文献情報
文献番号
201911036A
報告書区分
総括
研究課題名
神経免疫疾患のエビデンスによる診断基準・重症度分類・ガイドラインの妥当性と患者QOLの検証
課題番号
H29-難治等(難)-一般-043
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
松井 真(金沢医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
- 荻野 美恵子(国際医療福祉大学 医学部)
- 和泉 唯信(徳島大学大学院 医歯薬学研究部)
- 河内 泉(新潟大学大学院 医歯学総合研究科)
- 神田 隆(山口大学大学院 医学系研究科)
- 吉良 潤一(九州大学大学院 医学研究院)
- 楠 進(近畿大学 医学部)
- 栗山 長門(京都府立医科大学 医学部)
- 桑原 聡(千葉大学大学院 医学研究院)
- 酒井 康成(九州大学大学院 医学研究院)
- 清水 潤(東京工科大学 医療保健学部)
- 清水 優子(東京女子医科大学 医学部)
- 園生 雅弘(帝京大学 医学部)
- 祖父江 元(名古屋大学大学院 医学系研究科)
- 田原 将行(宇多野病院 臨床研究部)
- 中辻 裕司(富山大学 学術研究部医学系)
- 中原 仁(慶應義塾大学 医学部)
- 中村 幸志(琉球大学大学院 医学研究科)
- 中村 好一(自治医科大学 地域医療学センター)
- 新野 正明(北海道医療センター 臨床研究部)
- 野村 恭一(埼玉医科大学 総合医療センター)
- 藤原 一男(福島県立医科大学 医学部)
- 松尾 秀徳(長崎川棚医療センター 臨床研究部)
- 村井 弘之(国際医療福祉大学 医学部)
- 本村 政勝(長崎総合科学大学 工学部)
- 山村 隆(国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)
- 横田 隆徳(東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科)
- 吉川 弘明(金沢大学 保健管理センター)
- 渡邊 修(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
11,200,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 中村幸志
北海道大学大学院医学研究院(平成31年4月1日~令和元年6月30日)→琉球大学大学院医学研究科(令和元年7月1日以降)
研究報告書(概要版)
研究目的
神経免疫疾患に関する疫学や病態の変遷、治療による疾患アウトカムの変化などを評価するとともに、ガイドライン等の策定が患者QOLの改善に結びついているかを検証する。先ず、重症筋無力症(MG)と多発性硬化症(MS)・視神経脊髄炎(NMOSD)について、従来の全国調査結果と比較検討できるような内容を盛り込んだ全国調査を行い、患者の予後、経済的負担およびQOLが、近年の医療情勢の中でどのように変化したのかを解析する。また、従来のガイドライン下での診療実態を明確にすることで、新規ガイドラインによるQOLのさらなる改善があるか、将来の全国調査結果と比較し得る情報を整える。次に、近年免疫介在性の病態を有することが判明した疾患である自己免疫介在性脳炎、スティッフパーソン症候群(SPS)、Lambert-Eaton筋無力症候群(LEMS)の3疾患についても全国調査を行い、疾患概要作成に資する情報を整える。予後不良患者が少なからず存在するギラン・バレー症候群についても研究対象とした。
研究方法
研究対象となる神経免疫疾患の領域別担当幹事を指名し、リーダーとしてグループ内で意見を調整しながら具体的かつ主体的に調査研究を進める方法を採用した。全国調査は大きな比重を占めるため、疫学グループを含めた7グループ(研究分担者・研究協力者の重複所属を妨げない)で研究を進めた。なお、倫理面への配慮については以下のように取り扱った。多施設間の疫学調査は、中心となる施設における倫理委員会の承認のみで十分と判断された施設の参加によって行われた。一方、施設単位での研究は、各研究分担者・研究協力者の所属する施設の倫理規定に従って行なわれた。
結果と考察
MG全国調査の結果、2017年中の推定受療患者数29,210人(95%信頼区間:26,030~32,390)、有病率は人口10万人あたり23.1人(95%信頼区間:20.5~25.6)と判明した。発症年齢の中央値は、男性で60歳、女性で54歳と比較的高く、男女比は1:1.15でわずかに女性が多かった。眼筋型は36.9%、抗アセチルコリン受容体抗体陽性患者は85.1%、抗筋特異的チロシンキナーゼ抗体陽性患者は2.7%であった。胸腺摘除術は36.5%の患者に施行されていた。MS・NMOSDの全国調査は、2017年1年間の受診者を対象に行われ、一次調査票回収率は60.1%、二次調査票は6,956例(53.2%)の回答が得られた。暫定的に推定されたMS+NMOSD患者数は24,713人、有病率は人口10万人あたり19.5人であった。MSは4,926例(男女比、1:2.4)、NMOSDは1,829例(男女比、1:6.2)であった。臨床像を比較すると、NMOSDではMSよりも女性の割合が高かった。また、MSはNMOSDに比して発症年齢が低く、喫煙率が高いことが判明した。この結果、日本人MSにおいても欧米と同様に喫煙がリスク因子であることが確認された。自己免疫介在性脳炎の二次調査により(584症例)、NMDAR脳炎が47.9%と最も多く、平均年齢は28歳、男女比は1:3で、女性に特異的な疾患ではないことが判明した。VGKC複合体抗体関連脳症は10.8%を占め、平均年齢53歳で、男女比は3:2であった。この疾患では、抗LGI1抗体陽性例が32%、抗Caspr2抗体陽性例が3%であった。SPSは二次調査の途中集計30例の解析の結果、抗GAD抗体陽性者21名の平均発症年齢は51.9歳であるが23~83歳と幅広い年齢層に分布し、男女比は5:16で女性に多かった。抗MOG抗体陽性症候群は疾患単位としては確立していないが、ステロイド薬パルス療法を繰り返すか、血漿浄化療法を組み合わせることで予後が改善すること、また、ギラン・バレー症候群で人工呼吸器装着を要する患者では顔面麻痺や球麻痺の合併があるほか、Erasmus GBS respiratory insufficiency score (EGRIS)の採用が有用であることが示された。さらに、MS・NMOSD患者の末梢血や髄液リンパ球のフローサイトメトリー解析が、疾患活動性や治療反応性の指標として有用であることが確認された。
結論
令和2年1月16日から17日にかけて日本都市センターホテル(東京)において、神経免疫疾患関連実用化研究班10班とともに合同班会議を開催した。その結果、研究対象となる神経難病に対してアプローチが異なる実用化研究班と政策研究班が参加して行う意見交換が、対象疾患に関する問題提起とその解決へ至るための確実な道のりであることが確認された。政策研究班と実用化研究班が有機的に結びついた合同班会議の開催は、厚生労働行政における国民の健康増進という課題に取り組むための優れた方法の一つである。
公開日・更新日
公開日
2021-05-27
更新日
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