介護施設入居高齢者等の疾病の早期発見・重症化予防をAIを活用して行う実証研究

文献情報

文献番号
201903006A
報告書区分
総括
研究課題名
介護施設入居高齢者等の疾病の早期発見・重症化予防をAIを活用して行う実証研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H29-ICT-一般-007
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
今中 雄一(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 鹿島 久嗣(京都大学 情報学研究科)
  • 櫻井 保志(大阪大学 産業科学研究所)
  • 國澤 進(京都大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究費
7,290,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護施設等に居住する高齢者等の疾病の早期発見・重症化予防を行うために、各種データを用いた評価・通知のシステムを研究開発し、現場にフィードバックすることを目的としている。
研究方法
1)【生体センサーデータの解析】
1.1)睡眠の推定と生活パターンの抽出
要介護状態にある被験者について、非接触型モーションセンサーの起床・睡眠推定データを用い、睡眠の推定の検証と、生活パターンの描出の可能性を探索した。
1.2)入居者の状態のモデル化
時系列ビッグデータ解析のためのリアルタイムAI技術(特徴自動抽出およびリアルタイム予測技術)を開発し、センサデータに適用した。

2)【介護提供組織の体制・風土データ】
介護事業所における職員組織文化について調査票調査を実施し、組織文化・安全文化を構成する因子間の関係を探索した。

3)【健康関連データ(介護レセプト、調査票データ、介護カルテ等)】
3.1)入居者のQOL
介護サービス利用者のQOLと精神的健康状態に関する実態を把握し、関連要因の探索を行った。
3.2) レセプト等の情報の活用
2015年8月から実施された介護保険一部利用者の自己負担2割への引き上げ政策について、介護サービス利用者への影響を差分の差分法で検証した。
3.3)介護カルテ情報の活用
施設・居宅系サービスの介護記録から、睡眠状態とインシデント有無の関連について検討を行った。
結果と考察
1)【生体センサーデータの解析】
1.1)睡眠の推定と生活パターンの抽出
介護記録と照合したが、介護記録の記載の揺れもあり、判定の誤差は大きかった。規則的な生活リズムがある場合、その特定と変化を抽出できる可能性が示された。
1.2)入居者の状態のモデル化
提案手法は、データに含まれる動作に関する事前知識を必要とせずに、特徴的なパターン(Rotate,Walk,Lift,Wipe,Rest)と変化点を自動的に取得し、高精度に予測できることを確認した。また、数ある予測手法の中で、世界最高の予測精度と計算速度を示しており、最新の深層学習と比較し最大で約670,000倍の高速化、約10倍の高精度化(予測誤差88%減)を達成した。

2)【介護提供組織の体制・風土データ】
『安全確保の状況』に対し、『組織基盤』(資源、責任と権限)からの直接効果よりも、『チーム力』(チームワーク、情報共有、内部協働)および『現場職員の士気』(士気・やる気、プロとしての成長)を介した間接効果が大きく、『チーム力』や『現場職員の士気』の醸成の必要性が示唆された。

3)【健康関連データ(介護レセプト、調査票データ、介護カルテ等)】
3.1)入居者のQOL
QOL指標として測定したEQ-5Dは、要介護度の悪化に伴って、スコアが減少する傾向がみられ、精神的健康状態指標として測定したWHO-5では要介護度の悪化との関連は見られなかった。EQ-5DとWHO-5ではいずれも利用者の主観的幸福感と主観的健康感との関連がみられた。
3.2) レセプト等の情報の活用
介護と医療の利用を合わせて考慮した結果、介護サービスの利用に有意の差はみられなかったが、自己負担2割になるグループに医療サービスの利用増加が見られた。介護と医療の一部サービスの代替性は存在する可能性がある。
3.3)介護カルテ情報の活用
良眠記録があると翌日(起床後)のインシデント記録は大幅に減少することが示された。単日の傾向ではあるが、睡眠が翌日(起床後)の行動になんらかの影響を及ぼしていることが察せられる。
結論
これまで整備・追加したデータ(生体センサー、医療・介護レセプト、介護カルテ、調査票調査等)と解析成果に基づき、多側面からのデータ分析を発展的に行い、その成果を発表した。具体的には、AI技術を適用し、生体センサーデータを用いて、高齢者の睡眠や生活パターンの検証、状態の把握のモデル化を行い、予後予測の基盤を作った。また、介護カルテの睡眠の情報からインシデントの発生を予測する基盤を作った。加えて、調査票調査データから、利用者QOLへの関連要因、利用者安全と介護職員の組織文化との構造的な関連を同定し、職員組織文化から利用者のQOL面、安全面での予後予測の基盤を作った。最後に、医療・介護レセプトを用いて、医療費・介護費の負担額増加に関する予測因子を明らかにし、介護保険の自己負担額増加による医療と介護のサービス代替性についても明らかにするとともに、負担額増加の予測因子を解析した。以上より、介護施設入居高齢者等の疾病の早期発見・重症化予防の予後予測モデルを、AIを活用し多側面のデータから構築した。これらの多側面からの予測技術を組み合わせ、より精度高く重症化の予測をするための基盤を構築した。さらなる社会実装へと展開することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2020-11-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-11-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201903006B
報告書区分
総合
研究課題名
介護施設入居高齢者等の疾病の早期発見・重症化予防をAIを活用して行う実証研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H29-ICT-一般-007
研究年度
令和1(2019)年度
研究代表者(所属機関)
今中 雄一(京都大学 医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 鹿島 久嗣(京都大学 情報学研究科)
  • 櫻井 保志(大阪大学 産業科学研究所)
  • 國澤 進(京都大学 医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 政策科学総合研究(臨床研究等ICT基盤構築・人工知能実装研究)
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
令和1(2019)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
介護施設等に居住する高齢者等の疾病の早期発見・重症化予防を行うために、各種データを用いた評価・通知のシステムを研究開発し、現場にフィードバックすることを目的としている。
研究方法
1)【生体センサーデータの解析】
1.1)睡眠の推定と生活パターンの抽出
要介護状態の被験者について、非接触型モーションセンサーの起床・睡眠推定データを用い、睡眠の推定の検証と、生活パターンの描出の可能性を探索した。
1.2)入居者の状態のモデル化
データの入手、ノイズクリーニングや小サンプルでの検証等を行い、時系列ビッグデータ解析のためのリアルタイムAI技術(特徴自動抽出およびリアルタイム予測技術)を開発し、センサデータに適用した。

2)【介護提供組織の体制・風土データ】
病院向けに開発された調査票をもとに介護事業所向けの調査票を開発し、調査協力事業所を確保した。介護事業所の組織文化・安全文化を構成する因子間の関係を探索した。

3)【健康関連データ(介護レセプト、調査票データ、介護カルテ等)】
3.1)入居者のQOL
調査票の開発および調査協力施設を確保した。入居者のQOLと精神的健康状態に関する実態を把握し、関連要因の探索を行った。
3.2) レセプト等の情報の活用
AI・機械学習を用いて、介護ニーズの増加要因および要介護重症化、死亡率予測を行った。また、2015年の介護保険一部利用者の自己負担2割への引き上げについて、利用者への影響を差分の差分法で検証した。
3.3)介護カルテ情報の活用
介護カルテ情報の取得およびシソーラスの構築を行った。介護カルテ情報から、睡眠状態とインシデント有無の関連について検討した。
結果と考察
1)【生体センサーデータの解析】
1.1)睡眠の推定と生活パターンの抽出
介護記録と照合したが、介護記録の記載の揺れもあり、判定の誤差は大きかった。規則的な生活リズムがある場合、その特定と変化を抽出できる可能性が示された。
1.2)入居者の状態のモデル化
提案手法は、データに含まれる動作に関する事前知識を必要とせずに、特徴的なパターン(Rotate,Walk,Lift,Wipe,Rest)と変化点を自動的に取得し、高精度に予測できることを確認した。また、予測手法の中で世界最高の予測精度と計算速度を示し、最新の深層学習と比較し最大で約670,000倍の高速化、約10倍の高精度化(予測誤差88%減)を達成した。

2)【介護提供組織の体制・風土データ】
『安全確保の状況』に対し、『組織基盤』(資源、責任と権限)からの直接効果よりも、『チーム力』(チームワーク、情報共有、内部協働)および『現場職員の士気』(士気・やる気、プロとしての成長)を介した間接効果が大きく、これらを醸成する重要性が示唆された。

3)【健康関連データ(介護レセプト、調査票データ、介護カルテ等)】
3.1)入居者のQOL
EQ-5Dは、要介護度の悪化に伴いスコアが減少する傾向がみられ、WHO-5では要介護度との関連は見られなかった。いずれの指標も主観的幸福感と主観的健康感との関連がみられた。
3.2) レセプト等の情報の活用
介護サービスの利用に有意差はみられなかったが、自己負担2割のグループでは医療サービスの利用が増加していた。介護と医療の一部サービスの代替性が存在する可能性が示唆された。
3.3)介護カルテ情報の活用
良眠記録があると、翌日(起床後)のインシデント記録は大幅に減少していた。睡眠が翌日の行動に影響を及ぼしていることが示唆された。
結論
これまで整備・追加したデータ(生体センサー、医療・介護レセプト、介護カルテ、調査票調査等)と解析成果に基づき、多側面からのデータ分析を発展的に行い、その成果を発表した。具体的には、AI技術を適用し、生体センサーデータを用いて、高齢者の睡眠や生活パターンの検証、状態の把握のモデル化を行い、予後予測の基盤を作った。また、介護カルテの睡眠の情報からインシデントの発生を予測する基盤を作った。加えて、調査票調査データから、利用者QOLへの関連要因、利用者安全と介護職員の組織文化との構造的な関連を同定し、職員組織文化から利用者のQOL面、安全面での予後予測の基盤を作った。最後に、医療・介護レセプトを用いて、医療費・介護費の負担額増加に関する予測因子と、介護保険の自己負担額増加による医療と介護のサービス代替性を明らかにし、負担額増加の予測因子を解析した。以上より、介護施設入居高齢者等の疾病の早期発見・重症化予防の予後予測モデルを、AIを活用し多側面のデータから構築した。これらの多側面からの予測技術を組み合わせ、より精度高く重症化の予測をするための基盤を構築した。さらなる社会実装へと展開することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2020-11-02
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2020-11-02
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201903006C

成果

専門的・学術的観点からの成果
整備・拡充した多源的大規模データ(生体センサー、医療・介護レセプト、介護カルテ、調査票調査)に基づきAI技術を活用し多側面から高度解析を行い、要介護高齢者の悪化予測のモデル構築を行った。即ち、生体センサーデータから高齢者の睡眠等生活パターンを把握し悪化予測をモデル化し、レセプトデータから中長期予後予測、介護カルテ・データからインシデント発生の短期予測の基盤を作り、「地域」と「施設」の要介護者QOLを可視化し、介護職員の組織文化の計測とそれらの関連を含む構造的な関係を見出した。
臨床的観点からの成果
介護カルテ・データを活用し、要介護高齢者の入院イベントの予測、睡眠状態から起床後の転倒などのインシデント(悪化イベント)の予測モデルなどを開発した。介護側の組織文化と要介護者の生活機能・QOLとの関係も見出した。これらの予測ツールにより、またこれらを組み合わせてさらに予測精度を上げ、臨床現場でハイリスク状態を事前に検出し、早期介入ができる。即ち、この予後予測基盤により、介護施設入居高齢者等の状態悪化リスクの早期発見、重症化予防、QOL向上に役立たせることができる。
ガイドライン等の開発
介護レセプトを用いて悪化の予測因子群を明らかにしたことにより、リスクで調整したアウトカム指標、即ち、地域地域の介護システムの質を表す指標を示すことができるようになる。また同様に介護レセプトを用いて介護費の予測因子群を明らかにすることにより、リスクで調整した費用アウトカム指標、即ち、地域地域の介護システムの費用・効率性を表す指標を示すことができるようになる。これらの成果により、全国各地の介護の質・効率の重要側面を定量的に比較することが現実的に可能となった。
その他行政的観点からの成果
〇開発した認知症の発症予測モデルは「兵庫県版認知症チェックシート」(認知症リスク評価スコアつき)として公開されている。
(https://web.pref.hyogo.lg.jp/kf29/25nintisyousi-to.html)
〇介護保険の自己負担増により、介護費が減り医療費が増え、合計は増えるパラドックスを実証。今後の費用負担政策に資する知見となる。
〇介護保険情報によりリスク調整アウトカム算出を可能とし、全国各地の介護の質・効率の重要側面の定量化方法の開発に成功した。
その他のインパクト
当研究成果をもとに公開シンポジウム「高齢者と介護をめぐるトラブルとリスク」を開催(2020年1月17日14:00~18:15京大医学部構内)。介護施設、老人ホームに加えサ高住など住まいのあり方も多様化し、フレイルの高齢者は、身体と認知の機能低下に伴い、悪化イベントやトラブルを生じるリスクが高い。QOL計測・悪化予測の当研究成果、現場の取組み、法・制度的課題など包括的視点から専門的意見を交換し、要介護者の悪化予測とリスクマネジメントについて臨床現場と制度の視点で議論した。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
8件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
開発したモデルは、「兵庫県版認知症チェックシート(認知症リスク評価スコアつき)」として公開され用いられている。介護保険の自己負担増により医療介護費合計は増加した知見は今後の施策に資する。
その他成果(普及・啓発活動)
1件
公開シンポジウムを行った。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Lin H, Tsuji T, Kondo K, et al.
Development of a risk score for the prediction of incident dementia in older adults using a frailty index and health checkup data: The JAGES longitudinal study.
Preventive Medicine , 112 , 88-96  (2018)
10.1016/j.ypmed.2018.04.004.
原著論文2
Lin H, Imanaka Y.
Effects of copayment in long-term care insurance on long-term care and medical care expenditure.
Journal of the American Medical Directors Association , 21 (5) , 640-646  (2020)
10.1016/j.jamda.2019.08.021.
原著論文3
内藤 優美, 後藤 悦, 林 慧茹, 他.
要介護データを用いた二次医療圏レベルの健康寿命(平均自立期間)の算出および関連要因の探索
日本医療・病院管理学会誌 , 57 (1) , 2-10  (2020)
https://doi.org/10.11303/jsha.57.2
原著論文4
Teraoka E, Kunisawa S, Imanaka Y
Trajectories of end-of-life medical and long-term care expenditures for older adults in Japan: retrospective longitudinal study using a large-scale linked database of medical and long-term care claims
BMC Geriatrics , 21 (1) , 403-403  (2021)
10.1186/s12877-021-02215-9

公開日・更新日

公開日
2021-07-14
更新日
2025-04-30

収支報告書

文献番号
201903006Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
9,477,000円
(2)補助金確定額
9,477,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 162,186円
人件費・謝金 3,558,690円
旅費 497,220円
その他 3,071,904円
間接経費 2,187,000円
合計 9,477,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2025-04-30
更新日
-