メタボロミクスを用いた膀胱発がん性芳香族アミン化合物の活性代謝物の解明

文献情報

文献番号
201825021A
報告書区分
総括
研究課題名
メタボロミクスを用いた膀胱発がん性芳香族アミン化合物の活性代謝物の解明
課題番号
H28-化学-若手-006
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
三好 規之(静岡県立大学 食品栄養科学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
2,359,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、国内の事業場から、従業員に膀胱がんが高頻度に発症している状況について報告があった。膀胱がんを発症した労働者は、染料や顔料の製造過程で使用する中間体物質を扱う作業に従事しており、長期間・高濃度に芳香族アミン類に曝露されてきた職業性被ばくが指摘されている。芳香族アミンのうち発がんとの関連が最もよく研究されているo‐トルイジン(o-Tol)は、国際がん研究機関(IARC)が「ヒトに対して発がん性が認められるGroup 1」に分類する発がん物質である。o-Tolは、様々な遺伝毒性試験で陽性を示す一方で、変異原性試験での陽性反応には代謝活性化を必要とするため、o-Tolの発がんメカニズムには、生体内で生成される活性代謝物に起因するDNA損傷(DNA付加体形成)が関与していることが示唆されているが、その詳細は不明である。本研究では、代謝活性化を必要とする芳香族アミン発がん物質への曝露に対する精度の高いリスク評価システムの開発を行うことで、職業性被ばくの原因究明と健康障害防止に貢献する。
研究方法
o-Tol曝露(0.8% 飲水投与2日間)ラット尿のメタボロミクスおよび肝DNAアダクトムを実施した。尿アダクトームで検出・同定した化合物の細胞毒性および遺伝毒性について検討した。
結果と考察
ラット尿のメタボロミクスより、複数のo-Tol代謝物を検出することに成功し、その中でもo-Tolの2量体であるジアミン体2-methyl-N4-(2-methylphenyl)-1,4-benzenediamineを生体試料から新規に検出・同定することに成功した。さらに、o-Tol曝露(0.8% 飲水投与2日間)ラット肝のアダクトーム分析より、dGおよびdAにジアミン体が1分子付加した質量に相当するピークがo-Tol曝露群特異的に検出された。また、培養細胞を用いた生物活性試験より、ジアミン体は非常に強力な細胞毒性と遺伝毒性を示すことを見出した。それゆえ、o-Tolの2量体化ジアミン体を介したDNA付加反応がDNAダメージを引き起こし、o-Tolの膀胱発がんに影響を及ぼす新規メカニズムが示唆された。
結論
o-Tolの活性代謝物によるDNA付加体形成に寄与する代謝物として、2-methyl-N4-(2-methylphenyl)-1,4-benzenediamineを同定した。2-methyl-N4-(2-methylphenyl)-1,4-benzenediamineは非常に強力な細胞毒性と遺伝毒性を示したことから、2-methyl-N4-(2-methylphenyl)-1,4-benzenediamine を介したDNAダメージが少なくともo-Tolの膀胱発がんに影響を及ぼす可能性を新規に提出できた。

公開日・更新日

公開日
2019-07-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201825021B
報告書区分
総合
研究課題名
メタボロミクスを用いた膀胱発がん性芳香族アミン化合物の活性代謝物の解明
課題番号
H28-化学-若手-006
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
三好 規之(静岡県立大学 食品栄養科学部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成27年、国内の事業場から、従業員に膀胱がんが高頻度に発症している状況について報告があった。膀胱がんを発症した労働者は、染料や顔料の製造過程で使用する中間体物質を扱う作業に従事しており、長期間・高濃度に芳香族アミン類に曝露されてきた職業性被ばくが指摘されている。芳香族アミンのうち発がんとの関連が最もよく研究されているo-トルイジン(o-Tol)は、国際がん研究機関(IARC)が「ヒトに対して発がん性が認められる」Group 1に分類する発がん物質である(IARC Monograph, 2010)。o-Tolは、様々な遺伝毒性試験で陽性を示す一方で、変異原性試験での陽性反応には代謝活性化を必要とするため、o-Tolの発がんメカニズムには、生体内で生成される活性代謝物に起因するDNA損傷(DNA付加体形成)が関与していることが示唆されているが、その詳細は不明である。o-Tolのように、代謝物活性化によって変異原性試験などで陽性反応を示す代謝物(活性代謝物)の多くは、生体成分との高反応性ゆえ、その本体を生体試料から正確に分析することは容易ではない。しかし、活性代謝物は病態の発症に直接的に作用する分子であるので疾患の発症メカニズム解明に重要であるだけでなく、化学物質の有害性を早期に且つ高精度に評価する優れたバイオマーカーになりうる。本研究では、DNA付加体を網羅的に検出するDNAアダクトームの分析技術と、代謝物の網羅的分析法であるメタボローム解析技術を駆使し、o-Tol活性代謝物と、そのDNA付加体の同定を目的として分析を行った。
研究方法
o-TolのS9 mixを用いた試験管内代謝や、calf thymus DNAとの試験管内反応、さらにo-Tol曝露(0.8% 飲水投与2日間)ラット生体試料などを用い各種分析機器分析により、o-Tol活性代謝物と、そのDNA付加体を解析した。また、各分析より同定した化合物の細胞毒性および遺伝毒性について検討した。
結果と考察
各種分析より、細胞毒性および遺伝毒性を示すo-Tol代謝物の一つとしてo-Tolの2量体である2-methyl-N4-(2-methylphenyl)-1,4-benzenediamine(MMBD)を同定した。MMBDを生体試料から検出するのは新規である。それゆえ、o-Tolの2量体MMBDを介したDNA付加反応がDNAダメージを引き起こし、o-Tolの膀胱発がんに影響を及ぼす新規メカニズムが示唆された。
結論
o-Tolの活性代謝物によるDNA付加体形成に寄与する代謝物として、2-methyl-N4-(2-methylphenyl)-1,4-benzenediamineを同定した。2-methyl-N4-(2-methylphenyl)-1,4-benzenediamineは非常に強力な細胞毒性と遺伝毒性を示したことから、2-methyl-N4-(2-methylphenyl)-1,4-benzenediamine を介したDNAダメージが少なくともo-Tolの膀胱発がんに影響を及ぼす可能性を新規に提出できた。

公開日・更新日

公開日
2019-07-11
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201825021C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究で同定した代謝物は、実験動物生体試料からの検出が新規である。
臨床的観点からの成果
今後、臨床サンプルなどを測定し、基礎研究で得られた知見の外挿を評価する。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
特になし
その他のインパクト
特になし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
15件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
48件
学会発表(国際学会等)
19件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Toyoda T, Matsushita K, Morikawa T, et al.
Distinct differences in the mechanisms of mucosal damage and γ-H2AX formation in the rat urinary bladder treated with o-toluidine and o-anisidine.
Arch. of Toxicol. , 93 (3) , 753-764  (2019)
原著論文2
Toyoda T, Totsuka Y, Matsushita K, et al.
γ-H2AX formation in the urinary bladder of rats treated with two norharman derivatives obtained from o-toluidine and aniline.
J. Appl. Toxicol. , 38 (4) , 537-543  (2018)
原著論文3
Kobayashi T, Toyoda T, Tajima Y, et al
o-Anisidine Dimer, 2-Methoxy- N4-(2-methoxyphenyl) Benzene-1,4-diamine, in Rat Urine Associated with Urinary bladder Carcinogenesis
Chem. Res. Toxicol. , 34 (3) , 912-919  (2021)
原著論文4
Tajima Y, Toyoda T, Hirayama Y, et al
Novel o-Toluidine Metabolite in Rat Urine Associated with Urinary Bladder Carcinogenesis
Chem. Res. Toxicol. , 33 (7) , 1907-1914  (2020)
原著論文5
Toyoda T, Kobayashi T, Miyoshi N, et al
Toxicological effects of two metabolites derived from o-toluidine and o-anisidine after 28-day oral administration to rats
J Toxicol Sci. , 47 (11) , 457-466  (2022)
原著論文6
Kobayashi T, Kishimoto S, Watanabe S, et al
Cytotoxic Homo- and Hetero-Dimers of o-toluidine, o-anisidine, and Aniline Formed by In Vitro Metabolism
Chem Res Toxicol. , 35 (9) , 1625-1630  (2022)

公開日・更新日

公開日
2022-06-09
更新日
2023-06-06

収支報告書

文献番号
201825021Z