畜産食品の生物学的ハザードとその低減手法に関する研究

文献情報

文献番号
201823005A
報告書区分
総括
研究課題名
畜産食品の生物学的ハザードとその低減手法に関する研究
課題番号
H28-食品-一般-005
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 貴正(国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部)
  • 等々力 節子(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構食品研究部門)
  • 岡田 由美子(国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
7,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生食用牛肝臓の提供・販売は2012年に禁止されたものの、依然として生食に対する要望がある。再開の検討には、牛肝臓の細菌汚染、非加熱殺菌技術などに関する科学的データの集積が必要である。まず、食肉衛生検査所の協力の下、牛肝臓等における細菌汚染を定量的に検討し、地域性・季節性等の要因も踏まえた実態把握を行うことで細菌汚染リスクを勘案すると共に、肝臓への移行経路に関する知見を収集する。次に、非加熱殺菌技術の1つである放射線照射について、ガンマ線照射条件下における肝臓内部の線量分布や線量測定の不確かさも考慮した殺菌効果の検証を行い、微生物規格となり得る腸内細菌科菌群について、自然汚染検体の照射によって陰性とし得るか検証する。さらに、高圧処理の殺菌効果も検証する。
研究方法
細菌汚染に関しては、可能な限り衛生的に摘出した肝臓又は通常出荷時の肝臓を検体として、培養法により大腸菌、大腸菌群及び腸内細菌科菌群の菌数を算出した。さらに、肝臓内部の温度変化並びに胆汁におけるサルモネラ及び志賀毒素産生性大腸菌の増殖性について調査した。放射線照射に関しては、サルモネラの5桁低減に必要な線量の推定及び肝臓に照射した場合の線量分布を計測した。さらに、商業規模の放射線照射施設において、サルモネラの5桁低減に必要な線量を照射できる肝臓片の大きさを推定した。高圧処理に関しては、高圧処理単独又は高圧処理+加温などの混合処理による菌数低減効果と牛肝臓の肉質変化に与える影響について、定量培養法及び色差計を用いて測定した。
結果と考察
細菌汚染に関しては、平成28ー29年度に供した計124頭のうち、腸内細菌科菌群が検出された個体は18頭(14.5%、最大菌数4300 CFU/g)であった。肝臓内部と胆汁で腸内細菌科菌群が検出された個体の肝臓内部では同菌の広範囲に亘る汚染が認められる傾向にあった。平成30年度に通常処理された出荷前の計70頭を調査したところ、腸内細菌科菌群が肝臓内部より検出されのは16頭(22.9%)と平成28-29年度に比べ相対的に高値を示し、同菌の最大検出菌数は71000 CFU/gであった。同菌は8頭の胆汁から検出され、うち6頭では肝臓内部も陽性となった。一方、胆汁陰性を示した62頭の肝臓内部のうち、52頭の肝臓内部では同菌陰性となったほか、陽性検体においても概ね10 CFU/gオーダーの検出菌数に留まった。肝臓内部の温度変化に関しては、摘出後の内部温度は約40℃もあり、丸ごとを冷蔵保管しても内部温度の急激な低下は見込めず、また、サルモネラも志賀毒素産生性大腸菌も胆汁中で増殖できたことから、速やかに小分け・冷凍しなければ細菌汚染が拡大する可能性が高いと考えられた。放射線照射に関しては、志賀毒素産生性大腸菌O157の場合は、5.3-5.5 kGy、サルモネラの場合8.2-8.5 kGyの照射により95%から99%の信頼度で、凍結下、脱気包装状態で5桁低減できると考えられた。商業施設の試験では、肝臓左葉の最大厚さ64.4mmの検体では線量範囲が8.94-9.49 kGy(最大/最小比1.062)、最大厚さ76.2㎜の検体では8.59-9.33 kGy(最大/最小比は1.089)となり、線量測定の不確かさを考慮しても、最大厚さ5㎝以下であれば、8.2-10 kGy(サルモネラを95%の確率で5桁低減できる放射線量:目標線量)の線量範囲で照射を達成できる可能性が示された。ただし、重量や寸法に違いのある肝臓に対し一斉照射した場合は、最大/最小比が大きくなるため、複数の肝臓すべてについて目標線量に収れんさせるには、個々の肝臓の形体や比重を揃えることが必要と判断された。なお、一斉照射した試料中の照射前の最大菌数は、一般生菌数 100000 cfu/g、腸内細菌科菌群 6200 cfu/gであったが、ガンマ線照射により、増菌しても、すべてが不検出となるレベルまで低減された。高圧処理に関しては、品質変化が軽度の範囲では殺菌効果が低く、生食を目的とした場合には採用は困難と考えられた。
結論
・可能な限り衛生的に摘出した肝臓内部の腸内細菌科菌群の汚染については、腸内細菌科菌群が検出されたのは124頭中18頭(14.5%、最大菌数4300 CFU/g)であった。
・肝臓内部と胆汁から腸内細菌科菌群が検出された個体では、同菌の広範囲に亘る肝臓内部汚染が認められる傾向にあり、胆汁の同菌検査は、肝臓内部の同菌の高濃度汚染の探知に有用と考えられた。
・サルモネラ及び志賀毒素産生性大腸菌O157は胆汁で増殖可能であり、細菌汚染拡大防止のため、胆嚢を速やかに切除し、肝臓を小分け後、冷凍することが望ましい。
・商業施設でも、サルモネラの5桁低減に必要な殺菌できる線量(8.2-10 kGy)を照射できる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2019-09-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-09-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201823005B
報告書区分
総合
研究課題名
畜産食品の生物学的ハザードとその低減手法に関する研究
課題番号
H28-食品-一般-005
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
佐々木 貴正(国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部)
研究分担者(所属機関)
  • 朝倉 宏(国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部)
  • 等々力 節子(国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構食品部門)
  • 岡田 由美子(国立医薬品食品衛生研究所食品衛生管理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生食用牛肝臓の提供・販売は2012年に禁止されたものの、依然生食に対する要望がある。再開の検討には、牛肝臓の細菌汚染、非加熱殺菌技術などの科学的データの集積が必要である。本研究では、まず、牛肝臓等における細菌汚染実態を定量的に検討し、地域性・季節性等の要因も踏まえた実態把握を行うことで細菌汚染リスクを勘案すると共に、肝臓への移行経路に関する知見を収集する。次に、非加熱殺菌技術の1つである放射線照射について、ガンマ線照射条件下における肝臓内部の線量分布や線量測定の不確かさも考慮した殺菌効果の検証を行い、微生物規格となり得る腸内細菌科菌群について、自然汚染検体の照射によって陰性とし得るか検証する。さらに、高圧処理も検証する。
研究方法
細菌汚染に関しては、可能な限り衛生的に摘出した肝臓又は通常出荷時の肝臓を検体として、培養法により大腸菌、大腸菌群及び腸内細菌科菌群の菌濃度を算出した。さらに、肝臓摘出後の肝臓内部の温度変化並びに胆汁におけるサルモネラ及び志賀毒素産生性大腸菌の増殖性についても調査した。放射線照射に関しては、サルモネラの5桁低減に必要な線量の推定及び肝臓に照射した場合の線量分布を計測した。さらに、商業規模の放射線照射施設において、サルモネラの5桁低減に必要な線量を照射できる肝臓片の大きさを推定した。高圧処理に関しては、高圧処理単独又は高圧処理+加温などの混合処理による菌数低減効果と牛肝臓の肉質変化に与える影響について、定量培養法及び色差計を用いて測定した。
結果と考察
細菌汚染に関しては、平成28-29年度に供した計124頭のうち、腸内細菌科菌群が検出された個体は18頭(14.5%、最大菌数4300 CFU/g)であった。肝臓内部と胆汁で腸内細菌科菌群が検出された個体の肝臓内部では同菌の広範囲に亘る汚染が認められる傾向にあった。その後、平成30年度には通常処理された出荷前の計70頭を調査したところ、平成28-29年度に比べ相対的に高値を示し、肝臓内部における腸内細菌科菌群の最大検出菌数は71000 CFU/gであった。同菌は8頭の胆汁から検出され、うち6頭では肝臓内部も陽性となった。一方、胆汁陰性を示した62頭の肝臓内部のうち、52頭の肝臓内部では同じく同菌陰性となったほか、陽性検体においても概ね10 CFU/gオーダーの検出菌数に留まった。温度変化に関しては、摘出後の肝臓内部温度は約40℃もあり、丸ごとを冷蔵保管しても急激な低下は見込めず、また、サルモネラも志賀毒素産生性大腸菌も胆汁中で増殖できたことから、速やかに小分け・冷凍しなければ細菌汚染が拡大する可能性が高いと考えられた。放射線照射に関しては、志賀毒素産生性大腸菌O157の場合は、5.3-5.5 kGy、サルモネラの場合8.2-8.5 kGyの照射により95%から99%の信頼度で、凍結下、脱気包装状態で5桁低減できると考えられた。商業施設の試験では、肝臓左葉の最大厚さ64.4mmの検体では線量範囲が8.94-9.49 kGy(最大/最小比1.062)、最大厚さ76.2㎜の検体では8.59-9.33 kGy(最大/最小比は1.089)となり、線量測定の不確かさを考慮しても、最大厚さ5㎝以下であれば、8.2-10 kGy(サルモネラを95%の確率で5桁低減できる放射線量:目標線量)の線量範囲で照射を達成できる可能性が示された。ただし、重量や寸法に違いのある肝臓に対し一斉照射した場合は、最大/最小比が大きくなるため、肝臓すべてについて目標線量に収れんさせるには、個々の肝臓の形体や比重を揃えることが必要と判断された。なお、一斉照射した試料中の照射前の最大菌数は、一般生菌数 100000 CFU/g、腸内細菌科菌群 6200 CFU/gであったが、照射により、増菌しても、すべてが不検出となるレベルまで低減された。高圧処理に関しては、品質変化が軽度の範囲では殺菌効果が低く、生食を目的とした場合には採用困難と考えられた。
結論
・可能な限り衛生的に摘出した肝臓内部の腸内細菌科菌群の汚染については、腸内細菌科菌群が検出されたのは124頭中18頭(14.5%、最大菌数4300 CFU/g)であった。
・肝臓内部と胆汁から腸内細菌科菌群が検出された個体では、同菌の広範囲に亘る肝臓内部汚染が認められる傾向にあり、胆汁の同菌検査は、肝臓内部の同菌の高濃度汚染の探知に有用と考えられた。
・サルモネラ及び志賀毒素産生性大腸菌O157は胆汁で増殖可能であり、細菌汚染拡大防止のため、胆嚢を速やかに肝臓から切除し、肝臓を小分け後、冷凍することが望ましい。
・商業用施設でも、肝臓にサルモネラの5桁低減に必要な殺菌できる線量(8.2-10 kGy)を照射できる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2019-09-13
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201823005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
牛の肝臓内部の腸内細菌科菌群汚染率は、と畜場におけると殺直後の段階で約2割であった。汚染肝臓における汚染濃度は一様ではなく、右葉が高い傾向があるものの最大でも10万個/g程度であり、このような高濃度汚染場合では、胆嚢内胆汁からも腸内細菌科菌群が分離された。8.2 kGyのガンマ線照射により、ガンマ線に比較的抵抗なサルモネラであっても菌濃度を10万分の1に低減することが可能であった。一方、高圧処理では、大きな肉質変化が見られない範囲で菌濃度を10万分の1に低減することはできなかった。
臨床的観点からの成果
と畜検査で合格した牛肝臓の約2割の内部組織から腸内細菌科菌群が分離されたことは、腸内細菌科菌群に属する腸管出血性大腸菌、サルモネラが肝臓内部に存在する可能性を示唆している。一方で、その菌濃度は最大でも10万個/g程度であり、この汚染濃度(8.2 kG以上10 kGy以下)であればガンマ線照射により、大きな肉質変化なく殺菌できることを明らかにした。ただし、腹腔から摘出直後の肝臓の内部温度は約39℃であり、急速冷凍しなければ、内部汚染が拡大する可能性があることが判明した。
ガイドライン等の開発
本研究課題は、生食用牛肝臓の販売・提供に関する科学的データを収集するものであり、実際のと畜場の肝臓処理工程を考慮した研究計画を作成し、また、ガンマ線照射による殺菌工程についても、商用施設で実施した。本研究課題によって得られた研究成果は、生食用牛肝臓を提供・販売する際の微生物規格の作成に資する科学データであり、実現可能性の高い微生物規格の検討にあたり有効活用されると期待される。
その他行政的観点からの成果
生食用牛肝臓の販売・提供の再開には、その安全性を確保できる新たな知見が必要であり、その知見として本研究成果は有用である。具体的には、胆嚢内胆汁の腸内細菌科菌群検査により、高濃度汚染の肝臓を排除することができること、肝臓内部の腸内細菌科菌群汚染については、ガンマ線照射(8.2 kGy以上)により汚染濃度を10万分の1に低減できることを明らかにした。国際的に食品照射しても安全とされる線量(原則10 kGy)以下であり、実行可能な線量は、8.2 kG以上10 kGy以下であることを明らかにした。
その他のインパクト
2012年7月1日に生食用牛肝臓の販売・提供は禁止されたが、依然として販売・提供の再開を望む消費者が存在している。本研究成果は、販売・提供の再開を検討するために必要な知見として利用できるが、牛肝臓内部の細菌汚染の実態を明らかにした点、さらに、ガンマ線照射という消費者の関心が高い殺菌技術を利用した点において、消費者及び食品製造関係者に対してインパクトがあると考えられる。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
川崎晋、齋藤美枝、持田麻里他
牛肝臓内部におけるCampylobacter jejuniのγ線照射による殺菌効果
日本食品科学工学会誌 , 65 (5) , 259-263  (2018)
10.3136/nskkk.65.259
原著論文2
Kawasaki S., Saito M., Mochida M., et al.
Inactivation of Escherichia coli O157 and Salmonella Enteritidis in raw beef liver by gamma irradiation
Food Microbiology , 78 (4) , 110-113  (2019)
10.1016/j.fm.2018.10.011.
原著論文3
Ogihara H., Suzuki H., Michishita M., et al.
Effects of high hydrostatic pressure processing on the number of bacteria and texture of beef liver
Journal of Food Quality , 2017  (2017)
10.1155/2017/7835714
原著論文4
佐々木貴正,岩田剛敏,上間匡 他
牛胆嚢内胆汁のカンピロバクター汚染状況と分離株の性状
食品衛生学雑誌 , 61 , 126-131  (2020)
10.3358/shokueishi.61.126

公開日・更新日

公開日
2022-06-10
更新日
2023-06-23

収支報告書

文献番号
201823005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
7,800,000円
(2)補助金確定額
7,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,624,080円
人件費・謝金 736,369円
旅費 350,348円
その他 2,089,203円
間接経費 0円
合計 7,800,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2020-10-02
更新日
-