早期退院と継続ケアを可能にするケアプラン・システム・マネジメントに関する研究

文献情報

文献番号
199800837A
報告書区分
総括
研究課題名
早期退院と継続ケアを可能にするケアプラン・システム・マネジメントに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
島内 節(東京医科歯科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 丸茂文昭(東京医科歯科大学)
  • 石井英禧(石心会狭山病院)
  • 杉山孝博(石心会川崎幸病院)
  • 中澤典子(石心会狭山病院)
  • 設楽美佐子(石心会狭山病院)
  • 友安直子(東京医科歯科大学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ディスチャージプランニングを必要とする患者と、必要としない患者を振り分けるスクリーニング票の開発を行うことをまず第1の目的とした。また、第2にディスチャージプランニングのプロセスおいて、患者・家族の退院時のニーズや問題点があるのかを明らかにし、ディスチャージプランニングのプロセスが遂行されるための病院内、地域システムにおいて改善すべき点、またアセスメントの視点を検討するために、ディスチャージプランニングプロセスの明確化を目的とした。
研究方法
埼玉県狭山市にある許可病床数288床一般病院であるS病院をモデル病院とした。まず、ディスチャージプランニングのハイリスクスクリーニング票の開発は、先行研究において作成したハイリスクスクリーニング票の精度調査と利用可能であるかどうか信頼性の検討を行った。精度調査の方法は、平成10年5月20日~6月19日の1ヶ月間内に当病院に新規に入院した全患者361名に対して、ディスチャージコーディネーターとその患者の入院時に関わった病棟看護婦が患者入院後24時間以内に、同一患者を別々にスクリーニングし、その回答項目の一致率と不明回答の率を分析し検討した。その上で精選し作成したハイリスクスクリーニング票の信頼性を検討したが、その方法は、平成10年11月16日~11月30日の2週間内に当病院に新規に入院した全患者176名を対象とし、同一患者に対して、ディスチャージコーディネーターとその患者の入院時に関わった病棟看護婦が精選したハイリスクスクリーニング票を用いて、別々にスクリーニングを行いその回答項目の一致率と不明回答の率を精度調査の結果と比較検討した。ディスチャージプランニングプロセスの明確化の方法は、平成10年12月2日~12月29日の1ヵ月間に、調整会議で提起をされた全事例73例のニーズ・システム上の問題点を観察法によって記録し、KJ法によって分類した。
結果と考察
ディスチャージプランニングハイリスクスクリーニング票の開発での精度調査では、対象者は、男性194名(53.7%)、女性167名(46.3%)であった。ディスチャージコーディネーターと病棟看護婦のスクリーニング票の項目の回答の一致率は、55.7%~95.5%であり、総体的な判断の一致率は91.5%であった。また、項目の判断における不明の割合は、病棟看護婦の方がディスチャージコーディネーターよりも多くあげられた。このスクリーニング票で、ディスチャージプランニングが必要と判断された患者は102名(28%)であり、実際にインテイクした患者は23名で、スクリーニングであげた内の22.5%であった。反対にインテイクされた患者は全て、ハイリスクスクリーニング票で拾うことができた。これらの結果で一つ一つの項目についての判断をみたが、ディスチャージコーディネーターよりも病棟看護婦の方が不明の率が高かったのは、判断能力の差があり、ディスチャージコーディネーターとして機能していくためには判断能力が必要で、また項目内容の理解や判断基準の徹底といったスタッフ教育の必要性があった。とりわけ、「健康度」「治療の継続」のケアに影響力の大きいと考えられる項目に病棟看護婦が判断できないケースが多いことが問題であり、「経済問題」を加えてこれらの項目の判断は、「入院後24時間以内には情報収集が困難」「急性期は状態の変化が著しい」との意見から、早期判断の難しさが考えられた。従って、回答の不明率の高い「家族の健康問題」「患者―家族関係」「住宅問題」「経済問題」の4項目を除い
た。また、「健康度」については、「わかりにくい」という意見から介護保険法の導入を見据え、厚生省分類の「日常生活自立度」に変更した。これを複数の専門家とともに検討し、精選したハイリスクスクリーニング票を作成し、この票が利用可能であるかどうか信頼性の検討を行った。信頼性の検討での対象者は、男性82名(46.6%)、女性94名(53.4%)であった。ハイリスクスクリーニング票の回答項目の一致率で、高かった項目は「年齢」「入院前の居所」「コミュニケーション障害」であった。項目の減少のために精度の低下が見られないかを検討するために、ハイリスクスクリーニング票の精度調査と今回の回答一致率をχ二乗検定した結果、「治療の継続」のみ有意差(p<0.05)がみられたが、回答率が低くばらつきがあったことによると考える。また、ディスチャージプランニングの必要ありと判定されたのは、全体の25.0%で、このうちスクリーニングで拾われず、入院中にディスチャージプランニングが必要となったのは1名で、入院中に病態が急変したため、入院時には把握できなかったことが理由であった。結果から精選されたハイリスクスクリーニング票に、特に明確な精度の低下はみられず、判断結果の一致率が高いとはいえないが、ディスチャージプランニングの必要性を判断するために、本研究のハイリスクスクリーニング票は十分な利用価値があることが示唆された。そして、ディスチャージプランニングプロセスの明確化での対象者は、男性41名(56.2%)、女性32名(43.8%)で、年齢は65歳以上の高齢者が43名(58.9%)で半数以上を占めた。調整会議に出た解決する必要性のある内容は、25に分類され、大項目として「退院先」「患者の要因」「家族の要因」「患者・家族の背景」「スタッフ側の要因」に分類された。退院先の問題で、「入所待ちの状態である」事例が多く、ディスチャージプランニングの必要性が再認識され、今後の他機関との連携推進の方策を検討することが示唆された。また転院先は60施設を数え、年々紹介率が上昇し連携病院も増えている。そうなると転院時の患者によって受け入れ規準や、在宅に戻るときの状態が異なるため、連携病院・施設の査定も必要と考えた。また、平成9年度平均在院日数21.9日が、平成11年度には19.7日に短縮し、その要因が連携機関の増加などが推測された。院内システムの改善に関しては、一番多くの項目を占めたのが「スタッフ側の要因」であり、ディスチャージプランニングに関する基準がない、また院内の専門職種の業務内容また役割が明示されていない、専門職種間の連絡方法などの問題があると考えられ、今後の課題となった。
結論
ハイリスクスクリーニング票項目の選定、精度調査利用の可能性の検討の3段階の研究を経て、ディスチャージプランニングの必要な患者はもれなく選定できることができるようになった。使用に際しては早期に短時間での選定が可能であった。ハイリスクスクリーニング票開発過程を通じて病院内、とりわけ病棟看護婦、MSW、PT、等のディスチャージプランへの関心が高まり共有化が進んだ。ハイリスクスクリーニング票開発過程を通じて一連のディスチャージプランニングに関わる業務改善への意欲が生まれた。すなわち、アナムネ用紙、ハイリスクスクリーニング票、看護記録を統一した書式作成であり、この具体化は次年度の課題になった。さらにハイリスクスクリーニング票による選定後の具体的なクリティカルパスの作成が早急に必要とされ、現在数種のクリティカルパスを作成中である。ディスチャージプランニングのプロセスの明確化により退院時の患者のニーズが明らかになり、病院内外のシステムの改善に対する課題が検討され、S病院の当地域における機能や位置づけが明確になるとともに、早期退院を可能にするには後方病院及び中間施設との連携が欠かせないことを強く認識し、その結果、積極的に連携を推進し、紹介率、連携施設数が上昇、増加した。

公開日・更新日

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