食品用途となるナノマテリアルの暴露による毒性評価に関する研究

文献情報

文献番号
201924002A
報告書区分
総括
研究課題名
食品用途となるナノマテリアルの暴露による毒性評価に関する研究
課題番号
H29-食品-一般-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
研究分担者(所属機関)
  • チョウ ヨンマン(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部 )
  • 安達 玲子(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
  • 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター安全性予測評価部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
13,000,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者変更にかかる事実発生月日、変更の理由 本課題の研究分担者、国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター病理部・チョウ ヨンマン室長が令和元年10月6日に逝去したため。なお、当該分担者の研究費未執行分については、研究代表者が執行するものとする。

研究報告書(概要版)

研究目的
マウスを用いたこれまでの試験において、ナノ酸化チタンの経皮暴露及びナノ銀の腹腔内暴露では、ナノマテリアルのサイズによって異なる毒性を示すことが明らかとなってきた。本研究は、食品・食品容器包装用途として用いられ、経口及び経皮から暴露されるナノマテリアルについて、アジュバント作用などの免疫毒性を含む安全性評価に資する評価方法の整備とデータの蓄積を目的とする。併せて、食品関連分野を中心としたナノマテリアルの暴露状況やリスク評価に関する国際動向の把握も目的とする。
研究方法
前年度までの結果を踏まえて、卵白アルブミン(OVA)を感作物質としてマウスに経皮経口複合暴露し、免疫毒性を評価するモデル系を最適化し、ナノ銀及びナノ酸化チタンのアジュバント作用を検討した。また、形状の違いが毒性に及ぼす影響を検討するため、前年度までの球体のナノ銀と形状の異なるナノ銀として、PVPでコートされた微細な板状のナノプレート(AgNP PVP プレート;厚さ10nm、長径30 nm, 50 nm, 100nm)を用いてマウスへの腹腔内投与による急性毒性を検討した。また、これまでの検討で得られた粒子状のAgNPの腹腔内投与6時間後のマウス肝臓における遺伝子発現を検討した。国際動向調査については、引き続き特に欧州での動向を情報収集した。
結果と考察
これまでの検討において、最も強い毒性が示唆されている直径10 nmの銀ナノ粒子をOVAと共に、経皮及び経口経路で暴露したところ、ナノ銀の追加投与によるOVAの感作及びアレルギー反応への影響は認めなかった。一方、ナノ酸化チタンについては、抗原の経口投与による追加免疫やアレルギー症状惹起を増強する可能性が示され、ナノマテリアルの経皮/経口暴露が免疫応答に与える影響について、さらなる科学的知見を集積することが必要と考えられた。ナノプレートについては、投与6時間及び24時間後において、いずれの投与群も体温、肝臓重量、脾臓重量、及び肝臓での病理組織学的変化には明らかな毒性学的変化は認めなかった。一方で、いずれのサイズのナノプレートにおいても、投与部位である腹膜の炎症及び血管炎の誘発が観察された。ナノ銀粒子腹腔内投与後のマウス肝臓における遺伝子発現を検討したところ、10 nm AgNP投与群の肝臓は、対照群、60 nm AgNP投与群及び100 nm AgNP投与群の肝臓とは異なるクラスターに分類され、発現が増加している遺伝子として、Slc2a1, Hmox1, Mmp9, Serpine1 等のHypoxia response関連因子および、Crp, Ccl12等のInflammatory response関連因子が検出され、10 nmのAgNP特異的な急性肝毒性には、肝臓局所あるいは全身の低酸素応答が関連している可能性が示唆された。国際動向については、ANSESから再度勧告された食品添加物の二酸化チタン(E171)の安全性に関して、2017年のラットによる発がん性促進作用の可能性を示したE171の経口毒性に関する評価以後、25件の試験について文献レビューが実施されており、幾つかの研究では、細胞生物学的な新しいシグナルの存在や酸化ストレスを介したin vitro遺伝毒性を明らかにしたが、いずれもE171の潜在的な発癌促進効果を議論するには不十分とされていた。また、マイクロプラスチック暴露に関する最新動向として、2019年8月にWHOは「飲料水中マイクロプラスチック」に関する技術文章を公表し、現在の飲用水中のマイクロプラスチックの存在に関するデータは限られており、入手できる限られたエビデンスに基づくと、飲用水中のマイクロプラスチックに関連するヒトの健康に対する懸念は低く、プラスチック粒子、特にナノサイズの粒子の物理的ハザードに関連する毒性について確固たる結論を導くには情報が不十分であるとされていた。一方で市販のプラスチック製ティーバッグから過去に報告された他の食品よりも数桁高いマイクロプラスチックの放出が確認されるという報告もあった。
結論
食品・食品容器包装用途として用いられ、経皮及び経口暴露されるナノマテリアルとしてナノ銀及びナノ酸化チタンのアジュバント作用などの免疫毒性を検討した。OVAの経皮・経口暴露による感作及びアレルギー反応に対して、ナノ銀の追投与は明らかな増強作用を示さなかった。一方、ナノ酸化チタンは、抗原の経口投与による追加免疫やアレルギー症状惹起を増強する可能性が示され、ナノマテリアルの経皮・経口暴露が免疫応答に与える影響について、さらなる科学的知見を集積することが必要と考えられた。また、マウスの腹腔内投与における観察から、ナノマテリアルの生体影響はサイズ、形態によって明らかに異なることから、規格に応じた規制が必要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2020-10-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-10-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201924002B
報告書区分
総合
研究課題名
食品用途となるナノマテリアルの暴露による毒性評価に関する研究
課題番号
H29-食品-一般-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
小川 久美子(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
研究分担者(所属機関)
  • チョウ ヨンマン(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部 )
  • 安達 玲子(国立医薬品食品衛生研究所 生化学部)
  • 西川 秋佳(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部 )
  • 広瀬 明彦(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター安全性予測評価部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
研究分担者変更にかかる事実発生月日、変更の理由 本課題の研究分担者、国立医薬品食品衛生研究所安全性生物試験研究センター病理部・チョウ ヨンマン室長が令和元年10月6日に逝去したため。なお、当該分担者の研究費未執行分については、研究代表者が執行するものとする。

研究報告書(概要版)

研究目的
マウスを用いたこれまでの試験において、ナノ酸化チタンの経皮暴露及びナノ銀の腹腔内暴露では、ナノマテリアルのサイズによって異なる毒性を示すことが明らかとなってきた。本研究は、食品・食品容器包装用途として用いられ、経口及び経皮から暴露されるナノマテリアルについて、アジュバント作用などの免疫毒性を含む安全性評価に資する評価方法の整備とデータの蓄積を目的とする。併せて、食品関連分野を中心としたナノマテリアルの暴露状況やリスク評価に関する国際動向の把握も目的とする。
研究方法
これまでに検討してきたマウスを用いた経皮感作、腹腔内投与惹起によるアレルギー反応評価系を元に、卵白アルブミン(OVA)を感作物質としてマウスに経皮暴露後に経口投与を複数回行うことで経口的にアレルギー反応を誘発
し、免疫毒性の評価を可能とするモデル系を開発した。アジュバント反応の検出能について、コレラトキシンを用いて確認するとともに、経口投与の濃度や回数を最適化したうえで、ナノ銀及びナノ酸化チタンのアジュバント作用を検討した。また、ナノ銀のサイズによるマウス腹腔内投与に対する生体影響の相異の機序を検討するため、表面積を同一にした場合の反応、抗酸化剤の前投与による影響、表面修飾の影響、形状の違いの検討、毒性発現における遺伝子発現について検討した。さらに国際動向調査については、引き続き特に欧州での議論が活発に行われており、その動向を情報収集した。
結果と考察
雌性BALB/cマウスを用いたOVAを感作物質として用いる評価系を研究分担者と協力して確立してきた。本モデル系では、陽性対照としてのコレラトキシン及びコレラトキシンBサブユニットが感作を増強することを示し、本系でアジュバント作用を検出可能であることが示された。OVAの経皮経口暴露によって、OVA特異抗原の産生及び経口投与による下痢や直腸温低下等が誘導されたが、これまでの検討で最も強い毒性を示すと考えられた直径10 nmのナノ銀の同時投与による増強作用は認められなかったことから、本モデル系において、ナノ銀はアジュバント作用を示さないと考えられた。一方、粒子径の小さいナノ酸化チタン(アナターゼ型、粒子径6 nm)については、経皮感作増強効果及び抗原の経口投与による追加免疫やアレルギー症状惹起を増強する可能性が示された。
本モデル系においては、小麦タンパク分解物も皮膚暴露で感作を誘導すること、及び皮膚暴露による感作の判定に所属リンパ節の免疫染色によってKi67陽性の濾胞の割合(Ki67陽性2次濾胞の数/濾胞の数 x 100 (%))が有用な指標となることも示された。ナノ銀のマウス腹腔内投与に対する生体影響については、表面積が同等でも小型のナノ銀粒子がより高度の毒性を示すこと、活性酸素種の発生のみでは毒性機序の説明ができないこと、PVPコートで表面処理がされたナノ銀でも小型のナノ銀粒子は高度の毒性を示すこと、微細板状のナノプレートは粒子状のナノ銀とは異なる挙動を示すこと、及び、10 nm ナノ銀投与マウスの肝臓における遺伝子発現は、対照群、60 nm ナノ銀投与群及び100 nm ナノ銀投与群の肝臓とは異なるクラスターに分類され、低酸素応答及び炎症反応関連因子の発現増加が認められた。また、ナノ酸化亜鉛の腹腔内投与による急性毒性に関する検討を行ったところ、肝臓、腎臓、及び胸腺やリンパ節に影響を与える可能性が示された。
また、研究期間をとおして、欧州食品安全機関(EFSA)が主催している食品及び飼料分野におけるナノテクノロジーのリスク評価に関する科学ネットワークおよび、食品接触材料の科学ネットワークに関する情報収集を実施した。
結論
食品・食品容器包装用途として用いられ、経皮及び経口暴露されるナノマテリアルとしてナノ銀及びナノ酸化チタンのアジュバント作用などの免疫毒性を検討した。OVAの経皮・経口暴露による感作及びアレルギー反応に対して、ナノ銀の追投与は明らかな増強作用を示さなかった。一方、ナノ酸化チタンは、抗原の経口投与による追加免疫やアレルギー症状惹起を増強する可能性が示され、ナノマテリアルの経皮・経口暴露が免疫応答に与える影響について、さらなる科学的知見を集積することが必要と考えられた。また、マウスの腹腔内投与における観察から、ナノマテリアルの生体影響はサイズ、形態によって明らかに異なることから、規格に応じた規制が必要と考えられた。また、国際動向においても、ナノマテリアルの安全性評価を完結するには毒性情報が不足している状況と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2020-10-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2020-10-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201924002C

収支報告書

文献番号
201924002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,000,000円
(2)補助金確定額
12,997,000円
差引額 [(1)-(2)]
3,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 7,574,610円
人件費・謝金 1,832,024円
旅費 2,132,718円
その他 1,458,205円
間接経費 0円
合計 12,997,557円

備考

備考
差額は自己資金で対応しました。

公開日・更新日

公開日
2021-08-27
更新日
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