文献情報
文献番号
199800718A
報告書区分
総括
研究課題名
疾病管理による保健サ-ビスの経済的評価
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
久繁 哲徳(徳島大学医学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 健康科学総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書（概要版）
研究目的
急速に高齢化社会を迎えるわが国では,生活習慣病および老人病に対応できるような効果的な保健医療の提供とともに,それにともない高騰する保健医療費の適正化が緊急の政策的課題となっている。国際的には,こうした課題に対応するために,最も効果的な保健医療サ-ビスの評価を行い,しかも限られた保健医療費の下で最大の健康改善をもたらす効率的なサ-ビスの選択を試みている。
そうした戦略が「根拠に基づく保健医療」(evidence-based healthcare)である。その中でも「疾病管理」(disease management)は,個別の疾患に焦点を絞り,地域全体を視野に入れ,予防からリハビリまで,継続的で統合的な保健医療のあり方を検討する接近法として注目されている。そこで,わが国において,生活習慣病および老人病に対する効果的で効率的な保健医療サ-ビスのあり方について,疾病管理の枠組みにより戦略を設定するための研究を行いたいと考えた。とくに,今回は生活習慣病の代表として糖尿病を選び,疾病管理の具体的な適用を試みた。
そうした戦略が「根拠に基づく保健医療」(evidence-based healthcare)である。その中でも「疾病管理」(disease management)は,個別の疾患に焦点を絞り,地域全体を視野に入れ,予防からリハビリまで,継続的で統合的な保健医療のあり方を検討する接近法として注目されている。そこで,わが国において,生活習慣病および老人病に対する効果的で効率的な保健医療サ-ビスのあり方について,疾病管理の枠組みにより戦略を設定するための研究を行いたいと考えた。とくに,今回は生活習慣病の代表として糖尿病を選び,疾病管理の具体的な適用を試みた。
研究方法
わが国の生活習慣病および老人病に対する保健医療サ-ビスについて,疾病管理の枠組みに基づく系統的な研究を,以下の方法および計画にしたがって実施した。
1.疾病管理の方法論的検討
1) 疾病管理の方法論:疾病管理の国際的動向と方法論明らかにした。
2) 糖尿病の疾病管理の課題設定:疾病管理の観点から,糖尿病の1次予防から3次予防まで効果的なサ-ビスのあり方について具体的な計画を検討した。
2.疾病管理の糖尿病への適用
1) 糖尿病予防のガイドライン:わが国でのガイドライン設定の可能性を検討し,その問題点と今後の課題を明らかにした。
2) 糖尿病の疾病費用の評価:糖尿病について,その健康障害と社会的負担の評価を行った。とくに,疾病費用(cost of illness)を明らかにした。
3) 糖尿病予防の効果と効率評価:糖尿病の強化療法による合併症予防(3次予防),糖尿病患者の網膜症スクリ-ニング(3次予防),一般的な糖尿病に対するスクリ-ニング(2次予防),合併症重症化に関するスクリ-ニングと継続受療の影響(2次および3次予防)について評価を行った。
4) 糖尿病予防の地域戦略の設定:疾病管理の具体的な展開を進めるために,出発点として,糖尿病管理の質を地域レベルで検討した。
1.疾病管理の方法論的検討
1) 疾病管理の方法論:疾病管理の国際的動向と方法論明らかにした。
2) 糖尿病の疾病管理の課題設定:疾病管理の観点から,糖尿病の1次予防から3次予防まで効果的なサ-ビスのあり方について具体的な計画を検討した。
2.疾病管理の糖尿病への適用
1) 糖尿病予防のガイドライン:わが国でのガイドライン設定の可能性を検討し,その問題点と今後の課題を明らかにした。
2) 糖尿病の疾病費用の評価:糖尿病について,その健康障害と社会的負担の評価を行った。とくに,疾病費用(cost of illness)を明らかにした。
3) 糖尿病予防の効果と効率評価:糖尿病の強化療法による合併症予防(3次予防),糖尿病患者の網膜症スクリ-ニング(3次予防),一般的な糖尿病に対するスクリ-ニング(2次予防),合併症重症化に関するスクリ-ニングと継続受療の影響(2次および3次予防)について評価を行った。
4) 糖尿病予防の地域戦略の設定:疾病管理の具体的な展開を進めるために,出発点として,糖尿病管理の質を地域レベルで検討した。
結果と考察
1.疾病管理の方法論的検討
1) 疾病管理の方法論の検討:疾病管理の国際的動向と標準的方法を明らかにした。疾病管理の目的は,特定の疾患を対象に,地域における予防からリハビリまでを視野に入れた接近法であり,とくに効果と費用を総合的に評価することにある。
2) 糖尿病の疾病管理の課題の設定:糖尿病の疾病管理では,3次予防を中心とし,1次および2次予防の組み込みが必要であり,疾病費用の検討,さらに地域ネットワ-クの確立が重要な課題であることが明かとなった。
2.疾病管理の糖尿病への適用
1) 糖尿病合併症予防のガイドラインの設定:糖尿病予防のためのガイドラインを,1予防から3次予防まで,国際的な根拠を収集・評価して設定した。
2) 糖尿病の疾病費用の評価:わが国の糖尿病の疾病費用は4兆円と推定され,医療費の4倍に達していた。また,インスリン非依存性糖尿病の直接費用と間接費用を評価した結果,合併症の無い場合,前者は年間70万円,後者は40万円であった。さらに,各種糖尿病の平均的な入院医療費は,月間76万円であり,その内の55%を入院医療費が占めていた。
3) 強化療法による糖尿病合併症予防の経済的評価:強化インスリン療法により,生活の質と生存年の改善が認められ,費用が減少することが認められ,極めて効率的な予防と考えられた。
4) 糖尿病網膜症スクリ-ニングの有効性評価:網膜症スクリ-ニングにより,生活の質で調整した生存年が,0.87から0.98年延長することが推定された。
5) 糖尿病スクリ-ニングの経済的評価:健診受診者は,非受診・未受診者に比べて,糖尿病に関する入院,および入院外の医療費が低いことが認められた。
6) 糖尿病の検診と通院中断の合併症への影響:糖尿病合併症の重症度に関連する要因として,治療の中断との関連が認められたが,検診との関連は認められなかった。
7) 地域におけるネットワ-ク化:地域において糖尿病を診療している医師について,診療の質の評価を行った結果,評価点は比較的高いがバラツキが存在することが認められた。
以上の結果から,わが国の糖尿病に対して疾病管理により保健医療サ-ビスの戦略を設定することが可能であることが示されたと考えられる。また,個別の研究により,疾病管理の基礎となる,糖尿病の負担(burden)の状態,さらに予防の介入方法の効果と効率,地域における糖尿病診療の質の状況が明らかにされた。こうした情報は,わが国においては,今回はじめて把握されたものである。
ただし,疾病管理戦略で設定した課題については,一部の検討が行われたのみであり,さらに今後,より広い範囲で多様な課題について検討を進めることが必要と考えられる。なお,最も重要な点は,国あるいは地域において,疾病管理のプログラムを作成し,最適な糖尿病予防サ-ビス戦略を決定し,それを実行,評価することである。
1) 疾病管理の方法論の検討:疾病管理の国際的動向と標準的方法を明らかにした。疾病管理の目的は,特定の疾患を対象に,地域における予防からリハビリまでを視野に入れた接近法であり,とくに効果と費用を総合的に評価することにある。
2) 糖尿病の疾病管理の課題の設定:糖尿病の疾病管理では,3次予防を中心とし,1次および2次予防の組み込みが必要であり,疾病費用の検討,さらに地域ネットワ-クの確立が重要な課題であることが明かとなった。
2.疾病管理の糖尿病への適用
1) 糖尿病合併症予防のガイドラインの設定:糖尿病予防のためのガイドラインを,1予防から3次予防まで,国際的な根拠を収集・評価して設定した。
2) 糖尿病の疾病費用の評価:わが国の糖尿病の疾病費用は4兆円と推定され,医療費の4倍に達していた。また,インスリン非依存性糖尿病の直接費用と間接費用を評価した結果,合併症の無い場合,前者は年間70万円,後者は40万円であった。さらに,各種糖尿病の平均的な入院医療費は,月間76万円であり,その内の55%を入院医療費が占めていた。
3) 強化療法による糖尿病合併症予防の経済的評価:強化インスリン療法により,生活の質と生存年の改善が認められ,費用が減少することが認められ,極めて効率的な予防と考えられた。
4) 糖尿病網膜症スクリ-ニングの有効性評価:網膜症スクリ-ニングにより,生活の質で調整した生存年が,0.87から0.98年延長することが推定された。
5) 糖尿病スクリ-ニングの経済的評価:健診受診者は,非受診・未受診者に比べて,糖尿病に関する入院,および入院外の医療費が低いことが認められた。
6) 糖尿病の検診と通院中断の合併症への影響:糖尿病合併症の重症度に関連する要因として,治療の中断との関連が認められたが,検診との関連は認められなかった。
7) 地域におけるネットワ-ク化:地域において糖尿病を診療している医師について,診療の質の評価を行った結果,評価点は比較的高いがバラツキが存在することが認められた。
以上の結果から,わが国の糖尿病に対して疾病管理により保健医療サ-ビスの戦略を設定することが可能であることが示されたと考えられる。また,個別の研究により,疾病管理の基礎となる,糖尿病の負担(burden)の状態,さらに予防の介入方法の効果と効率,地域における糖尿病診療の質の状況が明らかにされた。こうした情報は,わが国においては,今回はじめて把握されたものである。
ただし,疾病管理戦略で設定した課題については,一部の検討が行われたのみであり,さらに今後,より広い範囲で多様な課題について検討を進めることが必要と考えられる。なお,最も重要な点は,国あるいは地域において,疾病管理のプログラムを作成し,最適な糖尿病予防サ-ビス戦略を決定し,それを実行,評価することである。
結論
効果的で効率的な保健医療サ-ビス戦略を検討するために,疾病管理による評価を実施した。研究に際しては,疾病管理の方法論的検討と,疾病管理の特定の生活習慣病(糖尿病)への適用の2つの課題について行った。
その結果,わが国の糖尿病に対して疾病管理の枠組みにより,保健医療サ-ビスの戦略を設定することが可能であることが示された。今後,今回の研究結果に基づき,さらに広範囲な地域おける展開を試みるとともに,その基盤となる個別の課題を検討することが必要と考えられる。そうした成果を積み上げることにより,最終的には,国あるいは地域の最適な糖尿病予防サ-ビス戦略を確立することが期待される。
その結果,わが国の糖尿病に対して疾病管理の枠組みにより,保健医療サ-ビスの戦略を設定することが可能であることが示された。今後,今回の研究結果に基づき,さらに広範囲な地域おける展開を試みるとともに,その基盤となる個別の課題を検討することが必要と考えられる。そうした成果を積み上げることにより,最終的には,国あるいは地域の最適な糖尿病予防サ-ビス戦略を確立することが期待される。
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