保健行政サービス推進過程における医療・福祉との連携方策に関する実証的研究

文献情報

文献番号
199800720A
報告書区分
総括
研究課題名
保健行政サービス推進過程における医療・福祉との連携方策に関する実証的研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
武田 則昭(香川医科大学医療管理学)
研究分担者(所属機関)
  • 福永一郎(香川医科大学衛生・公衆衛生学)
  • 笠井新一郎(高知リハビリテーション学院言語療法学科)
  • 實成文彦(香川医科大学衛生・公衆衛生学)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
公的介護保険制度の施行を目前にその円滑な運営等の基本問題として医療、保健、福祉の連携状況がいわれている。しかし、それらの連携は、それぞれの立場から個別的に調査検討され、論じられている場合が多い。公的介護保険制度は保健医療福祉を有機的に連携させながら現実に地域で高齢者の介護や福祉活動を効率的かつ有効に展開する必要があるが、既存のアプローチだけでは充分ではなく、住民、医療、保健、福祉側から双方向性かつ総合的・多面的に検討した研究が必要である。また、その際の保健行政サービスはそれらの連携や地域活動の方向性、ビジョンなどの核になるべきで、そのあり方は各種の保健医療福祉サービスのキーポイントとも言える。そこで、報告者らは保健行政サービス推進過程における医療・福祉との連携方策に関して実証的に検討することとした。
研究方法
実証的研究を1.住民から見た連携の必要性に関する研究、2.保健サービスに対する連携の意識に関する研究、3.福祉サービスに対する連携の意識に関する研究、4.保健・福祉サービスとの連携を踏まえた診療連携に関する研究、5.連携実現のための保健計画の有効性に関する研究の各パートに分け、研究協力者として障害関連組織活動の実践家や関連医療・福祉従事者、保健所医師や健康政策科学研究者、リハビリテーション関連職能団体の研究者、保健所医師や保健婦などをチーム構成し、アンケート調査やそれらに変わる各種の方法で検討を行い、保健行政サービス推進過程における住民のQOLを向上できる保健・医療・福祉の連携のあり方について実証的に検討した。
結果と考察
1.住民から見た連携の必要性:地域での組織育成を意図し、地域での住民組織と協働して推進する保健活動は、保健、医療、福祉の有機的な連携構築に関して有効な波及効果を表すと思われる。福祉、教育行政に対する問題は、保健行政の持っているノウハウで解決可能なものがあり、保健行政との連携によってその不備を補完できる可能性がある。それは相互理解や協働による包括的な活動体制構築において、保健行政にもメリットをもたらすと思われる。住民組織が地域での計画策定などの協議に参加することによって、住民組織と行政との連携を強化することが示唆される。今回の障害当事者を対象とした研究からは、住民(当事者)が計画づくりなどの地域活動への参加希望は十分にあり、住民参加を得た保健福祉計画の推進は可能と思われる。2.保健サービスに対する連携の意識:福祉部署からみた保健、医療などへの連携状況は、保健領域に対しては高齢者福祉以外では連携はいずれも不十分である。同じ自治体の保健部署は良好に連携しているとしていた。連携の成果として現れる住民への情報提供はある程度は機能しているが、総合的には提供できていない。保健部署との調査結果との比較では、各保健-福祉の境界領域の事業面では、連携状況でほぼ一致したが、同じ役場内の連携では、福祉部署の方が保健部署よりも連携がとれていると認識している。地域医療を担う医師の保健・福祉との連携について、現状では十分とはいえないが、潜在的な意識は高い。総じては、市町村保健担当部署の他、保健所についても期待があり、住民参加方法の確保については主体的参加を支持していた。市町村援助に関する保健所機能については総体としては期待があった。3.福祉サービスに対する連携の意識:保健部署での医療、福祉などへの連携状況は、高齢者対策・健康づくり対策領域では一部の関係機関と連携をとっているが、医療や、境界領域
である難病・精神保健、学校の生活習慣病予防、健康づくり施設、産業保健との連携は十分ではなかった。母子保健では連携は十分ではなかった。同一市町村役場内での連携は、高齢者対策・健康づくり領域ではやや良好であったが、他の領域では十分ではなかった。事例として、言語聴覚障害者に対する言語聴覚療法サービスは医療施設での対応がほとんどで、保健・福祉施設は皆無に近かった。今後は、これら障害児・者に関連する保健・医療・福祉・教育関係者が社会、人的資源を正確に把握し、適切に助言・指導できる環境整備が急務と考えられる。連携が不十分な現状認識については保健、医療、福祉に関する需要を客観的に把握し、住民サイドの主体的参加、住民意見を反映させた計画的な活動を企画・実施することが重要で、それらに基づいた連携構築が求められる。連携体制が充実すれば、情報入手を利用する関係機関、職種が増加し、情報環境も整備されると思われる。4.保健・福祉サービスとの連携を踏まえた診療連携:日常診療における医療機関同士の連携は比較的とれていたが、他の保健医療福祉関連機関については不十分な状況にあった。医療機関の連携体制(病-病、病-診)のあり方では、それぞれの機関の自主性を尊重する事を基本に、医療機関相互の調整や住民の意見を反映することを理想としていた。また、医療機関の連携体制(病-病、病-診)の中で住民の意見を確保する方策では、医療側がイニシアチブを取りながら、住民の意見を確保していく方法を基本としていた。一方、医療と保健や福祉との連携では、医療機関相互の連携に比較すると、医療関係者以外のイニシアチブを認めていた。公的介護保険制度導入後の、各職種の教育内容の違いにより医療・保健・福祉の連携を困難にするものでは、「問題や課題の捉え方や処理方法およびその際の意志等の疎通への不安」、医師の側で連携を困難にするものでは、「医療以外の保健や福祉について医師の側に基礎的な知識がないことや色々な社会局面を多面的、広角的に捉えることを苦手としていること」、サービス提供で連携を困難にするものでは、「人、物、財源の問題の他に、保健・福祉サービスに関する問題点やそれらの理解が不十分なため生じたと考えられること」、医療・保健・福祉の連携でその推進に有効と思われる解決策では、「多職種の関連する事項についての医師の教育、啓発とこれからの医師に対する教育・養成の必要性」をそれぞれ多く挙げていた。5.連携実現のための保健計画の有効性:総合的な保健、福祉計画を作成しているところは少なく、計画の推進過程では、地域ぐるみ、まちづくりといった点では十分ではなかった。住民組織の育成では、食生活推進・健康づくり領域以外は積極的に育成している自治体は少なく、組織の育成を視野に入れて保健福祉活動を進めていく必要がある。保健計画の存在や、話し合う場の存在といった保健計画の推進過程(計画的な保健活動の推進過程)の存在は、保健、医療、福祉の連携に寄与することが示唆された。地域における保健、医療、福祉の連携とは、地域住民と、その健康やQOLの向上に寄与すべき役割を持つ複数機関、職種が、目的を共有し、その達成のために役割分担を行い協働することであり、その推進には1)関係者の接点、2)関係者間の相互理解と協議する場、3)潜在的な需要の計測、4)住民の声を知る努力と活動への反映、5)住民の需要に沿った活動目的の共有、6)適切な役割分担、7)連携成果の科学的評価、8)1~7)の推進を意図した保健所機能の強化が必要である。これらの連携推進の要素は、保健計画の推進過程と共通しており、保健計画の推進によって、連携は強まり、保健計画の推進がさらに容易になる相乗作用があり、効果は高いと考えられた。
結論
保健行政サービス推進過程における医療・福祉との連携方策の重要ポイントは住民サイドでは「組織育成、住民組織と協働による保健医療福祉行政の活性化」、保健サービスでは「保健所機能有効稼働」、福祉サービスでは「保健・医療・福祉に関する需要を把握、住民参加の形での意見の反映等を基本に連携構築」、医療サービ
スでは 「医師会、保健医療福祉行政機関、保健医療福祉専門団体、住民サイドの意見等の情報交換、相互交流、相互理解と教育啓発推進」、保健計画等では「客観的評価に基づく保健福祉計画の状況把握・推進、そのための保健医療福祉を話し合う場の確保、地域での住民組織の育成促進、そのための保健所機能強化」がそれぞれ浮き彫りにできた。

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