文献情報
文献番号
201817032A
報告書区分
総括
研究課題名
長期精神病院入院患者のロコモティブシンドロームに対する研究
課題番号
H29-精神-一般-006
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
高岸 憲二(国立大学法人群馬大学)
研究分担者(所属機関)
- 田中 栄(東京大学医学部附属病院)
- 筑田 博隆(群馬大学大学院医学系研究科)
- 中村 健(横浜市立大学医学部)
- 飯塚 陽一(群馬大学医学部付属病院)
- 江口 研(医療法人仁誠会大湫病院)
- 鈴木 正孝(医療法人愛精会あいせい紀年病院)
- 大工谷 新一(日本理学療法士協会)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
4,914,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
精神科長期入院患者の骨粗鬆症やサルコペニア、ロコモティブシンドローム(ロコモ)の実態を明らかにし、また、薬物療法、運動療法などさまざまなアプローチによるそれらの治療法と予防法の有効性を検討すること
研究方法
精神疾患患者を対象として、ロコモの有病率、サルコペニア、血中低カルボキシル化オステオカルシン(ucOC)および25(OH)D濃度について調査した。精神疾患患者を無作為に2群に分け、治療介入(デノスマブ+アルファカルシドール:D群、アルファカルシドール:A群)を行い、投与前、投与後の骨密度及び骨代謝マーカーを評価した。また、DPCデータベースより、統合失調症、うつ病、認知症が併存した大腿骨頚部ないし転子部骨折入院患者における死亡率、ADLスコア変化の寄与因子を検討した。さらに、骨粗鬆症と診断された症例に対して骨粗鬆症治療を行い、骨密度測定による治療効果の評価を行った。
精神科病院に1年以上入院中の精神疾者をロコモ度により3群(非ロコモ群,ロコモ度1,ロコモ度2)に分け、ロコモ度1の患者に対しては有酸素運動と筋力トレーニングを1日2単位(40分)、ロコモ度2の患者に対しては有酸素運動を1日1単位(20分)行い、それぞれ週5日、8週間実施した。全体の介入前後にロコモ度や運動機能,ADLなどの改善に対する評価を行った。
精神科病院入院中の統合失調症患者の転倒、大腿骨頸部骨折の前向き調査について、委員会を立ち上げ、調査方法、調査項目の検討し、公益社団法人日本精神科病院協会の医療安全委員会所属委員の病院に対してアンケート調査を実施した。
精神科病院に1年以上入院中の精神疾者をロコモ度により3群(非ロコモ群,ロコモ度1,ロコモ度2)に分け、ロコモ度1の患者に対しては有酸素運動と筋力トレーニングを1日2単位(40分)、ロコモ度2の患者に対しては有酸素運動を1日1単位(20分)行い、それぞれ週5日、8週間実施した。全体の介入前後にロコモ度や運動機能,ADLなどの改善に対する評価を行った。
精神科病院入院中の統合失調症患者の転倒、大腿骨頸部骨折の前向き調査について、委員会を立ち上げ、調査方法、調査項目の検討し、公益社団法人日本精神科病院協会の医療安全委員会所属委員の病院に対してアンケート調査を実施した。
結果と考察
約50%の患者がロコモ、24.6%がサルコペニアと判定された。統合失調症患者における血中ucOC濃度については、男性で32.4%,女性で37.8%が低値であった。血中25(OH)Dの平均値も低値であった。治療介入では、D群は投与後36か月では6.1%まで改善した。骨代謝マーカーについては、TRACP-5bとP1NPのいずれもD群で投与後3か月から低下した。
ゾレドロン酸水和物による治療の副作用として、初回投与翌日の発熱が21例中11例にみられたが、2回目の投与では発熱は著明に減少した。
DPCデータベースでは、大腿骨頚部骨折181,702名(平均年齢79.3歳)、大腿骨転子部骨折149,175名(平均年齢83.5歳)のうち、精神疾患合併例は順に19.0%、19.5%であった。平均在院日数は頚部、転子部の順に、骨折全体では40.1日、39.2日だったのに対し、統合失調症患者は56.6日、63.2日と有意に長かった。入院死亡率は、頚部、転子部の順に、全体3.07%, 3.06%に対し、統合失調症併存例は1.90%, 2.06%、うつ病併存例は1.47%, 1.76%と死亡率が低かった。認知症併存には、有意差はなかった。頚部骨折における入院死亡率の改善因子は、手術、肥満、うつ病、統合失調症であった。転子部骨折における死亡率の改善因子は、手術であり、精神疾患は有意な因子ではなかった。ADL改善については、統合失調症、認知症、うつ病であり、精神疾患は全てADL悪化因子だった。
精神科病院長期入院患者は、ロコモ度2に該当する割合が、7割と非常に高く、また、「非ロコモ患者」と「ロコモ度1患者」は、比較的若く、ADLも自立した事例が多かった。「ロコモ度2患者」はやや高齢であり、活動性や身体機能は明らかに低下し、ADLも低下傾向にあった。ロコモ度1に対する運動療法では、男性患者においては導入と継続が良好であったが、女性患者においては継続に困難を伴う可能性が示唆された。ロコモ度2に対する運動療法では、男性患者、女性患者ともに参加率は良好であり、導入と継続が可能であった。歩行能力や持久性などの限定的な身体機能の改善が得られた。
日本精神科病院協会所属病院を対象とした75歳以上の統合失調症患者の転倒、骨折事例についての前向き調査では、転倒事例、骨折事例とも75歳から80歳が最多であり、骨折部位としては大腿骨頚部が最多であった。転倒場所は、転倒事例および骨折事例ともに居室が約40%と最も多かった。
ゾレドロン酸水和物による治療の副作用として、初回投与翌日の発熱が21例中11例にみられたが、2回目の投与では発熱は著明に減少した。
DPCデータベースでは、大腿骨頚部骨折181,702名(平均年齢79.3歳)、大腿骨転子部骨折149,175名(平均年齢83.5歳)のうち、精神疾患合併例は順に19.0%、19.5%であった。平均在院日数は頚部、転子部の順に、骨折全体では40.1日、39.2日だったのに対し、統合失調症患者は56.6日、63.2日と有意に長かった。入院死亡率は、頚部、転子部の順に、全体3.07%, 3.06%に対し、統合失調症併存例は1.90%, 2.06%、うつ病併存例は1.47%, 1.76%と死亡率が低かった。認知症併存には、有意差はなかった。頚部骨折における入院死亡率の改善因子は、手術、肥満、うつ病、統合失調症であった。転子部骨折における死亡率の改善因子は、手術であり、精神疾患は有意な因子ではなかった。ADL改善については、統合失調症、認知症、うつ病であり、精神疾患は全てADL悪化因子だった。
精神科病院長期入院患者は、ロコモ度2に該当する割合が、7割と非常に高く、また、「非ロコモ患者」と「ロコモ度1患者」は、比較的若く、ADLも自立した事例が多かった。「ロコモ度2患者」はやや高齢であり、活動性や身体機能は明らかに低下し、ADLも低下傾向にあった。ロコモ度1に対する運動療法では、男性患者においては導入と継続が良好であったが、女性患者においては継続に困難を伴う可能性が示唆された。ロコモ度2に対する運動療法では、男性患者、女性患者ともに参加率は良好であり、導入と継続が可能であった。歩行能力や持久性などの限定的な身体機能の改善が得られた。
日本精神科病院協会所属病院を対象とした75歳以上の統合失調症患者の転倒、骨折事例についての前向き調査では、転倒事例、骨折事例とも75歳から80歳が最多であり、骨折部位としては大腿骨頚部が最多であった。転倒場所は、転倒事例および骨折事例ともに居室が約40%と最も多かった。
結論
精神疾患患者のロコモおよびサルコペニアの有病率はそれぞれ約50%、25%であり、ビタミンKおよびビタミンDが不足している患者が少なくないことが示唆された。骨粗鬆症を有した精神疾患患者に対しては、副作用の発生に注意する必要はあるが、薬物療法の効果は期待できる。脆弱性大腿骨骨折患者のADL改善には、精神疾患が影響する。精神疾患患者のロコモに対しても運動療法の導入は可能であり、身体機能の改善が期待できる。
公開日・更新日
公開日
2019-08-13
更新日
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