、病状の経過、などを詳細に調査し、早期重症化例に対する治療指針を作成する。③急性膵炎の後期重症化例に対する対策に関する研究: 早期重症化例との病態の違いを明らかにし、後期重症化例に対する治療指針を作成する。④胆石性急性膵炎に対する内視鏡的乳頭処置の適応、及び重症化対策に関する研究: 胆石性急性膵炎に対する内視鏡的乳頭処置の適応に関する検討を、胆管炎の強い胆石性急性膵炎と胆管炎を伴わない胆石性急性膵炎とを区別して行う。また、内視鏡的乳頭処置後に生じる急性膵炎の現状の把握を、膵炎に対して乳頭処置を行った結果さらに重症化した場合と、乳頭処置の後に膵炎を発症した場合を区別して解析する。
結論
本年度は、上記四つの共同研究プロジェクトに共通の調査票を作成した。この共通調査票は、膨大な調査項目からなり、調査にはかなりの時間と労力を強いることとなるが、これだけの本格的な調査はこれまで国内、国外とも全く行われてはおらず、また、今後も行うのは困難と思われる。それだけに、なんとか成果をあげ、重症急性膵炎の救命率の改善につなげたい。
公開日・更新日
公開日
-
更新日
-