医薬品の適正使用における病院薬剤師の役割に関する研究

文献情報

文献番号
199800688A
報告書区分
総括
研究課題名
医薬品の適正使用における病院薬剤師の役割に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
鍋島 俊隆(名古屋大学医学部医療薬学・附属病院薬剤部)
研究分担者(所属機関)
  • 宮崎 勝巳(北海道医学部附属病院薬剤部)
  • 岩本 喜久生(島根医科大学医学部附属病院薬剤部)
  • 大石 了三(九州大学医学部附属病院薬剤部)
  • 水柿 道直(東北大学医学部附属病院薬剤部)
研究区分
厚生科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 医薬安全総合研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
平成12(2000)年度
研究費
7,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、(1)医薬品の適正使用とファーマシューティカルケアに関する医療先進国から薬剤師や医療薬学担当教官を招聘し、国内の基幹病院において実務や情報提供の在り方について指導を受けるとともに、医療薬学研修のために病院薬剤師を米国に派遣することにより、我が国の病院薬剤師の業務の手本となるべき国公私立大学附属病院薬剤部の形成を目指すものである。さらに、(2)患者のQOLを向上させ、医薬品の適正使用を図るために、医薬品の副作用の対策、発現機序、医薬品の吸収・排泄機構および相互作用に関する基礎研究を行う。
研究方法
病院薬剤師の臨床活動のレベルアップのための臨床研究
(外国人臨床薬剤師、研究者の招聘と基幹大学病院薬剤部の形成推進事業)
(1)(財)日本公定書協会が実施する平成10年度医薬安全総合研究推進事業の外国人研究者招へい事業により8名の外国人薬剤師および研究者を招聘した。招聘した外国人による講演会・セミナーなどの開催を日本病院薬剤師会に委託し、下記のように基幹大学病院薬剤部の形成推進事業を実施した。全国を北海道・東北(代表者:東北大学医学部附属病院/水柿道直)、関東(代表者:慶應大学医学部附属病院/谷川原祐介)、東海・関西(代表者:名古屋大学医学部附属病院/鍋島俊隆)および中国・九州(代表者:九州大学医学部附属病院/大石了三)の4地区に分け、各地区に2名の招聘臨床薬剤師、研究者(合計8名)を派遣した。
(2)(財)日本公定書協会が実施する平成10年度医薬安全総合研究推進事業の日本人研究者派遣事業により、平成10年10月26日から平成11年3月31日の間、医療薬学研修のために名古屋大学医学部附属病院の長谷川雅哉をミシシッピー州立大学薬学部、医学部、および附属病院に派遣した。さらに、平成10年11月10日から平成11年3月9日の間、東北大学医学部附属病院の富岡佳久をアリゾナ大学薬学部へ派遣した。
医薬品の適正使用に関する基礎研究
遺伝子変異マウスを用いた行動薬理学的試験方法、医薬品の吸収・動態、ガスクロマトクロマトグラフィーを用いたプロスタグランジン/ロイコトリエンの定量方法、ドパミン取り込みの実験方法を用いる。
結果と考察
本研究は、ファーマシューティカルケアの向上と病院薬剤師の業務の手本となるべき国公私立大学附属病院薬剤部の形成を目指した国内初の大規模な研究事業である。初年度の研究として(1)米国で臨床薬剤師として実務を担当している薬剤師や医療薬学担当教官を合わせて8名招聘し、病棟活動の指導を受けること、米国での臨床薬剤師の業務の紹介および(2)米国へ若手薬剤師を派遣し、日本におけるファーマシューティカルケアの指導者の育成を計画した。
外国人臨床薬剤師、研究者の招聘による研究では、各大学病院における病棟での直接的指導や症例検討会など実際的なプログラムを取り入れた。その結果、これまでの一方向的な講演会や講習会とは異なり、招聘した外国人薬剤師から臨床活動における具体的な提案や問題提起がなされ、薬剤師が直面する問題解決に大いに役立った。さらに、これらの指導や講演を通して、病院薬剤師としての職能の自覚と意識改革がすすんだことから、初年度の研究目標は十分に達成されたものと考えられる。この外国人招聘事業および若手薬剤師派遣事業を一定期間継続することにより、本研究の最終的な目標である病院薬剤師の業務の手本となるべき国公私立大学附属病院薬剤部の中核の形成が可能であると考えられる。さらに、本研究は、我が国におけるファーマシューティカルケアの格段の向上および国民の医療・福祉に大きく貢献できるものと期待される。
一方、我が国は、急速な少子・高齢化に伴い超高齢化社会を迎えようとしており、人口の高齢化に伴い種々の疾患が増加している。このような状況の下、現代医療の最も大きな柱の一つである薬物療法において、医薬品の適正な使用を図ることは、医療費を削減し、将来にわたり安定した医療・福祉政策を展開するために必要不可欠である。本年度の外国人臨床薬剤師、研究者の指導および米国へ派遣した若手薬剤師からの研修報告により、薬剤師の役割をさらに拡大することが医薬品の適正使用と医療費の削減につながる可能性が示唆された。すなわち、米国では診療に多忙な医師に代わって、薬剤師によるクリニック(服薬状況および副作用のチェック、および定期検査の指示など)が医療費の削減につながるとの理由で認可されていることが報告された(ミシシッピー州;H.J.Byrd, Pharm.D.の講演、および長谷川雅哉からの研修報告より)。薬剤師の職能の拡大と医薬品の適正使用および医療費の問題については、今後も継続して検討すべき課題と考えられる。
医薬品の適正使用に関する基礎研究においては、薬物依存の神経機構の解明や予防薬の開発、薬物の吸収・分布・代謝・排泄の分子メカニズムの解明、医薬品の適正使用および副作用・相互作用の防止につながるような研究成果が得られた。今後は、これら基礎研究の成果を臨床活動にフィードバックすることが重要であると考えられる。
結論
ファーマシューティカルケアの向上と病院薬剤師の業務の手本となるべき国公私立大学附属病院薬剤部の形成を目指して、米国で臨床薬剤師として実務を担当している薬剤師や医療薬学担当教官を8名招聘し、病棟活動の指導を受けた。さらに、米国へ若手薬剤師2名を派遣し、日本におけるファーマシューティカルケアの指導者の育成を計画した。この招聘事業を一定期間継続することにより、病院薬剤師の業務の手本となるべき国公私立大学附属病院薬剤部の中核の形成が可能であると考えられる。さらに、我が国におけるファーマシューティカルケアの格段の向上と医療・福祉に大きく貢献できるものと期待される。

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