へき地・離島医療のシステム作りに関する研究

文献情報

文献番号
199800809A
報告書区分
総括
研究課題名
へき地・離島医療のシステム作りに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小濱 啓次(川崎医科大学救急医学)
研究分担者(所属機関)
  • 滝口雅博(弘前大学医学部附属病院救急部)
  • 鈴川正之(自治医科大学救急医学)
  • 江口弘久(自治医科大学公衆衛生学)
  • 谷口繁(岩手医科大学高次救急センター)
  • 寺本成美(国立長崎中央病院)
  • 宮原広典(鹿児島県立北薩病院内科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
へき地・離島における医療の改善を図るため、医師の供給システム、医師の研修システム、患者の搬送システムの確立に向けて各々具体案を作成することを目的とした。医師の供給に関しては、自治体が独自に確保に努力しているのが現状であり、今なお医師の確保は困難である。このことは従来のように、各都道府県だけで行うのではなく、全国的な何らかの新しい医師の供給システムを作らなければならないことを示している。医師の研修システムに関しては、プライマリーケアや救急医療に関わる研修項目、研修場所の設定、総合医としての評価基準など様々な観点より構築していく必要がある。また、何らかの資格認定も必要であろう。ヘリコプター搬送に関しては、陸続きのへき地において、ヘリコプターを利用できる方策を検討する必要がある。現在定着しつつある離島のヘリコプター搬送に関しては、画像伝送を用いて搬送患者の決定や、施設間連携の方策、さらに医療専用のヘリコプターの導入を検討する必要がある。以上、今回の研究においては、わが国におけるへき地・離島の多様性、すなわち「医療のへき地度」について客観的に評価する方法を検討すると共に、新しい医師の供給システム、総合的な医師の研修システム、患者の搬送システムのあり方について検討する。
研究方法
研究に当たっては、下記の通り研究課題を分担した。分担研究者滝口雅博は「へき地・離島におけるへき地度に関する研究」を、分担研究者鈴川正之は「へき地・離島に勤務する医師研修システムの研究」を、分担研究者江口弘久は「へき地・離島における適正な医師の需給に関する研究」を、分担研究者谷口繁は「へき地におけるヘリコプター搬送システムの研究」を、分担研究者寺本成美は「離島におけるヘリコプター搬送システムの研究」を、分担研究者宮原広典は「へき地・離島における(インターネットを利用した)人的ネットワークの研究」を、分担研究者小濱啓次は「へき地・離島における医師供給システムの研究」を各々分担した。
結果と考察
1)「医療のへき地度」に関しては、従来からの無医地区または無医地区に準ずる地区だけでなく、町村単位を基本に、救急医療(初期、二次、三次)を受けるまでの最短時間、最寄りの医療機関の診療内容(診療所、一般病院、旧総合病院)、その他(巡回診療、訪問看護、老人医療関連施設)の項目より度数を作成し、簡単にしかもわかりやすい調査方法を考案した。2)医師の研修システムに関しては、へき地・離島の地域性や医療施設・設備の多様性はあるものの、特殊な疾患は少ない。したがって、一般的な臨床研修に加え、救急患者の取り扱い(守備範囲、転送のタイミング等)、地域医療の心得(保健福祉活動の実際、慢性疾患の指導、在宅医療等)等を組み合わせた研修が基本となる。研修場所や指導する者については検討を要する。3)医師の供給に関しては、全国の都道府県に地域医療支援センターを設置し、その役割を強化する事によって、新しい医師供給システムの確立が可能となる。今後、中核病院や支援病院の役割分担を明確にする必要がある。4)陸続きのへき地におけるヘリコプター搬送に関しては、実際の患者搬送や訓練等でヘリ搬送を体験することにより、搬送時間の短縮や安全性を医師に認識させ得ることがわかった。5)離島におけるヘリコプター搬送に関しては、ほぼ定着しているが、すべて病院間搬送である。長崎県においては、過去10年間に離島から本土に搬送された救急患者
全体の33.5%(571件)はヘリ搬送以外の手段で搬送されていた。患者の緊急度や重症度により判断されると思われるが、今後は地域の医療に応じた搬送患者の適応について検討されるべきである。6)離島へき地における人的ネットワークの確立においては、離島の地域分類を行い、また地域における問題点を明確にして、インターネットを活用すれば、よりよい地域ネットワークを作り医療システムが構築できるものと思われた。7)現地調査においては、へき地・離島における医療は地元医師や、自治医大卒医師もしくは大学からの派遣医師が中心となって行っているが、今なお医師不足は解消されていない。へき地・離島における医師供給の決定をどのように行うべきか、自治医大卒義務年限終了医師の指導力をどのようにすれば活用できるか、総合医や救急医の評価をどのようにすれば高められるかなどが問題点である。今後は、へき地診療所、中核病院、支援病院の役割を明確にし、「医療のへき地度」に応じたへき地・離島医療のあり方として新たな展開が必要であることがわかった。へき地・離島における医療の改善を図るためには、今まで行われてきたハード面の充実に加え、医師供給システム、医師の研修システム、医療施設間連携、患者搬送システム等の構築を合目的に行うことが必要である。そのためには、まず当該地域の「医療のへき地度」を客観的に評価し、へき地・離島における医療の多様性を整理する必要がある。これまで、無医地区や無医地区に準ずる地区の定義以外に「医療のへき地度」を表記する方法はなかった。今回の「医療のへき地度」の特徴は、救急医療、通常医療、保健福祉関係について、各々現実的な検討項目をパラメータとし、しかも、簡単に点数で表せるようにしたことである。このことによって、わが国のへき地・離島医療のへき地度をマッピングすることができるようになると考えられる。医師研修システムに関しては、卒後、へき地・離島に勤務する医師に対しても、一般の研修医と同様の、常識的な基礎能力を獲得させることが必須である。さらに、すぐに必要となる救急患者の取り扱いや地域医療にかかわる知識と心得(保健福祉活動、行政との関係、住民との関係等)等を研修できるようにすることも望ましい。そして、現時点では、これらの研修をどこで、どのように、だれが、どれだけの期間行うかを具体的に検討する必要がある。医師の供給に関しては、大学からの供給、自治体病院からの供給、小病院からの供給、医師プールからの供給などが考えられる。しかし、へき地医療を支援していくために、どうしても中核的部署すなわち、地域医療支援センターの設置が必要である。その理由として、地域医療情報の一元化、生涯教育の必要性、人的ネットワークの構築、マンパワーの広域的・効率的活用などがあげられる。今後は、組織や中核的病院の地域医療支援の意識づくりをより推進していく必要がある。陸続きのへき地において、ヘリ搬送ができるようにするためには、まずヘリ搬送を決定する医師に、その有用性と安全性を認識してもらうことが重要である。そのためには、平素より定期的に訓練を行ったり、重症患者を受け入れる三次救急医療施設の医師からの進言も有効であろう。いずれにしても、救急車による重症患者の長距離搬送に対して、ヘリ搬送は搬送時間の過大な短縮ができることを啓蒙していく必要がある。一方、離島におけるヘリ搬送に関しては、全国的にはほぼ定着しているため、今後はヘリ搬送の適応など離島医療の限界も含め、搬送の質を上げ、搬送に関わる諸問題を解決していく必要があると思われる。人的ネットワークの構築は、離島等で常勤医師が1人の場合、種々の面において必要となる。すなわち重症患者の後方搬送の決定と受け入れ先、代替医師の派遣・応援、研修の要望等である。このためには、インターネット等の情報通信技術の活用が有効に図れるよう検討していくことが望まれる。これらについては、モデル地域を決定して各々へき地・離島の実情に応じた機器を選択されるべきである。
結論
へき地保健医療対策においては、現状のへき地診療所
やへき地出張診療所、へき地中核病院、へき地医療支援病院の見直し、保健・医療・福祉の連携、情報通信技術の活用等を考慮すると共に、「医療のへき地度」を設定して新しい視点で検討していくべきと思われた。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-