難治性血管炎

文献情報

文献番号
199800842A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性血管炎
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
橋本 博史(順天堂大学膠原病内科)
研究分担者(所属機関)
  • 中林公正(杏林大学第一内科)
  • 吉田雅治(東京医科大学八王子医療センター腎臓科)
  • 吉木敬(北海道大学部第一病理)
  • 安田慶秀(北海道大学循環器外科)
  • 沼野藤夫(東京医科歯科大学第三内科)
  • 中島伸之(千葉大学第一外科)
  • 津坂憲政(埼玉医科大学総合医療センター第二内科)
  • 鈴木和男(国立感染症研究所生体防御物質室)
  • 居石克夫(九州大学病理学教室第一)
  • 鈴木登(聖アリアンナ医科大学難病治療研究センター病因免疫部門)
  • 小林茂人(順天堂大学膠原病内科)
  • 尾崎承一(京都大学医学部臨床病態医科学)
  • 金井芳之(東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究センター)
  • 亀山香織(慶應義塾大学病理)
  • 寺嶋一夫(順天堂大学第二病理)
  • 松岡康夫(川崎市立川崎病院)
  • 吉田俊治(藤田保健衛生大学感染症リウマチ内科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 免疫疾患調査研究班
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難治性血管炎の成因と病態発症機構に関する基礎的研究を進めると共に実態把握のための疫学、診断、病型分類、重症度分類、治療法、予後、QOL評価票の作成の検討を行う。研究対象疾患では、前年度と同様に高安動脈炎と抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎(顕微鏡的多発血管炎、ウェゲナー肉芽腫症、アレルギー性肉芽腫性血管炎など)に重点を置き、重症度分類とQOL評価票の作成では当分科会が担当する治療研究対象疾患について行い、さらにこれまで日本で実態が把握されていなかった側頭動脈炎、ANCA関連血管炎、抗リン脂質抗体症候群(APS)の全国疫学調査の解析を行い実態を把握する。
研究方法
前年度と同様に、動物モデル・病因に関する小委員会(委員長 吉木敬構成員)、ANCAに関する小委員会(委員長 鈴木和男構成員)、大型(委員長 安田慶秀構成員)ならびに中・小型(委員長 中林公正構成員)血管炎の疫学・予後・QOLに関する小委員会、大型(委員長 沼野藤夫構成員)ならびに中・小型血管炎(委員長 吉田雅治構成員)の臨床に関する小委員会の6つの小委員会を設置し研究を進めた。動物モデル・病因に関する研究では横断的基盤研究班より研究協力者の参画を得、QOL評価票作成では特定疾患に関する疫学研究班より研究協力者の参画のもとで行い、また全国疫学調査では特定疾患に関する疫学研究班との共同研究で行った。


結果と考察
結論
1)、病因・病態の解明
(1)NZB/NZWF1マウスの退交配マウスにおいてマイクロサテライト法により第3、第7、第9染色体上に各1個の壊死性血管炎感受性遺伝子を同定した(寺嶋構成員)。MRL/MP-lpr/lprマウスでは、オステオポンチンの遺伝子多型と糸球体腎炎の発症との間に有意の相関を認めた(能勢構成員)。また、MRL/lprマウスのnucleobindin遺伝子ノックアウトマウスでは壊死性血管炎の発症が高まることを認め、血管炎に関連して抗アクチン、抗argininosuccinate synthase抗体が見いだされた(金井構成員)。
(2)小血管や筋型動脈ののフィブリノイド血管炎や肉芽腫性血管炎のモデル動物をHTLV-1の遺伝子断片env-pX導入トランスジェニックラットにより確立した。さらに、骨髄細胞及び脾細胞の移入実験により比較的細い血管の病変発現には反応リンパ球側に異常があり、筋型動脈にみられるフィブリノイド壊死を伴う動脈炎は標的組織及び反応リンパ球いずれにも導入遺伝子が関与していることが示唆された(吉木構成員)。
(3)血管内皮細胞(EC)とT細胞の相互作用にCD11a/18-CD54,CD28/CTLA4-CD80/86,CD2-CD58,CD134-CD134Lの4つの経路が関与していることを明らかにした。この中で、ECのCD80/86分子はIL-2産生阻害によるアポトーシスの抑制によりCD4+T細胞反応の維持に関わっていることが示唆された(東構成員)。
(4)APSを有するSLEのT細胞レセプターではζ鎖の発現が低下しており、これによる細胞内シグナル伝達の異常が示唆された(津坂構成員)。また、β2ーグリコプロテインI 依存性抗カルジオリピン抗体陽性患者より抗原反応性CD4陽性T細胞株を樹立した(西村構成員)。
(5)E-セレクチン遺伝子をラット大動脈に導入し白血球の接着が誘導できることを確認した(安河内構成員)。急性期大動脈解離例の炎症細胞と平滑筋細胞にストレス蛋白(150-kD oxygen-regulated protein)の免疫原性を認めた(由谷構成員)。
(6)皮膚白血球破砕性血管炎の皮膚生検材料を用いてマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)を検討した結果、MMP-2,-9が病態発症に関与していることが示唆された(亀山構成員)。
(7)高安動脈炎(TA)では高率に抗EC抗体を認め(89%)、その対応抗原はECの74kD蛋白と考えられた(吉田(俊)構成員)。悪性関節リウマチ(MRA)の血中及び血小板上ではCD40Lが有意に多く認められ病態への関与が示唆された(小林構成員)。
(8)SLE剖検例における心筋繊維化とAPSとの関連性を認めた(居石構成員)。
2)、ANCA関連血管炎
(1)ウェゲナー肉芽腫症(WG)に特異的とされるプロテアーゼ3(PR3)に対するANCAのエピトープ解析をヒト好中球エラスターゼ(HLE)のキメラ蛋白を作成して検討した結果、PR3-ANCA陽性血清は5'PR3cDNA/3'HLEcDNAと5'HLEcDNA/3'PR3cDNAのキメラ蛋白との反応性を認め、エピトープに多様性のあること、PR3酵素活性に及ぼす影響も多様であることを認めた(鈴木(登)構成員)。
(2)ANCA関連血管炎で重要視されるミエロペルオキシダーゼ(MPO)に対するANCAのエピトープ解析をリコンビナントMPO断片パネルを用いて行った結果、MPOのH鎖N末フラグメント(H-4)の4番目の断片4P4が重篤な血管炎と関連することを明らかにした(鈴木(和)構成員)。
(3)新たに見いだされたANCAである抗HMG1/HMG2抗体のエピトープ解析をリコンビナント蛋白断片を用いて行った結果、HMG1の84-88,HMG2の83-88のアミノ酸がエピトープの一部であることを明らかにした(尾崎構成員)。
(4)IgGクラスANCAは、TNFαの刺激によるヒト血管内皮細胞を傷害すると共にECにサイトカインや接着分子のmRNAの発現を増強させ、好中球のEC接着を容易にすることを明らかにした(吉田(雅)構成員)。
(5)好中球からのMPO放出阻害物質であるアセアノスタチンはアジュバント関節炎ラットに投与することによりMPO-ANCA抗体価の減少をみた(鈴木(和)構成員)。
(6)MPO-ANCAはMRAでも認められ、陽性例では蛋白尿、血尿などの病態が多く認められた(松岡構成員)。
(7)MPO-ANCA陽性顕微鏡的多発血管炎では、早期より免疫抑制薬と共に血漿交換療法の併用が生命予後を改善することが示された(橋本構成員)。
3)、大型血管炎の疫学・予後・QOL
(1)当分科会独自で高安動脈炎 (TA)の全国調査を行った。その結果、889名の調査票が回収され、女性が87%を占め、50歳代の通院患者が最も多く、病態として大動脈弓とその分枝の血管病変が最も多いが、男性患者では女性に比べ腹部大動脈病変が多く認められた。合併症として大動脈弁閉鎖不全を33%に認めた。重症度分類に当てはめると、II度が40%,I度が30%を占めた(沼野小委員会委員長)。
(2)TAの予後調査では、58施設より120例の症例が集積され、5年生存率88%,10年生存率84%で、死亡率は10%、主な死因は大動脈瘤破裂、吻合部動脈瘤、心筋梗塞であった(安田小委員会委員長)。
(3)TAのQOL評価票をSF-36をもとに疾患に特異的なものを加味し作成し、それにもとずく予備調査を行った。その結果、手術施行例の6割が日常生活で支障をきたしていることが明らかになった(安田小委員会委員長)。
4)、中・小型血管炎の疫学・予後・QOL
(1)当分科会独自で結節性多発動脈炎(PAN)、顕微鏡的多発血管炎(MPA)、ウェゲナー肉芽腫症(WG)、アレルギー性肉芽腫性血管炎(AGA)、悪性関節リウマチ(MRA)の全国予後調査を行った。163施設より646例の回収を得たが、WG,AGA,MRAの生命予後は15年前の全国調査に比べ有意の改善を認めた。PAN,MPAでは診断後早期の予後の低下を認めた(中林小委員会委員長)。
(2)PAN,MPA,WG,AGA,MRAのQOL評価票をSF-36をもとに疾患に特異的な項目を加え作成し、それにもとずく予備調査を行った。その結果、これらの疾患では全国の健康人と比較して特にphysical functioningの偏差値が低いことを認めた(稲葉構成員、小委員会)。
5)、大型血管炎の診断、病型分類、重症度分類、治療
(1)TAはHLA-B52とB39が有意の正の相関を示すが、前者は大動脈弁閉鎖不全と後者は腎血管病変と有意に相関し、HLAにより病型分類される可能性を示唆した。また、バージャー病ではHLA-B54ならびにHLA-DRB1*1501の二つがそれぞれ独立して相関することを認めた(沼野構成員)。
(2)TA(担当責任者 沼野構成員)とバージャー病(担当責任者 中島構成員)の重症度分類を作成した。
(3)大型血管炎にみられる重症虚血肢は、その成因に血管炎のみならず凝固亢進状態が示唆され、それに対する治療の重要性が指摘された(安田構成員)。
(4)従来呼称されていた大動脈炎症候群は、国際的趨勢より高安動脈炎と称することが妥当と判断された。
6)、中・小型血管炎の診断、病型分類、重症度分類、治療
(1)これまで提唱されているPAN,WG,AGAの診断基準は感度が低いことが認められたため、その要因を解析しそれにもとずく修正診断基準を作成した(吉田(雅)小委員会委員長)。
(2)MPAはPANの中で病型分類されていたが、独立した疾患として取り扱うことが妥当と判断され、PANより分離独立させた。また、従来呼称されていた結節性動脈周囲炎は時代の趨勢に従い結節性多発動脈炎と称することが妥当と判断された。
(3)PAN・MPA(担当責任者 中林構成員),WG(担当責任者 吉田(雅)構成員)、MRA(担当責任者 松岡構成員)の重症度分類を作成した。
(4)実態調査によりWG,PAN,MPA,MRAにおける免疫抑制剤使用の有用性を確認すると共に、感染症に対する防止対策の重要性を指摘した(中林小委員会委員長)。
7)、全国疫学調査の解析(疫学研究班との共同研究)
(1)側頭動脈炎(Tem A)
1997年時の受療患者推計数は690人(0.56/10万)、男女比1:1.6、平均年齢72、5歳である。71例が集積され、頭痛、リウマチ性多発筋痛症(PMR)、視力障害などを高率に認めた。眼症状をきたした症例はPMR症状が少ない。死亡率は低いが(5%)、視力障害が問題として提起される。
(2)ANCA関連血管炎
1997年時の受療患者推計数は1700人(1.86/10万)、男女比1:1.8、平均年齢59歳である。429例が集積され、基礎疾患ではMPA21%,WG13%,PAN8%,基礎疾患なしが40%である。C-ANCA陽性が25%、P-ANCA陽性が85%で、一部の症例で両抗体の共存をみた。基礎疾患のない症例では腎症、肺出血が有意に多く予後不良であった。ステロイド、シクロフォスファミド、アザチオプリン、血漿交換療法が有効とする症例が多く認められた。死因は感染症が最も多く(37%)、ついで肺出血、腎不全である。
(3)抗リン脂質抗体症候群(APS)
1997年度時の受療患者推計数は3700人(3.04/10万)、男女比1:6.1、平均年齢41.3歳である。611例が集積され、原発性と続発性に区分されたが、後者ではSLEが最も多い。死亡率は2、5%であるが、続発性の方が有意に高い。主たる死因は臓器梗塞で46、7%を占める。治療による有効性としてプレドニゾロン多量投与とワーファリンをあげたものが多く、低用量アスピリン少量投与を上回った。
8)、国際シンポジウム「膠原病フォーラム」の開催
当分科会は、自己免疫分科会、ベーチェット病分科会、混合性結合組織病分科会、強皮症分科会、特定疾患に関する免疫研究班との合同による国際シンポジウム「膠原病フォーラム」を本年10月12、13日に開催した。

公開日・更新日

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