自己免疫疾患

文献情報

文献番号
199800843A
報告書区分
総括
研究課題名
自己免疫疾患
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
宮坂 信之(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 小池隆夫(北海道大学)
  • 加藤智啓(聖マリアンナ医科大学)
  • 上阪等(東京医科歯科大学)
  • 竹内勤(埼玉医科大学)
  • 広瀬幸子(順天堂大学)
  • 坂根剛(聖マリアンナ医科大学)
  • 田中良哉(産業医科大学)
  • 鍔田武志(東京医科歯科大学)
  • 原まさ子(東京女子医科大学)
  • 平形道人(慶応大学)
  • 西本憲弘(大阪大学)
  • 江口勝美(長崎大学)
  • 橋本博史(順天堂大学)
  • 松下祥(熊本大学)
  • 簑田清次(自治医科大学)
  • 菅井進(金沢医科大学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 免疫疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
自己免疫疾患の中でも、全身性エリテマト-デス(SLE)、多発性筋炎・ 皮膚筋炎(PM/DM)、シェ-グレン症候群(SS)の3疾患に研究対象を絞り、こ れらの難治性病態の成立機序の解明と新たな治療法の開発を行うことを目的とする。
研究方法
主として免疫学的手法及び分子生物学的手法を主な研究手法とし、動物モデ ルや患者由来の血清、細胞などを用いてT細胞レセプタ-分子、表面抗原、接着分子、 サイトカイン、アポト-シス、トレランス、自己抗原エピト-プなどの面からin vivo  およびin vitroにおいて多角的に解析を行う。また、臨床症例の解析から、難治性病態の 疾患活動性の指標の探索、難治性病態の新たな治療法の開発もあわせて行う。
結果と考察
1.国際シンポジウム『膠原病フォ-ラム』の開催
3年目の総括として本分科会を中心として、難治性血管炎、ベ-チェット病、混合性結
合組織病、強皮症各分科会及び免疫基礎班の協力により、平成10年10月12、13 日に『膠原病フォ-ラム』ー難病の克服を目指してーというテ-マで国際シンポジウム を開催し、多数の国内外の若手研究者を集めて活発な討論が行われた。
2.疾患発症あるいは病態形成に関与する遺伝子群の解析
a.SLEにおける高IgG血症の遺伝支配の解析
NZB/WF1xNZW退交配雌マウスを用いてマイクロサテライトDNA多型を利用
したQTL解析を行い、第1染色体テロメア側に位置する遺伝子(FcγII 遺伝子プロ モ-タ-領域の遺伝子多型)の関与を明らかにした。本遺伝子はB細胞の負の調節因子 であることから、B細胞異常活性化の一因と考えられる。
b.ル-プス腎炎発症に関与する補体系異常に関する遺伝子解析
上記と同様の解析により、C1q遺伝子多型とル-プス腎炎との関連を明らかにした。
c.B細胞アポト-シスの異常
ル-プスモデルマウスにおいてB細胞レセプタ-(BCR)を介するアポト-シスの異
常を明らかにし、B細胞異常活性化の一因となる可能性を示唆した。
d.SLE患者T細胞レセプタ-(TCR)ζ鎖発現異常に関する解析
SLE患者TCRζ鎖発現低下を明らかにし、シグナル伝達機能に変調を来すようなト
ランスクリプトの変異、欠失が見いだされたことから、SLET細胞のシグナル伝達異 常の一因となりうることを明らかにした。
3.難治性病態形成の分子機構の解析
a.皮疹を有する膠原病患者リンパ球におけるホ-ミング分子発現解析
皮疹を有する患者では皮膚リンパ球関連抗原(CLA)の発現増強が認められ、皮膚由
来血管内皮細胞との接着増強がみられることを明らかし、皮疹形成の分子機構を明らか にした。
b.SLEにおけるTh1、Th2バランスの質的・量的異常の解析
SLE患者末梢血リンパ球サブセットを細胞質内サイトカイン、ケモカイン・レセプタ
-などを指標として解析し、活動期におけるリンパ球サブセットのアンバランスを明ら かにした。
c.多発性筋炎・皮膚筋炎患者における末梢血CD8陽性細胞のクロ-ン解析
新たに開発したPCR-ELISA法とCDR3長スペクトラタイピング法を用いるこ
とにより、炎症性筋疾患患者末梢血CD8陽性T細胞のクロ-ナルな増多を証明した。
d.シェ-グレン症候群の病変形成におけるCD40L-CD40の関与
モデルマウスを用いて抗CD40抗体の治療効果があること、本症患者唾液腺において CD40分子の過剰発現があることをそれぞれ明らかにした。
4.新たな診断法及び治療法の開発
a.抗カルジオリピン抗体測定系の標準抗体キメラ抗体の作成
難治性病態として知られる抗リン脂質抗体症候群(APS)の早期診断のために用いる
抗カルジオリピン・ヒトIgG型キメラ抗体を作成し、諸外国の検査施設において検討 を行った結果、国際的標準血清としての有用性が明らかにされた。
b.間質性肺炎のマ-カ-抗体となりうる抗KS抗体の発見
筋炎に特異的に出現する抗アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)抗体の中から、新
たな抗KS抗体の存在を明らかにし、本抗体が筋炎よりも間質性肺炎のマ-カ-抗体と なりうることを明らかにした。
c.ル-プス腎炎に対するIL-6シグナル伝達阻害の治療効果
IL-6のシグナル伝達における負の調節因子であるSSI-1遺伝子を強制発現する
ことによりメサンギウム細胞の増殖抑制が起こることを明らかにし、SLEにおける難 治性病態であるル-プス腎炎に対する本分子による遺伝子療法の可能性を示唆した。
d.SLEモデル動物におけるアポト-シス誘導物質セラミドの治療効果
MRL/lprマウスにC-セラミドを投与することにより、生存率の延長、タンパク
尿の減少、リンパ節腫脹の軽減などがみられることを明らかにした。
c.SLE患者におけるシクロスポリン併用療法の有用性の検討           ステロイド抵抗性SLE患者に対してシクロスポリン併用療法を行い、ステロイド剤の
漸減効果があることを明らかにし、同時にステロイド抵抗性における多剤抵抗性遺伝子 産物であるP糖蛋白質の関与を示唆するデ-タを提示した。
結論
残された課題=本年度は、分子生物学、分子遺伝学、免疫学における最新の研究手法が 取り入れられ、遺伝子及び分子レベルで病因・病態研究がさらに進んだことが強調され る。しかし一方で、未だ特定の膠原病の病因や難治性病態形成に関与する遺伝子の最終 的な同定はなされておらず、今後のさらなる検討が必要である。診断法及び治療法の開 発に関しては、既存の方法の改良と新たな方法の開発を目指した。その結果、日常臨床 に応用しうる新たな診断法・治療法の開発が進みつつあり、今後、その実用化を目指し た研究がさらに必要となろう。

公開日・更新日

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