思春期のレジリエンス向上のための科学的論拠に基づいた包括的介入プログラムの作成

文献情報

文献番号
201907024A
報告書区分
総括
研究課題名
思春期のレジリエンス向上のための科学的論拠に基づいた包括的介入プログラムの作成
課題番号
19DA3001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
岡田 直大(国立大学法人東京大学 国際高等研究所ニューロインテリジェンス国際研究機構)
研究分担者(所属機関)
  • 江里口 陽介(国立大学法人東京大学 医学部附属病院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
令和1(2019)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
7,693,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 思春期には社会との接触が増え、人間関係が複雑化し始める時期であり、精神的成熟の過程において重要な時期である。一方、精神疾患の発症が認められやすくなるのも、思春期の特徴の一つである。近年、困難やストレスに対する適応力(レジリエンス)が注目されており、思春期児のレジリエンスの獲得により、精神疾患の発症や増悪、自殺を予防できる可能性が考えられる。しかし、エビデンスに基づく包括的かつ効果的な介入法は未だにない。従って、すべての思春期児が対象となりうる、レジリエンス向上の方法論を構築することが期待される。
 本研究では、思春期のレジリエンス獲得に影響を与える要因を探索し、レジリエンス獲得の評価法を整理する。また、レジリエンスが精神疾患に与える影響のエビデンスの整理を行い、これらを基に、レジリエンス獲得のための効果的な介入手法を作成する。
研究方法
 ①本研究では、大規模な縦断疫学研究である東京ティーンコホート(TTC)の既存データを利用して、レジリエンス獲得に影響を与える要因を整理する(N=3,000程度)。TTCでは対象の思春期児とその養育者より、さまざまな心理・精神保健および社会・生活環境に関する情報を、2年ごとに縦断的に取得している。これらのデータを用いた統計的解析により、レジリエンス獲得に影響を与える要因を同定する。
 ②先行研究等で報告されている評価尺度を再考し、それらがレジリエンスの合理的な評価手法として適切か、思春期の精神疾患患者を対象に調査する。
 ③レジリエンスが思春期の精神状態に与える影響を検証する。TTCの縦断データを利用して、レジリエンスとストレス、うつ症状やウェルビーイングとの関連を探索する。
 ④①で同定されたレジリエンス獲得に影響を与える要因に対して、レジリエンス向上が期待されるような、包括的な介入手法を検討する。またその介入手法により、レジリエンスが向上するかどうかを、②で整理した手法を用いて評価する。さらには、③と関連して、介入によりレジリエンスが向上し心理的ウェルビーイングが実現される可能性を検証する。
結果と考察
 レジリエンス獲得の評価手法として、TTCのデータを用いることにより、援助希求態度、向社会性を抽出した。また、セルフケアも重要な因子であると結論づけた。次に、思春期のレジリエンス獲得に影響を与える要因として、援助希求態度の親子間伝達のほか、向社会性も親子間で伝達され、さらには親の愛情表現の頻度が多いと、子の向社会性がより強く発達することも見出した。パーソナリティの親子間伝達はこれまでにも報告されており、また親が子を褒める行動が子の向社会性を高めるという報告もあり、本研究の結果はこうした既存の報告と矛盾しない。さらには、レジリエンスが思春期の精神疾患に与える影響としては、援助希求態度や向社会性が高いと、その後の抑うつが有意に低くなることが見出された。最後に、得られた知見を元に、援助希求態度、向社会性、およびセルフケアといったレジリエンスの向上を図るべく、思春期児を対象とする双方向的講義形式のパッケージの開発に着手した。思春期児が容易に理解しレジリエンス向上に繋げられるよう、アニメーションを用いた教材も含まれており、こうした点が特徴的であると考えられる。
結論
 本研究では、思春期のレジリエンス獲得に影響を与える要因を探索し、レジリエンス獲得の評価法を整理した。また、レジリエンスが精神疾患に与える影響のエビデンスの整理を行い、これらを基に、レジリエンス獲得のための効果的な介入手法を作成した。

公開日・更新日

公開日
2020-10-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-10-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201907024C

成果

専門的・学術的観点からの成果
レジリエンス獲得の評価手法として、援助希求態度、向社会性を抽出した。また、セルフケアも重要な因子であると結論づけた。次に、思春期のレジリエンス獲得に影響を与える要因として、援助希求態度の親子間伝達のほか、向社会性も親子間で伝達され、さらには親の愛情表現の頻度が多いと、子の向社会性がより強く発達することも見出した。
臨床的観点からの成果
援助希求態度や向社会性が高いと、その後の抑うつが低くなることが見出された。
ガイドライン等の開発
得られた知見を元に、援助希求態度、向社会性、およびセルフケアといったレジリエンスの向上を図るべく、思春期児を対象とする双方向的講義形式のパッケージの開発に着手した。講義パッケージの基本構成は、導入・共有・不調のサイン・不調の対処法・不調に関するリテラシーとした。
その他行政的観点からの成果
思春期のレジリエンスに関する知見を取りまとめ、レジリエンス向上のための科学的論拠に基づいた包括的介入プログラムの作成に着手したことにより、今後の実証研究を経て、厚生労働行政を通じた大規模な取り組みにつながる可能性が大いに期待される。こうした観点から、厚生労働行政に対する貢献度は高いと考えられる。
その他のインパクト
特記事項なし。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
2件
第7回欧州統合失調症学会(ECSR2019)・ポスター発表、第10回国際気分障害学会・口頭発表
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Okada N, Yahata N, Koshiyama D, et al.
Smaller anterior subgenual cingulate volume mediates the effect of girls' early sexual maturation on negative psychobehavioral outcome.
Neuroimage , 209 , 116478-  (2020)
10.1016/j.neuroimage.2019.116478
原著論文2
Okada N, Yahata N, Koshiyama D, et al.
Neurometabolic underpinning of the intergenerational transmission of prosociality.
Neuroimage , 218 , 116965-  (2020)
10.1016/j.neuroimage.2020.116965

公開日・更新日

公開日
2020-10-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201907024Z