文献情報
文献番号
201926002A
報告書区分
総括
研究課題名
網羅的エピゲノム解析を用いた化学物質による次世代影響の解明:新しい試験スキームへの基礎的検討
課題番号
H29-化学-一般-002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
岸 玲子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
- 堀 就英(福岡県保健環境研究所 保健科学部 生活化学課)
- 三宅 邦夫(山梨大学 大学院総合研究部)
- 松村 徹(いであ株式会社)
- 石塚 真由美(北海道大学 大学院獣医学研究院)
- 佐田 文宏(中央大学 保健センター)
- 荒木 敦子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
- 宮下 ちひろ(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
- 伊藤 佐智子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
- 山崎 圭子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
- 三浦 りゅう(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
- 松浦 英幸(北海道大学 大学院農学研究院)
- 篠原 信雄(北海道大学 大学院医学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
17,349,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
種々の環境化学物質曝露による次世代の多様な疾病エンドポイントへの影響を解明するために,網羅的エピゲノム解析により化学物質がエピゲノム変化を介して影響する新規の毒性メカニズムを遺伝的差異や多様なライフスタイルをもつヒト集団で明らかにする。具体的には, ①曝露により変化するDNAメチル化領域を45万か所のメチル化部位(CpG部位)の網羅的解析により同定し,どのような機能を持つ遺伝子・経路が影響を受けるかを明らかにする。②それぞれの曝露に起因するメチル化変化がどのアウトカムに関与するのか,影響の何%(介在の大きさ)をメチル化変化で説明できるのかを介在解析(Mediation analysis)により明確にする。③網羅的解析結果の妥当性を検証するため,次世代シークエンサーによる多サンプルメチル化定量法を確立する。また,海外のコホートとの共同研究により検証(validation)の効率化を図る。④遺伝子多型(SNPs)の影響を検討し, 遺伝的差異を背景にもつヒト集団でのメチル化変化を明らかにする。以上の検討により,胎児期の環境化学物質曝露と成長後の疾病発現をつなぐ分子メカニズムとして, エピゲノム試験法開発に資する。
研究方法
(1) EUのバイオモニタリンググループであるHuman Biomonitoring for EU (HB4EU)では,1つの構造異性体のみの曝露評価ではなく,複数の構造異性体を含めたDiNP代謝物の定量法を用いている。北海道スタディでも同様の評価をするため,胎児期曝露評価として妊娠初期血清1786検体を用いて代謝物であるフタル酸モノエステル類(cx-MiNP)の再分析を実施した。(2)フタル酸エステル類の胎児期曝露について,臍帯血DNAメチル化のエピゲノム網羅的解析を行った。(3)臍帯血試料を対象にダイオキシン類・PCBsの異性体定量分析を実施した。(4)エピゲノム網羅的DNAメチル化変化と胎児期ダイオキシン類曝露との関連を検討した。(5)次世代シークエンサーを用いた領域特異的メチル化解析とADHDの関連を検討するため,ADHDケース・サブコホート1263名を対象とした。
結果と考察
(1)ヒト血清および尿検体を対象に,異性体を含むcx-MiNP, MiNP,OH-MiNPについて再定量した結果,全ての代謝物について検出率および中央値濃度が増加し,健康影響との関連について統計解析に用いることが可能となった。(2)フタル酸エステル類の曝露により代謝系に関わる遺伝子のメチル化が影響を受けていること,それらのメチル化変化は出生時のポンデラル指数の低下と関連することを明らかにした。さらに,媒介分析により,胎児期曝露による出生児のポンデラル指数低下への影響にそれらのメチル化変化が関与している可能性を示唆した。(3)ダイオキシン類・PCBsの平均値及び濃度範囲を過去の報告事例と比較したところ,脂肪重量当たりのダイオキシン類濃度は同等となり,PCBs濃度はやや低い傾向が認められた。85名の妊産婦から採取された臍帯血試料は,本研究事業の主たる目的である一般的なヒトの集団におけるダイオキシン類・PCBsの次世代影響評価に適切な試料であると考えられた。(4)ダイオキシン類濃度と関連があったCpG(遺伝子)は男児のcg01228410(SLC9A3, FDR= 0.041)のみで,女児では同定されなかった。男児で高メチル化の割合が高く,DNA高メチル化変化量(logFC)は大きかった。本研究から,ダイオキシン類の胎児期曝露によるエピゲノム変化は性差がある可能性が示唆された。 (5)妊娠後期のコチニン濃度で非喫煙・受動喫煙・能動喫煙の3群で分類し場合,非喫煙と比較し能動喫煙で6歳のADHD傾向のオッズ比が有意に増加した(OR = 2.51; 95% CI [1.32, 4.75])。妊婦(能動)の喫煙とADHD傾向の関連においてAHRRのメチル化の媒介(mediation)分析した結果,AHRRの2つのCpGで間接効果が認められた。
結論
一般環境レベルのDEHPおよびダイオキシン類曝露でも,臍帯血DNAメチル化を変化させ,出生児のポンデラル指数低下への影響に関与する可能性が示唆された。さらに,次世代シークエンサーを用いた特異的遺伝子領域のDNAメチル化解析により,妊婦の喫煙と6歳児のADHD傾向の関連についてAHRRの2つのCpGのメチル化が媒介することを明らかにした。将来的に,化学物質曝露に誘引されるDNAメチル化変化がどのアウトカムに影響するかを介在の大きさを含めて明らかにし, 胎児期の化学物質曝露と成長後の疾病発現をつなぐ分子メカニズムとして, エピゲノム試験法開発につなげる。
公開日・更新日
公開日
2020-12-14
更新日
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