アクリルアミドの発がん過程早期における遺伝子突然変異誘発性に関する研究

文献情報

文献番号
201823033A
報告書区分
総括
研究課題名
アクリルアミドの発がん過程早期における遺伝子突然変異誘発性に関する研究
課題番号
H29-食品-若手-010
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
石井 雄二(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
2,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質のリスク評価において遺伝毒性の有無はAmes試験、染色体異常試験、小核試験等の組み合わせによって評価され、それらは発がん性試験とは独立して実施される。一方、レポーター遺伝子導入動物によるin vivo変異原性試験は、発がん性試験と同一条件下で、発がん標的臓器における突然変異の有無を検索できることから、発がん性試験で認められた腫瘍の形成と突然変異とを関連付けられる唯一の手法である。我々はこれまでに最大耐量(発がん用量の8倍)のアクリルアミド(AA)をマウスに投与すると発がん標的臓器である肺において突然変異頻度が上昇することを報告している。しかしながら、発がん用量の2倍にあたる100 ppmの投与では突然変異頻度の変化は認められず、発がん用量におけるAAの突然変異誘発性を示す報告はこれまでにないことから、AAの発がん過程にその遺伝毒性が直接的に関与するかは未だ明らかになっていない。そこで本研究では、in vivo変異原性試験の①被験物質の投与期間を延長または②高感度化し、発がん過程早期におけるAAの突然変異誘発性とその関連因子を検索することで、AAの発がん過程における遺伝毒性の直接的な関与の有無を明らかにすることを目的とした。
研究方法
実験1では、雄性6週令のgpt deltaマウスにAAを発がん用量である50 ppmの濃度で4、8及び16週間飲水投与し、発がん標的臓器であるハーダー腺及び肺と、非発がん臓器である肝臓を採取し、病理組織学的検索、DNA損傷(N7-GA-Gua)測定、in vivo変異原性の検索を行った。実験2では、DNAポリメラーゼζ(Polζ)の複製忠実度を低下させたPolζ KI gpt deltaマウスとgpt deltaマウスにAAを50、150又は300 ppmの濃度で28日間投与し、3日間の休薬後、肺を採取し、病理路組織学的検索、N7-GA-Gua測定及びin vivo変異原性の検索を実施した。
結果と考察
実験1では、ハーダー腺、肺及び肝臓におけるDNA損傷と変異原性を検索した結果、N7-GA-Guaは投与4週目からすべての臓器で検出された。投与期間に伴うDNA損傷の増加は認められなかったことから、DNA付加体の形成と同時に損傷塩基の修復又は脱塩基が生じていることを示すものと考えられた。gpt assayの結果、非発がん臓器である肝臓において投与期間の延長によるMFの変化は認められなかったのに対し、AAの発がん標的臓器であるハーダー腺及び肺では投与16週目にMFが有意に上昇したことから、AAのマウスハーダー腺及び肺における発がん性には、その突然変異誘発性が寄与していると考えられた。また、これらの変異体ではG:C-T:A transversion及び一塩基欠失の頻度が高頻度に認められ、特異的DNA付加体の形成とそれに伴う脱塩基部位(AP site)の形成によって生じる変異と考えられた。
実験2では、肺におけるgpt assay及びSpi- assayの結果、gpt deltaマウスとPolz KI gpt deltaマウスの間に差は認められなかった。また、N7-GA-Gua量はAAの投与濃度依存的に増加したものの、その形成量に遺伝子型間の差は認められなかった。In vitroにおいて酵母PolζはAP siteに挿入された誤った塩基から伸長反応を行うことが報告されているが、変異スペクトラム解析の結果、その働きを示す特徴的なタンデム変異の生成は認められなかった。以上より、PolζはAAの突然変異誘発には寄与していないと考えられた。
結論
発がん用量のAAの突然変異誘発性の有無を検討した結果、in vivo変異原性試験の投与期間を延長することにより、発がん用量のAAが発がん標的臓器であるマウスハーダー腺及び肺においてDNA付加体形成と突然変異を引き起こすことが明らかとなり、AAの発がん性にその突然変異誘発性が寄与することが示された。

公開日・更新日

公開日
2022-06-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201823033B
報告書区分
総合
研究課題名
アクリルアミドの発がん過程早期における遺伝子突然変異誘発性に関する研究
課題番号
H29-食品-若手-010
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
石井 雄二(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター 病理部)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質のリスク評価において遺伝毒性の有無はAmes試験、染色体異常試験、小核試験等の組み合わせによって評価され、それらは発がん性試験とは独立して実施される。一方、レポーター遺伝子導入動物によるin vivo変異原性試験は、発がん性試験と同一条件下で、発がん標的臓器における突然変異の有無を検索できることから、発がん性試験で認められた腫瘍の形成と突然変異とを関連付けられる唯一の手法である。我々はこれまでに最大耐量(発がん用量の8倍)のアクリルアミド(AA)をマウスに投与すると発がん標的臓器である肺において突然変異頻度が上昇することを報告している。しかしながら、発がん用量の2倍にあたる100 ppmの投与では突然変異頻度の変化は認められず、発がん用量におけるAAの突然変異誘発性を示す報告はこれまでにないことから、AAの発がん過程にその遺伝毒性が直接的に関与するかは未だ明らかになっていない。そこで本研究では、in vivo変異原性試験の①被験物質の投与期間を延長または②高感度化し、発がん過程早期におけるAAの突然変異誘発性とその関連因子を検索することで、AAの発がん過程における遺伝毒性の直接的な関与の有無を明らかにすることを目的とした。
研究方法
実験1では、雄性6週令のgpt deltaマウスにAAを発がん用量である50 ppmの濃度で4、8及び16週間飲水投与し、発がん標的臓器であるハーダー腺及び肺と、非発がん臓器である肝臓を採取し、病理組織学的検索、DNA損傷(N7-GA-Gua)測定、in vivo変異原性の検索を行った。実験2では、DNAポリメラーゼζ(Polζ)の複製忠実度を低下させたPolζ KI gpt deltaマウスとgpt deltaマウスにAAを50、150又は300 ppmの濃度で28日間投与し、3日間の休薬後、肺を採取し、病理路組織学的検索、N7-GA-Gua測定及びin vivo変異原性の検索を実施した。
結果と考察
実験1では、ハーダー腺、肺及び肝臓における病理組織学的検索、DNA損傷と変異原性を検索した結果、いずれの臓器においてもAAの投与に起因した組織学的変化は見られなかった。N7-GA-Guaは投与4週目からすべての臓器で検出された。投与期間に伴うDNA損傷の増加は認められなかったことから、DNA付加体の形成と同時に損傷塩基の修復又は脱塩基が生じていることを示すものと考えられた。gpt assayの結果、非発がん臓器である肝臓において投与期間の延長によるMFの変化は認められなかったのに対し、AAの発がん標的臓器であるハーダー腺及び肺では投与16週目にMFが有意に上昇したことから、AAのマウスハーダー腺及び肺における発がん性には、その突然変異誘発性が寄与していると考えられた。また、これらの変異体ではG:C-T:A transversion及び一塩基欠失の頻度が高頻度に認められ、特異的DNA付加体の形成とそれに伴う脱塩基部位(AP site)の形成によって生じる変異と考えられた。
実験2では、肺における病理組織学的検索、DNA損傷と変異原性を検索した結果、AAの投与に起因した組織学的変化は見られなかった。N7-GA-Gua量は50 ppm群から検出され、AAの投与濃度依存的に増加したものの、その形成量に遺伝子型間の差は認められなかった。gpt assay及びSpi- assayの結果、両遺伝子型友gpt MFsは150 ppm群から有意に上昇し、Spi- MFsは300 ppm群で上昇傾向を示したが、遺伝子型間の差は認められなかった。また、In vitroにおいて酵母PolζはAP siteに挿入された誤った塩基から伸長反応を行うことが報告されているが、変異スペクトラム解析の結果、その働きを示す特徴的なタンデム変異の生成は認められなかった。以上より、PolζはAAの突然変異誘発には寄与していないことが考えられた。
結論
発がん用量のAAの突然変異誘発性の有無を検討した結果、in vivo変異原性試験の投与期間を延長することにより、発がん用量のAAが発がん標的臓器であるマウスハーダー腺及び肺においてDNA付加体形成と突然変異を引き起こすことが明らかとなり、AAの発がん性にその突然変異誘発性が関与することが示された。

公開日・更新日

公開日
2022-06-16
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201823033C

収支報告書

文献番号
201823033Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,500,000円
(2)補助金確定額
2,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,081,434円
人件費・謝金 0円
旅費 370,426円
その他 1,048,261円
間接経費 0円
合計 2,500,121円

備考

備考
121円については自己負担分

公開日・更新日

公開日
2021-10-13
更新日
-