ベーチェット病

文献情報

文献番号
199800844A
報告書区分
総括
研究課題名
ベーチェット病
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
大野 重昭(横浜市立大学)
研究分担者(所属機関)
  • 猪子英俊(東海大学医学部分子生命科学系遺伝情報部門)
  • 小野江和則(北海道大学免疫科学研究所病理部門)
  • 木村穣(東海大学医学部分子生命科学系遺伝情報部門)
  • 滝口雅文(熊本大学エイズ学研究センターウイルス制御分野)
  • 藤野雄次郎(東京大学医学部附属病院分院)
  • 吉崎和幸(大阪大学健康体育部健康医学第一部門)
  • 太田正穂(信州大学医学部法医学教室)
  • 坂根剛(聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター)
  • 橋本喬史(帝京大学医学部内科リウマチ・膠原病研究室)
  • 宮田幹夫(北里大学医学部眼科学教室)
  • 福原俊一(東京大学大学院医学系研究科)
  • 小竹聡(北海道大学医学部眼科学教室)
  • 磯貝恵美子(北海道医療大学歯学部口腔衛生学)
  • 水木信久(横須賀共済病院眼科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 免疫疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
課題 I ベーチェット病の発症機構の解析
ベーチェット病は特定の遺伝的背景のもとに、何らかの外的要因が作用して発症すると考えられている。平成10年度はMICA~HLA-B遺伝子間のマイクロサテライトMIBを頂点とした近傍領域の全塩基配列の解析をすすめ、原因遺伝子の正確なマッピングを試みる。また発症に関る外因として細菌感染の関りを検討する。さらにこれらの結果を踏まえて免疫応答の異常についても基礎的、臨床的な研究を行う。
課題 II ベーチェット病の新しい薬物療法の開発
本病は全身の慢性炎症性疾患であり、治療にはステロイド薬、免疫抑制薬などが用いられているが、充分な治療効果が得られない重症例も多くみられる。平成10年度は新しい治療法についての基礎研究および臨床研究をおこなう。さらに、患者の予後調査、QOL調査などを行いより質の高い治療の開発をめざす。
研究方法
結果と考察
課題 I ベーチェット病の発症機構の解析 
本病患者および健康対照を対象としてMICA遺伝子の多型性解析を行い、HLA-B遺伝子との連鎖解析をおこなった結果、対照群ではHLA-B51、-B52の各抗原と連鎖しているMICA*009アリルが均等に増加しているのに対し、患者群ではHLA-B51抗原と連鎖しているMICA*009アリルのみがB51に引きずられて有意に増加していたため、HLA-B51抗原が病因発症に第一義的に働き、MICA遺伝子は活性化要因と考えられた。
一方MICA遺伝子TM領域のマイクロサテライト多型解析を行なったところ、A6対立遺伝子がベ-チェット病患者で有意の高値を示した。そこでMICA及びMICB遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作製したところ、MICB遺伝子の発現の比較的高い4系統では体重の低下、白血球の増加が共通して観察された。
発症に関る外因としては、従来Streptococcus sanguisが考えられてきた。そこで患者由来S. sanguisを無菌マウスに感染させ、口腔粘膜障害への関連を調べたところ、障害は重度で治癒の遅延を示しさらにIL-2、IL-6、IFN-γ、TNF-αなどのサイトカインがが高いレベルで検出された。これらの結果からS. sanguisは障害を受けた粘膜に働きアフタ形成に関与するだけでなく全身の免疫応答も誘導することがわかった。
免疫動態に関する研究ではマクロファージ遊走阻止因子(MIF)の患者血清中濃度を測定した結果、健常者に比べ有意に高値でとくに活動性患者で高くぶどう膜炎の活動性とも関連がみられた。従って、MIF濃度は本病における臨床経過、病態の把握に有用なパラメーターになり得ると考えられた。
また,免疫応答に関する基礎研究として,実験的自己免疫性網膜ぶどう膜炎(EAU)の発症過程におけるリンパ球細胞表面の接着分子発現率の変動をみたところ、CD4陽性細胞ではL-selectin、LFA-1ともに活性化に伴いその発現率に変動がみられたが、変動時期がそれぞれ異なり、発症における各接着分子の役割の違いが示唆された。
課題 II ベーチェット病の新しい薬物療法の開発
EAUを誘導する抗原ペプチドK2をリポソ-ムで封入しマウスを免疫する前にあらかじめ皮下に投与しておき、その後K2, CFAで免疫すると、EAU発症は抑制された。また、免疫10日後のマウスから採取したT細胞の抗原ペプチドに対する増殖反応を測定するとT細胞反応は強く抑制された。これらの結果から、リポソーム封入抗原の前投与により自己免疫疾患の発症が抑制される可能性が示唆され、抗原による減感作療法の可能性が示唆された。また抗サイトカイン療法に関しては、炎症性腸疾患のモデルマウスを用いた抗IL-6受容体抗体による治療実験で腸炎の部分的改善が見られたことから、抗IL-6受容体抗体による腸管ベーチェット病治療への応用が示唆された。また既にキメラ型抗TNFα抗体(cA2)による治療試験を準備中であるが、ヒト抗体作成を目的としてシス作用配列を破壊する置き換えベクターを導入したES細胞を用いてマウス免疫グロブリンの発現を欠くマウスと、ヒト免疫グロブリン遺伝子をES細胞の染色体に取り込ませたマウスを作成した。この2種のマウスの交配してヒト抗体を産生するゼノマウスを作り、ヒトTNF-α、IL-8に対するヒトモノクローナル抗体を産生させる予定である。
また、実際の臨床の場で行われている治療に関する現状を解析し、眼症状を有する患者の約70%は無治療またはコルヒチン単独治療で抑えられると考えられた。残りの半数弱はシクロスポリンとコルヒチンの併用によりコントロールが可能であったが、なおコントロール不良例が多数存在する事がわかった。さらに特殊病型の1つである進行性神経ベーチェット病に対するメトトレキサート(MTX)少量パルス療法の有効性及び安全性についても検討され、有効性に十分期待がもたれた。
また今年度はさらにより質の高い治療をめざすためにベーチェット病の予後調査およびQOL調査が行われた.予後調査は, 1991年に行われた全国調査の2次調査個人票を基に対象施設宛に平成10年8月に予後調査票を送付し集計した. 2次調査票は777例を対象とし,回収率は78.5%であった.そのうち現在の受療状況が把握できたのは約半数であった.回収例の性・年齢分布と調査対象者の分布に大きな差は見られず,追跡可能例の最近1年間の経過は症状固定・不変が約7割強で軽快が2割弱,悪化や死亡は僅かであった.また,SF-36を用いたベーチェット病患者の健康関連QOLの測定と検討を行った.本研究では,ベーチェット病患者が,自身の健康度を一般の国民と比較してどの側面でどの程度低く認識しているのかを,主観的健康指標のひとつであるSF-36を用いて検討した.対象患者全体のSF-36スコアは国民標準値に比べて有意に低下しており,眼以外の病変である関節病変,腸病変のあるものに有意なQOLの低下を認めた.今後,活動性の高い群・眼病変なしの群など広範な患者群を対象とした観察研究,眼疾患特異的尺度の開発,縦断的研究,そして介入研究を進めることが必要であることが考えられた.
結論
本年度はベ-チェット病発症の原因遺伝子および免疫学的病態の解明が進み、発症の予防のための重要な知見が得られた。今後はさらに原因遺伝子を導入したトランスジェニックマウス、抗原結合蛋白の解析、疾患の動物モデルを用いて発症機転と病態を明らかにする。また治療に関しては、いくつかの薬物が本病の現在の治療に代わる新しい治療法として応用できる可能性が示唆された。特に現在抗TNF-α抗体による治療が計画されているが,これを早期に実施するよう努力し,投与量を始めとして薬剤の投与方法を確立し,その効果,副作用を正しく評価して安全かつ有効に使用できるような指針を作成する必要が有る.さらに今年度は本格的な予後調査およびQOL調査の結果、患者QOLの改善のための具体的な指針をはじめとする有益な情報が得られた。これをもとに今後患者側の視点に立った治療法の確立をめざす。

公開日・更新日

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