災害時における広域搬送のシステム作りに関する研究

文献情報

文献番号
199800801A
報告書区分
総括
研究課題名
災害時における広域搬送のシステム作りに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
小濱 啓次(川崎医科大学救急医学)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医療技術評価総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
大規模災害では、被災地の医療レベルの低下を来し、平常時の医療レベルを維持するのが困難となる。また多数の重症負傷者の発生は被災地内での医療対応を不可能にする。そのため、被災者を一刻も早く、被災地外の医療施設へ広域搬送することが、preventable death (避けることのできる死)を減らすためには重要となる。本研究では、現在活動している消防・防災ヘリ、また災害時に民間機を活用できるかを調査することによって、災害時の広域搬送体制を構築するための手がかりとすることを目的とする。
研究方法
全国で最大の消防組織を持ち、消防ヘリコプター6機を有する東京都と、東京消防庁の災害への取り組み、また、防災ヘリコプターによる24時間体制の患者搬送実績をあげている島根県、地方自治体の中で最も広域の搬送組織作りを行っている北海道の航空搬送の実態を調査する。また民間機の活用が災害時可能かを調査研究することによって、今後の広域搬送のありかたを検討、考察する。
結果と考察
救急医療現場においては、今なお、救急車による長時間の傷病者の搬送が行われ、貴重な人命が失われ、危険にさらされている。もし欧米のように、傷病者の搬送に救急専用の航空機が用いられるならば、多くの人命が救われ、予後の改善が期待できる。救急医療の現場に航空機が導入されることは、災害時にも傷病者を広範囲に搬送できることになり、効果的な搬送手段となる。災害時に広域搬送が適切に行われるためには、平時から航空機による傷病者の搬送が行われていなければならない。平時に救急ヘリの運用がなされていなければ災害時にヘリコプターが運用できないことは、阪神大震災において実証された。災害時に役に立つのは、普段熟達している手段である。平時の救急医療体制の中に、いかに航空機搬送を円滑に組み込むかが、災害時の航空機による広域搬送の鍵となる。今回、東京、島根、北海道における消防・防災ヘリによる患者搬送の実態を調査したが、共通していえるのは、全てのヘリが多目的の消防・防災ヘリの転用であり、災害が発生した場合、他の目的に転用されるのではないかと思われたことである。その意味で、傷病者搬送専用ヘリとしての救急ヘリの導入が望まれる。また、現在の傷病者の搬送は、ほとんどが病院間搬送であり、災害時に運用されるためには、今後、事故現場、傷病者発生現場への直接のミッションが行われることが望まれる。札幌市の消防ヘリコプターは、公的ヘリコプターの法律上の利点を生かし、現場へのミッションが積極的に行われており、今後搬送件数を増加させれば、災害時に多いに役立つものと思われる。
災害時の傷病者の搬送の基本となるのは、どこに何人、どれくらい重症の傷病者がいるのか、またそのうち、何人、いつまでに被災地外へ搬送するべきなのかという情報である。これらの情報を適格に得るためには、情報システムの中に医師の関与が必要である。今回の調査においても、搬送体制や情報システムの中に医師はほとんど関わっていなかった。防災体制の中で、特に発災初期に、効果的な搬送プロジェクトが行われるためには医学的視野にたった医師の助言も必要である。この意味において東京都の防災センターにも、島根県の防災センターにも医師の同席が必要と思われる。平成11年度、厚生省が行おうとしている救命救急センターを基地としたドクターヘリの導入は、医師、病院を搬送体制の中に組み込むという意味において大いに期待できるシステムといえる。 現在の航空機搬送の主流は回転翼飛行機であるが、北海道のように広大な搬送エリアを持つ地域では、固定翼(ジェット機)による傷病者搬送をさらに進めるべきと思われる。固定翼機材は、回転翼機の二倍のスピードを有し、搬送経費は半額、かつ、天候にも左右されにくいので有用である。ひとつの目安として、100km以上のミッションは、固定翼搬送を考慮するべきであろう。
今回の調査では、自衛隊による航空機搬送に関して調査を行っていないが、災害時の航空機搬送を考える時、自衛隊の航空搬送能力は看過できない。その点、北海道の防災航空室では、航空機による搬送情報を一元化する情報センターとしての役割を担っており、評価できる。
公的ヘリコプターの多くが多目的の業務を担っているという現状においては、災害時に民間航空機を活用することは的を得ているといえる。今後民間航空機が航空法81条にしばられることなく、救急時や災害時に運用できるよう法律を改正していくことも必要である。
結論
災害時における広域搬送が、現在運用されている消防・防災ヘリコプターで可能かどうかを知るために、消防・防災ヘリコプターが運用されている東京、島根、北海道の現地調査を行い以下の結果を得た。
1)東京都、東京消防庁においては、防災に関しての膨大な組織が出来上がっており、組織としては完成されたものであったが、災害時の傷病者の広域搬送に関しては、消防ヘリコプターが多目的のヘリコプターであるため、実際に災害が発生した場合、どこまで対応できるかが不明確であったが、昨年より消防ヘリコプターを救急専用ヘリコプターとして運用しており、今後の対応が期待された。
2)島根県に関しては、防災ヘリコプターが24時間運用されており、他の自治体にみられないシステムが動いていたが、離島を中心としたものであり、災害時に広域に対応するためには、今後現場着陸も含めた内陸部に向けての運用が必要と思わた。
3)北海道においては、防災航空室があり、広域に傷病者の搬送が行われていたが、長距離を飛行しており、今後は固定翼機の導入と現場からの傷病者の搬送が、広域災害に対応するために必要と思われた。
4)民間機の災害時の活用は、より多くの傷病者を短時間内に広域に搬送するために有効なシステムと思われた。
5)今回の調査結果からは、消防・防災ヘリコプターが災害時にすぐに傷病者の広域搬送に運用されるとは思われず、今後民間機を中心に、災害直後に傷病者を広域に搬送できるシステムを構築しなければならないと思われた。
6)以上の調査結果を踏まえ以下のことが必要とおもわれた。
①災害時に広域の航空搬送体制を確立するためには、平常時の救急航空機搬送の充実が必要である。このためには、消防機関に傷病者の搬送を主な業務とする救急ヘリコプターを配備すると同時に、救命救急センタ-を基地とし、医師の同乗したドクターヘリの早期導入が望まれる。
②どこに何人、どれくらいの重症度の傷病者が発生し、かつ、その傷病者のうち何人、いつまでに被災地外へ搬送するべきかの傷病者情報を一元化した、システム作りが必要である。
③傷病者搬送体制に回転翼機のみでなく、固定翼機の導入が必要である。
④規制緩和を進め、民間航空機の傷病者搬送体制への参加を図る必要がある。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-