看護の質の確保に関する研究

文献情報

文献番号
199800832A
報告書区分
総括
研究課題名
看護の質の確保に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
菱沼 典子(聖路加看護大学)
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤和子(千葉大学看護学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
この文献レビューの目的は、PHC(Primary Health Care:以下PHCと略す)と関連する看護の現況について概括することである。とくに、このレビューを通して次の事柄を明らかにする。1)取り扱われているPHCの分野と活動内容 2)用いられているPHCの概念 3)PHCのアプローチにおける看護提供者とその役割 4)PHCに関する看護教育 5)PHCの推進にむけての方略
研究方法
系統的文献検索を行い、看護領域におけるPHCに関する文献の分類と内容を検討した。PHC(primary health care)と看護(nursing)および看護各領域の 母性(maternity)、小児(pediatric)、成人(adult)、老人(elderly)、救急(emergency)、精神(psychiatric)、助産(midwifery)、地域(community)、地域保健(community health care)、教育(education)をキーワードに用い、英文で記述されたものを条件にし、CINAHLにより1993~1998年5月までコンピュータ検索を行った。総計271件の文献が検索された。うち、選択の基準として、入手可能であったもの、2ページ未満の短いものを除いた計67件をレビューの対象とした。2種類のコーディングシートを作成、それにそって論文全体を読み、要約した。
結果と考察
67文献の種類の内訳は、論説22件、研究25件、報告20件であった。これらを目的の1)~5)にそって分類し、考察した。
1) 取り扱われているPHCの分野と活動内容:PHCの分野に関する文献の分類は、アルマ・アタ宣言によるPHC必須分野8項目を参考に4項目に統合・再編した。
①母子保健:該当文献は12編あった。PHCの視点から、母子が対象とはいえ、女性の置かれた社会文化的背景、女性の健康が子どもの健康にも大きく影響することや看護者の活動も明らかになっていた。
②予防接種:該当文献は3編あった。開発途上国に関するものはなく、予防接種は先進国にとっても依然PHCの注目すべき課題であることがわかった。一般のひとびとのみならず、PHCに関わる専門家でさえ、予防接種の効果とリスクに関する正しい情報をもつことや、予防接種の普及や適用における正しい判断をすることの難しさが示唆された。
③一般的疾病や外傷の予防と治療:該当文献は2編あった。その地域の実情にあわせた医療機関の役割や医療に頼り過ぎない人々の意識づくり、その観点からの看護職の機能が有望視されていることがわかった。
④精神保健:該当文献は5編あった。先進国においては精神保健が健康問題として大きな地位を占めていた。取り組みが期待されるのは、精神疾患を有しながら社会で生活する人々のPHCであった。また医療経済の抑制にPHCが有効であるという観点から、PHCが使われ、その担い手として看護婦が期待されている面もあった。
2)プライマリヘルスケアの概念―プライマリケアーとの用語の混乱:PHCとPC(Primary Care:以下PCと略す)との用語の混乱を指摘して論じた文献が2編あった。今回検索した文献の中で使われているPHCには、PCの意味で用いられると判断できるもの、混同して使われているものが多かった。
3) PHCのアプローチにおける看護提供者とその役割:該当文献は23編あった。看護職が期待され、果たしている役割は、①経済性への期待、②ヘルスプロモーションの実践者としての役割、③ヘルスボランティアやコミュニティヘルスワーカーへの教育、④現状を分析し、対策を立てる管理者としての役割、⑤直接的なケア提供、⑥ケアの資源としての役割、であった。しかし他の職種と協働する上での問題やチームアプローチに看護職がなれていないことが明らかにされ、今後の課題として、経済的に管理プログラムの開発、チームアプローチに関する継続教育が必要である。
4) PHCに関する看護教育:該当文献は18編あった。将来のコミュニティベースの診療に、看護婦のPHC教育の提供は急務であり、WHOは、PHC概念を基本的な看護カリキュラムに取り入れることを提言している。注目されていたのは、①いかにPHCに含まれる概念を統合的に教育していくか、②受け身の学習ではなく、学生の自主性や問題解決能力を養うような教育的アプローチの重視、③机上の学習よりは、実際の地域での実地体験を積極的に行うことによって、PHCに必要な概念や実践を体験的に学ばせようという動き、④他職種とのチームワークを強化し、PHCにおいてそれぞれの職種が機能を高められるような教育のあり方、である。
5)PHCの推進に向けての方略:該当文献は2編あった。PHCを推進していくために、産業界で用いられている製品の質向上の手法の導入、PHCの現場で働く人々の質の向上に研究を取り入れることを論じていた。
結論
1.今回読んだ文献は、健康転換第1相の課題:感染症や母子保健を取り上げた文献数が多く、健康転換第2相:感染症から慢性疾患への移行には精神保健が該当したが、これにあてはまる文献数は少なかった。第3相:慢性疾患から老人の退行性疾患への段階については1件みられたのみであった。いずれの健康転換相においてもPHCは共通して使える方法論であるが、世界的に見れば、健康転換第1相の課題への取り組みが多いのが現状である。2.PHCに携わる看護提供者について、その職種や役割、システム作りの重要性が数多く取り上げられていた。3.PHCを用いて「すべての人に健康を」に向けて努力するには、看護教育でのPHCの導入が必要であり、その中でも特にシステム作りとチームアプローチの導入ができる人材の育成が課題となっていた。

公開日・更新日

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