小児からの臓器提供に必要な体制整備に資する教育プログラムの開発

文献情報

文献番号
201914003A
報告書区分
総括
研究課題名
小児からの臓器提供に必要な体制整備に資する教育プログラムの開発
課題番号
H30-難治等(免)-一般-101
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
荒木 尚(埼玉医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 瓜生原 葉子(同志社大学 商学部)
  • 多田羅 竜平(地方独立行政法人大阪市民病院機構大阪市立総合医療センター 緩和医療科)
  • 西山 和孝(北九州市立八幡病院 小児科)
  • 種市 尋宙(富山大学大学院医学薬学研究部(医学))
  • 日沼 千尋(東京女子医科大学 看護学部)
  • 別所 晶子(埼玉医科大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 移植医療基盤整備研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
3,281,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 改正法施行により小児の脳死下臓器提供が可能となった2010 年 7 月 17 日以降 18 歳未満の小児の脳死下臓器提供は 42 件(2019 年 10 月 31 日時点)に至り、緩徐ながら増加しつつある。しかし本邦の脳死下、心停止後臓器提供は他の先進国と比較すると極端に少ない。その理由の一つとして、救急や脳神経外科施設で脳死とされうる状態になった患者家族に対して臓器提供に関する情報をいかに提供するか、という問題が長く指摘されている。過年度より、本研究では、これまで臓器提供に至った事例の検証を行い、小児の脳死下臓器提供の課題を抽出すべく、本研究班は「18歳未満の小児の脳死下臓器提供を実施した施設のうち施設名公表について家族同意を得た医療機関」を訪問し、聞き取り調査を実施した。対象症例数は 11 例、聞き取り調査研究計画書に記載された項目について解析を行い、小児例の特殊性を明らかにすることを目的としている。例えば、小児の場合、被虐待児からの臓器提供が出来ないことから、虐待防止委員会の開催に関する判断については、被虐待児除外マニュアルのみにとらわれず、虐待評価について臨機応変に対応していることが判明した。また、体制整備や家族対応は行われるが、オプション提示の時期や虐待除外について相違があることが明らかになった。また臨床心理士等による家族ケアの重要性について文献研究からも強調されていた。今後、多岐にわたる小児特有の課題は、救急初期診療・法的脳死判定・虐待の除外・家族ケア・小児の意思表示の 5 段階に分類され、既存マニュアル等と照合を行い必要な対策を考察し、最終的には検討課題に対する具体的な指針を盛り込んだ教育ツールの開発を進める。
研究方法
 研究班は、公益社団法人日本臓器移植ネットワークに登録されていた18歳未満の小児の脳死下臓器提供を実施した施設のうち施設名公表について家族同意を得た医療機関リストの提供を受け、別途申請承認後入手した匿名加工データに基づいて訪問予定を作成した。順次施設訪問を行って聞き取り調査を実施した。本研究は介入研究や観察研究ではないが、匿名性の高い診療情報を取り扱うことから、埼玉医科大学総合医療センター倫理委員会の承認を得た。研究に際しては人を対象とした医学系研究に関する倫理指針(平成26年12月 文部科学省、厚生労働省)に則って行った。
結果と考察
研究の主体である小児の脳死下臓器提供の現状の把握については、日本臓器移植ネットワークから提供された18歳未満の小児の脳死下臓器提供を実施した施設のうち施設名公表について家族同意を得た医療機関を訪問し、聞き取り調査を実施した。臓器の移植に関する法律の一部を改正する法律の施行から間もない時期に経験された実務的な情報は極めて貴重であり、様々な点に於いて示唆に富むものである。研究の主体である小児の脳死下臓器提供施設からの全国聞き取り調査については、令和2年2月20日に完了した。報告書の記載通り、わが国の小児の脳死下臓器提供の制度の理解や実際の運用における課題が明らかにされつつある。一方、家族から臓器提供の申し出を受け、それまで成人例を含め臓器提供の経験が一切なかった施設が、独自の医療資源を動員し、関係諸機関と円滑に連携を図りながら、家族の尊い意思を叶えるために尽力をした姿が明らかとなり、強く胸を打つ。制度運用が社会に浸透していく経過の中にあって、小児脳死下臓器提供の黎明を支えた医療従事者各位に心から敬意を表せずにはいられない。同時に制度上非効率な部分、負担軽減につながる部分については、抜本的な改訂の可能性を一切否定することなく進められることを切に提言する。

結論
法改正を受けて小児からの脳死下臓器提供が可能となった医療現場の実情が明らかとなった。法律施行の時点で懸念されていた被虐待児の除外や、家族ケアなど小児特有の課題については提供施設の独自の判断に拠り解決されており、いずれも問題となるような症例は存在しなかった。一方、担当した医療従事者のコメントには深い洞察が込められており、移植医療に伴う生命倫理上の課題に葛藤しつつ、目前の臨床に応用する臨床能力を習得するための教育プログラムが必要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2021-01-06
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2021-01-06
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201914003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,265,000円
(2)補助金確定額
4,265,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 395,910円
人件費・謝金 941,966円
旅費 758,820円
その他 1,184,330円
間接経費 984,000円
合計 4,265,026円

備考

備考
研究費に不足が生じ、消耗品費の不足分を自己負担にて支払ったため。

公開日・更新日

公開日
2023-03-07
更新日
-