住民の健康に重点をおいた都市政策の客観的評価に関する総合的研究

文献情報

文献番号
199800752A
報告書区分
総括
研究課題名
住民の健康に重点をおいた都市政策の客観的評価に関する総合的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
高野 健人(東京医科歯科大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村桂子(東京医科歯科大学医学部)
  • 渡辺雅史(東京医科歯科大学医学部)
  • 金子善博(東京医科歯科大学医学部)
  • 矢島新子(東京医科歯科大学医学部)
  • リー・ベネット(東京医科歯科大学医学部)
  • デリュー・エバリン(リンバーグ大学健康科学部)
  • ファッジ・コリン(ウェストイングランド大学建築学部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
わが国の市部人口は1995年に9800万人を超え、西暦2000年には1億人に達する。国民の大半が広く全国都市域に生活する時代において、住民の健康に重点をおいた都市政策への注目が高まっている。しかしながら、現在のところ健康を重視した都市政策の客観的な評価に関する研究がなされていない。
客観的評価がむずかしい理由は、都市住民の健康が、都市の活発な経済活動、都市型消費、都市型生活、都市居住環境と密接な関係にあるからであり、原因と結果を示す従来型の単純な評価方法では対応できないことにある。本研究の目的は、(1)わが国の都市の健康諸指標、健康に関わる都市の諸条件(健康支援環境)の指標とこれらの変化量を数値化した指標データベースを構築し、(2)住民の健康水準の変化を鋭敏に評価する新たな数値指標を開発し、(3)健康に関わる様々な環境条件や社会経済的諸条件とその相互作用が住民の健康に及ぼす影響を明確にし、(4)健康を重視する都市政策の効果についてモデル都市を選んで実態調査を行い、(5)また国内外の都市政策評価研究のメタアナリシスを行い、以上を総合して、住民の健康に重点をおいた都市政策を客観的に評価しその効果を明示することにある。
研究方法
(a)統計法に基づく指定統計(人口動態統計、国勢調査、住宅統計調査、全国消費実態調査)、都道府県および区市町村の事業報告の統計をもとに、区市別の指標を算出し、住民の健康と都市政策に係わる我が国の都市指標データベースの構築を行った。(b)死亡率によらず、健康水準の変化を鋭敏に検知し、住民の健康に重点をおいた都市政策の成果の評価に役立つ指標に関する調査を行った。(c)全国693区市を対象に、健康都市あるいは健康のまちづくり事業の実績、健康都市宣言または類似の宣言に関する調査を実施し、健康に重点をおく都市政策の展開の現状を検討した。(d)都市の健康水準と健康に関与する諸条件の指標の相互の関係を、非線形多変量解析モデル、パス解析モデルにより解析し、都市の環境条件や社会経済条件が健康に影響を及ぼす場合の、相互作用の関係を考慮した分析手法について検討した。個別の都市指標および統合指標として作成した指標の地理的分布を、地理情報システム(GIS)により解析し、都市住民の健康水準と健康決定諸要因の都市空間における相互関係を検討した。
結果と考察
(a)全国798都市を対象に、都市健康水準と健康支援環境条件に関わる317指標のデータベースを構築した。(b)一般に、都市住民の健康水準の向上をめざした様々な取り組みが、健康水準そのものの変化として成果が反映されるまでには、数年から十数年の年月が必要である。行政や住民の取り組みを評価するには、住民の健康水準を、死亡率や有病率といった従来型の指標の他に、健康習慣や、地域活動をプロセス指標により評価する必要がある。健康に重点をおいた都市政策の客観的評価のためのプロセス指標として、自覚的健康者割合、ストレス症状有訴率、健康習慣実践者割合、虫歯罹患者率、現在喫煙者割合、有訴者率、健康診断受診率、予防接種率、医療機関まで遠い住宅割合、かかりつけ医のある者の割合、人口千人当たり衛生教育活動実施回数、地区組織活動に関する活動割合、座談会形式の活動割合、人口1万人当たり集会用公共施設の数、地域健康づくり推進協議会の設置、健康づくり人材の人数、区市町村社会体育事業の数、リクリエーションリーダーの人数、子育て支援事業の数、ボランティア活動の数、社会教育リーダー人材の人数、その他を示した。(c)全国693区市を対象とした健康都市あるいは健康のまちづくり事業、健康都市宣言または類似の宣言に関する調査について、564区市から回答を得た(回収率81.4%)。健康都市あるいは健康のまちづくり事業およびその関連事業を実施中の自治体は39.7%、過去に実施したことのある自治体は5.5%であった。16.5%の自治体から、健康を重視した都市づくり、まちづくり事業を実施したと回答を得た。健康都市宣言または類似の趣旨の宣言を実施したと回答した自治体は、25.4%であり、13.1%の自治体は、宣言の標題に「都市」の文言を含んでいた。(d)地理情報システム(GIS)による地理的分布の解析は、都市空間における都市の健康水準と健康決定諸要因の関連性を連続的に把握して解析する有用な手法である。健康決定要因間、健康決定要因と健康水準指標間の相互の関連性をふまえて、都市住民の健康水準に影響を及ぼす都市の諸要因に係わる指標解析を行う場合の解
析方法を示した。
都市は産業の発達とともに成長して効率的な経済活動を行う条件が集中し、さらにその条件が誘因となって益々発展してきた。活発な地域の経済活動は人々のより健康な生活を支えるものであるが、一方、健康な都市生活者の活動は地域の経済活動をさらに活性化することにも寄与すると考えられる。都市には様々な機能が集積し、その相互作用によって情報や知識が集中して都市の付加価値が生み出され、労働力や就業機会が集中するばかりでなく人口集積に伴って生まれる文化的機会や都市型消費生活が享受できる場を提供している。また、稠密、広域に発達する都市においては都市的土地利用が拡大し居住環境が大きく変容している。
都市に生活する国民の健康、ならびに栄養、食生活、運動、休養等の生活習慣は、都市の活発な経済活動、都市型消費、都市型生活、都市居住環境と密接な関係にある。注目すべき点は、健康水準を決定する要因が生活や都市の構造や機能のあらゆる部面に存在しており、その制御や整備、対応が、ひとつふたつの行政領域では対応できないことである。また公的部門だけで対応できるものでもない。健康水準を決定する環境要因は直接的に健康に影響を及ぼす場合だけでなく、環境条件が生活習慣や生活水準を変え、文化やライフスタイルを変容して、間接的に健康に影響を及ぼすメカニズムも存在する。このように成り立っている都市住民の健康は、原因と結果を示す従来型の単純な評価方法では対応できない。
従来までは、都市の健康の係わる評価指標と考えられていなかった指標や、生活習慣や地域健康推進活動のような、ヘルスプロモーションの中間成果を示す指標を評価指標として取り扱うことにより、都市において、住民の健康とそれを成り立たせている環境条件、社会経済条件の諸相を多角的に、同時に把握し、これら相互の関連を一連の事象として解析することが可能となった。つまり、予防活動、保健医療福祉資源、住居環境、教育水準、経済水準といった、健康決定諸要因が個別独立に健康水準に関与するしくみだけでなく、健康決定諸要因の相互の関連性をふまえた解析である。そして、都市単位の政策立案を考える場合、介入可能な健康決定要因を可変数として健康水準を決定する解析モデルを用いることにより、実際の都市政策にフィードバックしやすい結果を得ることができる。
構築したデータベースは膨大なデータベースであることと、健康決定諸要因の相互の関連性が多様で複雑であることから、住民の健康水準と、健康決定諸要因に関わる多項目からなる客観的指標の相互の関連性をふまえた解析手法を採用し、指標の組み合わせによる相互の関連性の変化を慎重に検討し、住民の健康を重視した都市政策の成果をわかりやすく提示する解析を行う必要がある。
本年度の研究成果として解析の基本モデルを示したので、健康を重視した都市政策の実施の有無別に、健康決定要因が住民の健康水準に影響をもたらすメカニズムを解明するなどの研究を発展させることが可能となった。本年度構築した、都市指標データベース、健康に重点をおいた政策の実施状況に基づいて解析を行うことにより、住民の健康に重点をおいた都市政策の成果を客観的に示すことが可能となる。
結論
都市住民の健康水準指標と社会経済条件ならびに環境条件を含む健康決定諸要因の指標の間には、相互に高い関連性を認めた。住民の健康に重点をおいた都市政策の客観的評価には、住民の健康水準を、死亡率や有病率といった従来型の指標の他に、健康習慣や、地域活動をプロセス指標により評価する必要がある。
住民の健康に重点をおいた都市政策の客観的評価には、住民の健康に係わる環境条件、社会経済条件といった健康決定諸要因の都市指標、ならびにプロセス指標の全体像を把握する必要である。
地理情報システムによる健康諸指標ならびに健康決定諸要因指標の解析では、都市間相互の地理的関係、広域都市圏における都市の地理的条件をふまえて、都市環境条件が住民の健康水準にもたらす影響を分析することが可能となった。
健康決定諸要因が都市住民の健康水準に及ぼす影響は、個々の要因の影響を個別に評価するのではなく、健康決定要因間の相互の関連性をふまえた上で、複数の健康決定要因の影響を同時に解析する分析手法を用いる必要がある。

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