受動喫煙を防止するための効果的な呼吸用保護具のフィルターの検討

文献情報

文献番号
201923009A
報告書区分
総括
研究課題名
受動喫煙を防止するための効果的な呼吸用保護具のフィルターの検討
課題番号
H30-労働-一般-005
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
保利 一(産業医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石田尾 徹(産業医科大学 産業保健学部)
  • 樋上 光雄(産業医科大学 産業保健学部)
  • 山本 忍(産業医科大学 産業保健学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
1,950,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
清掃のため喫煙室に入る作業者や,喫煙を可とする飲食店等で働く従業員の受動喫煙を防止するためには,作業環境管では不十分であり,呼吸用保護具の着用が考えられる.あらかじめ使用する物質が決まっていればマスクの選択は比較的容易であるが,たばこの煙にはガス状,粒子状合わせて数千種類もの化学物質が含まれており,物理・化学的性質もさまざまであるため,フィルターや吸収缶がこれらを十分に捕集できるか否かの検討はなされておらず,効果も不明である.そこで本研究では,既存の呼吸用保護具に用いられているフィルターがたばこ煙に対してどのような特性を有しているのかを把握し,たばこ煙に適したフィルターを提案することを目的とする.
研究方法
たばこは,メビウススーパーライトおよびメビウスオリジナルを使用した.チャンバー内で発生させたたばこ煙中の粒子状物質およびガス・蒸気の捕集試験を行った.粒子状物質の実験では,チャンバー側面にたばこをセットし,吸引ポンプを用いて外部から空気を吸引・吐出することにより呼吸を模擬し,主流煙と副流煙を発生させた.チャンバー内の空気を2種類の静電フィルター(DS1)及び2種類のメカニカルフィルター(DS2,LS2)に流量40 L/minで通じ,チャンバー内及びフィルター通過後の粉じんの粒径別の濃度を測定し,それぞれの粒径における捕集効率を調べた.
 ガス・蒸気の実験では,副流煙のみを使用した.チャンバー内でたばこに火をつけ,発生した煙を清浄空気と混合・希釈したのち,10 L/minでフィルターに通じた.通過した空気中のTVOC濃度をPID式リアルタイムモニタ(TIGER,理研計器,11.7 eV)を用いて測定した.また,出口の空気をサンプリングし,5種類のVOC,ニコチンおよびベンゾ[a]ピレンをガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で,6種類のカルボニル類を高速液体クロマトグラフ(HPLC)で分析した.用いたフィルターは,有機ガス用吸収缶,ホルムアルデヒド(FA)用吸収缶,防じんフィルター(L2)を併用したFA用吸収缶および本研究室で開発した両親媒性吸着材(活性炭/セピオライト=7/3)とした.
結果と考察
粒子状物資の捕集実験では,すべての防じんフィルターで98%以上の捕集効率が得られたが,静電フィルターは粒径40 nm付近,メカニカルフィルターは粒径150 nm付近の捕集効率が低くなることがわかった.また,防じんフィルターおよび防毒マスク吸収缶通過後のたばこ煙の臭気をニオイセンサで測定した結果,防じんフィルターはほとんど臭気は除去できなかった.防毒マスク吸収缶はにおいの除去が期待されたが,センサー指示値は50%程度以下にしか低下せず,臭気を十分除去できるとは言えなかった.
 TIGERによるTVOC濃度測定では,吸収缶単体では,FA用吸収缶の方が有機ガス用吸収缶より捕集性能が高かった.FA用吸収缶に着目すると,吸収缶単体よりも防じんフィルター併用の方が捕集性能が高いことがわかった.両親媒性吸着材およびFA用吸収缶を用いたHPLCによる分析では,捕集材の入口において6種の物質が検出された.しかし,出口では両捕集材ともFAがわずかに検出されただけであり,捕集性能としては同程度であると推察された.また,GC/MSでの分析では,活性炭入り防じんマスクの出口では,1,3-ブタジエン270 ppb,イソプレン550 ppb,アクリロニトリル65 ppb,ベンゼン55 ppb,トルエン49 ppb,ベンゾ[a]ピレン3.6 ng/m3が検出されたが,ニコチンは定量下限値未満であった.防じんフィルターを併用したFA用吸収缶では,イソプレン0.35 ppb,ベンゼン0.1 ppb,トルエン1.7 ppbが検出されたが,1,3-ブタジエン,アクリロニトリル,ベンゾ[a]ピレンおよびニコチンは定量下限値未満であった.
結論
粉じんは,L2またはS2以上のフィルタであればほぼ除去できるが,臭気は防じんフィルタではほとんど除去できず,防毒マスクでも十分な低下は期待できないこと,また,ガス状物質については,防じんフィルターを併用したFA用吸収缶を使用することにより,発がん性がある化学物質を含め,ほぼ除去できる可能性が示唆された.

公開日・更新日

公開日
2023-05-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-11-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201923009B
報告書区分
総合
研究課題名
受動喫煙を防止するための効果的な呼吸用保護具のフィルターの検討
課題番号
H30-労働-一般-005
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
保利 一(産業医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 石田尾 徹(産業医科大学 産業保健学部)
  • 樋上 光雄(産業医科大学 産業保健学部)
  • 山本 忍(産業医科大学 産業保健学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成27年の労働安全衛生法の改正で受動喫煙防止措置が努力義務化され,事業場では建物内を全面禁煙にするか,喫煙室等の設置の徹底が求められるようになった.喫煙室を設置した場合,非喫煙者のたばこ煙へのばく露は避けられるものの,清掃のため喫煙室に入る作業者は,たばこ煙へのばく露が避けられない.また,喫煙を可とする飲食店等で働く従業員も受動喫煙は避けられない.このような場での作業において,作業者の受動喫煙を防止する方法としては,呼吸用保護具の着用が考えられる.あらかじめ使用する物質が決まっていればマスクの選択は比較的容易であるが,たばこの煙にはガス状,粒子状合わせて数千種類もの化学物質が含まれており,物理・化学的性質もさまざまであるため,フィルターや吸収缶がこれらを十分に捕集できるか否かの検討はなされておらず,効果も不明である.そこで本研究では,呼吸用保護具に用いられているフィルターがたばこ煙に対してどのような特性を有しているのかを把握し,たばこ煙に適したフィルターを提案することを目的とした.
研究方法
たばこ煙の成分及びそれらによる生体影響を把握するため,まず,たばこ煙に関する文献調査を実施した.たばこ煙には粒子状物質(粉じん)とガス状物質が含まれているため,粉じんは防じんフィルターガス状物質は防毒マスク吸収缶及び本研究室で開発した活性炭/セピオライト両親媒性吸着材を用いて捕集実験を行い,フィルタの性能評価を行った.粉じんについては,フィルター通過前後の濃度を(SMPS及びデジタル粉じん計)でモニターした.ガス状物質については,PID方式のVOCモニタ(TIGER, CUB)でTVOCを測定したほか,アルデヒド類については,高速液体クロマトグラフ(HPLC),一部のVOCとニコチン,ベンゾ(a)ピレンについてはガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)で分析した.臭気についてはニオイセンサを用いて計測した.
結果と考察
粉じんについては,DS2あるいはRL2以上の防じんフィルターであれば,98%以上の捕集効率があることが確認されたが,静電フィルタは粒径40 nm,メカニカルフィルタは粒径150 nm付近の粒子の捕集効率が低いことがわかった.臭気については,活性炭素繊維(ACF)の入ったろ過材についてはニオイセンサの数値は若干減少したが,十分ではなく,防毒マスク吸収缶でも40%程度であった.VOCモニターによる出口濃度は防じんマスク>活性炭入り防じんマスク>有機ガス用防じんマスク≒両親媒性吸着剤>ホルムアルデヒド用吸収缶となった.HPLCによる分析結果では,たばこ煙から6種類のカルボニル類が検出されたが,両親媒性吸着剤およびホルムアルデヒド用吸収缶では,通過後の空気からはホルムアルデヒドが2~3 ppb検出されたのみで,他の物質は検出されなかった.GC/MSでの分析では,活性炭入り防じんマスク出口では,1,3-ブタジエン270 ppb,イソプレン550 ppb,アクリロニトリル65 ppb,ベンゼン55 ppb,トルエン49 ppb,ベンゾ[a]ピレン3.6 ng/m3が検出されたが,ニコチンは定量下限値未満であった.防じんフィルターを併用したFA用吸収缶では,イソプレン0.35 ppb,ベンゼン0.1 ppb,トルエン1.7 ppbが検出されたが,1,3-ブタジエン,アクリロニトリル,ベンゾ[a]ピレンおよびニコチンは定量下限値未満であった.
結論
たばこ煙は,防じんフィルタで粉じんはほぼ捕集できることがわかった.臭気については,防毒マスクでも十分に除去できなかったが,たばこ煙に多く含まれる有害なガス状物質については,防じんフィルターを併用したFA用吸収缶を使用することにより,発がん性がある化学物質を含む多くの化学物質をほぼ除去できる可能性が示唆された.

公開日・更新日

公開日
2023-05-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-11-19
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201923009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
市販の防じんマスク,防毒マスク,簡易マスクおよび新たに開発した吸着材のたばこ煙に対する捕集特性を調べた.粉じんについては,区分RL2,RS2以上の防じんマスク用フィルタであれば,98%以上捕集でき,活性炭(ACF)入りのものはVOCもある程度捕集できることがわかった.ガス状物質については防じん機能付きホルムアルデヒド用吸収缶が最も捕集効率が高いことが示されたが,臭気については50%程度の除去にとどまり,なお課題が残ることが示された.
臨床的観点からの成果
なし
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
1件
労働安全衛生研究に投稿中
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
5件
第36,37回産業医科大学学会,第92,93回日本産業衛生学会,2019年度呼吸保護に関する研究発表会
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201923009Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,534,000円
(2)補助金確定額
2,534,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,140,670円
人件費・謝金 0円
旅費 61,330円
その他 748,000円
間接経費 584,000円
合計 2,534,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2022-03-14
更新日
-