ATL/HTLV-1キャリア診療中核施設群の構築によるATLコホート研究

文献情報

文献番号
201908051A
報告書区分
総括
研究課題名
ATL/HTLV-1キャリア診療中核施設群の構築によるATLコホート研究
課題番号
H29-がん政策-指定-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
内丸 薫(東京大学大学院 新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻病態医療科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 渡邉 俊樹(東京大学 フューチャーセンター推進機構)
  • 宇都宮 與(公益財団法人慈愛会今村総合病院 血液内科)
  • 高 起良(大阪鉄道病院 血液内科)
  • 岩永 正子(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
7,364,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
indolent ATLは無治療経過観察が標準的な方針である。しかし予後は決して良好ではなく、新たな治療薬剤の開発と治療方針の確立が強く求められる。 希少疾患であるindolent ATLに対する適切な治療方針を確立していくためには、専門家のネットワークにより登録されたコホートを構築し、病態解析、治療方針とその予後についての質の高い情報を収集していくことが不可欠である。JSPFADに登録される indolent ATL症例をデータベース(DB)化し、indolent ATL症例の集積による臨床経過に関する質の高いエビデンスの構築を目指し、合わせて発症ハイリスクキャリアの疾患概念の確立を目指す。さらに関連領域研究班との連携体制を構築することでindolent ATLの病態解明に資するとともに、本研究班をベースにHTLV-1 キャリア対応施設拠点化の推進のための検討を進める。
研究方法
昨年度運用を開始したindolent ATL DBの運用を継続し、登録症例のデータの入力、新規症例の登録を進めた。原則登録全症例を対象に解析し、フローサイトメトリーを用いたHAS-Flow法による評価を実施し、データを入力した。毎週1回の進捗管理会議をおこない、データ入力の促進とデータクリーニングを行った。本データベースをさらに関連領域の他のデータベースと連携、臨床試験への利用なども視野に入れてRADDAR-J(難病プラットホーム)の標準システムへ移行するため難病プラットホーム標準システムへの移行のためのシステム構築を開始した。HTLV-1関連研究班と連携して、indolent ATL症例を中心にHAS-Flow法でソーティングされた症例のtranscriptome解析、 target-seqによる遺伝子変異の同定とクローン構造の解析などが各研究班で行われた。さらにHAMからATLを発症した2症例において、ATL発症前のHAMの段階においてゲノム変異、クローン性増殖などの検討を行った。日本HTLV-1学会との連携によるHTLV-1キャリア対策の拠点化のための取り組みを継続し、学会登録医療機関制度を整備し、あらたに8施設の登録認定を行った。
結果と考察
Indolent ATLDBの運用を引き続き継続し、本年2月現在の登録症例数は455例、データ入力症例は252例で、入力可能症例での進捗率は61.3%となった。また、JSPFAD検体を用いたHAS-Flowのvalidationも終了し、昨年2月から基本的にIndolent ATL DB登録全症例でHAS-Flowを実施し、結果の入力を開始した。これらの臨床データ、経過と表面マーカーの統合解析によりハイリスクindolent ATLの同定と診療ガイドラインの策定が可能となり、世界に類を見ないindolent ATLの前向きコホートが構築された。本システムをER/ES、CDISC準拠の難病プラットホーム標準システムへの移行し、HTLV-1領域の統合データベースへと展開するため、難病プラットホームRADDAR-J標準システムへの移行の検討を開始し、今年末までにシステムの構築、移行を完了し運用を開始する。本システムの移行により、他研究領域とのデータシェアリング、データベースの恒久性、臨床試験への応用など様々な利点が期待される。今年度から本データベースを解析基盤としてAMED関連領域との連携研究を本格的に開始した。HTLV-1キャリア~indolent ATL症例を対象にHAS-Flowによりソーティングした細胞のアレイ解析を行った結果、キャリアかindolent ATLかの診断に関わらず同一のフェノタイプの細胞は類似した遺伝子発現パターンを示すことを明らかにした。次世代シークエンサーを用いたtarget sequenceのパネル解析の結果、これらのATL型遺伝子発現パターンを獲得した細胞がキャリアの段階から遺伝子変異を獲得し、ATLへ進展していくこと、ATLとHAMの共通前駆細胞の存在などを明らかにした。これらの成果はCADM1陽性細胞集団の増加の程度がATL発症の過程を正確に反映し、HAS-FlowによるD、N集団の増加を評価することでATL発症へ向けての進展度、発症(急転)リスクを評価することの妥当性を裏付けた。血液内科を中心にHTLV-1関連疾患、キャリア対応のための拠点施設の整備のため、日本HTLV-1学会登録医療機関認定委員会で登録認定を進め現在14施設となっている。本制度がわが国のHTLV-1対策の均てん化を推進することが期待される。
結論
Indolent ATLの病態解明、新規治療の研究に資するIndolent ATL データベースを開発した。さらに日本HTLV-1学会登録医療機関制度の設立に貢献した。

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201908051B
報告書区分
総合
研究課題名
ATL/HTLV-1キャリア診療中核施設群の構築によるATLコホート研究
課題番号
H29-がん政策-指定-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
内丸 薫(東京大学大学院 新領域創成科学研究科メディカル情報生命専攻病態医療科学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 渡邉 俊樹(東京大学 フューチャーセンター推進機構)
  • 宇都宮 與(公益財団法人慈愛会今村総合病院 血液内科)
  • 高 起良(大阪鉄道病院 血液内科)
  • 岩永 正子(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 小林 誠一郎(東京大学 医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 がん対策推進総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者 渡邉俊樹 聖マリアンナ医科大学(平成29年7月20日~平成30年3月31日)→ 東京大学(平成30年4月1日以降) 研究分担者 小林誠一郎 東京大学(平成29年7月20日~平成31年3月31日)→市中病院へ異動のため研究分担終了

研究報告書(概要版)

研究目的
indolent ATLは無治療経過観察が標準的な方針である。しかし予後は決して良好ではなく、新たな治療薬剤の開発と治療方針の確立が強く求められる。 希少疾患であるindolent ATLに対する適切な治療方針を確立していくためには、専門家のネットワークにより登録されたコホートを構築し、病態解析、治療方針とその予後についての質の高い情報を収集していくことが不可欠である。JSPFADに登録される indolent ATL症例をデータベース(DB)化し、indolent ATL症例の集積による臨床経過に関する質の高いエビデンスの構築を目指し、合わせて発症ハイリスクキャリアの疾患概念の確立を目指す。さらに関連領域研究班との連携体制を構築することでindolent ATLの病態解明に資するとともに、本研究班をベースにHTLV-1 キャリア対応施設拠点化の推進のための検討を進める。
研究方法
JSPFAD登録症例からindolent ATL症例を抽出してDBを構築するシステムとして、JSPFADデータ登録ウェブサイトと連結されたindolent ATL データベースシステムを構築した。JSPFAD検体を用いたHAS-Flowデータを収集するためJSPFAD検体利用のvalidation行った上、基本的にIndolent ATL DB登録全症例でHAS-Flowを実施し、結果の入力を開始した。DB登録例のうち東大医科研病院受診症例のみを対象に予備検討としてHAS-Flowの結果(CADM1+集団の比率によってG1<10%、G2<25%、G3<50%、G4>50%)により分類し、予後推定の有用性について検討した。indolent ATL DB登録症例のサンプルをindolent ATL 病態研究プラットホームとして、本DB登録症例のサンプルを用いたHTLV-1領域研究との研究連携体制の構築を行った。HTLV-1関連診療の拠点化推進のため、日本HTLV-1学会と連携して学会登録医療機関認定制度を設立し、登録機関の認定を進めた。本データベースをさらに関連領域の他のデータベースと連携、臨床試験への利用なども視野に入れてRADDAR-J(難病プラットホーム)の標準システムへ移行するためのシステム構築を行った。
結果と考察
Indolent ATL DBを構築してJPSFD DBと連動して症例の登録を進めた。これまでの登録症例数は455例、データ入力症例は252例で、入力可能症例での進捗率は61.3%となった。また、基本的にIndolent ATL DB登録前症例でHAS-Flowを実施し、結果の入力を開始した。これにより世界に類を見ないindolent ATLの前向きコホートが構築された。東大医科研病院受診例を対象とした予備検討ではG1~G2がキャリア、G3~G4はPVLが高いハイリスクキャリア~indolent ATLが分布し、G4では中央値4年で急性転化しており、G3を初期low risk ATL、G4を初期ATLhigh risk群と定義することが妥当と考えられた。本データベースを解析基盤としてAMED関連領域との連携研究を行い、HTLV-1キャリア~indolent ATL症例を対象にHAS-Flowによりソーティングした細胞のアレイ解析を行った結果、キャリアかindolent ATLかの診断に関わらず同一のフェノタイプの細胞は類似した遺伝子発現パターンを示すこと、次世代シークエンサーを用いたtarget sequenceのパネル解析の結果、これらのATL型遺伝子発現パターンを獲得した細胞がキャリアの段階から遺伝子変異を獲得し、ATLへ進展していくこと、ATLとHAMの共通前駆細胞の存在などを明らかにした。これらの成果はCADM1陽性細胞集団の増加の程度がATL発症の過程を正確に反映し、HAS-FlowによるCADM1陽性集団の増加を評価することでATL発症へ向けての進展度、発症(急転)リスクを評価することの妥当性を裏付けた。本システムをHTLV-1領域の統合データベースへと展開するため、難病プラットホームRADDAR-J標準システムへの移行を今年末までに完了する。これによりデータシェアリング、データベースの恒久性、臨床試験への応用など様々な利点が期待される。血液内科を中心にHTLV-1関連疾患、キャリア対応のための拠点施設の整備のため、日本HTLV-1学会登録医療機関認定委員会で登録認定を進め現在14施設となっている。本制度がわが国のHTLV-1対策の均てん化を推進することが期待される。
結論
Indolent ATLの病態解明、新規治療の研究に資するIndolent ATL データベースを開発した。さらに日本HTLV-1学会登録医療機関制度の設立に貢献した。

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-09-09
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201908051C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究で構築したindolent ATL データベースに現在540例登録されており、世界最大のindolent ATL症例の前向きレジストリ―となっている。現在これらのデータを用いた、indolent ATLの予後解析、予後予測因子の解析、特にCD7/CADM1発現レベルを解析するフローサイトメトリー(HAS-Flow)法の予後予測能の検討などを目的に登録症例の中央診断などによるデータクリーニングが進行中であり、今後indolent ATLの新たな疾患概念の構築につながることが期待される。
臨床的観点からの成果
本データベースの構築は、AMED研究班によるaggressive ATLレジストリーの構築につながった。それぞれのデータベースを合わせることで、本邦におけるATL症例をindolent typeからaggressive type まで広くカバーし、参加施設によるコンソーシアムによるオールジャパン体制によるATL治療研究グループに発展するなど、ATL研究の集約化に大きな貢献を果たしたものと考えられる。
ガイドライン等の開発
本研究によりくすぶり型ATLの診断における形態診断の限界が明らかになるとともに、従来のくすぶり型ATLとハイリスクキャリアの境界型の一群の存在が明らかになり、データベースの解析結果の論文投稿準備中である。これらの成果により、長年ATL領域で標準とされてきた下山分類の改訂につながっていくことが期待される。日本HTLV-1学会でHTLV-1キャリア診療ガイドラインの作成が承認され、本研究代表者が作成委員の一員として、本研究の成果を反映していくことになると考えられる。
その他行政的観点からの成果
Indolent ATL データベースがモデルとなったAMED新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業の研究班による全国的なレジストリーシステムとも連携し、さらに無症候性キャリアを対象としたJSPFADデータベースと合わせ、HTLV-1キャリア- indolent ATL-aggressive ATLに至るHTLV-1キャリア/関連疾患のレジストリーシステムの構築により、今後のHTLV-1総合対策をはじめとする厚生労働行政に重要な情報を提供することが期待される。
その他のインパクト
本研究でデータを収集したCD7/CADM1発現レベルを解析するフローサイトメトリー(HAS-Flow)法を用いた病態解析は、HTLV-1キャリアからATL症例に至るまで病態解析に幅広く用いられ、現在標準的な解析手法の一つとなっている。解析技術の社会導出も行われ2022年1月より企業による受託解析も開始された。

発表件数

原著論文(和文)
5件
学会講演でHAS-Flow法の利用、HTLV-1キャリアの現状、政策対応の進捗などを講演した内容の論文化のほか、原著論文を執筆した。
原著論文(英文等)
11件
本研究で収集された検体を用いてHTLV-1感染細胞の腫瘍化過程における遺伝子変化や多層オミックス解析の結果等の論文報告がなされた。
その他論文(和文)
8件
HAS-Flow法によるリスク評価やHTLV-1キャリア対策の現状などについて総説論文を発表した。
その他論文(英文等)
53件
学会発表(国内学会)
40件
日本血液学会のシンポジウムなどでHTLV-1キャリア対応の現状などについて講演を行った。
学会発表(国際学会等)
16件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
HTLV-1関連脊髄症(HAM)治療又は予防剤
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2018-135925
発明者名: 内丸薫、山岸誠、石崎伊純、 山野嘉久
権利者名: 国立大学法人東京大学、 学校法人聖マリアンナ医科大学
出願年月日: 20180719
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Makiyama J, Kobayashi S,Uchimaru K, et al.
CD4+ CADM1+ cell percentage predicts disease progression in HTLV-1 carriers and indolent adult T-cell leukemia/lymphoma.
Cancer Sci. , 110 (12) , 3746-3753-  (2019)
doi: 10.1111/cas.14219

公開日・更新日

公開日
2021-05-27
更新日
2023-07-05

収支報告書

文献番号
201908051Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,573,000円
(2)補助金確定額
9,573,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 632,482円
人件費・謝金 3,759,775円
旅費 407,470円
その他 2,610,162円
間接経費 2,209,000円
合計 9,618,889円

備考

備考
検体検査数が想定より多く業務委託費が高額になったため。

公開日・更新日

公開日
2021-05-14
更新日
-