文献情報
文献番号
199800878A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患に関する分子病態研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
辻 省次(新潟大学脳研究所)
研究分担者(所属機関)
- 井上正康(大阪市立大学医学部)
- 木下タロウ(大阪大学微生物病研究所)
- 垣塚彰((財)大阪バイオサイエンス研究所)
- 道勇学(名古屋大学医学部)
- 末松誠(慶應義塾大学医学部)
- 西本育夫(慶應義塾大学医学部)
- 永井良三(群馬大学医学部)
- 赤池孝章(熊本大学医学部)
- 三谷絹子(東京大学医学部附属病院)
- 中川正法(鹿児島大学医学部)
- 小嶋哲人(名古屋大学医学部)
- 岩井一宏(京都大学大学院医学研究科)
- 児玉龍彦(東京大学先端科学技術研究センター)
- 安河内幸雄(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
- 岩坪威(東京大学大学院薬学系研究科)
- 山田正夫(国立小児病院)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 横断的基盤研究グループ 基盤研究部門
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、特定疾患についてその分子病態機構を明らかにし、その治療法開発に向けての研究を推進することにある。遺伝性の難治性疾患については原因遺伝子が同定されつつあるものの、その遺伝子異常がタンパクレベル、あるいは細胞、組織のレベルで具体的にどのような機序で細胞障害、組織障害を引き起こすかという点については未解明の部分が多く、遺伝子レベルだけでなく、細胞生物学のレベルを含めて、難治性特定疾患の分子病態機構を解明し、治療学へと発展させることを目的とする。
研究方法
神経系特定疾患については、特にトリプレットリピート病について焦点を当て、トリプレットリピートの伸長によってもたらされる細胞死の分子病態機序を解明し、その緩和方法の開発を行った。 心筋症、造血障害、特発性血栓症、高脂血症、血管炎、動脈硬化、間質性肺炎などの難治性疾患を対象としても、その発症に関わる遺伝子を同定すると共に、その分子病態機序を、細胞生物学のレベル、あるいは動物モデルの作成を行った。klotho遺伝子については重点的にその機能の解析、スーパーオキサイド、パーオキシナイトライトなどの活性酸素とその関連物質、一酸化窒素、一酸化炭素などによる組織障害機構を培養細胞系、モデル動物を用いて解明し、その障害予防法の確立のための検討を行い、難治性特定疾患の治療法への応用を目指す。
結果と考察
研究成果=トリプレットリピート病については、神経細胞は伸長したポリグルタミンにタンパクに対して核内凝集体を作りやすく、顕著な脆弱性を示すこと、核内凝集体が形成に
伴いSEK1が活性化されることを見いだした。核外輸送シグナルが細胞死を抑制する事も
見いだした。凝集体形成による細胞死に先だってCaspase3および9の活性が上昇することを見いだした。沖縄地方で見いだした新たな遺伝性運動ニューロン疾患である家族性神経原生筋萎縮症家系について連鎖解析を行い、その遺伝子座が3p14.2-q13に存在することを発見し、候補領域を絞り込んだ。パーキンソン病については、α-synucleinがLewy小体の主要成分であること、多系統萎縮症(multiple system strophy)の脳幹、小脳、基底核などの白質のオリゴデンドロサイトに出現するglial cytoplasmic inclusion(GCI)がα-synuclein陽性を示すことを見出した。アルツハイマー病については、APP分子が、免疫系のFAS分子と同様にリガンド依存性にアポトーシスを誘導する可能性が示された。klotho蛋白について、klotho蛋白は液性因子として血管内皮細胞のNO合成を高める、klotho蛋白の発現が低下すると、高食塩負荷による高血圧や、高脂肪食負荷による粥状動脈硬化の発症素因になると考えられた。血栓性素因プロテインS(PS)欠乏症において、新たな遺伝子変異を同定しその欠乏症に至る分子病態機構を明らかにしそれについて検討した。進展期不応性貧血症例に観察されるt(11;19)(q23;p13.1)の分子解析を行うことにより、新規融合遺伝子MLL/MENのクローニングに成功した。 MENは、少なくともAP-1活性の刺激効果とp53に対する抑制効果により、Rat1細胞を形質転換することが明らかとなった。発作性夜間血色素尿症については、そのモデルマウスを作ることをめざし、コンディショナル遺伝子ターゲティングと造血幹細胞移植を組み合わせて、血液系だけにGPIアンカー欠損細胞を持つマウスを作製した。 活性酸素に関連しては、虚血再循環病態では血管がSOD依存性に弛緩すること、これが低酸素下でのNO依存性cGMP産生増加に起因することが判明した。さらに、従来から細胞質に局在すると考えられてきたCu/Zn-SODが重ミトコンドリア画分やペルオキシゾーム画分にも存在すること、およびFALS患者のSODはその超微局在性が崩れることが判明した。これらの所見から、活性酸素病態を理解するためには、分子レベルでの組織細胞内酸素環境や抗酸化防御酵素系の分布が重要であることが判明した。
伴いSEK1が活性化されることを見いだした。核外輸送シグナルが細胞死を抑制する事も
見いだした。凝集体形成による細胞死に先だってCaspase3および9の活性が上昇することを見いだした。沖縄地方で見いだした新たな遺伝性運動ニューロン疾患である家族性神経原生筋萎縮症家系について連鎖解析を行い、その遺伝子座が3p14.2-q13に存在することを発見し、候補領域を絞り込んだ。パーキンソン病については、α-synucleinがLewy小体の主要成分であること、多系統萎縮症(multiple system strophy)の脳幹、小脳、基底核などの白質のオリゴデンドロサイトに出現するglial cytoplasmic inclusion(GCI)がα-synuclein陽性を示すことを見出した。アルツハイマー病については、APP分子が、免疫系のFAS分子と同様にリガンド依存性にアポトーシスを誘導する可能性が示された。klotho蛋白について、klotho蛋白は液性因子として血管内皮細胞のNO合成を高める、klotho蛋白の発現が低下すると、高食塩負荷による高血圧や、高脂肪食負荷による粥状動脈硬化の発症素因になると考えられた。血栓性素因プロテインS(PS)欠乏症において、新たな遺伝子変異を同定しその欠乏症に至る分子病態機構を明らかにしそれについて検討した。進展期不応性貧血症例に観察されるt(11;19)(q23;p13.1)の分子解析を行うことにより、新規融合遺伝子MLL/MENのクローニングに成功した。 MENは、少なくともAP-1活性の刺激効果とp53に対する抑制効果により、Rat1細胞を形質転換することが明らかとなった。発作性夜間血色素尿症については、そのモデルマウスを作ることをめざし、コンディショナル遺伝子ターゲティングと造血幹細胞移植を組み合わせて、血液系だけにGPIアンカー欠損細胞を持つマウスを作製した。 活性酸素に関連しては、虚血再循環病態では血管がSOD依存性に弛緩すること、これが低酸素下でのNO依存性cGMP産生増加に起因することが判明した。さらに、従来から細胞質に局在すると考えられてきたCu/Zn-SODが重ミトコンドリア画分やペルオキシゾーム画分にも存在すること、およびFALS患者のSODはその超微局在性が崩れることが判明した。これらの所見から、活性酸素病態を理解するためには、分子レベルでの組織細胞内酸素環境や抗酸化防御酵素系の分布が重要であることが判明した。
結論
以上、本年度においては、多方面にわたる研究が行われたが、中でもトリプレットリピート病における神経細胞変性機構、発作性夜間血色素尿症の発症機構、老化モデルマウスの作成などの点で飛躍的な発展が見られた。さらに、本研究班は横断的な構成をしていることから、基礎系の研究者、臨床系の研究者の交流、共同研究の活発化、さらに、たとえば臨床系であっても、普段交流することの少ない異なる分野の研究者の間で活発な意見の交換が行われ、新たな共同研究も生まれるなど、研究の推進上有益であった。
公開日・更新日
公開日
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更新日
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