東京地下鉄サリン事件被災者の慢性期における身体的、精神医学的影響に関する患者対照研究

文献情報

文献番号
199800753A
報告書区分
総括
研究課題名
東京地下鉄サリン事件被災者の慢性期における身体的、精神医学的影響に関する患者対照研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
前川 和彦(東京大学医学部救急医学)
研究分担者(所属機関)
  • 南正康(日本医科大学衛生学)
  • 小川康恭(国立産業医学総合研究所)
  • 飛鳥井望(東京都精神医学総合研究所)
  • 大前和幸(慶應義塾大学衛生学)
  • 山口達夫(聖路加国際病院眼科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
東京地下鉄サリン事件発生から3年余り経過した時点での、サリンによる身体
的、精神医学的影響を、適切な調査対象を選び、患者対照研究(Case control study)によ
って明らかにすること。
研究方法
今年度は警視庁職員でサリンに曝露し、研究に協力を承諾した28名(全て男
性)、性、年齢を一致させた健康対照群25名を研究調査の対象とした。警視庁に出向き、
以下のような諸検査を実施した。精神科医による面談、中枢神経系機能の評価法として、
computer-aided神経行動検査、重心動揺検査(平衡機能検査)、聴性脳幹誘発反応、自律神
経機能の評価法として心電図RR間隔変動、末梢神経機能の評価法としてアキレス腱反射
潜時、振動感覚閾値など。また調査対象全員に対して、視力、眼圧、細隙灯顕微鏡検査、
眼底検査、調節力、網膜電図、視野検査などの眼科学的検査を聖路加国際病院眼科で行っ
た。
結果と考察
自記式出来事インパクト尺度の合計点の平均値は曝露群で有意に高く、この
時点でも心的外傷ストレスの影響が窺われた。診断面接では、曝露群28名中、PTSD1名、
partial PTSD1名を認めた。アキレス腱反射潜時、神経行動検査、振動感覚閾値、心電図
RR間隔などにおいては両群間に有意差はなかった。また眼科学的な詳細の検討でも両群
間に有意差はなかった。しかし、平衡機能検査、聴性脳幹誘発反応潜時で曝露群と対照群
との間に有意差が認められた。しかし、現在、曝露者が被災直後に受診した医療機関での
診療録の調査が終了していないので、これらの差が量影響関係にあり生理的に説明し得る
ものかは、現時点では不明である。前年度の研究結果では、神経行動検査で単純反応時間
が両群間に有意差があり、かつ曝露群では曝露量の指標と相関関係にあって、サリンの高
次中枢神経機能への影響が示唆された。今回は、曝露の程度が未だ不明であるので、結論
は出せない。
結論
東京地下鉄サリン事件後3年9ヶ月の時点での調査では、高次中枢神経機能に何ら
かの影響を与えている可能性がある。量影響関係を明らかにしてから結論を出す必要があ
る。

公開日・更新日

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