文献情報
文献番号
201825004A
報告書区分
総括
研究課題名
カーボンナノチューブ等の肺、胸腔及び全身臓器における有害性並びに発癌リスクの新規高効率評価手法の開発
課題番号
H28-化学-一般-004
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
津田 洋幸(公立大学法人 名古屋市立大学 津田特任教授研究室)
研究分担者(所属機関)
- 菅野 純(独立行政法人労働者健康安全機構日本バイオアッセイ研究センター)
- 内木 綾(名古屋市立大学大学院医学研究科 実験病態病理学分野 )
- 山村 寿男(名古屋市立大学大学院薬学研究科 細胞分子薬効解析学分野)
- 伴野 勧(愛知医科大学医学部 感染・免疫学講座)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
12,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
多層カーボンナノチューブ(MWCNT)は生体内難分解性で肺・胸膜等で異物炎症を誘発する。MWCNTの有害作用・発がん性の評価には吸入曝露専用設備と高額な稼働費が必要なために実施は容易ではない。発がん性では今までにMWCNT-7一種のみで実施され、大半は積み残し状態にある。MWCNTは製品によって形状・物性が異なるために個々の製品についての試験が必要である。本研究の目的は、ラットを用いて、吸入曝露試験に代替し得る簡便で低コストな経気管肺内噴霧投与(TIPS法・2週間に8回投与)法の開発検証にある。
研究方法
1.短期毒性試験:TIPS投与後1-3週に終了して、気管・肺・胸腔・胸膜中皮へ急性・亜慢性毒性評価、気道クリアランスとMφ動態、Reactive Carbonyl species(RCs)ラジカル産生とDNA障害物質の同定試みた。2.発がん性試験:TIPS投与後102週まで無処置観察による肺と胸膜中皮の発がん性の有無を観察した。検体は、MWCNT-A(針状凝集体、210-215層)とMWCNT-B(綿菓子状凝集体、15-18層)、フラーラン(FL)、FLウィスカー(FLW)、発がん陽性対照としてクロシドライト(UICC)、MWCNT-7(40層)、MWCNT-N(40-60層(以上0.25~1mg/ラット)を用いた。投与前にTaquann法分散処理を行った。別途、MWCNT-7(1.5mg/ラット)は超音波分散後に投与した。Benzo[ghi]peryleneをマーカーとしてMWCNTの肺組織内残量の定量法(大西法)を開発した。
結果と考察
結果:1)MWCNT-A、-Bは、(1)3週では肺炎症の程度と誘導サイトカイン種はMWCNT-Bのほうにやや多かった。(2) 104週ではMWCNT-Aと-Bとも腺腫、腺がんの合計発生が有意に増加した。胸膜悪性中皮腫(PMM)は見られなかった。MWCNT-7(1.5mg)では殆ど(95%)のラットに104週以前にPMMの発生により死亡した。2) FL、FLW、MWCNT-7、MWCNT-Nにおいて、(1) 3週で肺胞内好中球浸潤、肺胞マクロファージ(AMφ)の増加がみられた。肺組織RNAマイクロアレイおよびqRT-PCRにてMφ関連・細胞増殖・炎症関連Ccl2を、Ccl9, Cstk, Serpin2, ApoEやIgf1g等の有意の発現増加をみた。(2) 104週では、0.5mg群にMWCNT-7, -Nに肺で白色結節病変(腫瘍性病変)の有意な増加を認めた。3)MWCNT-A,-B投与直後に肺内に取り込まれたビーズ蛍光強度によるクリアランスを評価している。Mφの壊死・消長はインフラマソーム形成について検討中である。4)MWCNT-A,-B、MWCNT-7投与肺組織中Reactive Carbonyl speciesの増加、またRCsとのDNA付加体形成にについて網羅的解析実施している。
考察:1)MWCNT-A、-Bに発がん性が示されたが、層数との相関はなかった。またMWCNT-7(1.5mg)で95%の動物にPMMが発生したことは、MWCNT-7の日本バイオアッセイ研究センターにおける吸入曝露の結果(肺腫瘍のみ)とは異なる。2)MWCNTの曝露による肺胞マクロファージ(AMφ)の細胞死機構は少なくともアポトーシスではない。3)MWCNTsを貪食して活性化した肺胞マクロファージが活性酸素を過剰に産生することで脂質過酸化分解物であるRCs量が増加した可能性がある。
考察:1)MWCNT-A、-Bに発がん性が示されたが、層数との相関はなかった。またMWCNT-7(1.5mg)で95%の動物にPMMが発生したことは、MWCNT-7の日本バイオアッセイ研究センターにおける吸入曝露の結果(肺腫瘍のみ)とは異なる。2)MWCNTの曝露による肺胞マクロファージ(AMφ)の細胞死機構は少なくともアポトーシスではない。3)MWCNTsを貪食して活性化した肺胞マクロファージが活性酸素を過剰に産生することで脂質過酸化分解物であるRCs量が増加した可能性がある。
結論
1)(1)TIPS投与後短期観察によって肺、気管、胸腔、胸腔洗浄液等の毒性と炎症の把握が可能である。(2)2週TIPS投与後2年無処置観察モデルは、亜慢性および慢性毒性(発がん性)評価が施設を選ばず容易にできるため、リスク評価の加速化に充分貢献できる。2)発がん機序としては慢性異物炎症によって4-HNEに代表される種々のラジカルの発生と炎症性サイトカイン産生亢進が示唆された。3)TIPS投与では一定量の検体を末梢の肺胞腔まで確実に送達できる。実際の曝露経路を考えるとラット・マウスではMWCNT等の固形物は複雑な構造の鼻腔組織で捕捉されてしまうので、必ずしもヒトに近似するルートではない。ヒトは齧歯類と異なって吸気が口から直接肺に入る場合が多々あるので(タバコ等)、気管内投与は人工的であるとは言い切れない。その意味で、TIPS投与にはリスク評価を行う上で妥当性がある。
公開日・更新日
公開日
2019-07-10
更新日
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