文献情報
文献番号
201817028A
報告書区分
総括
研究課題名
精神科救急および急性期医療の質向上に関する政策研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H29-精神-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
杉山 直也(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部)
研究分担者(所属機関)
- 平田 豊明(千葉県精神科医療センター)
- 八田 耕太郎(順天堂大学大学院医学研究科)
- 松本 俊彦(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 薬物依存研究部)
- 塚本 哲司(埼玉県立精神保健福祉センター)
- 橋本 聡(国立病院機構熊本医療センター 精神科)
- 山口 創生(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 地域・司法精神医療研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成29(2017)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
18,661,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
地域包括ケア体制の構築を目指す我が国の精神保健医療福祉政策において、危急な事態に即応できる精神科救急医療の確保および技術向上は必須であり、特に各自治体による精神科救急医療体制整備事業(以下「事業」)の構築・運営が重要課題となる。本研究の目的は、現在運用に大きな地域差がある事業実態と、医療機関間で多様性がある精神科救急及び急性期の医療内容を把握し、課題の抽出を行って、標準化や技術向上を推進するための諸策を提言することである。これには、多様化する精神疾患の医療ニーズに対処し、適切なケアや支援を継続的かつ統合的に提供するために必要な専門知識の普及やスキル向上、体制の更なる整備、連携の工夫や促進等の方策が含まれる。本政策研究では精神科救急及び急性期医療における①医療判断やプロセスの標準化と質の向上(杉山分担班)、②実態と課題(平田分担班)③薬物療法標準化(八田分担班)④薬物乱用および依存症診療の標準化と専門医療連携(松本分担班)⑤自治体および医療機関の連携等の地域体制の在り方(塚本分担班)、⑥一般救急医療との連携の構築(橋本分担班)、⑦退院困難例の要因分析(山口分担班)についての分担班を設置し、それぞれの課題に取り組んだ。
研究方法
①事業の経年実績、実際の判断場面の2側面から行った医療判断プロセスの実態や関連要因を追加分析し、標準化のための指標開発を行う。②直近事業実績の解析、事業報告様式の見直し、精神保健福祉資料による医療実態や資源の把握を行う。③精神科救急医療現場の多施設共同研究ネットワーク(JAST)における観察研究によって、急性期の2次的治療方策の詳細を3つの臨床疑問から解き明かす。エキスパートコンセンサス調査を行う。④規制薬物使用の医療現場における司法的対応のあり方に関して専門家会議で意見交換を行い論点整理する。救急医療現場で活用できる簡易ツールを開発する。⑤自治体アンケート等による公的機関における精神保健福祉人材の充足状況把握、受診前相談における調整困難例の特徴把握とトリアージツールの開発、全国各自治体事業担当者のヒアリングの開催を行う。⑥並列型連携の好事例調査、全国MC協議会への調査を通じ連携における教育コース(PEEC)の有用性を探るとともに、エキスパートオピニオンによる病院前トリアージの作成を行った。⑦過去の科研データを再解析し、退院困難要因、退院困難理由の違いによる特徴の抽出等を行った。
結果と考察
①行政指標としての「人口万対時間外受診数」、「入院率」、「人口万対時間外入院数」、個別指標としての「基本5要件」、「重症度と状態像」、「緊急に医療介入を要する因子」はいずれも有力であり、医療判断の特徴の推移や動向、トレンドを反映する指標を見出すとともに、指標の意味づけがなされた。②直近の事業実績は例年通りであったが、データ収集過程に課題があり、報告様式の改訂案を提示した。③1543名が解析対象となった。58.5%の患者が最初あるいは2番目の抗精神病薬に反応良好で、併用群の89.8%がCGI-Iにおける「軽度改善~著明改善」を示し、有害事象の有意な発生増加は観察されなかった。10.8%は入院3ヵ月以内にECTを受け95.8%がCGI-I 3以下を示した。エキスパートコンセンサスにて、反応不良例への併用や持効性注射剤への現時点承認度を確認した。④司法対応について一定の見解と課題が示され、ガイドライン案を策定した。簡易ツールを開発し、23名の入院薬物使用障害患者にプログラムを提供し、評価尺度上における臨床上の好ましい変化を確認した。⑤精神保健福祉人材の配置に課題がみられた。「疾病性」「事例性」に着目し、身体合併症を除外できる的確なトリアージとなる共通シート(試案)を提案した。ヒアリングは有意義に開催された。⑥聞き取り調査ではPEECの有用性が確認された。MC調査では他領域に比べ搬送困難の課題が確認された。病院前救護者がメディカルクリアランス確保できる精神症状評価ツールを作成した。⑦退院困難例は2クラスターに分類され、それぞれの特徴からあるべきケアを提案した。
結論
各分担班の研究的取り組みにより、精神科救急および急性期医療における標準化や質向上に資する観察所見、提言が集積された。指標の活用、モニタリングの定着、標準治療手法や判断の普及による医療の質向上、トリアージや退院が困難なケースへの対処方策の標準化が含まれる。最終的には学会等が取りまとめる指針の次期改定に資する成果を目指しており、その根拠が多々得られた。今後、体制の均霑(てん)化および診療現場での標準化がはかられ、入院医療の適正化や、入院長期化のさらなる防止が全国規模で推進されることにより、精神科医療全体としての「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の完備にも寄与が大きいと考えられる。
公開日・更新日
公開日
2019-10-15
更新日
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