抗原検出キットを用いたアメーバ赤痢の診断法に関する研究

文献情報

文献番号
201920018A
報告書区分
総括
研究課題名
抗原検出キットを用いたアメーバ赤痢の診断法に関する研究
課題番号
H30-エイズ-一般-010
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 恒二(国立研究開発法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター )
研究分担者(所属機関)
  • 古賀 道子(東京大学 医科学研究所先端医療研究センター 感染症分野)
  • 中田 浩智(熊本大学病院 感染免疫診療部)
  • 八木田 健司(国立感染症研究所 寄生動物部)
  • 小林 泰一郎(がん・感染症センター 東京都立駒込病院 感染症科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
12,463,000円
研究者交替、所属機関変更
該当なし

研究報告書(概要版)

研究目的
 アメーバ赤痢は、Entamoeba histolyticaによって引き起こされる腸管寄生虫症であり、5類全数把握疾患に指定されている。発生件数は、2000年に378件であったが2016年には1151件と急増している。さらに、診断の遅れは致死的となることが知られており、確定診断例だけでも死亡例が最近10年間 (2008-2017) に38件報告いるが、死亡例の多くは剖検で診断されており、死亡症例数は過小評価されている可能性が高い。アメーバ赤痢は、国内では性感染症として拡大しており、特に HIV感染者では大きな問題となっている。一方、これまで国内の保険診療で認可され、年間数千件の検査(2017年実績)があった「血清赤痢アメーバ抗体」検査が、2017年末に検査不可となり、国内で認可されている診断的検査は、「鏡検法(Entamoeba の形態的同定)」のみとなった。今後、病原体診断は益々困難となり、重症致死例が増加することが懸念される。本研究では、アメーバ赤痢を臨床現場で確実に診断できる診療体制を構築するために、日本での診療体制におけるイムノクロマトグラフィ法によるアメーバ抗原診断の有用性を検証する。
研究方法
研究体制
 HIV感染者の診療を行っている全国の5施設で、2018年10月から2019年12月末までの1年強の研究期間で研究を行った。検査項目は、保険診療内で行われた直接検鏡検査に加えて、イムノクロマトグラフィキットによる E. histolytica 抗原検出法 (抗原検出検査) と核酸増幅検査 (PCR) を行い、それらの結果を集計して解析した。PCR は、これまで臨床検体に対する全国からの E. histolytica 診断を引き受けてきた実績のある分担研究者 (感染症研究所寄生動物部八木田) により実施された。
データ解析
研究デザインは、多施設による横断研究である。
解析対象となるデータは、直接検鏡検査(Entamoeba の形態的な同定)、 抗原検出検査 (E. HISTOLYTICA QUIK CHEK カード式キットの検査結果)、 E. histolytica 特異的プライマーを用いた 定性PCR である。
解析方法は、 PCR の結果を Reference データとし、PCR 陽性検体を赤痢アメーバ症確定例、PCR 陰性検体を非赤痢アメーバ症症例と定義した。直接検鏡検査と抗原検出検査の結果を PCR による reference データと比較し、各々の検査の検査感度と特異度を算出した。
結果と考察
 全国のHIV診療拠点病院で原虫感染疑いと診断された糞便検体を用いて、既存のアメーバ赤痢診断方法である糞便直接検鏡法と海外で標準的に用いられている E. histolytica 抗原検出法を行った。また、 E. histolytica 感染の確認検査として、国立感染症研究所寄生動物部で遺伝子検査 (PCR法) を行い、糞便直接検鏡法と E. histolytica 抗原検出法の感度と特異度を解析した。最終的に、 657件の便検体の解析を行い、PCR 法により 40件で E. histolytica の感染が確定された。これら、 40 件の陽性検体と 617 件の陰性検体をコントロールとして、検鏡検査と E. histolytica 抗原検出法の感度・特異度を算出したところ、検鏡検査は感度62.5%, 特異度99.8%であり、抗原検出法は感度 45.0%, 特異度 100% であった。また、抗原検出法は、検鏡でシスト型 E. histolytica を認める場合や固形便で、栄養型 E. histolytica を含む場合や下痢便と比較して、著しく感度が低下することが示された。一方で、定量 PCR で病原体の核酸量と抗原検査の結果との間には、相関がみられなかった。以上より、 E. histolytica 抗原検出法は、栄養型 E. histolytica を認めるような腸炎症例に対しては、非常に有用性の高い検査である一方、シスト型 E. histolytica を認めるようなキャリア症例に対しては、感度が落ちるということが明らかになった。
結論
 検査者の技術や場所に依らず、迅速かつ安定した精度で、侵襲性のアメーバ性腸炎 (栄養型 Entamoeba 排出) を診断できる、抗原検出検査の有用性は極めて高い。一方で、無症候性持続感染者や肝膿瘍発症患者に対しては、検鏡検査や血清抗体検査などの検査を併用して診断する必要があり、赤痢アメーバ症の診断体制に関して、更なる整備が必要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

総括研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
分担研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
2023-07-12

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201920018B
報告書区分
総合
研究課題名
抗原検出キットを用いたアメーバ赤痢の診断法に関する研究
課題番号
H30-エイズ-一般-010
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
渡辺 恒二(国立研究開発法人国立国際医療研究センター エイズ治療・研究開発センター )
研究分担者(所属機関)
  • 古賀 道子(東京大学 医科学研究所先端医療研究センター 感染症分野)
  • 中田 浩智(熊本大学病院 感染免疫診療部)
  • 八木田 健司(国立感染症研究所)
  • 小林 泰一郎(がん・感染症センター 東京都立駒込病院 感染症科)
  • 宮川 寿一(熊本大学病院 感染免疫診療部)
  • 鯉渕 智彦(東京大学医科学研究所附属病院 感染免疫内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
該当なし

研究報告書(概要版)

研究目的
 アメーバ赤痢は、腸管原虫赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)によって引き起こされる腸管寄生虫症であり、発生件数は、2000年に378件であったが2016年には1151件と急増している。さらに、診断の遅れは致死的となることが知られている。アメーバ赤痢は、国内では性感染症として拡大しており、特に HIV感染者では大きな問題となっている。一方、これまで国内の保険診療で認可され、年間数千件の検査(2017年実績)があった「血清赤痢アメーバ抗体」検査が、2017年末に検査不可となり、国内で認可されている診断的検査は、「鏡検法(Entamoeba の形態的同定)」のみとなった。本研究では、アメーバ赤痢を臨床現場で確実に診断できる診療体制を構築するために、日本での診療体制におけるイムノクロマトグラフィ法によるアメーバ抗原診断の有用性を検証する。
研究方法
・研究体制
 HIV感染者の診療を行っている全国の5医療施設 (北海道大学病院、都立駒込病院、東京大学医科学研究所附属病院、国立国際医療研究センター、熊本大学医学部附属病院) を協力施設とし、寄生虫感染が疑われて糞便検鏡検査 (寄生虫検査) が行われた糞便検体を回収した。検査体制としては、保険診療で行われる直接検鏡検査および赤痢アメーバ抗原検査 (イムノクロマグラフィ法) は、各医療機関で速やかに実施された。また、残余検体を研究用検体として凍結保存した後、感染症寄生動物部に輸送し、核酸増幅検査 (PCR) を含めた研究用検査を実施する研究体制を敷いた。以上の如く、HIV診療を行う5カ所の大規模医療機関と原虫感染診断に対する高い技術を誇る研究機関が協力した研究体制を構築した。
・データ解析
研究デザインは、多施設による横断研究である。
解析対象となるデータは、直接検鏡検査(Entamoeba の形態的な同定)、赤痢アメーバ抗原検査(E. HISTOLYTICA QUIK CHEK カード式キットの検査結果)、赤痢アメーバ (E. histolytica) 特異的プライマーを用いた PCR 法による核酸増幅検査の結果、である。
解析方法は、 PCR の結果を Reference データとし、PCR 陽性検体を赤痢アメーバ陽性例、PCR 陰性検体を赤痢アメーバ陰性例と定義する。直接検鏡検査と抗原検査の結果を PCR による reference データと比較し、各々の検査の検査感度と特異度を算出し、日本の臨床現場における抗原検査の有用性を比較検証した。
結果と考察
 全国のHIV診療拠点病院で原虫感染疑いと診断された糞便検体を用いて、既存のアメーバ赤痢診断方法である糞便直接検鏡法と海外で標準的に用いられている E. histolytica 抗原検出法を行った。また、 E. histolytica 感染の確認検査として、国立感染症研究所寄生動物部で遺伝子検査 (PCR法) を行い、糞便直接検鏡法と E. histolytica 抗原検出法の感度と特異度を解析した。最終的に、 657件の便検体の解析を行い、PCR 法により 40件で E. histolytica の感染が確定された。これら、 40 件の陽性検体と 617 件の陰性検体をコントロールとして、検鏡検査と E. histolytica 抗原検出法の感度・特異度を算出したところ、検鏡検査は感度62.5%, 特異度99.8%であり、抗原検出法は感度 45.0%, 特異度 100% であった。また、抗原検出法は、検鏡でシスト型 E. histolytica を認める場合や固形便で、栄養型 E. histolytica を含む場合や下痢便と比較して、著しく感度が低下することが示された。一方で、定量 PCR で病原体の核酸量と抗原検査の結果との間には、相関がみられなかった。以上より、 E. histolytica 抗原検出法は、栄養型 E. histolytica を認めるような腸炎症例に対しては、非常に有用性の高い検査である一方、シスト型 E. histolytica を認めるようなキャリア症例に対しては、感度が落ちるということが明らかになった。
結論
検査者の技術や場所に依らず、迅速かつ安定した精度で、侵襲性のアメーバ性腸炎 (栄養型 Entamoeba 排出) を診断できる、抗原検出検査の有用性は極めて高い。一方で、無症候性持続感染者や肝膿瘍発症患者に対しては、検鏡検査や血清抗体検査などの検査を併用して診断する必要があり、赤痢アメーバ症の診断体制に関して、更なる整備が必要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201920018C

成果

専門的・学術的観点からの成果
抗原検出検査は世界的に汎用された検査方法であり、本研究課題は日本の診断体制の脆弱性 (国内の問題) 改善を目的に行われたことから、研究開始時には、学術的価値は高く見込まれなかった。しかし、検証の結果、栄養型とシストで検査感度が大きく異なることを示し、 In vitro での検証結果を報告したところ、学術的な価値を認められ、英文一流紙 (J Clin Microbiol, IF 5.897) に掲載された。
臨床的観点からの成果
本邦では未承認の検査法について、その感度や特異度だけではなく、使用上の注意点なども明らかになった。2021年7月、正式に保険薬価収載され日本の臨床を大きく改善させることに寄与した。
ガイドライン等の開発
本研究は、赤痢アメーバ症の診断について、海外では標準的とされる一方で、国内では未承認である抗原検査の有用性を検証した。2021年7月に保険薬価収載に伴い、感染症法5類の届出基準も改定され、本検査による診断が届出基準に追加された。
その他行政的観点からの成果
本研究結果はアメーバ赤痢の迅速かつ安定した診断を可能にする検査方法として、国内診療を大きく改善させる意味で、社会的意義の高い研究であると考えている。2020年にPMDAより、薬事承認を受け、2021年7月より薬価収載され、全国の医療機関での保険診療で活用されている。
その他のインパクト
特記事項なし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
Journal of Clinical Microbiolgy, Journal of Infection and Chemotherapy
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
PMDA への抗原検査キット承認への参考資料となった。
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yanagawa Y, Shimogawara R, Watanabe K, Yagita K, et al.
Utility of the Rapid Antigen Detection Test E. histolytica Quik Chek for the Diagnosis of Entamoeba histolytica Infection in Nonendemic Situations
Journal of Clinical Microbiology , 58 (11) , e01991-20  (2020)
doi: 10.1128/JCM.01991-20.
原著論文2
Watanabe K, Yanagawa Y, Gatanaga H, et al.
Performance of an enzyme-linked immunosorbent-based serological assay for Entamoeba histolytica: Comparison with an indirect immunofluorescence assay using stored frozen samples.
Journal of Infection and Chemotherapy , 27 (5) , 736-739  (2021)
doi: 10.1016/j.jiac.2020.12.026.

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
2022-06-22

収支報告書

文献番号
201920018Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,520,000円
(2)補助金確定額
5,520,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,345,788円
人件費・謝金 0円
旅費 697,734円
その他 2,203,478円
間接経費 1,273,000円
合計 5,520,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2021-06-01
更新日
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