若年性認知症の人の生活実態調査と大都市における認知症の有病率及び生活実態調査

文献情報

文献番号
201917003A
報告書区分
総括
研究課題名
若年性認知症の人の生活実態調査と大都市における認知症の有病率及び生活実態調査
課題番号
H29-認知症-一般-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
粟田 主一(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 自立促進と精神保健研究チーム)
研究分担者(所属機関)
  • 徳丸 阿耶(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 放射線診断科 )
  • 稲垣 宏樹(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 自立促進と精神保健研究チーム )
  • 菊地 和則(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 福祉と生活ケア研究チーム )
  • 岡村 毅(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 自立促進と精神保健研究チーム )
  • 杉山 美香(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 自立促進と精神保健研究チーム )
  • 枝広 あや子(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 自立促進と精神保健研究チーム )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
4,010,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は以下の2点にある。1.日本医療研究開発機構(AMED)において実施されている若年性認知症の有病率調査を補完するために、介護保険データと認知症疾患医療センターのデータを活用した若年性認知症の実態把握を行う。2.東京都板橋区高島平地区で実施されている認知症高齢者の生活実態調査を基礎にして、大都市における認知症有病率調査の課題を検討するとともに、大都市特有の認知症施策の課題解決に向けた基礎資料を得る。
研究方法
1)介護保険「第2号被保険者」及び「みなし第2号被保険者」のデータを自治体より入手して、「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱ以上を基準とする若年性認知症の有病率を把握する。2)全国の認知症疾患医療センター実績報告書を入手し、若年性認知症の診断別年間発生率を推計する。3)2016年度調査データを用いて、「認知症高齢者の日常生活自立度」とMMSE得点との関連を分析する。4)高齢者生活支援ニーズリストを用いて、地域在住高齢者の生活支援ニーズと認知機能・世帯状況との関連を分析する。5)2016年度調査でMMSE<24でありかつ社会支援ニーズがある高齢者66名を6か月間追跡し、地域生活継続に関連する要因を分析する。6)173名の地域在住高齢者を対象に頭部MRI検査を実施し、voxel-based morphometryを用いた統計学的解析によって、生活習慣及び心理検査結果との関連を分析する。
結果と考察
1)「第2号被保険者」に「みなし第2号被保険者」を追加すると若年性認知症の有病率が1.6倍増加し、40歳~64歳人口10万対159.1人となった。2)2017年に認知症疾患医療センターで診断された若年性認知症患者数は1,733人であり、年間発生率は18歳~64歳人口10万対2.47人であった。3)「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱa以上の高齢者のMMSE得点は、Ⅱa未満の高齢者よりも有意に高かった。要介護認定を受けている70歳以上高齢者において、認知機能低下(MMSE<24)を基準とした場合の「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱa以上の感度は0.419、特異度は0.821であった。4) 認知機能低下を認める高齢者は、認知機能低下を認めない高齢者よりも、広範な領域で有意に高い頻度で日常生活支援ニーズを自覚していた。5) 生活支援ニーズと居住支援ニーズが充足されていない認知症高齢者では、地域生活の継続が困難な高齢者が有意に多かった。6)側頭葉内側萎縮が12%に認められ、萎縮が海馬腹側・扁桃に限局する群と頭頂葉にまでひろがる広範な萎縮を伴う群に大別された。いずれも軽度認知障害レベルにあるものが多かったが、萎縮限局群は広範萎縮群に比べ、ATM操作などの日常生活スキルが保持されているが社会参加に乏しい傾向が認められた。
結論
1.わが国の若年性認知症施策の基礎資料として、介護保険データと認知症疾患医療センターのデータを用いた実態把握を経年的に行うことの意義は大きい。但し、介護保険データを使用する場合には、「第2号被保険者」に「みなし第2号被保険者」を追加して分析する必要がある。認知症疾患医療センターの臨床統計データはわが国の若年性認知症の発生率の推計に有用である。但し、性・年齢の基本情報を確保するなど、研究デザインの洗練化が求められる。2.認知機能低下(MMSE<24)を基準とした場合の「認知症高齢者の日常生活自立度」Ⅱa以上の感度は0.419,特異度は0.821である。認知機能低下高齢者では、軽度の段階から,広範な領域に生活支援ニーズが自覚されている。生活支援ニーズ、居住支援ニーズが充足されない認知症高齢者は、地域生活の継続が困難になりやすい。包括的な生活支援の提供を可能とする地域の拠点を設置することが、大都市に暮らす認知症高齢者の地域生活の継続にとって重要である。側頭葉内側限局萎縮群では、アルツハイマー病初期と嗜銀顆粒性認知症を鑑別することが生活支援のあり方を考える上でも重要である。

公開日・更新日

公開日
2020-07-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2020-07-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201917003B
報告書区分
総合
研究課題名
若年性認知症の人の生活実態調査と大都市における認知症の有病率及び生活実態調査
課題番号
H29-認知症-一般-003
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
粟田 主一(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 自立促進と精神保健研究チーム)
研究分担者(所属機関)
  • 徳丸阿耶(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所)放射線診断科)
  • 稲垣宏樹(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 自立促進と精神保健研究チーム)
  • 菊地和則(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 福祉と生活ケア研究チーム)
  • 岡村毅(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 自立促進と精神保健研究チーム)
  • 杉山美香(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 自立促進と精神保健研究チーム)
  • 枝広あや子(地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) 自立促進と精神保健研究チーム)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 認知症政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究も目的は,1.日本医療研究開発機構(AMED)において実施されている若年性認知症の有病率調査を補完するために,介護保険データと認知症疾患医療センターのデータを活用した若年性認知症の実態把握を行うとともに,2.大都市における認知症有病率・生活実態調査の課題を検討し,大都市特有の認知症施策の課題解決に向けた基礎資料を得ることにある.
研究方法
1. 1)「第2号被保険者」及び「みなし第2号被保険者」のデータを入手して,「認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上」を基準とする若年性認知症の有病率を把握した.2)全国の認知症疾患医療センター実績報告書を入手し,若年性認知症の年間発生率を推計した.2. 1)認知症高齢者の有病率・生活実態調査の課題解決に向けて,①2016年度に実施した70歳以上高齢者7,614名の悉皆調査のデータを用いて参加率向上の方法論を検討し,②縦断調査によって認知機能低下の発生要因を検討し,③「認知症高齢者の日常生活自立度」と認知機能低下との関連を分析した.2)地域在住高齢者の生活支援ニーズを分析するために,①高齢者生活支援ニーズリストを作成し,②生活支援を提供するための地域拠点の開発を試み,③高齢者の生活支援ニーズと認知機能との関連を分析した.3)認知症高齢者の地域生活継続の要因を分析するために,①MMSE23点以下の高齢者198名の社会支援ニーズを分析し,②認知症の状態にあり,かつ何らかの社会支援ニーズ認めた66名を追跡し,③地域生活継続の関連要因を分析した.4)173名の高齢者に頭部MRI検査を実施し,①有所見率を検討し,②局在萎縮と生活状況・認知機能との関連,③側頭葉内側面萎縮と生活実態との関連を分析した。
結果と考察
1. 1)「認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱ以上」を若年性認知症とした場合の有病率は人口10万対101.9人であったが,これに「みなし第2号被保険者」を加えると159.1人となり1.6倍増加した.2) 2018年に認知症疾患医療センターで診断された若年性認知症患者数は1,733人,年間発生率は18歳~64歳人口10万対2.47人であった.2. 1)大都市における認知症高齢者の有病率・生活実態調査では,①訪問調査参加者は,会場調査参加者に比較して身体的健康・ADL・認知機能・社会参加・精神的健康が不良で,教育年数・年収が低く,年齢が高く,要介護状態であることが多かった.②認知機能低下の新たな発生には年齢と教育歴が関係した.③要介護認定を受けている70歳以上高齢者において,認知機能低下(MMSE23点以下)を弁別する場合の「日常生活自立度Ⅱa以上」の感度は0.419,特異度は0.821であった.2)地域在住高齢者を対象とする調査で,①5因子構造の高齢者生活支援ニーズリストが作成され,②認知機能低下を認める高齢者は,認めない高齢者よりも,広範な領域で有意に高い頻度で生活支援ニーズを自覚されており,③地域拠点の活動が,信頼感の醸成,健康の維持,生活支援の確保,本人の希望の実現に寄与した.3)66名の認知機能低下高齢者のうち地域生活が6ヶ月間以上継続できたのは49名であり,生活支援ニーズと居住支援ニーズの不充足が地域生活継続の破綻に関連した.4)①MMSE23点以下の高齢者の有所見率は65%,②小脳,海馬,線条体の萎縮が日常生活における不便さや活動性低下と関連した.③側頭葉内側萎縮が12%に認められ,萎縮が海馬腹側・扁桃に限局する群と頭頂葉にまで広がる群に大別された.いずれも軽度認知障害レベルの者が多かったが,萎縮限局群は広範萎縮群に比べ,日常生活スキルが保持されているが社会参加に乏しい傾向が認められた.
結論
1.介護保険データと認知症疾患医療センターのデータを用いた若年性認知症の実態把握を経年的に行うことが可能である.但し,介護保険データを使用する場合には,「第2号被保険者」に「みなし第2号被保険者」を追加して分析する必要がある.また,認知症疾患医療センターの臨床統計データを用いる場合には,性・年齢の基本情報を確保する必要がある.2. 大都市の認知症有病率・生活実態調査には訪問調査が不可欠である.「認知症高齢者の日常生活自立度Ⅱa以上」を認知症の判定基準に用いる場合には,認知機能低下高齢者の弁別能に限界があることに留意する必要がある.認知機能低下高齢者では,軽度の段階から,広範な領域に生活支援ニーズが自覚されている.生活支援/居住支援ニーズ不充足は,認知症高齢者の地域生活破綻のリスクを高める.生活支援の提供を可能とする地域拠点を設置することが,大都市に暮らす認知症高齢者の地域生活の継続にとって重要である.側頭葉内側萎縮を認める高齢者では,アルツハイマー型認知症と嗜銀顆粒性認知症の違いを考慮して生活支援のあり方を検討する必要がある.

公開日・更新日

公開日
2020-10-27
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-10-27
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201917003C

収支報告書

文献番号
201917003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
5,213,000円
(2)補助金確定額
5,213,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 945,665円
人件費・謝金 922,201円
旅費 148,712円
その他 1,600,968円
間接経費 1,203,000円
合計 4,820,546円

備考

備考
当初予定していた委託業務の一部を研究所内の人員で対応することができたため、委託費の支出が予定より少なくて済んだ。

公開日・更新日

公開日
2020-08-04
更新日
-