ホルモン受容機構異常

文献情報

文献番号
199800845A
報告書区分
総括
研究課題名
ホルモン受容機構異常
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
春日 雅人(神戸大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 女屋敏正(山梨医科大学)
  • 小西淳二(京都大学医学部)
  • 紫芝良昌(虎の門病院)
  • 妹尾久雄(名古屋大学環境医学研究所)
  • 對馬敏夫(東京女子医科大学)
  • 長瀧重信(放射線影響研究所)
  • 安田敏正(千葉大学医学部)
  • 松本俊夫(徳島大学医学部)
  • 水梨一利(東北大学医学部)
  • 加藤茂明(東京大学分子細胞生物学研究所)
  • 森井浩世(大阪市立大学医学部)
  • 中村浩淑(浜松医科大学)
  • 清野佳紀(岡山大学医学部)
  • 森昌朋(群馬大学医学部)
  • 生山祥一郎(九州大学生体防御医学研究所)
  • 杉本利嗣(神戸大学医学部)
  • 赤水尚史(京都大学医学部)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 内分泌系疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、ホルモン作用機構の異常に起因すると推定される原因不明,治療法未確立で、かつ後遺症を残すおそれの少なくない疾患について、診断基準の作製,治療法の確立,さらに原因の解明を行なうことである。歴史的経緯により、本班では、各種ホルモンの中で、副甲状腺ホルモンと甲状腺ホルモンの受容機構の異常について扱う。
研究方法
研究分担者ならびに研究テーマ毎に異なるので〔結果と考察〕の項を参照して頂きたい。
結果と考察
(A)副甲状腺関連疾患
(ⅰ)偽性副甲状腺機能低下症Ib型における副甲状腺ホルモン受容体遺伝子異常の解明
偽性副甲状腺機能低下症Ib型では副甲状腺ホルモン受容体の異常が想定され、その遺伝子のコーディングシークエンスに関して、現在迄に精力的に検討されたが変異は認められなかった。本年度は、偽性副甲状腺機能低下症Ib型の7例についてその腎特異的P3プロモーター領域を更に詳細に検討したが、変異は認められなかった。
(ⅱ)副甲状腺機能異常における副甲状腺カルシウム感知受容体遺伝子異常の解明
副甲状腺カルシウム感知受容体は、細胞外カルシウム濃度を感知し、副甲状腺ホルモン分泌の調節に重要な役割を果たしている。昨年度、我々は家族性副甲状腺機能低下症の2家系においてこの遺伝子の変異を認めた。本年度は、家族性低Ca尿性高Ca血症を呈する2家系を解析し、220番目のArgがTrpに変異する異常を認めた。従って、カルシウム感知受容体の遺伝子変異により高Ca血症も低Ca血症も生じると考えられた。
また、原発性副甲状腺機能亢進症として手術されたものの、術後も高Ca血症が持続した2症例で27番目のGluがArgにあるいは55番目のPloがLeuに変異する異常を認めた。この2種の変異を培養細胞に発現してその機能を検討した所、この異常によりカルシウム感知機能が低下することが明らかとなった。従ってこの遺伝子変異が高Ca血症の発現に関与している可能性が高いと考えられた。
(ⅲ)ビタミンD受容機構の解明
ビタミンD受容機構を解明する目的でビタミンD受容体遺伝子欠損マウスを作製したことは一昨年報告した。本年度は、このマウスを解析し、軟骨および皮膚における異常は血中カルシウムの正常化にもかかわらず改善されなかったことより、ビタミンD受容体が軟骨及び皮膚表皮に直接的に作用していることが明らかとなった。また、この欠損マウスは子宮が萎縮しており、ビタミンD受容体の性腺機能における役割も示唆された。そこでこのマウスにおけるアロマターゼ活性について検討し、男女両性腺において著しく低下していることならびに、血中カルシウムの正常化によってもこれらの異常は完全には改善しないことを見い出した。以上より、ビタミンD受容体はエストロゲン生合成に少なくとも一部は直接的に関与していることが明らかとなった。
(ⅳ)ビタミンD依存性くる病の原因遺伝子の解明
ビタミンD依存性くる病Ⅰ型は、遺伝子性偽性ビタミン欠乏症くる病とも呼ばれ、幼児早期にくる病に加え、筋緊張の低下,筋力の低下,成長障害,低カルシウム血症による痙攣などを呈する常染色体性遺伝疾患である。この疾患では、25ハイドロオキシビタミンD31α水酸化酵素の異常が想定されていた。そこでこの遺伝子のcDNAをクローニングし、ビタミンD依存性くる病Ⅰ型患者4例についてその遺伝子の異常について検討した。その結果、各症例においてそれぞれ107番目のArgがHisに、125番目のGlyがGluへ、335番目のArgがProへ、382番目のProがSerに変異していることが明らかとなった。次にこれらの変異1α水酸化酵素の活性を25ハイドロオキシビタミンD3から1α,25ジハイドロオキシビタミンD3への変換で検討したが、いずれの変異もこの活性をもっていないことが明らかとなった。従って、25ハイドロオキシビタミンD31α水酸化酵素遺伝子の変異によりビタミンD依存性くる病Ⅰ型が発症することが明らかとなった。
(B)甲状腺関連疾患
(ⅰ)TSH受容機構異常症における病因の解明
TSH受容体に対する抗体は、バセドウ病や一部の甲状腺機能低下症患者で認められ、その発症に関与していると考えられている。昨年迄に患者リンパ球からTSH受容体抗体遺伝子を単離し、リコンビナントモノクロナル抗体の産生に成功した。本年度は単離したTSH受容体抗体遺伝子の培養細胞系での発現を確認し、この遺伝子を受精卵に注入し、トランスジェニックマウスを作製中である。また、バセドウ病で認められる自己抗体に対応する56kDaの甲状腺抗原として、myocilinを同定した。Myocilinがバセドウ病の発症にどのように関与しているか検討中である。また、先天性TSH不応症と考えられる症例においてTSH受容体の遺伝子変異が原因と思われる症例が存在し、現在同症例の詳細な遺伝子解析を行っている。
(ⅱ)甲状腺ホルモン不応症の発症機序の解明
甲状腺ホルモン不応症は、甲状腺ホルモン受容体の遺伝子変異により生じる疾患であり、これまで2例のみがホモ接合体であり残りはすべてヘテロ接合体である。本症の第1例目は、甲状腺ホルモン受容体遺伝子βが欠損しているホモ接合体であったが、その両親は臨床的に正常であり不応症ではなかった。このことは正常の甲状腺ホルモン受容体が半減するだけでは甲状腺ホルモン不応症にはならず、異常甲状腺ホルモン受容体が存在し、これが正常甲状腺ホルモン受容体の機能を阻害するドミナントネガティブ作用が不応症の発現には重要であることを示唆している。このドミナントネガティブ作用の発現機序を解明するために、各種の変異甲状腺ホルモン受容体を発現して検討した結果、レチノイドX受容体とのヘテロダイマーを形成しやすいこと、ならびにコリプレッサーを結合することがドミナントネガティブ作用発現のためには重要と考えられた。
(ⅲ)バセドウ病眼症の病因とその予後の解明
バセドウ病眼症では外眼筋および眼窩内の脂肪結合織の腫大が眼窩内圧を増加し、眼球突出を生じる。このような組織においてはglycosaminoglycans(GAG)の蓄積を伴った線維芽細胞の増生を認め、GAGの蓄積が組織腫大の最も大きな原因と考えられている。本年度は、このGAGの産生に関連すると考えられているsulfate transporterについて解析し、眼窩線維芽細胞に発現するのは主にdiastrophic dysplasia sulfate transporter(DTAST)であり、Na非依存性,Cl依存性のsulfate/chloride antiporterであることを明らかにした。一方、バセドウ病眼症の予後と甲状腺刺激抗体(TSAb)の関連を臨床的に検討した所、TSAbが持続的に高値を示す眼症症例では内科的治療に抵抗性であり、眼症の進行が早いことが明らかとなった。
結論
①偽性副甲状腺機能低下症Ib型は副甲状腺ホルモン受容体遺伝子の異常による疾患ではない。②家族性低Ca尿性高Ca血症は、副甲状腺カルシウム受容体の遺伝子変異による疾患である。③ビタミンD依存性くる病Ⅰ型は、25ハイドロオキシビタミンD31α水酸化酵素の遺伝子変異による疾患である。④甲状腺刺激抗体が持続的に高値を示すバセドウ病眼症の症例では、内科的治療に抵抗性であり、眼症の進行が早い。

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