聴覚障害児に対する人工内耳植込術施行前後の効果的な療育手法の開発等に資する研究

文献情報

文献番号
201918025A
報告書区分
総括
研究課題名
聴覚障害児に対する人工内耳植込術施行前後の効果的な療育手法の開発等に資する研究
課題番号
19GC1007
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
高橋 晴雄(長崎大学 医歯薬学総合研究科(医学系))
研究分担者(所属機関)
  • 三浦 清徳(長崎大学 医歯薬学総合研究科(医学系))
  • 森内 浩幸(長崎大学 医歯薬学総合研究科(医学系))
  • 堀内 伊吹(長崎大学 教育学部)
  • 宇佐美 真一(信州大学 学術研究院医学系)
  • 岩崎 聡(国際医療福祉大学 医学部)
  • 高木 明(静岡県立総合病院 頭頚部・耳鼻いんこう科)
  • 樫尾 明憲(東京大学 医学部附属病院)
  • 南 修司郎(国立病院機構東京医療センター )
  • 城間 将江(国際医療福祉大学 成田保健医療学部)
  • 吉田 晴郎(長崎大学 医歯薬学総合研究科(医学系))
  • 神田 幸彦(長崎大学 医歯薬学総合研究科(医学系))
  • 佐藤 智生(長崎大学 医歯薬学総合研究科(医学系))
  • 福島 邦博(埼玉医科大学 医学部)
  • 小渕 千絵(国際医療福祉大学 保健医療学部)
  • 北 義子(武蔵野大学 人間科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和3(2021)年度
研究費
17,898,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国では新生児聴覚スクリーニング(新スク)で多くの難聴が早期に診断されているが、その最適な療育方法は周知されておらず、必要な医学的介入に繋がらないことも多い。また人工内耳(CI)は先天性聴覚障害児に早期に行うと音声言語の獲得に有用なことが知られているが、その術後の適切な療育手法が確立されていないため、CI装用児の通常学校進学率は先進諸外国に比べて高くはない。その大きな原因の一つは、これまで難聴医療や療育に携わる多職種(医師、言語聴覚士、聾学校を含む教師等)の間で、療育のスムースな連携が良好に機能していなかったことである。本研究の目的はこれらの療育方法の問題点を改善し、最適な療育方法を確立して、全国的にそれを実践することである。
研究方法
上記の目的達成のためにオールジャパン体制で研究組織を構築し、3年間で下記の研究を行う予定である。
1. CI術後の適切な療育手法に係るガイドラインの作成
2. 海外諸国での聴覚障害児に対する早期CI装用を含む早期介入手法等の実態調査
3. CI術後の多職種連携による効果的療育に係る好事例の収集
4. 青年・成人の先天性難聴症例に対するCIの効果に関する新たな知見の収集
5. 新スクで難聴が疑われた患児・家族のための、その後の療育のロードマップや情報提供のためのリーフレット等の作成
結果と考察
まず研究代表者と研究分担者で協議の上、国内外レベルで研究協力者を選定し、現在50人の小児難聴や人工内耳の分野で活躍している専門家に快諾を頂き、オールジャパンの研究体制を整えることができた。この体制でこれまでにすでに4回にわたり全国会議を開いて効率的研究方法、内容について協議した(5月11日大阪、8月4日東京、11月8日大阪、12月14日東京)。
令和元年度は上記の研究方法に記載した研究の1. および2. を重点的におこなった。1. に関しては、我が国の聴覚障害児の療育の問題点抽出と改善策の検討のため、研究組織で意見を抽出して28のクリニカルクエスチョン(Clinical question: CQ)を作成し、研究分担者、協力者のメンバーを専門領域により振り分けて各CQ担当グループを作り、それぞれでまず広範な文献検索を行った(Systematic review: SR)。その結果、ガイドラインに必要な15のCQと13の解説項目を確定し、各グループで抽出した文献のエビデンスレベルにしたがい推奨を検討して各CQの回答を出し、これらをもとに「難聴幼少児の療育ガイドライン」を策定する作業を行っている。現在のところ半数以上の項目(CQの73%、解説の85%)で文献検索SRが終了して、次の段階のAbstract table(抄録表)の作成、エビデンスレベルの確定の段階に入っている。一部ではすでにCQとして完成したものもあり、次年度中頃にはガイドライン全体の草稿(ドラフト)が完成する予定である。このように現在までにガイドラインの重要要素であるCQや解説の多くの部分で順調に結論が出つつある。 
また2. に関しては、米国カリフォルニア大学ロサンジェルス校(UCLA)耳鼻咽喉科およびその周辺の聴覚障害児を対象とした施設や学校の視察(令和2年1月6-11日)から多職種連携で重点的、効率的に行われている難聴児の療育法(新スクを含む)のエビデンスを収集・分析した。その結果、わが国でも以下のことが必要であることがわかった。
1) 聴覚専門の言語聴覚士(ST)の養成が必須であること
我が国の難聴児の療育に専従する専門職は米国に比べて非常に少なく、より多くの難聴療育専門のSTの要請が急務であると考えられた。
2) 新スクを法制化・無料化することが急務であること
米国では新スクが法制化されており検査は無料で行われており、新生児の新スク受診率はほぼ100%に近い。この体制は我が国でも必要である。
3) 難聴幼少児が法律で定められた早期介入の療育支援プログラムによりシームレスにケアされるシステムの整備が必要であること
難聴の早期診断後もCI術後にも米国のような行政主導での多職種がかかわる切れ目のない療育体制の確立が我が国でも必要である。
4) CI術後のリハビリテーションなどのコストはわが国でも十分に算定される必要があると考えられること
国民健康保険診療のわが国では上記の保険点数が低く、一つの難聴児療育体制構築の障害となっているため、早急な改善が望まれる。
結論
以上、現時点での研究成果から、難聴児の療育の改善には、早期の診断をより徹底できる体制や、難聴診断後やCI前後に豊富な専門スタッフによる適切な指導、教育が行える体制の財政面、人員面両面からの構築、そのための行政からの支援が急務であることがわかった。

公開日・更新日

公開日
2020-08-19
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2020-11-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201918025Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
23,267,000円
(2)補助金確定額
23,267,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,215,403円
人件費・謝金 1,419,680円
旅費 7,987,754円
その他 931,163円
間接経費 5,369,000円
合計 21,923,000円

備考

備考
研究のための言語聴覚士を採用する予定でしたが、当方の条件である聴覚の療育に特化した人材がいなかったため、採用を見送りました。また、分担者がろう学校を訪問する際に、同行頂く協力者へコーディネーター費用として謝金をお支払する予定でしたが、協力者が謝金の受け取りを辞退されたため、人件費の一部が不要となりました。上記の理由により、人件費、謝金が予定よりも大幅に減少したため、一部返金となりました。

公開日・更新日

公開日
2024-03-26
更新日
-