文献情報
文献番号
201919026A
報告書区分
総括
研究課題名
愛玩動物由来感染症のリスク評価及び対策に資する、発生状況・病原体及び宿主動物に関する研究
課題番号
H30-新興行政-指定-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
今岡 浩一(国立感染症研究所 獣医科学部)
研究分担者(所属機関)
- 鈴木 道雄(国立感染症研究所 獣医科学部)
- 森嶋 康之(国立感染症研究所 寄生動物部)
- 福士 秀人(岐阜大学 応用生物科学部)
- 宇根 有美(岡山理科大学 獣医学部)
- 小野 文子(岡山理科大学 獣医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
8,740,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
愛玩動物の飼育者は増加を続け、飼育形態や関係の変化によりその距離もますます近く、ひいては感染リスクも増大している。感染症は、高齢化等によりホストの免疫状態が低下すればするほど易感染性となり、かつ重症化しやすい。よって、愛玩動物由来感染症は今後、注意を要し、早急に対策を講じておくべき公衆衛生上の問題である。本研究では、最も身近なイヌ・ネコ由来感染症、野生動物から愛玩動物を介して感染する感染症、愛玩鳥類由来感染症、エキゾチックペット及び輸入動物由来感染症、愛玩動物の耐性菌について検討する。また、研究期間を通じて、発生状況、病原性発現機構、各宿主動物における侵淫状況等を検討し、リスク評価を行い、また、そのリスクに応じた適切な検査・治療・予防方法を開発・明示していく。本研究により得られるデータ、エビデンス等の成果を反映してガイドラインの更新、もしくは、その他の啓発のための手段としてパンフレット、Web、セミナー等による情報発信を行う。
研究方法
(1) 各種愛玩動物由来感染症の発生状況調査、(2) C. canimorsus国内分離株に存在する薬剤耐性遺伝子の同定と莢膜遺伝子型のタイピング、(3) 愛知県と北海道における流行調査と各都道府県における野犬の定着実態の解明、(4) 鳥類およびその他、ヒトに感染しうるネコクラミジアや節足動物のクラミジア保有状況調査、(5) ペット用動物の流通過程や展示施設における動物の異常死、集団死、大量死事例を検索し原因、流行の機序を解明し、さらに対策のための情報の提供を行い、また、放し飼い猫における病原体保有調査、(6) 地域猫および家庭飼育猫における薬剤耐性菌保有率調査と動物病院・飼い主へのアンケートによる実態調査、(7) 得られた知見を元に一般飼育者・国民に対する啓発のための情報発信(Q&A、ハンドブック、Web)を行う。
結果と考察
(1) 非常に多くの愛玩動物由来感染症があるが、実は、感染症法の対象外の疾患の方が患者数は多い。細菌や寄生虫感染症が多い。(2) C. canimorsusの国内臨床分離株では93%を占める莢膜型A~Cは、これまで分離された国内イヌ・ネコ口腔由来株やC. canis、C. cynodegmi国内臨床分離株では検出されていない。Class D β-ラクタマーゼを含む4種類の薬剤耐性遺伝子を同定した。(3) 愛知県の野犬糞便では2/134検体、北海道の農村部飼育犬では、2/29にエキノコックス陽性を確認した。野犬発生状況調査では約半数の都道府県でエキノコックス侵入時に生活環が定着する可能性が高かった。(4) 鳥類の糞便493/827検体でC. psittaci DNAを検出し、40検体はコピー数も多かった。岐阜県のダニからは43/95検体からNeochlamydia属クラミジアDNAを検出した。ネコの結膜ないし咽喉頭擦過物14/98検体からC. felis遺伝子を検出した。(5) シリアンハムスターの大量死が多剤耐性S. typhimuriumによる事を明らかにした。某動物園のハイラックス18/29頭の急死がY. pseudotuberculosis感染症と明らかにした。診断結果とともに感染症に関する情報や対策を提供した。地域猫4/100検体からC. ulceransを分離同定した。(6) 地域猫の薬剤耐性菌保有率が13%であるのに対し、動物病院来院家庭猫34頭では29%がAMRを保有していた。家庭猫のうち24頭の健常猫ではAMR保有率が13%であるのに対し、治療目的で来院した10頭のAMR保有率は50%であった。(7) 研究班の成果を踏まえたアウトプットとして、「動物由来感染症ハンドブック」を2020版へ改訂した。本改訂では、より身近な(愛玩)動物からの感染に重点をおいた前年度改訂の精査に加え、薬剤耐性菌の情報を追加した。なお、今年度のアウトプットである愛玩動物由来感染症に関するWebページについては、作成継続中である。
結論
本研究では、現在国内で起こっている感染症を中心に、さらに、認知度は低いが重篤な症状をもたらす感染症、これまであまり注意が払われていなかった愛玩動物と耐性菌、など、国民が現実的に直面しうる新たな問題も対象とした。これまでの研究で得られた各感染症の発生状況や公衆衛生上の問題点など種々の成果を、論文・学会報告等により情報発信すること、「動物由来感染症ハンドブック2020」に反映すること、愛玩動物由来感染症に関するWebページの公開やシンポジウムの開催すること、など広く配布し一般の認知に資することにより、国民に対して適切な情報・知識の啓発が可能となり、ひいては愛玩動物由来感染症の発生数の低下をもたらし、公衆衛生行政への寄与が期待されることになる。
公開日・更新日
公開日
2022-01-05
更新日
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