脳梗塞急性期医療の実態に関する研究

文献情報

文献番号
199800762A
報告書区分
総括
研究課題名
脳梗塞急性期医療の実態に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
山口 武典(国立循環器病センター)
研究分担者(所属機関)
  • 端和夫(札幌医科大学)
  • 斉藤勇(杏林大学)
  • 大和田隆(北里大学)
  • 村上雅義(国立循環器病センター)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成13(2001)年度
研究費
55,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
脳卒中診療の水準向上のためには、従来の死亡者・患者数
調査のみでは不十分で、診療体制や治療内容などを含む詳細を把握す
る必要がある。本研究では、脳卒中の大部分を占める脳梗塞について
、その入院患者数および入院状況、診療体制、急性期治療、死亡数、
平均在院日数を全国規模および特定地域で調査し、今後の我が国の脳
卒中診療体制改善のための基礎データを得ることが目的とする。
研究方法
脳梗塞急性期治療の実態に関する全国調査を3年間に亘って
以下のような段階を踏んで実施する。初年度は、・厚生省健康政策局
監修による病院要覧より、総合病院、救急告示病院、特定機能病院と
脳神経外科A項認定施設、および脳卒中学会、日本神経学会、日本救急
医学会の役員所属施設4953施設を対象として、脳梗塞急性期患者の実
態調査をアンケート郵送法にて実施した。・道東医療圏と三鷹市新川
地区において医療機関搬入までの時間、脳卒中の病型、重要度、基礎
疾患、検査所見、治療内容、リハビリテーション、転帰などを前向き
に悉皆調査を開始した。・北里大学における脳梗塞急性期の実態調査
と急性期経動脈血栓溶解療法の治療マニュアルの作成を行った)。第
2年度は、初年度調査結果より脳梗塞急性期患者が50例以上入院施設を
全国より約170施設選び、以下の項目を1999年5月1日より1年間に入院
した急性期脳梗塞患者連続例につき前向きに・脳梗塞急性期患者の発
症・入院状況、・入院時の重症度、・急性期治療内容、・退院時患者
状況(在院期間、退院時転帰、退院先)について調査を行う。第3年度
は、第2次調査の対象患者について、一定期間後の社会・家庭復帰状況
、身体障害認定の有無・等級、在宅・施設介護状況などに関する予後
調査と道東医療圏と三鷹市新川地区の調査より、急性期治療との関連
を解析する。
結果と考察
研究1. 全国の脳梗塞急性期の実態調査アンケートは、1,7
87施設[北海道97施設、東北145、関東412、中部320、関西331、中・
四国231、九州・沖縄251]より2048通の回答および諸事情(入院なし、
多忙につき不可など)のため回答不能との通知を778施設より計2826回
答を得ることができた。回答診療科は、神経内科378、その他の内科69
7、脳神経外科621、その他352であった。1)入院患者の実態・1997年4
月から98年3月までの1年間に入院した各施設の脳卒中患者数は、0例79
施設(4%)、1~5例129施設(6%)、6~10例139施設(7%)、11~2
5例354施設(17%)、26~50例342施設(17%)、51~100例462施設(
23%)、101~200例342施設(17%)、200例以上189施設(9%)で、
概算すると一施設当たり平均76人、総数154,000人で回答のあった大多
数の施設に入院していた。・そのうち脳梗塞患者は、0例24施設(1%)
、1~5例205施設(10%)、6~10例204施設(10%)、11~25例415施設
(21%)、26~50例419施設(21%)、51~100例422施設(21%)、101
~200例228施設(12%)、200例以上53施設(3%)で、概算すると一施
設当たり平均53人、総数105,000人で脳卒中の約7割をしめていた。・脳
梗塞発症7日/1日/6時間以内の入院患者の占める割合が0%の施設は52(
3%)/77(4%)/160(8%)、1~25%は192(10%)/389(20%)/898
施設(47%)、26~50%は166(9%)/432(22%)/471施設(25%)、
51~75%は271(14%)/542(28%)/247施設(13%)、76~100%は12
5 1 (65%)/488(25%)/122施設(6%)であった。概算すると7日/
1日/6時間以内の入院は患者の71/51/28%で、救急疾患としての位置付
けが低い。・1年間に入院した脳出血とくま膜下出血の患者数は、0例14
1(7%)/597施設(31%)、1~5例599(31%)/667施設(34%)、6~
10例316(16%)/178施設(9%)、11~25例408(21%)/296施設(15%
)、26~50例296(15%)/159施設(8%)、51~100例158(8%)/52施
設(3%)、101~200例40(2%)/6施設(0.3%)、200例以上4(0.2%)
/0施設(0%)であった。2)脳梗塞急性期の治療・各施設における血栓
溶解療法(経静脈的/経動脈的)を行った症例数は、0例が1088(56%)/1
426施設(74%)、1~5例が525(27%)/362施設(19%)、6~10例が13
9(7%)/82施設(4%)、11~25例が92(5%)/39施設(2%)、26~50
例が51(3%)/6施設(0.3%)、50例以上が35(2%)/3施設(0.2%)
であった。症例数で検討すると、患者の8.3%/2.7%で現在のところ一般
的治療法とは言えない。・各施設におけるオザグレルナトリウムあるい
はアルガトロバンを使用した症例数は、0例がそれぞれ248施設(13%)/
922施設(48%)、1~5例が416(22%)/458施設(24%)、6~10例が244
(13%)/178施設(9%)、11~25例が425(22%)/207施設(11%)、26
~50例が314(16%)/101施設(5%)、50~100例が224(12%)/50施設
(3%)、101例以上例が60(3%)/8施設(0.4% )であった。・各施設
における外科治療を7日以内に行った症例数は、0例が1,662施設(85%)
、1~5例が262施設(13%)、6~10例が17施設(0.8%)、11~25例が8
施設(0.4%)、26~50例が1施設(0.0%)で、脳梗塞患者の1%で、当
然のことながら内科治療が主体である。3)転帰と在院日数・脳梗塞で死
亡した患者数は、0例が409施設(21%)、1~5例が956施設(49%)、6~
10例が386施設(20%)、11~25例が165施設(8%)、26~50例が26施設
(1%)、50例以上が12施設(0.6%)で、脳梗塞患者の9%あった。・脳梗
塞で入院した患者の平均在院日数は、1~7日が26施設(1.4%)、8~14日
が26施設(1.4%)、15~21日が109施設(6%)、22~28日が324施設(17
%)、29~50日が982施設(51%)、51日以上が446施設(23%)でリハビ
リテーション施設などの後方病院が不十分であることと考えられる。2)
診療科とそのスタッフ数。脳梗塞の診療に主に当たっている診療科とその
数は、内科が1,424施設、総数10,194人で、そのうち、神経内科医(798施
設:2,492人)、循環器内科医(774施設:2,384人)であった。外科では、
脳神経外科医が1,032施設、総数3,666人で、その他の外科医が432施設1,7
23人であった。救急診療部は231施設、総数895人であった。各施設あたり
の脳卒中診療に当たる平均スッタフ数は、内科医7.2人、神経内科医3.1人、
循環器内科医3.1人、脳神経外科医3.6人、その他の外科医4.0人、救急診療
医3.8人であった。3) 集中治療室の有無と病床数、Stroke care unit(SC
U)がある施設は64(3%)、ICUなどと共有している施設は472(24%)、
脳卒中用の集中治療室がない施設が1,477(73%)であった。全国にSCUの
整備が強く望まれる。回答各施設の平均病床数は328床で、その内訳は内科
112床、脳外科25床、救急部7床であった。脳卒中患者に当てられる病床は平
均22床であった。2. 道東医療圏における悉皆調査、平成10年9月1日より平
成11年3月1日までの登録患者数は、422人(男254、女168、平均69.0歳)脳
出血21.1%、脳梗塞69.4%くも膜下出血9.5%であった。1996年の全国傷病
受病率と比較すると、若年・中年層の脳卒中患者数がやや多く、75歳以上の
高齢者では少なかった。3. 北里大学における脳梗塞急性期医療の実態調査
(大和田)1年間の脳卒中総数は352例で、脳梗塞140例(40%)、脳出血96例
(27%)、くも膜下出血116例(33%)であった。発症6時間以内の入院は患
者の25%であった。脳梗塞の大部分は神経内科で治療され血栓溶解療法や外
科治療を行った症例はなかった。
結論
脳梗塞診療の[神田1]水準を向上させるには、まず急性期の診療体制を
整えることが最も重要である。特に、本邦にはいわゆるSCUを備えた脳卒中
センター的存在の施設は極少数で、必ずしも十分な脳卒中急性期医療が行わ
れているとは言えない。全国各地にセンター的中核病院の整備が必要である。
さらに、脳卒中診療にあたる専門医(内科・外科)、すなわち脳卒中専門医
の育成が急務である。また、脳梗塞患者の入院までの時間を短縮するには医
療サイドと国民への啓発が必要であると考えられる。

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