住肉胞子虫による国産ジビエの食中毒リスク評価に関する研究

文献情報

文献番号
201924033A
報告書区分
総括
研究課題名
住肉胞子虫による国産ジビエの食中毒リスク評価に関する研究
課題番号
H30-食品-若手-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 朗子(岩手大学 農学部)
研究分担者(所属機関)
  • 入江 隆夫(宮崎大学 農学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、害獣を食肉利用する地域振興事業が盛んである。これまでの疫学調査で、E型肝炎ウイルス、志賀毒素産生大腸菌、サルモネラ、肝蛭、住肉胞子虫等の保有が認められたが、細菌および寄生虫については内臓の廃棄により食中毒リスクを回避でき、E型肝炎は遺伝子検出率(イノシシ2.4%、シカ0.1%)を考慮すると深刻な食中毒危害や経済損害には直結しない。しかし住肉胞子虫は可食部位に寄生し、シカでの陽性率が100%であること、シカ肉の生食で食中毒が発生したことから、ジビエ産業振興への障害となる。はっきりと食中毒事例が認められたウマのS.fayeriと異なり、ジビエの住肉胞子虫は詳細が不明なため届出指定対象外であるが、馬肉に似た赤身のシカ肉は半生や生食が好まれ、食中毒リスクの高い状態で流通・提供されている。そのためこれらの毒性の解析は、食中毒発生予防のためにも、本虫による食中毒様症状発生時に正確に対応するためにも早急な解決が求められる。
研究方法
国内全域から採取した野生ニホンジカ筋肉組織からピンセットや人工消化により住肉胞子虫シストを回収し、ゲルろ過法により分画する。
麻酔下にてウサギ(10週齢Japanese White)を開腹し、空腸部に閉鎖管腔(ループ)を作る。各ループにゲルろ過で分画した各タンパク質画分、陽性対照(ウェルシュ菌毒素)、陰性対照(PBS)を投与する。閉腹後18 - 24時間に安楽殺し、ループ内液体貯留と出血を確認する。下痢毒性の評価は、ループ長あたりの液体量(ul/cm :FA値)で行い、毒性を示したタンパク質分画を選定する。
選定した分画のアミノ酸配列を決定し、BLAST検索にてタンパク質を同定、毒性候補タンパク質とする。U937マクロファージ系細胞、Hela上皮系細胞など、腸管内に存在するサイトカイン産生細胞を用いて同様に刺激実験を行う。培養液中に産生されたサイトカインをアレイにより網羅的に検出し、優勢に誘導されたサイトカインから炎症やアレルギー等の生体反応を評価する。
結果と考察
シカ由来冷蔵住肉胞子虫シストのブラディゾイト懸濁液に対してどの投与量においてもウサギ腸管ループに液体貯留は認められなかった。
前年度に確認された、ウマ由来Sarcocystis fayeriをゲルろ過分画して得られた腸管毒性を示すタンパク質については、既に報告されている15kDaタンパク質(ADF:Actin depolymerizing factor)以外にputative Histamine releasing factor(pHRF)が同定された。これは、腸管ループ試験においてADFよりも高いFA値を示した。
4℃,-20℃,-80℃でそれぞれ12時間保存したS.fayeriシストをホモジナイズして得られた水溶性タンパク質溶液をSDS-PAGEにて分離した結果、15kDaタンパク質ADFに比べ、pHRFは冷却温度依存的にバンドが薄くなった。
Sarcocystisによる細胞毒性について、TNF-α分泌誘導実験をRAW264.7マウスマクロファージ細胞を用いて行った結果、冷凍シスト、凍結融解シストの刺激によって、陰性対照より有意に高いTNF-αのmRNA増幅が認められた。中でも冷凍シストは陽性対照と同等のTNF-α発現誘導を示した。また、凍結融解シストでも有意なTNF-α発現誘導を確認したことから、ブラディゾイトとしての活性を失ったタンパク質レベルでもTNF-α産生が誘導されていることを示唆する。しかし、in vivo試験で確認された『冷凍シスト破砕液ではウサギ腸管ループに液体貯留を示さない』結果と考察すると、TNF-αの産生、刺激により下痢が引き起こされるとは考えにくく、さらに、前出のHRFの生体および細胞に対する作用を解明する必要がある。
結論
本研究成果は住肉胞子虫による食中毒が感染肉の生食、加熱不足に起因することを裏付ける。馬肉に関しては既に流通前の冷凍処理が義務付けられているが、ジビエであるシカ肉については対象外であり、既に昨年8月にも新潟県で発症率の高い食中毒を起こしている。ジビエガイドラインでは、喫食の際には十分な加熱を行なうことを推奨しているが、シカ肉での住肉胞子虫食中毒の発生をコントロールできていない現状を鑑みると、新たな規則の策定が必要である。

公開日・更新日

公開日
2021-11-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-11-08
更新日
2023-07-12

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201924033Z