住肉胞子虫による国産ジビエの食中毒リスク評価に関する研究

文献情報

文献番号
201823037A
報告書区分
総括
研究課題名
住肉胞子虫による国産ジビエの食中毒リスク評価に関する研究
課題番号
H30-食品-若手-003
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
山崎 朗子(岩手大学 農学部)
研究分担者(所属機関)
  • 入江 隆夫(北海道立衛生研究所 感染症部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
4,620,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、害獣を食肉利用する地域振興事業が盛んである。これまでの疫学調査で、E型肝炎ウイルス、志賀毒素産生大腸菌、サルモネラ、肝蛭、住肉胞子虫等の保有が認められたが、細菌および寄生虫については内臓の廃棄により食中毒リスクを回避でき、E型肝炎は遺伝子検出率(イノシシ2.4%、シカ0.1%)を考慮すると深刻な食中毒危害や経済損害には直結しない。しかし住肉胞子虫は可食部位に寄生し、シカでの陽性率が100%であること、シカ肉の生食で食中毒が発生したことから、ジビエ産業振興への障害となる。はっきりと食中毒事例が認められたウマのS.fayeriと異なり、ジビエの住肉胞子虫は詳細が不明なため届出指定対象外であるが、馬肉に似た赤身のシカ肉は半生や生食が好まれ、食中毒リスクの高い状態で流通・提供されている。そのためこれらの毒性の解析は、食中毒発生予防のためにも、本虫による食中毒様症状発生時に正確に対応するためにも早急な解決が求められる。
研究方法
野生ニホンジカ筋肉中の住肉胞子虫を採取し、実験用ウサギを用いたin vivoバイオアッセイにて腸管毒性を確認した。同時に、比較対象となるウマ寄生性住肉胞子虫Sarcocystis fayerを用いて毒性解析を行った。
国内から採取した野生ニホンジカ筋肉組織、および研究用として取り寄せたウマ食用肉からピンセットを用いて住肉胞子虫シストを回収し、-80℃で冷凍保存したものと、4℃で冷蔵保存したものを用いてウサギ腸管ループテストを行なった。
シストはどちらも使用時にBioMasherⅡ(ニッピ)を用いてホモジナイズし、シストからブラディゾイトを遊離させた。ブラディゾイト懸濁液をトリパンブルーにて染色し、色素試験を行なった。
白色日本種、オス、20週齢、3.0 kgのウサギを36時間の絶食後、ミダゾラム、メデトミジン、ブトルファノールを用いて鎮静、アルファキサロン麻酔下にて開腹し、空回腸の血管周囲に腸管結紮ループを作製した。各ループにウマ由来冷凍シスト5×10⁵/loop、シカ由来冷凍シスト5.3×10⁵/loop、鹿由来冷蔵シスト4.8×10⁵/loopを投与した。陰性対照としてPBSを500µLずつ投与し、閉腹して約18時間後にソムノペンチル100 mg/kg bwの静脈内投与によりウサギを安楽殺し、ループ内の液体貯留を確認した。
また、馬肉から回収した住肉胞子虫のシストのホモジネーションをSuperdex75ゲルろ過クロマトグラフィーにかけ、水溶性タンパク質を分画した。
結果と考察
ウマとシカ由来の住肉胞子虫の冷凍および冷蔵シストを供試したウサギ腸管ループ試験の結果、シカ由来冷蔵シストのブラディゾイト懸濁液に対して非出血性液体貯留が認められたことから、冷蔵状態のシカ由来住肉胞子虫には腸管毒性があることが考えられる。
冷蔵と冷凍による腸管毒性の相違をについては、10^5、10^3、のどちらの投与量でも-80℃で冷凍保存したシストは液体貯留を表さず、4℃冷蔵シストのみが出血性液体貯留を示した。また、シカ由来のSarcocystisとウマ由来Sarcocystisとは出血に関して異なる腸管毒性と考えられる。
更に、ウマ由来Sarcocystisをゲルろ過分画し、分子量の異なる分画について同様に腸管ループ試験に供したところ、既知の毒性因子として知られる15kDaより分子量の大きい分画でもループ内液体貯留が認められた。ループの長さ(cm)と内容物重量(g)を測定し、液体貯留値(Fluid accumulation Ratio、以下、F/A値)をF/A = 内容物重量(g)/ループ長(cm)にて求めた結果、FA値は15kDa分画(0.20)よりも大きい0.30であったため、15kDaタンパク質と同等またはより強い毒性を持ったタンパク質が存在する可能性が示された。
結論
シカ由来、ウマ由来の住肉胞子虫にはどちらにも腸管毒性があるが、シカ由来の住肉胞子虫の腸管毒性は非出血非炎症性、ウマ由来の住肉胞子虫は出血炎症性と、相違がある。また、冷凍により腸管毒性は、ブラディゾイトの生死に起因せず、感染能は保ったまま腸管毒性だけが消失する仕組みである。腸管毒性は1000ブラディゾイトで発生するが、もっと少ない量でも起こる可能性がある。腸管毒性を起こす毒素は既知の15kDaタンパク質だけでなく、より分子量の大きいタンパク質も毒性タンパク質の候補である。

公開日・更新日

公開日
2019-12-18
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-12-18
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201823037Z