腸管出血性大腸菌感染症に続発する溶血性尿毒症症候群の発症・予後規定因子の検討と医療提供体制の構築のための研究

文献情報

文献番号
201919010A
報告書区分
総括
研究課題名
腸管出血性大腸菌感染症に続発する溶血性尿毒症症候群の発症・予後規定因子の検討と医療提供体制の構築のための研究
課題番号
H30-新興行政-一般-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 隆(国立研究開発法人国立成育医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 宮入 烈(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 感染症科)
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 窪田 満(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 総合診療部)
  • 石倉 健司(北里大学医学部小児科学教室)
  • 久保田 雅也(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 神経内科)
  • 壷井 伯彦(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 集中治療科)
  • 佐古 まゆみ(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 臨床試験推進室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
5,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腸管出血性大腸菌(Enterohemorraghic Escherichia coli: EHEC)感染症は毎年約2500-3000件発生し、溶血性尿毒症症候群(Hemolytic uremic syndrome: HUS)もまた100例程度の発生がある。HUSに伴い発生する腎障害や脳症は予後不良であり、一部の患者においては後遺症や死亡をきたす。本研究班では以下の臨床的な疑問点について検討することを本研究の目的とした
①EHEC感染症に対する抗菌薬投与をはじめとした介入とHUS発症の関連を検討すること。
②EHECの病原体保菌者に対する抗菌薬投与が副作用なく排菌期間を短縮するかどうかを検討すること。
③日本国内で発生したHUS脳症の診療実態を明らかにすること。
研究方法
①EHEC感染症患者に対する抗菌薬投与とHUS発症の関連を検討するケース・コントロール研究である。感染症発生動向調査に2017年1月1日から2018年12月31日までに全国の保健所に対して届けられたEHEC感染症患者全について、届出医療機関(医師)に調査票を用いて情報提供を要請した。
②EHEC感染症患者に対する抗菌薬投与と排菌期間の関連を検討する後ろ向きコホート研究である。感染症発生動向調査に2017年1月1日以降2018年12月31日までに東京都内保健所に対して届けられたEHEC感染症患者全てに関する届出先保健所に調査票を用いて情報提供を要請した。
③全国の医療機関において2011年6月1日から2018年12月31日までにEHEC感染症に併発する脳症と診断された患者を対象とした症例集積研究である。全国の小児神経専門医のネットワークに研究協力依頼を診療録を参照しながら回答いただいた。
結果と考察
2017年1月1日から2018年12月31日までにNESIDに登録されたEHEC感染症は7760人であった。そのうち182人(2.3%)がHUSを発症したと報告されており、これをケース群とした。各ケースを性別・年齢、血便有無をマッチング因子として1:5のコントロール群を選定した。研究対象として1092人(ケース182人、コントロール910人)を選定し、各患者の届出医師・医療機関に対して調査票を送付した。調査票を回収後に適格性を確認した後、ケース90人(49%)、コントロール371人(41%)を解析対象とした。 最終的に解析に用いたケース群とコントロール群は、地域分布の違いを除いてベースラインの特性に有意な差はなかった。ケースでは嘔吐(p<0.001)、発熱(p<0.001)、重度の血便(p<0.001)を認めた割合がコントロール群に比べて有意に高かった。ベロ毒素1型は、ケースで群はコントロール群に比べて有意に検出率が低かった(p<0.001)。ケース群では血清型O157の検出頻度が有意に高く(p<0.001)、血清型O26を検出した患者でHUSを発症した患者はいなかった(p<0.001)。合併症や死亡した者の割合はケース群の方が有意に高かった(それぞれp<0.001、0.007)。単変量条件付きロジスティック回帰分析では、β-ラクタム系薬剤および止痢剤の調整オッズ比 はそれぞれ2.47(95%信頼区間 1.54~3.98)、2.54(95%信頼区間 1.37~4.72)であった。ホスホマイシンの調整オッズ比は0.52 (95%信頼区間 0.33~0.81)であった。多変量条件付きロジスティック回帰分析では、小児患者において全抗菌薬投与およびホスホマイシンの調整オッズ比はそれぞれ0.56(95%信頼区間 0.32~0.98)、0.58(95%CI 0.34~1.01)であった。全年齢における主解析、成人と小児に分けたサブグループ解析ともに、単変量条件付きロジスティック解析分析・多変量条件付きロジスティック回帰分析において、血清型O157とHUS発症との間に有意な関連は認められなかった。
排菌期間に関する検討と脳症に関する調査は,新型コロナウイルス感染症の流行を受け中断中である。
結論
15歳未満の小児におけるEHEC関連感染症に対するホスホマイシンの投与は、HUS発症リスクの低下と関連している可能性がある。EHECの病原体保有者に対する抗菌薬投与が排菌期間に与える影響,HUS脳症に関する検討については継続した解析が必要である.

公開日・更新日

公開日
2022-01-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-01-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201919010B
報告書区分
総合
研究課題名
腸管出血性大腸菌感染症に続発する溶血性尿毒症症候群の発症・予後規定因子の検討と医療提供体制の構築のための研究
課題番号
H30-新興行政-一般-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
五十嵐 隆(国立研究開発法人国立成育医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 宮入 烈(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 感染症科 )
  • 砂川 富正(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
  • 窪田 満(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 総合診療部)
  • 石倉 健司(北里大学医学部 小児科学教室)
  • 久保田 雅也(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 神経内科)
  • 壷井 伯彦(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 集中治療科)
  • 佐古 まゆみ(国立研究開発法人国立成育医療研究センター 臨床試験推進室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腸管出血性大腸菌はベロ毒素を産生し、感染した場合は腸炎や溶血性尿毒症症候群(Hemolytic uremic syndrome: HUS)や脳症を来たし重篤な転帰をたどる事も少なくない。感染した患者のマネージメントについては医学的なエビデンスが不足している。具体的には病原体保菌者や腸炎発症者への抗菌薬投与の是非、脳症発症例へのステロイド投与の有用性については明確な答えが出ておらず、臨床医も判断に迷うところである。本研究の目的はこれらの臨床的疑問に対するエビデンスを創出することである。
研究方法
初年度は東京都世田谷区で3つのパイロット研究(腸炎患者におけるHUS発症リスク検討、病原体保菌期間の調査、脳症発症者の検討)を実施した.感染症発生動向調査に基づき2016年4月以降2018年12月までに世田谷区に対して届けられた患者の届け出日と医療機関情報をもとに,個々の届け出元の医療機関・医師に調査票を送付し、年齢、性別等の患者背景情報、微生物学的情報、抗菌薬処方情報、転帰の情報を収集し分析した。
研究2年目は、全国調査の実施にむけ、厚生労働省からの通知に基づき、上記と同様に個人情報に抵触することなく国立感染症研究所、地方自治体を経由して各医療機関から情報を取得するための流れを構築し詳細な研究計画をもとに調査を開始した。
結果と考察
初年度のパイロット研究:2016-2018年に世田谷区保健所に届け出られた116症例について調査票を用いた検討を行い、76%の回収率を得る事が出来た。、腸炎患者に対する抗菌薬投与の是非を検討する上では、年齢・性別の他に症例群と対照群のHUS発症前の重症度をマッチングさせることが必須であることが確認された。病原体保菌者への抗菌薬投与による排菌期間短縮効果を検討する上での諸条件が明らかとなり、また脳症発症例にはステロイドを含めた様々な集学的治療が速やかに行われているにもかかわらず、不幸な転帰をとる症例があることが確認され、集学的な医療にも限界があることが想定された.
2年目の全国調査については,①腸炎患者に対する抗菌薬投与の是非に関する検討は感染症発生動向調査に2017年1月1日から2018年12月31日までに全国の保健所に対して届けられ、感染症発生動向調査システム(NESID)に入力された者からケース(HUS発症者)90人、コントロール(HUS非発症者)371人の解析を行った。全年齢での主解析では止痢剤の投与がHUSのリスクとなりうることが判明した他、小児に限定したサブグループ解析では抗菌薬投与、特にホスホマイシンの投与群におけるHUSのオッズ比が有意に低いことが判明した(調整オッズ比0.590; 95%信頼区間 0.3-1.0)。②病原体保菌者への抗菌薬投与による排菌期間短縮効果については、東京都各保健所に届けられた情報をもとに調査を予定したが、新型コロナウイルス感染症発生のため、現在中断している。③脳症発症例に関する検討は症例蓄積中である。
 これらの検討により、腸管出血性大腸菌感染症に対する医療介入についての重要な知見が得られた。データ集積と解析を継続する事で得られるエビデンスを、ガイドライン等の改訂に結び付けることにより、予後の改善に寄与することが期待される。
結論
腸管出血性大腸菌患者に対する医療介入において,止痢剤の投与がHUS発症と関連する事,また小児においてはホスホマイシンを中心とする抗菌薬投与がHUS発症のリスクを低下させる事が示唆された.

公開日・更新日

公開日
2022-01-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2022-01-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201919010C

収支報告書

文献番号
201919010Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,500,000円
(2)補助金確定額
7,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 74,770円
人件費・謝金 4,654,103円
旅費 5,040円
その他 1,036,087円
間接経費 1,730,000円
合計 7,500,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2022-01-05
更新日
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