文献情報
文献番号
201911033A
報告書区分
総括
研究課題名
脊柱靭帯骨化症に関する調査研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H29-難治等(難)-一般-040
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
大川 淳(国立大学法人東京医科歯科大学 整形外科学)
研究分担者(所属機関)
- 岩崎 幹季(独立行政法人労働者健康福祉機構 大阪労災病院整形外科)
- 中嶋 秀明(福井大学 医学部)
- 川口 善治(富山大学医学部整形外科)
- 山崎 正志(国立大学法人 筑波大学 医学医療系)
- 中村 雅也(慶應義塾大学医学部)
- 松本 守雄(慶應義塾大学医学部整形外科学)
- 竹下 克志(自治医科大学 整形外科)
- 今釜 史郎(名古屋大学 医学部附属病院)
- 松山 幸弘( 国立大学法人浜松医科大学 医学部)
- 芳賀 信彦(東京大学 医学附属病院)
- 森 幹士(滋賀医科大学医学部)
- 山田 宏(和歌山県立医科大学医学部整形外科学講座)
- 遠藤 直人(新潟大学 教育研究院医歯学系 i医歯学総合研究科整形外科学分野)
- 谷口 昇(鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科)
- 高畑 雅彦(北海道大学医学研究科)
- 小澤 浩司(東北医科薬科大学医学部)
- 出村 諭(金沢大学附属病院整形外科)
- 種市 洋(獨協医科大学 医学部)
- 山本 謙吾(東京医科大学 整形外科)
- 渡辺 雅彦(東海大学 医学部)
- 藤林 俊介(京都大学大学院医学研究科 運動器機能再建学講座)
- 田中 雅人(岡山大学 医歯薬学総合研究科)
- 今城 靖明(山口大学 大学院医学系研究科)
- 中島 康晴(九州大学大学院医学研究院整形外科)
- 吉井 俊貴(東京医科歯科大学大学院 整形外科学)
- 波呂 浩孝(山梨大学大学院医学工学総合研究部整形外科)
- 古矢 丈雄(国立大学法人千葉大学 医学部附属病院整形外科)
- 和田 簡一郎(国立大学法人弘前大学 医学部附属病院)
- 山田 圭(久留米大学 医学部 整形外科)
- 筑田 博隆(国立大学法人群馬大学 大学院医学系研究科)
- 海渡 貴司(大阪大学大学院医学系研究科 器官制御外科学 (整形外科))
- 石井 賢(国際医療福祉大学 医学部整形外科)
- 大島 寧(東京大学医学部附属病院整形外科)
- 藤原 武男(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科 国際健康推進医学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患政策研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
14,748,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
脊柱に靭帯骨化をおこす、後縦靱帯骨化症(OPLL)、黄色靭帯骨化症(OYL)、びまん性特発性骨増殖症(DISH)、進行性骨化性線維異形成症(FOP)の診断基準、重症度分類、診療ガイドライン(GL)の作成、改訂に資するエビデンス集積のため、各疾患に対する多施設研究を行う。
研究方法
1)ハイリスク脊椎手術における術中脊髄モニタリングの精度
2)CTを用いた前向き全脊椎骨化巣評価
3)DISHにおける脊椎損傷 前向き調査
4)頚椎OPLL患者における転倒の影響 前向き調査
5)胸椎OYLの前向き手術症例調査
6)FOP患者のQOL調査、レジストリ作成
など、複数の多施設共同研究を遂行し、医学的根拠を蓄積していく
2)CTを用いた前向き全脊椎骨化巣評価
3)DISHにおける脊椎損傷 前向き調査
4)頚椎OPLL患者における転倒の影響 前向き調査
5)胸椎OYLの前向き手術症例調査
6)FOP患者のQOL調査、レジストリ作成
など、複数の多施設共同研究を遂行し、医学的根拠を蓄積していく
結果と考察
1)振幅の70%低下をBr(E)-MsEPのアラームポイントとした。モニタリングを施行した2867例中真陽性は126例、偽陽性は234例、偽陰性は9例であった。モニタリングの精度は感度93.3%、特異度91.0%、陽性的中率35.0%、陰性的中率99.6%であった。術中脊髄モニタリングを解析すると,ハイリスク脊椎手術の約12%に神経障害が術中に予見できた。そのうちの6割の症例で術後麻痺を回避できた。これらの症例の術中モニタリングの有用性が示された。
2)男性163例女性76例で、平均年齢は63.9歳、平均JOAスコアは12.3点であった。頚椎OP分類と頚部痛、上肢しびれ、腰痛のVASとの有意な相関は見られなかった。JOACMEQで下肢機能、BPEQでは社会生活が頚椎OP分類と相関した。JOAスコア各項目でも下肢運動機能のみ頚椎OP分類と相関していたが、その他の項目は有意な関連はなかった。一方で頚椎OP分類が上がるほどOPLLによる骨化脊柱管占拠率、びまん性特発性骨増殖症の程度、他の脊柱靭帯骨化の存在数などが有意に増加する傾向が分かった。
3)平成27年12月より69例 (男性44例、女性25例、平均年齢 75.2±11.4歳)を対象とした。診断の遅れ、医療機関受診までの日数、正しい診断までの日数、診断名、受傷時の神経症状(Frankel分類)と一段階以上神経症状の悪化例について検討した。
55.1%で診断の遅れがあり、その理由はdoctor’s delayが55.3%、patient’s delayが44.7%であった。受傷時の神経症状はFrankel B 2.9%、C 7.2%、D 15.9%、E 73.9%であったが、17.2%に遅発性麻痺を認め、受傷から14日以内に診断不能だった場合に神経症状の悪化例を多く認めた(p=.049)。
4)132名(男83名,女49名,平均年齢69歳)を分析の対象とした。平均観察期間は術前1.8カ月,術後12.1カ月であった.術前96回,術後119回の転倒が観察され,観察人年当たりの転倒発生は術前5.0回から術後0.9回と5分の1に以下に減少していた.転倒1回当りの運動悪化の発生頻度は,術前34%が術後8%と有意に減少していた(P<0.001).術前に転倒時の「動き悪化」が発生した17症例では,悪化がなかった症例に比較して術後1年時のJOAスコアが有意に低値であった(P=0.02).
5)胸椎黄色靱帯骨化症に対して手術治療が行われた223例を対象とした。術式はinstrumentation併用後方固定術109例、除圧術114例で、周術期合併症は術後運動麻痺悪化9例(4.0%)、髄液漏5例、深部感染3例であった。JOAスコアは術前6.2点、1年時8.2点、2年時8.2点であった。術式間比較では、術前JOAスコアは除圧術6.5点、後方除圧固定術6.0点、術後1年時JOA改善率が除圧術37.1%、後方除圧固定術44.9%と有意差を認めた(p<0.05)。比較的強い脊髄障害に対してインストゥルメンテーション併用固定術が選択されたと考えられた。
6)FOP患者50名の性別の内訳は男性28名、女性22名であった。50名中47名が遺伝子検査を受けており、うち44名は617G>A (R206H)のcommon mutationを示した。その他の3名はそれぞれ774G>T(2015に研究班が報告)、587T>C、982G>A、であった。今後のFOP臨床研究、さらには候補治療薬の治験等を進めるためには、日本人患者の情報収集が重要な役割を果たす。そこで患者レジストリ構築の準備を開始し、事務局を置く東京大学の体制を整備した。
2)男性163例女性76例で、平均年齢は63.9歳、平均JOAスコアは12.3点であった。頚椎OP分類と頚部痛、上肢しびれ、腰痛のVASとの有意な相関は見られなかった。JOACMEQで下肢機能、BPEQでは社会生活が頚椎OP分類と相関した。JOAスコア各項目でも下肢運動機能のみ頚椎OP分類と相関していたが、その他の項目は有意な関連はなかった。一方で頚椎OP分類が上がるほどOPLLによる骨化脊柱管占拠率、びまん性特発性骨増殖症の程度、他の脊柱靭帯骨化の存在数などが有意に増加する傾向が分かった。
3)平成27年12月より69例 (男性44例、女性25例、平均年齢 75.2±11.4歳)を対象とした。診断の遅れ、医療機関受診までの日数、正しい診断までの日数、診断名、受傷時の神経症状(Frankel分類)と一段階以上神経症状の悪化例について検討した。
55.1%で診断の遅れがあり、その理由はdoctor’s delayが55.3%、patient’s delayが44.7%であった。受傷時の神経症状はFrankel B 2.9%、C 7.2%、D 15.9%、E 73.9%であったが、17.2%に遅発性麻痺を認め、受傷から14日以内に診断不能だった場合に神経症状の悪化例を多く認めた(p=.049)。
4)132名(男83名,女49名,平均年齢69歳)を分析の対象とした。平均観察期間は術前1.8カ月,術後12.1カ月であった.術前96回,術後119回の転倒が観察され,観察人年当たりの転倒発生は術前5.0回から術後0.9回と5分の1に以下に減少していた.転倒1回当りの運動悪化の発生頻度は,術前34%が術後8%と有意に減少していた(P<0.001).術前に転倒時の「動き悪化」が発生した17症例では,悪化がなかった症例に比較して術後1年時のJOAスコアが有意に低値であった(P=0.02).
5)胸椎黄色靱帯骨化症に対して手術治療が行われた223例を対象とした。術式はinstrumentation併用後方固定術109例、除圧術114例で、周術期合併症は術後運動麻痺悪化9例(4.0%)、髄液漏5例、深部感染3例であった。JOAスコアは術前6.2点、1年時8.2点、2年時8.2点であった。術式間比較では、術前JOAスコアは除圧術6.5点、後方除圧固定術6.0点、術後1年時JOA改善率が除圧術37.1%、後方除圧固定術44.9%と有意差を認めた(p<0.05)。比較的強い脊髄障害に対してインストゥルメンテーション併用固定術が選択されたと考えられた。
6)FOP患者50名の性別の内訳は男性28名、女性22名であった。50名中47名が遺伝子検査を受けており、うち44名は617G>A (R206H)のcommon mutationを示した。その他の3名はそれぞれ774G>T(2015に研究班が報告)、587T>C、982G>A、であった。今後のFOP臨床研究、さらには候補治療薬の治験等を進めるためには、日本人患者の情報収集が重要な役割を果たす。そこで患者レジストリ構築の準備を開始し、事務局を置く東京大学の体制を整備した。
結論
靭帯骨化症調査研究班として現在の体制の3年を終了し、多施設前向き研究から多数の成果が出ており、国際誌に報告している。また研究班で得られた成果を、新しく発刊した脊柱靱帯骨化症診療ガイドラインに数多く反映させている。
公開日・更新日
公開日
2021-07-20
更新日
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