病院機能別にみる退院問題の特徴と医療ソーシャルワーカー援助機能の研究

文献情報

文献番号
199800723A
報告書区分
総括
研究課題名
病院機能別にみる退院問題の特徴と医療ソーシャルワーカー援助機能の研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 雅子((社)日本医療社会事業協会)
研究分担者(所属機関)
  • 田中千枝子(東海大学)
  • 藤田緑郎(阪南中央病院)
  • 福田明美(第二出雲市民病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
3,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
要介護高齢者の在宅ケアには、地域連携が欠かせない。特に、退院時、病院から在宅へ向けた退院援助と、地域での保健医療・福祉サービスの提供は、いわば病院の「送りだし機能」と地域側の「受入れ機能」として、その相関関係による相乗効果が求められているところである。また、退院援助の専門家は、生活の場の変化や環境・関係性の変化、人生や生活設計の見直しなどの利用者の危機的状況やストレスに対応できる人でなければならない。介護保険を始めとする一連のハードとしての制度改革は、そうした一人一人の生活や権利を保証するソフトとしての、専門家の活動があってこそ成功する。退院援助における専門家として、医療ソーシャルワーカー(以下MSWとする)は、従来からケアマネジメントの方法等を用い、その援助を行ってきたが、病院の機能分化が進んでいる現在、退院問題(援助)を病院一般として論じることは適当でない。病院の機能分化をふまえて、その類型ごとの退院問題の特徴とこれに対する援助のあり方が問われるべきである。そこで、本研究では、退院援助について病院機能別に分析し、■退院援助における病院機能別の特徴、■退院援助の際に展開されるMSWの援助内容・機能、■MSWの退院援助業務の取り組み姿勢について研究し、病院機能別におけるMSW援助内容や機能のそれぞれの共通点と特殊性を明らかにすることを目的とした。
本研究におけるMSWが行う退院援助業務とは、<医療ソーシャルワーカー業務指針>
(1991年医療ソーシャルワーカー業務指針検討会報告書)にある「退院(社会復帰)援助」
に相当するものである。
研究方法
本研究の対象は、退院援助の専門家として、医療機関で働く福祉の専門家であるMSWとし、その専門職能団体である(社)日本医療社会事業協会(以下日本協会)の会員に絞った。フォーカスグループは、研究協力員も含め、日本協会会員でもあるMSW10名で編成した。本研究を進めるにあたり、研究班会議を平成10年 9月から平成11年 3月まで 6回開催し、具体的には1)フォーカスグループによる面接調査(平成10年10月)2)KJ法による退院援助に関わる課題や視点の抽出(平成10年12月)3)基礎的情報、抽出した課題や視点の質問項目化(平成10年11月~12月)4)郵送による調査(平成11年 1月)5)SPSSパッケージによる結果分析(平成11年 2月)を行った。郵送調査の対象は、当研究班で規定した三つの病院類型(高機能急性期病院・地域医療型病院・長期療養型病院)のいずれかに該当する日本協会会員の所属する医療機関で、調査を依頼したのは、 1病院 1名あたり無作為に抽出したMSWである。三つの病院類型は、「高機能急性期病院」は特定機能病院と病床数500床以上の総合病院と規定し、全国166病院を抽出、「地域医療型病院」は病床数 101床から400床までの総合病院と規定し、149病院を抽出、「長期療養型病院」は平成10年 1月 1日現在の療養型病床群と特例許可老人病院と規定し、158病院を抽出した。調査対象は、473病院の473名であった。調査票は、調査項目85項目で、三つの属性調査と<退院援助業務の実態><実践の前提となる要因><実践のプロセス>に分かれている。
結果と考察
郵送による調査の結果、473名のうち287名から回答を得、回答率は60.7%であった。病院機能別には、「高機能急性期病院」が95名(57.2% n=166)、「地域医療型病院」が92名(61.7% n=149)、「長期療養型病院」が100名(63.3% n=158)で、対象母数の約6割からそれぞれ回答を得、調査対象がほぼ同数であり、各機関の実態を比較解説できる歪みの少ないデータとなった。
病院機能の類型化においては、調査の技術的な理由もあり、「地域医療型病院」の退院問題の特徴が明確にはでなかったものの、他の二類型の特徴は、明らかになった。「高機能急性期病院」における特徴として、短い在院日数の中で、多くの退院援助件数を抱え、本人・家族と医療側の意向の違いを認識・調整しながら、転院相談や在宅復帰援助に追われるMSWの実態が明らかになった。また、困難要因としては、医療依存度の高いケースへの対応であり、取扱いの多いのも同様のケースであった。「長期療養型病院」における特徴は、在宅に帰すことを主眼としながら、家族関係・家族の介護力を意識し、医療機関内の委員会に参加し、比較的ケアマネジメントプロセスを踏みながら退院援助を行っているという結果が出た。逆に、退院援助の際に発揮しているソーシャルワーク機能は、機能分化に影響されることなく、共通していることが明らかになった。例えば、多くの医療機関で、退院援助プロセスの中で、■本人・家族のサービス活用能力を評価して、社会資源のつなぎ方を変えている■本人・家族が自ら問題解決する意欲を維持するために、様々なやり方でパートナーシップ形成に力を入れている点など、本人らの主体性を尊重し、それらを引き出すイネイブリングやエンパワーの視点にたった援助が展開されていた。MSWの退院援助業務における取り組み姿勢の積極性と消極性の差異は、病院機能などの組織の基本的属性や、援助専門家の属性とはあまり関係していなかった。援助の実態としての関連では、とくに転帰の在宅率の高さと取り組み姿勢に強い関係があったが、このことの実質と問題点を今後詰めていく必要がある。また、本人・家族と医療者側のくい違いを調整する能力や面接を深める能力と取り組み姿勢に関連が見られ、調整能力の向上や、退院援助をとらえる視点を身につけるための学習など、研修体系を整える可能性について探求した。
結論
本研究の主旨は、病院の機能分化の進行が、退院問題にどう現れ、MSWの行う退院援助や取り組む姿勢にどう影響しているかを、機能類型ごとに明らかにすることであった。病院機能の類型化においては、調査の技術的な理由もあり、「地域医療型病院」の退院問題の特徴が明確にはでなかったものの、他の二類型の特徴は明らかになった。逆に、退院援助の際に発揮しているソーシャルワーク機能は、機能分化に影響されることなく、共通していることが明らかになった。MSWの退院援助業務における取り組み姿勢の積極性と消極性の差異は、病院機能などの組織の基本的属性や、援助専門家の属性とはあまり関係していなかった。援助の実態としては、特に転帰の在宅率の高さと取り組み姿勢に強い関係があった。また、面接技術や調整能力などと取り組み姿勢の関連がみられ、専門的な有効な援助が可能になるよう、研修内容の課題を提示した。
本研究班は、MSWの退院援助に関して、来年度施行予定の介護保険制度のことも意識し、
その前後の状況の比較調査を考えてきた。平成12年度以降に機会を得て、再度、同様の研究を行いたいと考えている。

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