食品や環境からの農薬等の摂取量の推計と国際標準を導入するための研究

文献情報

文献番号
201924018A
報告書区分
総括
研究課題名
食品や環境からの農薬等の摂取量の推計と国際標準を導入するための研究
課題番号
19KA1002
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 美成(国立医薬品食品衛生研究所 食品部)
研究分担者(所属機関)
  • 根本 了(国立医薬品食品衛生研究所 食品部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
10,998,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
厚生労働省では食品を介した残留農薬等の暴露量を推定し、ADIの80%を超えないよう食品中残留農薬等の基準値を設定している。しかし、食品以外の暴露経路も懸念され、例えば、家庭用殺虫剤を使用することで経気暴露の可能性がある。食品を介した農薬等の暴露推定のみを根拠とした食品中残留農薬の基準値設定は、食品以外の暴露量に不確定な要素があるため、精密なリスク管理には食品以外の経路も含めた総合的評価が必要である。
また、国内の残留農薬等の検査における検査部位は厚生労働省告示の『食品、添加物等の規格基準』に規定されているが、一部の食品についてはCODEX基準と一致していない。検査部位の不一致は輸出入の際に係争の原因となるため、国際的な整合性を図る必要がある。一方で、CODEX基準の検査部位を採用した場合には、現行の検査部位とは試料マトリックス等が異なるため、試験操作や分析結果に影響を及ぼす可能性がある。そのため、影響の有無や程度を明らかにするとともに対処法について提案する必要性がある。
本研究は、上記の点を踏まえることで、今まで以上に国際標準に整合し、より現実的で総合的な摂取量推定法を構築することを目的とする。
研究方法
食品を介した農薬摂取量評価は、一日摂取許容量 (ADI) に対する推定摂取量の割合が高いと推定されている農薬および国民の関心が高まっているネオニコチノイド系農薬の計19農薬に対して、トータルダイエット試料を用いて食品を介した摂取量評価を行った。
環境からの農薬暴露評価として、大気中農薬を評価するための分析系の構築を行った。農薬を捕集するためのフィルターには、石英フィルターと固相抽出剤を用いて、アセトンにより対象化合物の抽出を行った。11種類の農薬はLC/MS/MSにて,4種類の農薬はGC/MSにて分析を行った。
食品を介して摂取する農薬の量をより精緻に推定するために、1) 確率論的な摂取量推定を行うため、喫食量の確率密度分布の推定,2) 未検出 (ND) となった例を含むデータにおける統計妥当性の高い推定法に関して検討を行った。
検査部位の変更による影響については、令和元年度は調製試料の均質性に及ぼす影響について検討した。検査部位変更前後の試料を調製し、調製試料の状態や粒子の大きさなどを比較、考察した。
結果と考察
分析対象とした計19農薬の1日推定摂取量のADIに対する比率を算出したところ、全ての農薬において、対ADI比は1%未満であった。しかしながら、有機リン系農薬の対ADI比は比較的高い傾向にあった。
検討した大気中農薬濃度の分析法は、1.08 m3の空気吸引後の対象化合物の抽出効率はいずれも90%以上の回収率が得られ、フィルターでの農薬のトラップならびに抽出工程での溶出が十分であることが確認できた。また、サンプリング後のフィルターを1週間冷蔵保存しても測定には影響ないことが確認できた。本法における定量限界は、いずれの農薬に対してもADIの5%に相当する暴露量を評価するのに充分であることが示された。
より精緻な摂取量評価を行うために、喫食量にはゼロ過剰を表現できるTweedie分布、ゼロ過剰ガンマ (ZIG) 分布、ゼロ過剰対数正規 (ZILN) 分布の確率密度分布を検討した。それぞれ5, 6, 2つの食品群で、Tweedie, ZIG, ZILN分布が最適だった。農薬濃度の下限値,上限値に喫食量を乗じて農薬1日摂取量の下限値と上限値を算出した。これらの値を用いて、ベイズモデルを用いて推定したところ、クロチアニジン,ブプロフェジン,フルアジホップブチル,フルベンジアミド,メタミドホスの推定1日摂取量は、代入法と比較して、BE法による推定値の方が低かった。
検査部位変更前後の試料を調製し、調製試料の状態や粒子の大きさなどを比較した。種子や果皮等が含まれることにより変更前の検査部位とは若干均質性が異なるものの、調製試料のほとんどは微細な粒子まで粉砕されており、特定部位の沈殿等もないことから、種々の試料調製機を用いて均質な調製試料が得られるものと考えられた。
結論
分析対象とした計19農薬の全てにおいて、対ADI比は1%未満であった。本年度は大気中農薬を分析する手法が確立できたため、2020度は総合的な暴露評価を行う予定である。一方で,サンプル数が少ない場合においてもBE法による推定は、既存の方法と比較的似たような値を示したことから、0.2LOQを代入する方法の代わりに有用な農薬摂取量推定法である可能性が示された。検査部位の変更が試料の調製に与える影響は、比較的小さいと考えられた。2020年度は、検査部位の変更に伴い調製試料中に含まれる果皮や種子等のマトリックスが分析値に及ぼす影響の有無や程度について調査する予定である。

公開日・更新日

公開日
2020-11-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-11-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201924018Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
10,998,000円
(2)補助金確定額
10,998,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 9,845,920円
人件費・謝金 0円
旅費 685,927円
その他 466,844円
間接経費 0円
合計 10,998,691円

備考

備考
支出の不足分として、自己資金691円を当てた。

公開日・更新日

公開日
2020-11-09
更新日
-