新生児マススクリーニング検査に関する疫学的・医療経済学的研究

文献情報

文献番号
201907018A
報告書区分
総括
研究課題名
新生児マススクリーニング検査に関する疫学的・医療経済学的研究
課題番号
H29-健やか-指定-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
但馬 剛(国立成育医療研究センター 研究所 マススクリーニング研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 弘典(島根大学 医学部 小児科)
  • 沼倉 周彦(山形大学 医学部附属病院 小児科)
  • 西野 善一(金沢医科大学 医学部 公衆衛生学)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター)
  • 山口 清次(島根大学 医学部 医学科)
  • 新宅 治夫(大阪市立大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
8,400,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現行の新生児マススクリーニングは、20種類に及ぶ希少疾患を対象としながら、都道府県・政令市が実施主体となっていることから、その運用には地域間差が生じており、患者の発見数や経過などに関する情報集約もなされない状況が続いている。本研究では、新生児マススクリーニング運用上の様々な側面で標準化を図るとともに、現時点で入手可能な情報を基に費用対効果を評価しつつ、マススクリーニングの有用性検証に不可欠な、発見患者の追跡体制の構築を目指した。
研究方法
1.新生児マススクリーニング実施体制の全国標準化 1)統計学的手法による基準値設定:対象5疾患で検討した。2)タンデムマス分析の標準化:内部精度管理用の非標識体混合キットを各検査施設の内部標準キットと混合して分析したデータを収集・解析した。3)安定的な確定検査提供体制の整備:フェニルアラニン高値例の原因鑑別に必要な「プテリジン分析」と「DHPR酵素活性測定」について、班員間で技術移転を行った。4)説明・同意書の統一:本研究班員が内容を監修して新たな共用説明・同意書を作成し、全自治体に提供するスキームを構築した。5)中枢性甲状腺機能低下症スクリーニング:山形県のマススクリーニングデータを用いて、free T4基準値の変更が偽陽性率へ与える影響を検討した。2.発見患者登録・追跡体制の構築:各自治体の中核医師を対象に、2018年度に発見された患者数を調査した。3.発見患者の経過・予後データの収集:以下の調査を行なった:1) 先行研究(山口班)の継続コホート調査, 2)「中核医師」を介する2016~2017年度発見患者の予後調査, 3)確定検査を契機に集約したMCAD欠損症・VLCAD欠損症例の予後調査 4. 疫学・費用対効果:ナショナルデータベースの診療レセプトデータを利用して、現行タンデムマス法対象疾患の罹患数・罹患率と費用対効果を分析した。5.患者家族・医療者への情報提供:本研究で得られた知見を連携研究班での改訂作業に反映させた。6.新規疾患スクリーニング:副腎白質ジストロフィーのスクリーニングの社会実装に向けて、陽性例の診断体制構築に取り組んだ。
結果と考察
1.新生児マススクリーニング実施体制の全国標準化 1)現行基準値設定は偽陽性率よりも偽陰性率の方が高く、検討した2種類の統計学的設定では逆の結果となった。2)タンデムマス機器整備状況の良否を知る上で有力な調査法であることが示された。3)プテリジン分析とDHPR活性測定を国内2施設で実施可能な体制を整えた。4)共用説明・同意書の運用を2019年度から開始した。採用自治体への提供部数は、年間出生数86.4万人の約70%に当たる約60万部となった。5)中枢性甲状腺機能低下症:出生体重2,500gでの基準値の引き下げが偽陽性率の低減に有効であった。2.2018年度の発見患者登録:集計時未回答自治体を除く814,230新生児中84名の罹患児が確認された。3.発見患者の経過・予後データの収集:1)先行研究(山口班)継続コホート調査:175例中151例から回答(累積死亡6, 発達遅滞22, フォロー途絶13など), 2)「中核医師」を介する予後調査:2016年度出生121例中70例、2017年度出生123例中66例から回答(現状判明108例:正常発達98, 軽度発達障害8, 死亡2), 3)脂肪酸代謝異常症例の予後調査:MCAD欠損症47例/VLCAD欠損症50例から回答(全例生存中原疾患との因果関係が明らかな発達遅延例0, 死亡0) 4.疫学・費用対効果:比較的頻度の高い疾患:フェニルケトン尿症1/2.1万, プロピオン酸血症1/3.5万, メチルマロン酸血症1/4.7万, VLCAD欠損症1/10.4万, MCAD欠損症1/14.0万など。現行タンデムマス法は、ガスリー法と比較して費用対効果が優れるという結果が得られた。疾患別の費用対効果を検討するためQOL調査を開始した。5.患者家族・医療者への情報:「新生児マススクリーニング対象疾患等診療ガイドライン2019」が刊行された。CPT2欠損症による急死予防のための具体的な対応を記載した患者家族用資料を作成した。
6.新規疾患スクリーニング:副腎白質ジストロフィー陽性例の迅速・正確な診断体制を岐阜大学医学部附属病院に確立し、全国のスクリーニング施設との連携支援体制の構築について、具体的なプランを策定した。
結論
新生児マススクリーニングの正確な事業評価には、希少な対象疾患の患者情報を集約が必須であり、その意義について各自治体の理解を粘り強く求めていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2020-10-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表
倫理審査等報告書の写し

公開日・更新日

公開日
2020-10-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201907018B
報告書区分
総合
研究課題名
新生児マススクリーニング検査に関する疫学的・医療経済学的研究
課題番号
H29-健やか-指定-001
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
但馬 剛(国立成育医療研究センター 研究所 マススクリーニング研究室)
研究分担者(所属機関)
  • 小林 弘典(島根大学 医学部 小児科)
  • 沼倉 周彦(山形大学 医学部附属病院 小児科)
  • 西野 善一(金沢医科大学 医学部 公衆衛生学)
  • 福田 敬(国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター)
  • 山口 清次(島根大学 医学部 医学科)
  • 新宅 治夫(大阪市立大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 成育疾患克服等次世代育成基盤研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現行の新生児マススクリーニングは、20種類に及ぶ希少疾患を対象としながら、都道府県・政令市が実施主体であることから、その運用には地域間差が生じており、患者の発見数や経過などに関する情報集約は困難となっている。本研究では、新生児マススクリーニング運用上の様々な側面で標準化を図るとともに、現時点で入手可能な情報を基に費用対効果を評価しつつ、マススクリーニングの有用性検証に不可欠な、発見患者の追跡体制の構築を目指した。
研究方法
1.新生児マススクリーニング実施体制の全国標準化 1)「新生児スクリーニング連絡協議会」を介した標準化促進:各自治体の関係者による連絡協議会の設置と、その中核医師の選定を要請し、こを介して事業遂行の標準化促進を図った。2)タンデムマス法の分析と検査指標・基準値設定の標準化:新指標によるCPT2欠損症スクリーニングの全国実施を機に、各施設の測定値分布に基づく基準値設定について検討した。3)中枢性甲状腺機能低下症スクリーニング指標設定の最適化:free T4 基準値の変更による偽陽性率の低減効果を検討した。4)血液濾紙検体を用いる二次検査法の評価:複数の対象疾患用に確立し、有用性を検証した。5)安定的な確定検査提供体制の整備:国内での実施が1施設しかない「プテリジン分析」と「DHPR活性測定」について、班員間で技術移転を図った。2.発見患者情報の集約と予後追跡:以下の各種調査を実施した。1)成人期フェニルケトン尿症患者の予後調査, 2)タンデムマス法試験研究での発見患者の予後調査, 3)先行研究(山口班)の継続コホート調査, 4)確定検査を契機とする脂肪酸代謝異常症の患者情報集約と予後調査, 5)各自治体の連絡協議会と中核医師を介する患者情報集約と予後調査 3.新生児マススクリーニング対象疾患の疫学的評価と費用対効果分析:ナショナルデータベースの診療レセプトデータを利用して検討した。4.患者・家族と医療者のための健康管理支援:連携研究班による診療ガイドライン改訂作業に参画して本研究の知見を反映させた。5.新たな候補疾患の新生児マススクリーニングへの適合性の評価:新規疾患スクリーニングに関する国内・海外の現状を調査した。特に副腎白質ジストロフィー・ペルオキシゾーム病については、本研究班で社会実装へ向けた提言を取りまとめた。
結果と考察
1.新生児マススクリーニング実施体制の全国標準化 1)連絡協議会を介した標準化促進:未設置は4自治体まで減少する見込みとなった。2019年度からは、年間出生数の約7割で共用説明同意文書の運用が開始された。2)タンデムマス分析と指標・基準値の標準化:2018年度開始のCPT2欠損症スクリーニングでは99.9パーセンタイル値を基準値とした。他の数疾患でも、同様の基準値設定の有用性が示唆された。タンデムマス分析の標準化には今後、トレーサビリティのある標準物質に基づくキャリブレータ血液濾紙の作成が必要と考えられた。3)中枢性甲状腺機能低下症スクリーニング:低出生体重児でのfree T4基準値引き下げが偽陽性率低減に有効であった。4)血液濾紙検体の二次検査:実際のマススクリーニング陽性例に応用して、正確な判定ができていることを確認した。5)確定検査の安定的な提供:大阪市立大学と成育医療研究センターで、プテリジン分析・DHPR活性測定が実施可能となった。2.発見患者情報の集約と予後追跡:後方視的調査(1,2,4)・前向き調査(3,5)とも、生命・知的予後良好例が多数を占めた。前向き調査では、各自治体に照会する方式(3)には限界があり、中核医師を介する方式(5)へ変更し、この3年間で定着しつつある。3.対象疾患の疫学・費用対効果:タンデムマス法はガスリー法よりも費用対効果に優れることが数値で示されたが、多くの仮定が組み込まれた分析結果である。特に重要なパラメータであるQALYは、対象疾患に関する具体的な知見がなく、国内患者を対象とする実地調査を開始した。4.健康管理支援:本研究で得られた知見も反映させた診療ガイドライン改訂版が公刊された。乳幼児期の急死リスクが特に高いCPT2欠損症については、急性発症予防への注意をさらに喚起するための資料を、医療者用と患者・家族用に作成した。5.新規スクリーニング:新規疾患スクリーニングは、小規模な試験研究や、限られた地域での有料検査として行われている現状を明らかにした。副腎白質ジストロフィーについては、岐阜大学病院に診断のための検査部門を設置するなど、マススクリーニング社会実装のためのモデルケースを提示した。
結論
新生児マススクリーニングの正確な事業評価には、希少な対象疾患の患者情報を集約が必須であり、その意義について各自治体の理解を粘り強く求めていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2020-10-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-10-28
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201907018C

収支報告書

文献番号
201907018Z