障害者ピアサポートの専門性を高めるための研修に関する研究

文献情報

文献番号
201817003A
報告書区分
総括
研究課題名
障害者ピアサポートの専門性を高めるための研修に関する研究
課題番号
H28-身体・知的-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
岩崎 香(早稲田大学 人間科学学術院)
研究分担者(所属機関)
  • 秋山 剛(NTT東日本関東病院・精神神経科部長)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所・地域・司法精神医療研究部・部長)
  • 山口 創生(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所・地域・司法精神医療研究部・室長)
  • 宮本 有紀(東京大学大学院 医学系研究科健康科学・看護学専攻精神看護学分野・准教授)
  • 種田 綾乃(神奈川県立保健福祉大学・保健福祉学部 社会福祉学科・助教)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究費
4,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 日本における障害者のピアサポート活動は「障害者の権利に関する条約」の批准や、障害福祉サービスの改編の中で注目を集めている。活動が注目されている反面、ピアサポートの質の担保や労働環境の整備については、各事業所に任されているというのが現状である。そこで、本研究はピアサポートを担う人材の専門性の向上をめざし、養成制度及び研修プログラムを開発することを目的としている。特に精神障害領域ではサービス事業所での雇用も進んできているが、専門職で構成された組織におけるピアサポートの位置付けや雇用体制、人材育成等の具体的な課題が生じている。そこで、どの障害領域にも共通する基礎研修案を作成するとともに高次脳機能障害に関しては、基礎研修に参加するための準備性を高める研修についても検討を行う。また、精神障害領域においては専門研修、フォローアップ研修のプログラム構築及び、ファシリテーター養成研修のプログラム案の検討を行う。
研究方法
 平成28年度は、精神障害、身体障害、知的障害、難病、高次脳障害の当事者,専門職及び研究者等に協力者としての参加を依頼し、研究班を構成した。各障害領域におけるピアサポートの歴史と現状を共有し、実施しているピアサポートの養成制度やプログラムに関する検討を実施した。その成果を受け、平成29年度は東京、札幌の全国2か所で基礎研修及び精神障害領域に特化した専門研修を実施した。平成30年度は研修内容をブラッシュアップし、東京にて、基礎研修、専門研修を実施した。また、基礎研修・専門研修の修了者を対象としたフォローアップ研修(3回)、ファシリテーター養成モデル研修(1回)を実施した。
平成30年度の研修の評価を踏まえ、基礎研修及び専門研修に関してはテキストを完成させた、知的障害者等に活用してもらうために基礎研修テキスト「わかりやすい版」も作成した。また、高次脳機能障害者を対象とした基礎研修に参加する前の準備性を高める学習会も開催した。
結果と考察
 基礎研修・専門研修参加者は、1) 現在ピアサポーターとして雇用されている当事者、2) 将来ピアサポーターとして雇用されることを希望する当事者、3) ピアサポーターを雇用する事業所の他の職員、4) 将来的にピアサポーターの雇用に関心を持つ事業所の職員で、基礎研修には62名(当事者 n = 44、他の職員 n = 18)が参加し、専門研修には48名(当事者 n = 33、他の職員 n = 15)が参加した。参加者は、研修1日目開始前と終了後、研修2日目終了後の3時点において調査票に回答した。本研究では、やりがいや不安などに関する独自項目(主観的態度)、知識を測る独自項目、ピアサポーターへの期待に関する項目に焦点を当て、研修1日目開始前と、研修2日目終了後のデータを用いた。研修に関する効果測定では、昨年同様、知識獲得やピアサポートを担う人材として働くこと(専門職に関しては、ピアサポートを担う人材と協働すること)へのモチベーションの向上に関して、基礎研修・専門研修の双方の研修において有意な結果が出た。
 さらに、今年度は、ピアサポート研修への参加と働くピアサポーターの心理的側面や職場環境との関連を検証することを目的として、縦断調査を実施したが、すべての(下位)尺度項目について、有意な変化はなく、ピアサポート研修には、職場環境に影響力を持つ同僚の参加を必須条件にするなどの工夫が必要だと考えられる。
その他、平成30年度の研究として、専門研修を終えたピアサポーターを対象としたフォローアップ研修を3回実施し、プログラムを構築するとともに、研修を普及していくためのファシリテーター養成のための研修プログラム構築に関する検討・モデル研修を実施した。また、高次脳機能障害者を対象とした基礎研修に参加する前の準備性を高める研修を構築するための研修会も実施し、24名の参加を得た。
結論
 ピアサポーター養成基礎研修に関しては、多様な障害領域の障害当事者、専門家の参加により、テキスト、プログラムを開発することができ、参加したピアサポーター、専門職からも高い評価を得ることができた。また、精神障害領域の専門研修及びフォローアップ研修の構築、これまであまり取り組まれてこなかった高次脳機能障害者を対象とした基礎研修参加への準備性を高める研修会の開催、及びピアサポート研修を実施していく上で欠かせないファシリテーター養成プログラムを試験的に実施することができた。
 今後は、完成したテキスト(基礎研修・専門研修・基礎研修「わかりやすい版」)を使用した研修の普及、及びその担い手となるファシリテーター養成プログラムの構築による人材育成が課題となる。

公開日・更新日

公開日
2019-08-13
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2021-02-24
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201817003B
報告書区分
総合
研究課題名
障害者ピアサポートの専門性を高めるための研修に関する研究
課題番号
H28-身体・知的-一般-002
研究年度
平成30(2018)年度
研究代表者(所属機関)
岩崎 香(早稲田大学 人間科学学術院)
研究分担者(所属機関)
  • 秋山 剛(NTT東日本関東病院・精神神経科部長)
  • 藤井 千代(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所・地域・司法精神医療研究部・部長)
  • 山口 創生(国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所・地域・司法精神医療研究部・室長)
  • 宮本 有紀(東京大学大学院 医学系研究科健康科学・看護学専攻精神看護学分野・准教授)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 障害者政策総合研究
研究開始年度
平成28(2016)年度
研究終了予定年度
平成30(2018)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 日本における障害者のピアサポート活動は「障害者の権利に関する条約」の批准や、障害福祉サービスの改編の中で注目を集めている。その反面、ピアサポートの質の担保や労働環境の整備については、各事業所に任されているというのが現状である。そこで、本研究はピアサポートを担う人材の専門性の向上をめざし、養成制度及び研修プログラムを開発することを目的としている。特に精神障害領域ではサービス事業所での雇用も進んできているが、専門職で構成された組織におけるピアサポートの位置付けや雇用体制、人材育成等の具体的な課題が生じている。そこで、どの障害領域にも共通する基礎研修案を作成するとともに高次脳機能障害に関しては、基礎研修に参加するための準備性を高める研修についても検討を行う。また、精神障害領域においては専門研修、フォローアップ研修のプログラム構築及び、ファシリテーター養成研修のプログラム案の検討を行う。
研究方法
 平成28年度は、精神障害、身体障害、知的障害、難病、高次脳障害の当事者及び専門職等に協力者としての参加を依頼し、研究班を構成した。各障害領域におけるピアサポートの歴史と現状を共有し、実施しているピアサポートの養成制度やプログラムに関する検討を実施した。その成果を受け、平成29年度は東京、札幌の全国2か所で、平成28年度に作成したテキストを使用して基礎研修、専門研修を実施し、研修の評価を行った。平成30年度はその研修内容をブラッシュアップし、基礎研修、専門研を実施するとともに、平成29年、30年度の基礎研修・専門研修参加者を対象としたフォローアップ研修(3回)、ファシリテーター養成モデル研修(1回)を実施した。その結果を踏まえ、基礎研修、専門研修に関して最終的なテキストの修正を行った。尚、知的障害者等に活用してもらうために基礎研修テキスト「わかりやすい版」も作成した。また、平成30年度には、高次脳機能障害者を対象とした基礎研修に参加する前の準備性を高める学習会を開催した。
結果と考察
 研修前後における参加者の調査票への回答を比較した結果、平成29年度に実施した基礎研修と専門研修の双方において、やりがいや不安などに関する独自項目、知識を測る独自項目、ピアサポーターへの期待に関する項目についての改善がみられた。本研究の結果から、基礎研修と専門研修への参加は、参加者のピアサポーターに関する主観的態度や知識、ピアサポーターへの期待についての向上と関連する可能性があることが示唆された。また、平成30年度に実施した基礎研修及び専門研修に関する効果測定では、平成29年同様、知識獲得やピアサポートを担う人材として働くこと(専門職に関しては、ピアサポートを担う人材と協働すること)へのモチベーションの向上に関して、基礎研修・専門研修の双方の研修において有意な結果が出た。
 その他、基礎研修・専門研修を終えた人を対象としたフォローアップ研修のプログラム案の構築、研修を普及していくためのファシリテーター養成のための研修プログラム構築に関する検討及びモデル研修を実施した。研究班の検討により、ピアサポートに関する研修のファシリテーターを養成するための研修に必要な要素として、研修に対する理解、一般的なファシリテート技術とグループ運営、ピアサポートに関する研修ならではの視点が挙げられており、それらを含めたファシリテーター研修を試行することができた。
 高次脳機能障害領域においては、当事者団体を中心にピアサポート活動が報告されるようになってきている一方で、依然として家族同士による活動が中心であり、障害当事者中心の活動の報告は極めて少ない。そこで、ピアサポートに関する報告会を開催し、24名の参加を得た。参加者へのアンケート結果等からピアサポートへのニーズが明らかとなった。
結論
 多様な障害領域の障害当事者、専門家の参加により、これまで障害毎に実施されてきたピアサポーター養成研修に関して基礎的な内容を盛り込んだテキスト、プログラムを開発し、参加したピアサポーター、専門職からも高い評価を得ることができた。また、精神障害領域の専門研修及びフォローアップ研修の構築、これまであまり取り組まれてこなかった高次脳機能障害者を対象とした基礎研修への準備性を高める報告会の開催、及びピアサポート研修を普及していく上で欠かせない講師、フォアシリテーター養成プログラムの検討を実施することができた。
障害ごとに実施されてきたものの、統一されていなかったピアサポート研修を標準化することにより、新たな福祉人材としての活用も期待できる。今後、ピアサポーター養成研修を普及していくために、ファシリテーター養成プログラムについては、継続してプログラム構築を行っていく必要がある。

公開日・更新日

公開日
2019-11-05
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2019-11-05
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201817003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
多様な障害領域の障害当事者、専門家の参加により、これまで障害毎に実施されてきたピアサポーター基礎研修に関してテキスト、プログラムを開発し、参加したピアサポーター、専門職からも高い評価を得ることができた。また、精神障害領域の専門研修及びフォローアップ研修の構築、これまであまり取り組まれてこなかった高次脳機能障害者を対象とした基礎研修への準備性を高める報告会の開催、及びピアサポート研修を実施していく上で欠かせない講師、フォアシリテーター養成プログラムを構築することができた。
臨床的観点からの成果
研修前後比較による質問紙調査結果から、基礎研修・専門研修ともに、受講者全体として知識面の研修内容の理解が促され、ピアサポーターとして(ピアサポーターと共に)働く上での気持ちの面での向上や、働く上での具体的な知識・理解の習得の実感にもつながっていることが示唆された。また、基礎・専門研修は職員と障害当事者両方が受講することができ、ピアサポーターの雇用に関しては、相互の理解と協力が不可欠であることが共有された。
ガイドライン等の開発
過去3年間の研究の中で、多様な障害者と専門職が参加するピアサポーター養成基礎研修を3回実施し、プログラムと研修テキストを作成した。精神障害者に特化した専門研修も3回実施し、プログラムとテキストを完成させた。さらにフォローアップ研修を3回実施してプログラム構築を行うとともに、ファシリテーター養成研修のプログラム案も作成した。基礎研修テキストとしては、知的障害者などに活用してもらうことを目的に、「わかりやすい版」も作成した。
その他行政的観点からの成果
障害者ピアサポートの育成、活用促進、質の担保の必要性が取り上げられており、障害当事者がその経験を活かして働くことを支援するとともに、福祉サービスの質の向上に寄与する重要な仕組みとして意義ある研究であると考える。障害ごとに実施されてきたものの、統一されていなかったピアサポート研修を標準化することにより、新たな福祉人材としての活用が期待できる。
その他のインパクト
平成30年度は、ピアサポート活動の普及・啓発を図るために高次脳機能障害当事者によるピアサポート活動の実践報告会を開催した。実践報告会では、インタビュー調査を実施した団体の運営者である当事者4名による実践報告、質疑応答、グループディスカッションのほか、参加者のうち、当事者に対して基礎研修に対するニーズを把握するためのアンケート調査を実施した。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
シンポジウムなどへの登壇

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2023-06-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201817003Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,945,000円
(2)補助金確定額
4,945,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 0円
人件費・謝金 508,471円
旅費 2,869,177円
その他 922,352円
間接経費 645,000円
合計 4,945,000円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2020-06-09
更新日
-