文献情報
文献番号
201819017A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV感染者の妊娠・出産・予後に関する疫学的・コホート的調査研究と情報の普及啓発法の開発ならびに診療体制の整備と均てん化に関する研究
課題番号
H30-エイズ-一般-005
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
喜多 恒和(地方独立行政法人奈良県立病院機構 奈良県総合医療センター 周産期母子医療センター 兼 産婦人科)
研究分担者(所属機関)
- 吉野 直人(岩手医科大学 微生物学講座)
- 杉浦 敦(地方独立行政法人奈良県立病院機構奈良県総合医療センター 産婦人科)
- 田中 瑞恵(国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 小児科)
- 山田 里佳(JA愛知厚生連海南病院 産婦人科)
- 定月 みゆき(国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院 産婦人科)
- 桃原 祥人(東京都立大塚病院 産婦人科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 エイズ対策政策研究
研究開始年度
平成30(2018)年度
研究終了予定年度
令和2(2020)年度
研究費
25,887,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
HIV感染の妊娠・出産・予後に関して全国調査し、コホート研究により抗HIV治療の母児への長期的影響を検討する。HIV等の性感染症と妊娠に関する情報を網羅した国民向け小冊子を作成し、普及啓発法を開発する。既刊の「HIV母子感染予防対策マニュアル」や「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」の改訂とエイズ診療拠点病院等への実態調査により、わが国独自のHIV感染妊娠の診療体制を整備する。
研究方法
1) HIV感染妊娠に関する研究の統括と成績の評価および妊婦のHIV感染に関する認識度の実態調査、2) HIV感染妊婦とその出生児の発生動向および妊婦HIVスクリーニング検査等に関する全国調査、3) HIV感染妊娠に関する臨床情報の集積と解析およびデータベースの更新、4) HIV感染女性と出生児の臨床情報の集積と解析およびウェブ登録によるコホートシステムの全国展開、5) HIV感染妊娠に関する診療ガイドラインの改訂とHIV母子感染予防対策マニュアルの改訂、6) HIV感染妊婦の分娩様式を中心とした診療体制の整備と均てん化、7) HIVをはじめとする性感染症と妊娠に関する情報の普及啓発法の開発。
結果と考察
1)研究計画が一部修正され、マニュアルは補填から改訂することとし、全国調査やデータベースの管理をIT化してデータの共有化とコスト削減を目指すこととした。6施設(大学病院1、公的病院2、市中病院1、有床診療所2)の妊婦に対し、HIV感染に関するアンケート調査を実施した。80.9%の妊婦がHIV母子感染の可能性を知っていたが、スクリーニング検査の偽陽性を理解するものは4.8%にとどまり、偽陽性の告知により47.1%が非常に動揺すると回答した。さらにアンケート調査に関わる説明文の提供により、96.2%で知識の向上があったとの回答を得たことから、HIVスクリーニング検査に関する妊婦の知識レベルは、著しく低いと考えられた。2)HIV感染妊娠の発生などを問う全国1次調査を産科小児科で実施し、産婦人科診療所から8例、産科病院から38例、小児科病院から34例が報告された。梅毒感染妊婦は554例(0.085%)、未受診妊婦は941例(0.24%)であった。HIV感染妊娠の啓発は自治体の約3割で行われているのみで、HIVをはじめ性感染症全般に関する啓発資材の作成と普及啓発法の開発の必要性が示唆された。3)産科2次調査を行い、平成30年妊娠転帰33例の報告を得た。感染判明後妊娠が8割を占めた。データベースには母子感染58例を含む1027例のHIV感染妊娠が蓄積された。妊娠初期スクリーニング検査が陰性例での母子感染の報告が相次ぎ、妊娠中や授乳中の感染が推測され、予防対策の再考が必要となった。4)小児科2次調査を行い、3例の母子感染を含む25例の報告を得た。投薬された母子の長期予後を解明するコホートシステムには国立国際医療研究センターから27例が登録され、他3施設(全4施設で全国症例数の50%以上えお占める)に参入を依頼中であるが、担当医の負担増など克服すべき問題点が多い。5)平成26年3月発刊の「HIV母子感染予防対策マニュアル」を、診療現場の実際に合わせて平成30年3月に改訂し第8版として刊行した。特に助産師や薬剤師の患者対応に役立て、既刊の「HIV感染妊娠に関する診療ガイドライン」と同一項目とし、対照しやすくした。6)エイズ診療拠点病院や周産期母子医療センターなどの約560施設に診療体制の現状調査を行なった。現時点で経腟分娩が可能と回答したのは33施設あったが、診療経験数の多い施設は含まれておらず、経腟分娩に関する臨床試験に参加可能としたのは6施設のみであった。医療保険制度、高額療養費制度、出産育児一時金などのわが国の医療経済事情、医療レベル、国民性、各施設の医療機能等を考慮すると、24時間体制で経腟分娩が対応可能な施設は、ごくわずかであろうと推測する。7)一般市民参加型公開講座や医療従事者向け講演を行った。さらにHIVをはじめとする性感染症全般に関する情報発信のためTwitterアカウント(https://twitter.com/HIVboshi)を立ち上げた。「HIVや梅毒をはじめとする性感染症に関する小冊子」の日本産婦人科感染症学会との共同作成も開始した。
結論
HIV感染妊娠の報告数が減少しないこと、母子感染が散発して継続していること、妊娠初期スクリーニング検査を含む母子感染予防対策では不十分であること、未受診妊婦が一定数継続して発生していること、HIV感染妊娠の診療が集約されつつあるものの経腟分娩のための診療体制整備は極めて不十分であることなどから、今後は診療体制の整備と教育啓発法の開発に重点を置くべきと考えられた。
公開日・更新日
公開日
2020-03-11
更新日
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