文献情報
文献番号
201920022A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染症の医療体制の整備に関する研究
課題番号
H29-エイズ-指定-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
横幕 能行(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター 感染症科、エイズ治療開発センター)
研究分担者(所属機関)
- 岡 慎一(国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 エイズ治療・研究開発センター長)
- 伊藤 俊広(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター・HIV/AIDS包括医療センター室長)
- 山本 政弘(国立病院機構九州医療センター・AIDS/HIV総合治療センター部長)
- 内藤 俊夫(順天堂大学医学部・総合診療科研究室・教授)
- 豊嶋 崇徳(北海道大学大学院医学研究科(北海道大学病院)・教授)
- 茂呂 寛(新潟大学医歯学総合病院・感染管理部・准教授)
- 渡邉 珠代(石川県立中央病院・免疫感染症科・診療部医長)
- 今橋 真弓(柳澤 真弓)(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター・感染・免疫研究部・感染症研究室・室長)
- 渡邊 大(独立行政法人国立病院機構大阪医療センター・臨床研究センター・エイズ先端医療研究部長)
- 藤井 輝久(広島大学病院・輸血部・准教授)
- 宇佐美 雄司(独立行政法人国立病院機構名古屋医療センター・歯科 口腔外科・医長)
- 池田 和子(国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 エイズ治療・研究開発センター・看護支援調整職)
- 吉野 宗宏(独立行政法人国立病院機構 宇多野病院・薬剤部・薬剤部長)
- 本田 美和子(独立行政法人国立病院機構東京医療センター・臨床研究センター政策医療企画研究部・高齢者ケア研究室室長)
- 葛田 衣重(千葉大学医学部附属病院・技術係職員)
- 三木 浩司(平成紫川会小倉記念病院・緩和ケア・精神科 部長)
- 四柳 宏(東京大学医科学研究所・先端医療研究センター感染症分野 教授)
- 日ノ下 文彦(国立研究開発法人国立国際医療研究センター・腎臓内科・診療科長)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
106,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HIV陽性者の予後改善により、居住地域での療養体制整備の要求が高まっている。現在の後天性免疫不全症候群に関する特定感染症予防指針では、拠点病院はその機能に応じて連携、機能を補完し、拠点病院以外の施設とも協力して地域包括的なエイズの診療体制再構築を行うことが求められている。しかしながら、従前から「名ばかり拠点病院」の存在が課題とされている。被害者救済医療体制を整備する上で、その実態を明らかにし、課題を解消することは重要である。
そこで、現時点での拠点病院のHIV陽性者に対する医療提供に関する機能を把握し、今後のエイズの医療体制の再構築のため拠点病院体制の課題と今後のあり方について検討を行った。
そこで、現時点での拠点病院のHIV陽性者に対する医療提供に関する機能を把握し、今後のエイズの医療体制の再構築のため拠点病院体制の課題と今後のあり方について検討を行った。
研究方法
拠点病院診療案内の掲載情報収集時に、都道府県から全ての拠点病院へ情報提供を依頼した。同時に、現在対応可能な医療の内容を記したチェックシートへの回答協力を依頼した。また、重点課題とされる歯科、透析、長期療養及び肝疾患への対応について、それぞれの専門領域・専門医・専門職種の視点から課題抽出と介入、啓発、ネットワーク構築を試みる。また、我が国のHIV陽性者の他疾患の合併・治療状況を診療情報等の活用により検討した。情報の収集、解析及び公開等について、国立病院機構名古屋医療センター臨床研究審査委員会で承認を得た(整理番号:2016-86)。
結果と考察
全拠点病院380施設及び拠点病院以外の10施設から定期通院者数の情報提供を得た。
把握できた定期通院中の被害者及びHIV陽性者の総数は26,407人であった。定期通院者数は東京都区内、大阪市、名古屋市の3大都市及びその周辺に集中していることが明らかになった。拠点病院の診療責任医師が55歳以上である施設は188施設(49.5%)を占めた。
定期通院者数の多い二次医療圏では、多くの拠点病院が設置はされているものの、特定の高機能の医療施設に定期通院者が集中していた。定期通院者数0人かつ被害者及びHIV陽性者を全く受入できないとする“真の名ばかり拠点病院”は全国で8施設あった。
全ての都道府県で歯科診療ネットワークの構築を試み、冊子及びウエブで公開した。また、HIV感染透析患者医療ガイドを改訂し、全国の透析診療施設に配布した。主に肝炎ウイルス重複感染薬害被害者を対象とした継続的な肝機能評価のための情報収集体制を構築し、データの収集を開始した。また、我が国のHIV陽性者の合併症の治療状況を解析した。全国の抗HIV剤の使用状況を調査し、長期的に安全な抗HIV療法が行われるよう、主要な拠点病院の抗HIV療法の実施状況を把握し、副作用の監視を行なった。
拠点病院設立から25年以上が経過した。被害者及びHIV陽性者の診療には人的、機能的に一切関わらない、関われないという“真の名ばかり拠点病院”は限られるが、多くの診療担当医が定年退職時期を迎え、後継医不在の問題に直面していると推測され、実態把握と迅速な対処が重要である。
ほとんどの拠点病院は高次・急性期対応機能を有する地域の基幹病院であり、多くの施設が本来の病院機能とエイズ治療に関わる診療課題との間のミスマッチに苦慮している。当初の拠点病院制度の設立理念を再度確認し、エイズ診療全てを拠点病院に依存する現在のエイズ治療の考え方を是正しなければならない。
歯科領域では多くの地域で歯科医師会等主導による診療ネットワークが構築され公開されたことで、診療拒否の事案が減少し、安全で良質な歯科医療が提供されることが期待される。現在、透析、長期療養の領域においても同様の地域ネットワーク構築が望まれ、取り組みが開始された。これらの取り組みを継続することにより、薬害被害者に適切な時期に必要な医療が提供されると期待される。
把握できた定期通院中の被害者及びHIV陽性者の総数は26,407人であった。定期通院者数は東京都区内、大阪市、名古屋市の3大都市及びその周辺に集中していることが明らかになった。拠点病院の診療責任医師が55歳以上である施設は188施設(49.5%)を占めた。
定期通院者数の多い二次医療圏では、多くの拠点病院が設置はされているものの、特定の高機能の医療施設に定期通院者が集中していた。定期通院者数0人かつ被害者及びHIV陽性者を全く受入できないとする“真の名ばかり拠点病院”は全国で8施設あった。
全ての都道府県で歯科診療ネットワークの構築を試み、冊子及びウエブで公開した。また、HIV感染透析患者医療ガイドを改訂し、全国の透析診療施設に配布した。主に肝炎ウイルス重複感染薬害被害者を対象とした継続的な肝機能評価のための情報収集体制を構築し、データの収集を開始した。また、我が国のHIV陽性者の合併症の治療状況を解析した。全国の抗HIV剤の使用状況を調査し、長期的に安全な抗HIV療法が行われるよう、主要な拠点病院の抗HIV療法の実施状況を把握し、副作用の監視を行なった。
拠点病院設立から25年以上が経過した。被害者及びHIV陽性者の診療には人的、機能的に一切関わらない、関われないという“真の名ばかり拠点病院”は限られるが、多くの診療担当医が定年退職時期を迎え、後継医不在の問題に直面していると推測され、実態把握と迅速な対処が重要である。
ほとんどの拠点病院は高次・急性期対応機能を有する地域の基幹病院であり、多くの施設が本来の病院機能とエイズ治療に関わる診療課題との間のミスマッチに苦慮している。当初の拠点病院制度の設立理念を再度確認し、エイズ診療全てを拠点病院に依存する現在のエイズ治療の考え方を是正しなければならない。
歯科領域では多くの地域で歯科医師会等主導による診療ネットワークが構築され公開されたことで、診療拒否の事案が減少し、安全で良質な歯科医療が提供されることが期待される。現在、透析、長期療養の領域においても同様の地域ネットワーク構築が望まれ、取り組みが開始された。これらの取り組みを継続することにより、薬害被害者に適切な時期に必要な医療が提供されると期待される。
結論
我が国のエイズ治療の医療体制は、これまでは、主に拠点病院による患者集約・機能集中型であったが、今後、二次医療圏などより小さな範囲で拠点病院以外の医療施設も加えて機能分担型の治療体制構築が必要である。既存の拠点病院は新たな診療体制構築のためのプラットフォームとして正しく活用・運用すべきである。治療体制の再構築にあたっては、まずは長期療養、歯科及び透析といった領域単位でHIV陽性者の受け入れ体制を整備することが新しいエイズ治療の体制整備の端緒となり得る。どの医療・福祉施設でもHIV陽性者に対応できるよう、まずは全ての医療施設ができる領域から治療に従事させていく姿勢が重要である。
被害者が抱える心身の課題は、医療の進歩、加齢、社会生活環境に応じて大きく変化すると考えられる。多職種多地域の専門家からの知見を集積することで、最終的には被害者個々の状況を理解し、適切な個別救済が適時提供できる医療体制を整える努力を継続することは重要である。
被害者が抱える心身の課題は、医療の進歩、加齢、社会生活環境に応じて大きく変化すると考えられる。多職種多地域の専門家からの知見を集積することで、最終的には被害者個々の状況を理解し、適切な個別救済が適時提供できる医療体制を整える努力を継続することは重要である。
公開日・更新日
公開日
2021-06-01
更新日
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