文献情報
文献番号
201909003A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性期における脳卒中を含む循環器病診療の質の評価に関する研究
課題番号
H29-循環器等-一般-005
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
安田 聡(国立循環器病研究センター 心臓血管内科)
研究分担者(所属機関)
- 坂田 泰史(大阪大学大学院医学系研究科)
- 辻田 賢一(熊本大学大学院生命科学研究部)
- 中山 健夫(京都大学大学院医学研究科)
- 豊田 一則(国立循環器病研究センター 病院)
- 宮本 恵宏(国立循環器病研究センター 循環器病統合情報センター)
- 西村 邦宏(国立循環器病研究センター 予防医学・疫学情報部)
- 中尾 一泰(国立循環器病研究センター 心臓血管内科)
- 中尾 葉子(国立循環器病研究センター OIC 循環器病統合情報センター)
- 宍戸 稔聡(国立循環器病研究センター 研究推進支援部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
6,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
我が国における脳卒中を含む循環器病診療の質向上へとつなげることを目的とする。
研究方法
循環器疾患診療実態調査JROADや脳卒中データバンクなどの既存のデータベースを活用して上記目的に関する解析を行った。
結果と考察
結果:
JROAD-DPC の4年間(2012-2015年) 約50万人件のデータを解析した。本邦では4年間で半数以上が複数回の入院(再入院)をしている実態が明らかになった:再入院ありn=273,938(55%) vs. 再入院なし n=224,594 (45%)。2014年4月から2015年3月に収集されたJROAD-DPCデータベースに関して更に詳細な分析を行った。主要3病名に心不全を含む92,923例 741施設に関して、心不全診療入院患者における医療の質指標と心不全再入院の関連性について検討した。多変量解析において、処方率・検査率が多い病院ほど再入院率が低いことが明らかになった。
循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業「既存データベースの活用による虚血性心疾患・大動脈疾患診療の実態把握ならびに医療体制構築に向けた指標の確立のための研究」(研究代表者:大阪大学大学院循環器内科学 坂田泰史教授)とも連携、心筋梗塞2次予防のためのガイドライン推奨薬剤の処方率が「医療の質」評価の指標となり得ることを論文発表した:. J Am Heart Assoc. 2019 Apr 2;8(7): e009692。
我が国の心不全外来診療実態を明らかにすることを目的にNDB利用準備を進め、オンサイトリサーチセンター(京都大学)を利用したNDB-HF studyを申請、その後レセプト情報等の提供に関する申出 を行い承諾(2019年11月)された。利用可能なNDBオープンデータ(一般病院を含む)およびJROAD-DPCデータ(循環器専門病院)を用いて、我が国の心不全患者数および心不全関連検査に関する都道府県別実態調査を実施した。BNPは324,402件、心臓超音波検査は325,685件と、両検査ともじほぼ同程度の件数が実施されており、BNPは73.3%, 心臓超音波検査 73.5%と高い割合で実施されていた。
脳卒中データバンクでは SSMIX-2と連携した新システムを導入・介護保険情報 及び回復期, 療養型, 急性期転院など詳細な退院先情報収集を収集した。入院前の要介護度が重いほど入院時の脳卒中神経学的重症度、退院時ADLが重症で、自宅退院率が低いこと を明らかにした。
M市(日本全体の人口構成と類似)の国保/後期高齢者診療報酬請求情報・介護請求情報・特定健診情報収集を行った。2015年7月-2016年3月に国保または後期高齢者保険被保険者である65歳以上の35,493人を分析対象とした。平均年齢は77.1歳、男性42.7%だった。2015年10月-2016年3月の総医療費は139億円、介護費は68億円だった。2015年9月のレセプトから心不全(I50)の入院症例を抽出したところ 439例(1.8%)が該当した。心不全入院群では対照群に比し年齢が高く(85歳平均)、女性が優位で、要介護認定も半数を超える という結果であった。心不全および脳卒中の入院により医療費および介護費の総費用は増加し、死亡割合も増加した。心不全入院回数が増加するに従い医療費は8万増、介護費は3.7万減、1月当たり4万円増加に傾くことが明らかになった(脳卒中では25万円の増加)。介護費の減額にいては、入院により介護費が減ったことが要因と推測された。心不全及び脳卒中の発症・再発予防をおこなうことでこれらの費用を抑制することが必要であると考えられた。
熊本大学付属病院介護指示書のデータを用いて介護実態を調査した:心臓疾患での介護申請は少なく、具体的な塩分制限や体重管理指示は少ないという問題点が明らかになった。
考察:
本研究の主たる対象疾患である慢性心不全では、心不全の増悪による再入院をいかに起こさないようにすることが、患者の生活の質を維持するために、また医療費の観点からの重要であると考えられた。その対策の一つが 心不全に関するガイドライン推奨薬剤・検査の遵守で、QIとしても重要である。診療の質の評価としてプロセス指標が本邦においても適応可能であることを明らかにできた意義は大きい。ナショナルデータベース(NDB)を用いて、我が国の心不全外来診療実態についても今後評価されることが期待される。
JROAD-DPC の4年間(2012-2015年) 約50万人件のデータを解析した。本邦では4年間で半数以上が複数回の入院(再入院)をしている実態が明らかになった:再入院ありn=273,938(55%) vs. 再入院なし n=224,594 (45%)。2014年4月から2015年3月に収集されたJROAD-DPCデータベースに関して更に詳細な分析を行った。主要3病名に心不全を含む92,923例 741施設に関して、心不全診療入院患者における医療の質指標と心不全再入院の関連性について検討した。多変量解析において、処方率・検査率が多い病院ほど再入院率が低いことが明らかになった。
循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究事業「既存データベースの活用による虚血性心疾患・大動脈疾患診療の実態把握ならびに医療体制構築に向けた指標の確立のための研究」(研究代表者:大阪大学大学院循環器内科学 坂田泰史教授)とも連携、心筋梗塞2次予防のためのガイドライン推奨薬剤の処方率が「医療の質」評価の指標となり得ることを論文発表した:. J Am Heart Assoc. 2019 Apr 2;8(7): e009692。
我が国の心不全外来診療実態を明らかにすることを目的にNDB利用準備を進め、オンサイトリサーチセンター(京都大学)を利用したNDB-HF studyを申請、その後レセプト情報等の提供に関する申出 を行い承諾(2019年11月)された。利用可能なNDBオープンデータ(一般病院を含む)およびJROAD-DPCデータ(循環器専門病院)を用いて、我が国の心不全患者数および心不全関連検査に関する都道府県別実態調査を実施した。BNPは324,402件、心臓超音波検査は325,685件と、両検査ともじほぼ同程度の件数が実施されており、BNPは73.3%, 心臓超音波検査 73.5%と高い割合で実施されていた。
脳卒中データバンクでは SSMIX-2と連携した新システムを導入・介護保険情報 及び回復期, 療養型, 急性期転院など詳細な退院先情報収集を収集した。入院前の要介護度が重いほど入院時の脳卒中神経学的重症度、退院時ADLが重症で、自宅退院率が低いこと を明らかにした。
M市(日本全体の人口構成と類似)の国保/後期高齢者診療報酬請求情報・介護請求情報・特定健診情報収集を行った。2015年7月-2016年3月に国保または後期高齢者保険被保険者である65歳以上の35,493人を分析対象とした。平均年齢は77.1歳、男性42.7%だった。2015年10月-2016年3月の総医療費は139億円、介護費は68億円だった。2015年9月のレセプトから心不全(I50)の入院症例を抽出したところ 439例(1.8%)が該当した。心不全入院群では対照群に比し年齢が高く(85歳平均)、女性が優位で、要介護認定も半数を超える という結果であった。心不全および脳卒中の入院により医療費および介護費の総費用は増加し、死亡割合も増加した。心不全入院回数が増加するに従い医療費は8万増、介護費は3.7万減、1月当たり4万円増加に傾くことが明らかになった(脳卒中では25万円の増加)。介護費の減額にいては、入院により介護費が減ったことが要因と推測された。心不全及び脳卒中の発症・再発予防をおこなうことでこれらの費用を抑制することが必要であると考えられた。
熊本大学付属病院介護指示書のデータを用いて介護実態を調査した:心臓疾患での介護申請は少なく、具体的な塩分制限や体重管理指示は少ないという問題点が明らかになった。
考察:
本研究の主たる対象疾患である慢性心不全では、心不全の増悪による再入院をいかに起こさないようにすることが、患者の生活の質を維持するために、また医療費の観点からの重要であると考えられた。その対策の一つが 心不全に関するガイドライン推奨薬剤・検査の遵守で、QIとしても重要である。診療の質の評価としてプロセス指標が本邦においても適応可能であることを明らかにできた意義は大きい。ナショナルデータベース(NDB)を用いて、我が国の心不全外来診療実態についても今後評価されることが期待される。
結論
悉皆性の高いビックデータを解析することで、診療の標準的データが可視化され、医療の質の底上げや各種医療行為の費用効果性検討につながることが期待される。
公開日・更新日
公開日
2020-10-19
更新日
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